2つの世界
私は、自分の帝国を作る。今までは私にとって”現実”は、”思考の世界”の限りない近似にしかすぎないのだ。私は、「体の前に言葉が来たのだ。」思考の世界に生きるのだ。宿命の死とはネガティブな死なぞではない私の神秘から切望されるべき死である。現実世界では生で始まり死で終わる狭い世界だが思考の世界は違う、生や死などには決して制限されえない。そして生を超え死を超え未知を探求する言葉は思考の世界に宿る。私は、生まれたとき”現実”に生まれたのではない”思考の世界ー言葉”に生まれたのだ。
そして今、現実を思考の世界に一致させる 私の帝国を作るのだ。
夢とはとどのつまり生と死を意識しないそれ故にすっとんきょうなことが起きても気にしないのだ現実での意識を持ちえないのだ。すなわち思考の世界のようではないか。
安田「それでは、夢の制御について説明しましょう。」
私「その前に一つ質問をいいですか?」
私は、一度冷静に考えた。なぜ私がそんな夢の制御をしなければならないのかと。
私「なんで私がそんな大事そうな役目に選ばれたのですか」
安田の顔が何か不憫なものに触れるような顔をした。まるで暗闇の中に手を突っ込むような不気味なそして触れたくないものに衝突するような。もしかすると私は、この男を恐れてるかもしれない。私の名前を知っておりすべてを見透かすような雰囲気、私の行為は、なにか絶大なものを呼び覚ましてしまう行為なのかもしれない。
安田「こんなことを言うのは申し訳ないが、その質問には答えられない。ただ一つ言えるのは理由の一つに”都合がいい”ということ、君は公安警察がどんな格好をしているか知っているかいーいやー公安警察を見たことはあるかい」
私「どんな格好をしているのを知るのは愚か見たことは一度もありません」
安田「はは、そんなことはない。君は見たこともあるから恰好を知っているはずだ。実は公安警察なんてのは割と街中で見張りをしている、冴えないサラリーマンみたいな恰好をしている。そして君がいきなり夢で人を制御しているなんて言ったらカウンセラー行きだ。さらに君は良くも悪くも頭のいい高校生なだけだ。」
私「なるほど。私の身なりは最大のカモフラージュで私の話は誰も信じないわけですね。」
安田「それで本題に入りたいんだがよろしいかな?」
いきなりこわばったさっきまでの顔が元通りに治った。先ほどの話題がよくなかったのだろう、敵の空母を戦闘機で高速低空飛行をするような危険ゾーンを飛んでいたのかもしれない、一つ間違えれば撃墜されるかもしれない。知らずにおぞましいことを安田に聞いていた過去の自分を心配するような気分と安堵に体が包まれた。
私「はい。どうぞ。」
恐ろしいことを避けるように喉から勢いよく言葉が出てきた。私も、なぜかこの話題を変えたかった。
安田「ありがとう。実は先ほど話した旧東北帝国大学の小神野博士は、731部隊や旧日本陸軍とのかかわりを持っていたため東京裁判で裁かれることを恐れて大学内の施設で首をつっている状態を研究員が発見した。そして理化学研究所ではGHQが原爆開発をすることを阻止するためそして日本を弱体化させるためにサイクロトロン(加速器)が破壊されてしまった。これで仮想現実の実現は不可能と思われたが、それから5年後日本がサンフランシスコ平和条約に調印して日本国として成立したとき自衛ではなく国家の外交としての”攻撃”すなわち研究面そして軍事面での”秘密部隊”を編成するようにアメリカが秘密裏に日本に命じた。その部隊が仮想現実ー夢ーの再現に成功したという訳だ。」
私「しかし、そんな人員をどこから派遣するんですか。日本は軍事力を持たないはずでは、」
安田「いい質問だ。実は東京裁判の目的は戦争犯罪者を裁くのだけではない。都合がよい戦後を作りたいという目的があった。実は”広尾弘”というA級戦犯になり死刑になった唯一の文官すなわち民間人がいた。彼は戦後の日本の構想についてアメリカと違う考えをもってしまったそれ故に民間人だろうと抹消されてしまった。」
私「どんなアメリカの戦後構想があったんです?」
安田「力を持つアメリカの傀儡国家を作ることだ。アメリカの傀儡国家の建設には成功したがこのままだと軍事力を持たない弱い国家を作ることになってしまう。そのため東京裁判ではある密約があった。旧中野陸軍軍士官学校の優良兵士を訴追しない代わりに秘密部隊の一員となることそして731部隊や原爆研究をしていた研究者を秘密部隊の兵器開発部門に所属すること。東京裁判で政治家が裁かれ大量虐殺の道具を開発して大量虐殺を実行をした人が裁かれないのはこういうわけだ。」
