視覚の狂者
人は何者になれるだろうか。
何者かは誰かになれるだろうか。
人生においての主役になれるだろうか。
否。否否否。否定だ。
流れに任せ、水の流れる川のように流れに任せ。
身を、思考を、視覚を、触覚を、味覚を、痛覚を、嗅覚を、聴覚を、感覚を。
ある人にとっては愚者になり。
ある人にとっては救いになり。
人が感じる全ては異なり。
愚者が愚者を演じ、聖者が聖者になりきる。
この物語にある全ては遠いどこかであったかもしれない夢物語。
「かも、しれないね。」
誰かが、そう呟いた。
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恐怖から身を隠す者がいれば止めようと力を行使する大人、死から逃げようとする者。
人の叫び声と鳴り止まない銃声が入り交じる学びの場。
止めに向かう人を容赦なく撃ち倒し愉しむ。
二丁の短機関銃を窓、壁、天井、見える場所にまばらに撃つように暴れている人物が1人いた。
「ひゃはははははは!!!!喚け!感じろ!今ここで起きうる全ての事柄に対し身をもって!!!肌から!目から!耳から!口から!鼻から!頭からァ……全てを!!!何もかも自分の記憶の中にしまええェェェェ!!!!!」
狂った人間はどこまで狂えるのか、はたまた演じ続けるのか。彼はどちらなのだろう。
「あァ……あァ、あァッ!!実に愉快な所だなぁァ!!マトはいくらでもいる!あァ!俺にとっても愉快な所だなァッ!!!」
建物にある全てを壊す勢いで、その尽きぬ弾をひたすらに鉛を飛ばしていく。
まるで暴れることしか知らない獅子の様に。
「はぁ……あなたはいつも通りですね。目標をうっかりやらないでくださいよ?あとやっていいのは反抗する者だけ。理解していますね?」
乱射する男の後ろから足音もなく近づくスーツのような黒い衣装を纏った女性が男をなだめるように近づいた。
「てめぇの歩き方は本当に不気味だなァ……サイレントォ……足音1つ……いや何も音がねェ……お前を目で見なきゃ記憶から消えてしまうほどになァ……ひゃはは!」
その女性がいるためか銃の乱射を止め、会話をした。
近くの部屋、という学びの場の教室を男は割れた窓から身を乗り出し割れた窓の刃物のようになったガラスに当たり血が流れても気に留めず教室の中にいる学生を1人、1人と目的を確実に見つけるよう顔を体を腕を脚を、心臓の鼓動まで全てを隅々まで見るように確認していく。
「ここの階には居ねェみてェだぜェ……サイレントさんよォ……上の階は見てきたのかァ?」
目標は見つからず上の階を見てきたであろうサイレントという女性に問いをかける。
「……居なかったわ」
少しの間が空くように答を出す。
イラつきからなのか男は目の前にあった割れた窓を拳で更に殴り壊した。
「どうなってんだァ!?この1年の校舎にいるんじゃねェのかよォ!?」
声を荒らげ、八つ当たりのように怒りを露わにする。
「……たまたま今日休んでいるってこともあるのかしら」
その場を冷静に可能性を出す。
「いいや?お二人さん、その目の前の教室で会ってるよ。彼はいる。目的のターゲットだ。」
2人を窓から座ってみるキチッとした身だしなみをした女性。
鼻に指を当て不敵な笑みを出す。
「彼はここにいる、僕は鼻がいいからね。解るんだ。」
静かに教室の中にいる1人の青年に鼻に当てていた指を教室に向け指をさす。
「……彼だ。」
指をさされた青年は驚いた表情で割れた窓越しに3人を見返した。
周りの生徒達は恐怖で耳を抑え顔を丸めた体に埋めている。
教室の誰1人彼のことを見なかった。否、見れなかった。
「ひゃは!ここに居やがったのかァ!おい!お前!早くこっち来やがれ!」
興奮した様子で指さしで指定された人物は自分では無いですと訴えるように抵抗の目を返す。
「あぁん?なんだァ?早く来いっつってんだろォがよォ……」
すぐに痺れを切らし割れた窓を壊して入ろうとした時サイレントと呼ばれた女性が肩に手を伸ばし男を止めた。
「……やめなよ、彼怯えてるじゃない。」
「じゃあどうしろっつゥんだよォ!!!目的はすぐ目の前のあいつだってオドーレスが言ってんだろォがよォ!じゃあさっさと終わらしちまおうぜェ?!」
イラつき女性に向かった怒りをあらわにしながら目的と呼ばれる人物に指を感覚で指をさしながら肩の手を振り払いもう一度教室の中を見た時だった。
「……目的はよォ……どこに行きやがったァ……??」
音もなく、痕跡すら残さずその場から忽然と消えた。まるで消失したように。
だが、指をさし当てた女性はその疑問を否定する。
「いいや?目的はここにいるよ、その場所から動いちゃいない。そう、1度も体を動かしちゃいない。恐怖から体を動かすことは容易じゃない、あなたが散々暴れたおかげでね」
もう一度、もう一度指を彼が居た場所に、彼の居る場所に指を向ける。
不自然に人一人分空いたスペースにモヤの様な透明感が薄れていくように、まるで油の中にガラスを入れた時のような薄さが人の輪郭を表す。
「ハッ!!これが目的か!これが!俺たちSEVENSの空いた空席!!!視覚の狂者か!おもしれェなァ!!」
指を指された不自然に空いた空間にジワジワと透明だった部分が人の輪郭を表し次第に隠れていた目的が現れる。
「ハハッ!ようこそォ……第1の狂者……視覚の狂者、インビジブルの継承者、てめェに拒否権はねェ、だがここよりか快適な場所へ案内してやるぜェ……我らがSEVENS、同じ志の狂犯者に……改めてもう一度言うぜェ……ようこそ……SEVENSへ……」
両手に持った軽機関銃を手からその場へ落とし、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げて、背筋はまっすぐ伸ばし右腕は大きく開き、左腕を敬愛、尊敬を込めて胸元の下へ、顔は常に彼の方へ。
その後ろにサイレントとオドーレスは付き人のように同時にお辞儀をする。
「さァ……始めよう……我らが目標のため、この身を捧げよう」
不敵な笑みをただただ浮かべ彼は捕えられる。
「幕引きだァ…」