仮面を剥がす
この小説では「私」である隆平目線から語られます。そして大半は隆平の考えている事で文章を構成しています。是非、隆平に成りきった気分で読んでみてください、
私は、言葉を行うために生まれ言葉のために死ぬそういう宿命を持って生まれてきた様な気がする、幼少期から「言葉」が好きだった。形の見えないものに思いを託し何世紀も旅をする。そして時には言葉は思考を超えるほど広い世界に飛び立ち理屈でわかるではなく「腑に落ちる」「身で感じる」などと言って未知の世界を開拓していく。よくいう話で大学に行くと「数学が哲学になる』と大学生は口を揃えて言う。もしかしたら数学も言葉も未知の世界を開拓したいのかもしれない。すると本質的には文系も理系も根幹では繋がっている様な気もする。そうすれば物理や数学の開拓者が哲学者なのも理解できる。言葉で未知の世界を切り開き未知の世界を『感覚での理解』を行いその後に数学や物理がそれを『思考での理解』に落とし込むーこんな風に世界は進んできた様に思える。私は生まれた時から『言葉』に魅了されてきてこの美しさのためなら未知を切り開く言葉に比べれば拙く悍しいまでの低レベルな私の命など差し出したいと思ってきたーいやー私は、言葉を行うために生まれ言葉のために死ぬそういう宿命を持って生まれてきた様な気がする。指図め究極的な耽美主義者だ。死ぬ時は、自分の主義や言葉を守るために死ぬ「贅沢な死」を遂げたい、『三島由紀夫の自決』の様な美しい死と言えば分かりやすい気がする。しかし今日の世界はどうだろう文系の上に理系があり社会では学んできたことを使わず楽に稼ぐことが良い会社で、そうでなければブラックなどと言われるのであろう。言葉を探求したい私には悲しき事に、私は、理系科目の方が得意だった。周りの人間は私の考えを認めず理系を勧めてきた。そして何も分からぬまま学生生活を送っている。いつもそうだ周りの人間はどこまで御託をならべても結局は、「学校の実績」だの心配してもいない「私の将来」だの一向に私自身の「宿命」に触れるものはいない。私自身の宿命のため三島由紀夫みたいに贅沢な死を遂げたいなんて言ったらすぐに過激的だので非難する。何を以て過激なのか?何を以て普通なのか?それを探求していくのが言葉であり科学であるはずなのにそれを認識せずただ『学歴』があるだけの人間が上位なものであるが為に私を痛烈なまでに非難し、「宿命」の破壊を強いられる。このまま「宿命」が破壊されたら私は生きる理由をなくす、それならばいつか死んでやろう。そんなことを考えているときインターホンの音が鳴った。
安田「今少しお時間ありますか?少しあなたの役目についてお話ししたいのですが。」
スーツを着た少し痩せ形の若い男が立っておりその男は安田と名乗っていた。私は「役目」と言う言葉が気になったので不審がりながらも私以外いない家に招き入れた。こんな怪しい男でも客なので私は茶を差し出した。
安田「どうも、最近は夏が異常に暑くて困りますよね。」と言ってコップのお茶を勢いよく飲み干した。お茶が汗で汚れた彼の喉を勢いよく通るのが豪快な喉仏の動きでわかった。
安田「突然ですが、苦しいことがあったり自分が死んだと思ったら夢だったなんてことはありますか?」
誰でもある経験をこんな様子で聞いてくる様な怪しい男を招き入れたことを後悔した、しかしまだ「役目」の意味が分かってないので仕方なしに「もちろんあります。」と答えた。
安田「もしそれは夢でなく現実で起こっている出来事で人々を守る為に夢としてすり変わり夢の制御が人々により行われているとしたら?」
頭がおかしくなりそうだ、この男はそんな意味のわからない話を信じろと言うのか、そんな事を考えていたら安田が間髪入れずに話の続きを喋り始めた。
安田「そして話の流れから分かる通りあなたの役目は夢の制御です。主な仕事は夢いわば仮想世界の現実を通じて犯罪者の考えを探り事前に予防することにあります、日本が平和な国なのはこういうわけです。悪意が存在すれば消すーいやー悪意の存在さえ許されないそれが「平和」とは思いませんか?」
安田は微笑みながらそう言った。
私「しかしそんな信じがたい話をどう信じれば良いんですか?」
安田「今夜私たちは必ず夢で出会う、そうすれば信じてくれるでしょう?夢で詳細な話をしたいから今夜はできるだけ早寝をしてください隆平さん、」
そう言い不敵な笑みを浮かべた、なぜ私の名前を知っているのだろう考えてみれば私の名前を敢えて言ったり不敵に微笑を浮かべることで何か全て見透かされていて安田の方が上という印象を与えたかったのだろうか。いろいろ疑問点は残るがこの不審な男が帰る様なので玄関まで送っていった。
安田「それでは、これで失礼します。隆平さんとこの国の「治安」を守れる仕事に携わることを嬉しく思います。」