私は歴史の決して知らされることのない一端に触れるような、巨大なものを支えるために限界まで張られ、頑丈だが思いのほか”かぼ細い”糸に触れるような感覚を持った。こんな話なぞアクシデント一つで吹き飛ぶが現代の強大な国家をささえていることは間違いないそんな秘話に感激すら覚えた。
安田「しかし、仮想世界は、脳での理解を許さない。つまり見た目こそは現実ではあるが中身はまったくもって違うということだ。今我々が生きる世界は”時間”と”空間”の上に平然と生活している、ところで君は一般相対性理論というものを知っているかい?」
私「アインシュタインの研究の話ですよね時間を巻き戻せるとかの話でしたっけ?」
安田「この仮想世界のカギは”相対性”だ。決して絶対的なものは存在しえないそれは空間でも時間でも同様だ、相対性理論とはとどのつまり時間は相対的なものであり場面によって流れる時間が違うということが起こりえるという話なのだ。そしてこの世界ではその”相対性”があらゆるものに顕著に現れる特に”時間”と”空間”にだ。いきなり空間が消滅することもあるそして時間が逆行することもある。」
そういって安田は木の下にあった石を木の中から外に投げた。
安田「君はこの行動をどう説明する?」
私「安田さんが石を斜めに投げて重力により石が落ちていったんじゃないんですか?」
安田「それだと現実にとらわれている、私が石を投げたという見方ではなく石が私に飛んできたとは考えられないかつまり君の考えは時間軸が一定方向に進むという現実での考えのもと成り立っている訳だ。時間軸が逆行するように働けば石は私に飛んでくる。そうすると不思議な話で”投げた”という原因と”飛んだ”という結果の逆転が起こる。そうすると物理はバランスを取ろうと空間を曲げることでこの倒錯を解消し均衡を保とうとする。つまりこの場合では投げた際のエネルギーを補完すべくそこにあったはずの空間を消滅させてその空間に存在したエネルギーを利用して石を飛ばし私のもとに飛んでくるのだ」
そういって安田が引き寄せるような手の動作をすると石が落ちた場所が一瞬黒くなり何もなくなり(空間が存在しない)そして石がテープを逆戻しするような動作を繰り返し安田のもとに飛んで行った。どうやら見る限りこの世界は何か不安定な動きをしているようだ石の動きを一つとってもこんなにもぎこちないのだ。どうやらこの世界は”時間”と”空間”というものが不安定であるが故に確固たるものが何一つ存在しえないのだろうーなるほどー確固たるものが存在しえないつまり物事の薄い関係によって相対的に物が存在しているのだ。だからこの男は”相対性がカギ”といったのだろう。
私『なるほど話の大枠と私の義務は理解できました。どうせ断ることなんてできないんでしょう』
私は断るつもりなど毛頭ないが彼らの立ち位置を再確認する為にそういった。
安田『いえ、断りたかったら断れますよ。だって夢で治安を守るなんて話し誰も信じないでしょうから、情報漏洩も何もそんな話を誰も信じないでしょう。それよりもこんなにこの状況を受け入れているあなたに私は驚いていますよ。』
私も完全には信じていない、だが私は完全にはわからず明確ではないが自身が夢見てきた世界ー思考の世界であり耽美の世界ーを実現する為にこの”夢”を使い長期でもっとも完成された日本文化を切り捨て短期で浅ましい経済や物質主義を信仰する猥褻でカルトなこの国を”菊と刀”という包活力のある概念で統一する文化であり言葉の国に変化させるのだ、それを考えればこの話を信じられずにはいれられない。
安田『この夢での仕事は基本的には、”監視”と”洗脳”だ、夢での行動はその人間の最もプリミティブな部分を表す。すなわち人間の真意を探るのだ、現在公安からマークされてる人間は多数いる。左翼集団もいれば軍国主義の信奉者もいる。そしてどちらにも共通するのは突発的な暴力を好み実行するという部分だ。そういう類の人間と接すれば分かるが彼らの思想は”現物”だ、”思想”それ自体が彼らを暴力に駆り立てる。人に唆されて行動を起こすように、思想を作り考え出すのは彼らなのにいつしか思想に飲み込まれ行動を起こしてしまう。我々の仕事はそんな思想を破壊することだ。』