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変人少女は青春の嵐を引き起こす  作者: 最上優矢
第一章 変人少女はソフトクリームを完食できない?

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13/43

夕闇の駐車場で交わした約束

 凪は黙々と後片付けをする裕貴に聞いてみた。


「ぼくの自宅まで……あなたの車で送ってもらえませんか?」

「本当は断りたいが……まあいいだろう。クラスメートだからな、それくらいの頼みは聞いてやるさ」

「本当はお礼なんて言いたくないけど……まあいいですよ。クラスメートですから、それくらいのお礼は言ってあげますよ」


「なら、とっとと心をこめて『ありがとう』と言うことだな」

「なら、早めに後片付けを終えて、満面の笑みで『送ってあげるよ』と言うことですね」


「生意気な小僧め」

「偉そうな自称クラスメートの大人め」


 いがみ合う凪と裕貴。

 そんなとき、カラオケルームのモニターから退室十分前の動画が流れ始めた。

 いやにうるさく、やけに耳障りなもので、凪はブスッとした顔でソファに座った。

 裕貴も裕貴で不意に流れ出した動画に白けたようで、腕組みをしてから、後片付けに入った。


 数分後。


「行くぞ、小僧」

「言われなくても」


 凪と裕貴は先を争うようにカラオケルームから出た。


 先ほどの女性店員はどこに行ったのか、受付と会計には別の男性が控えていた。


 会計は裕貴が済ませた。

 会計が終わって、さあ店を出ようとしたとき、どこからか、「モウコナイデクダサイ」という呪詛のような言葉が聞こえ、凪はこの無燈カラオケに幽霊がいるのだと、このとき分かった。


 店を出たときにはすでに強風は収まっていて、緩やかな風が吹いていた。

 そんな夕闇の町は、どこか寂しげで何か秘密を帯びていた。


 凪と裕貴は互いに無言で屋外の駐車場まで向かった。

 駐車場に停められている裕貴のシルバーのセダンの横には、奏と琉歌がいた。

 二人は何かの話題について話し合っているらしく、何やら熱く語っていた。


 大方、変人とソフトクリームのことについてだろう、と凪には見当がついていた。


 凪たちがセダンの前まで来ると、奏と琉歌は互いに顔を見合わせ、握手を交わした。

 奏は決めポーズをし、琉歌に「先ほどの約束、違えることなかれ」と念を押した。

 琉歌はニコッと笑った。


「分かってる。そういうあなたこそ、ちゃんとわたしがそこにいられるよう、取り計らってね」

「もちろんだよ、博士」

「それは頼もしいよ、奏ちゃん」


 奏は琉歌のことを博士と呼び、琉歌は奏のことを奏ちゃんと呼び合う仲になったらしく、凪はそんな二人が眩しかった。


 奏と琉歌はうなずくと、握手をやめて互いに踵を返す。


 奏は裕貴にドアを開けてもらい、車の助手席に。

 エンジン音。


 琉歌はというと――。

「行こっ、凪くん」

 そう凪の手を引っ張り、車には乗らず、駐車場の外に向かって歩き出していた。

 そして今、凪が乗るはずだった車はというと、ライトを点け、発進――。


 凪は困惑。


「あ、あれ? ぼくら、裕貴さんの車で自宅に帰るんじゃないの?」


 目をパチクリさせる琉歌。


「何言ってるの、凪くん。裕貴さんは奏ちゃんの専属運転手だよ? わたしたちは乗る筋合い、ないじゃん」

「いや、でも……せっかく乗せてもらえるなら、乗せてもらおうよ。――あ、あぁ!」


 奏を乗せたセダンは凪たちをライトで照らしてから、駐車場から出た。

 一瞬ではあるが、運転席にいる裕貴が凪をあざ笑うのを確認。


 凪は呆然とする。


「ヘイ、タクシー……そうだ、ヘイタクシーだ。それしかない」


 琉歌は凪が冗談を言っていると思ったのか、盛大にウケた。


「帰ろっ、おうちに」

「……うん、そうだね。家に帰ろう」


 凪は楽をするのを諦め、琉歌とともに帰路につく。


 数十分後。

 睦月駅に着いたので、二人は解散――の前に。

 別れの挨拶をする前に、凪は琉歌に聞いてみた。


「そういえば、琉歌さん。あのとき、北埜さんと琉歌さんが駐車場で何かの約束の話をしていたけど……あれって、なんだったの?」


 琉歌は少しだけ固まった。

 けれど、それもわずかのあいだだけ。


「明日になれば、分かるよ」


 それだけ言って、琉歌は「じゃあね」と別れの挨拶とともに手を振り、凪の家とは別の方向へと歩き出していった。


 凪は心地よい風に吹かれながら、空を見上げた。

 そして一人、つぶやく。


「明日になれば、か」


 クスッと凪は笑うと、なんの未練もなく、自宅に向かうのだった。

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