そう言って安田は去っていった。最初から最後まで奇妙で意味のわからない男だった。しかし、安田に対して抱いた不気味と同時に怒りらしきものが湧いてきた悪意の存在が許されないのが「平和」などという話が気に食わないそもそも何が悪意なのだろうか少なくともそれを夢を制御する少数の人間たちが決めるのか、おそらく”道徳”や”モラル”などというもので判断するのだろう。そして彼らの様な人間は”道徳”や”モラル”などと言った何か人間しか持ちえない体の内から自然発生する神秘的なものだと捉えるのだろう。私が思うに”道徳”や”モラル”というのは”情けは人の為にならず”という言葉の意味にある様に”何か善いことを行うと自分に帰ってくるから行うべきという”というある種の論理や理屈で説明されるべきなのに人間の美しさの元に情けが行われる。結局は本質を理解せずに多数や自分でもよく分かっていない物を盲信してその名の下に正義が行われるのだ。私の”宿命”の一部である”贅沢な死”を理解しようともせず道徳やモラルの名の下において自死について否定して生きることを盲信し私の宿命の破壊を強いてくる連中に対して抱くのと同じ様な嫌悪感を安田に対しても抱かざるをえなかった。しかし、私の名前を知っていたり彼をまとっていた気配は確かだった、少なくとも私がすべきことは実際に就寝して夢で真偽を確かめることだ。いろいろ思う事はあるがそれは夢を見れば分かる事だ、そんな事を思いながら重い腰をあげながらおもむろに数学の参考書を出した。結局のところ”宿命”などでは社会は私を認めず成績や偏差値などと言ったそれに比べれば拙く醜いもので判断し続ける。するとこの幾度となく使われ薄汚れた参考書の紙切れ一枚一枚が社会での私の生を作り出す。私は、幼少期の頃から世界が二つあった様に感じるそれこそ”夢”と”現実”の様な、一つは自分の宿命によって生きる意味を与えられ自分の思考の中でのみ生きる、いわば『思考の世界』二つは社会が私を認めてくれることにより”生きる”『現実』大多数の人は後者の現実にしか生きないのかも知れないしかし私は宿命を持つため思考の世界も生きる、そうすると外界(現実)と内界(自分の思考の世界)の痛ましいまでの差異が摩擦を生み私を傷ましく焼き尽くす。そんな事を考えているうちに自分の生き苦しさを実感し頭が痛くなってくる。思考が巡りすぎると夜も眠れなくなる時がある、大人しく数学の参考書を解くだけなのにいろいろなことが頭をものすごい勢いで駆け巡る。しかし、こんな事を他人に話しても”もっと気楽に生きろ”だとか全く持って見当違いの事を話してくる。結局私の持つ”宿命”らしきものを持つものはいつの時代も孤独なのかも知れない。そんな事を思いながらいろいろな考えが頭を巡る今日は集中できない事を悟り参考書を入れたバッグを背負い集中できる図書館まで足を運んだ。いろいろなことが頭を駆け巡り集中できない日があるのはよくある事でその度に図書館までいちいち移動するのだ。
私「自習室を使いたいのですが自習室のカードをください』
ここの図書館は落ち着く少なくとも私が知っている図書館の中ではダントツで集中できる環境だ、ここの図書館は自習室が何室もある上になかなかに大きい公園の中に立地するため窓から美しい緑の木々が見えるのだ。
職員『どうぞ、34番の席で3時間利用できます』
受け渡しのトレー越しに白いカードが渡された。受付から自習室まで歩いて行くときに思わず鼻から深呼吸をする、木造の木の香ばしい香りと窓から微かに匂ってくる木々から発せられる自然を感じさせる匂いが私をいつも深呼吸させるのだ。私の意思で深呼吸をするというよりも反射的にこの空気を感じたいと体が欲するのだ。やはり私の体はこの場所を求めているのかも知れない。そんなリラックスした状態で勉強しているとあっという間に3時間が経過した。受付にカードを返しに行く。
職員『どうもありがとうございました。』
そのまま帰るのは感じ悪い様な気もするので軽い会釈だけしておいた。すっかり日が暮れてしまって帰り道は暗くなっていた。私はあえて人通りが少なく明かりの少ないところを缶コーヒー片手に歩いて帰って行く、もう冬になりかけの季節でコーヒだけが私の手を温める。そんな空気感が好きでたまらなかった。このたかだか数百円で買える缶コーヒーが私の心の拠所なのかも知れない、こんなどこにでもありすぐ捨てられてしまう様な物が私を落ち着かせ私を温めてくれるのだ。そんな事を考えながら歩いていると家に着いていた。そこからは夕飯を食べ風呂に入り自由に過ごす判で押した様な流れを繰り返す。そうして自分の部屋に行ってベッドに入り眠りにつく、幸いなことに今日は疲れていたのもあり考え事をせずにすぐに眠りにつけた。最近は頭の中が眠る前も忙しくて眠れない日が続いている。
眠れない日は眠りたいのに眠れないことに苛ついてさらに眠れなく苦しんでいたが、今日はそうでないため安田という男の信じがたい話の真偽も確かめられる。眠る前に体が痺れる様な奇妙な感覚を持ったまま眠りについた。
安田『これで信じてくれましたか?』
私は驚いた。図書館がある大きな公園の木の下で私と安田ただ二人だけがいる空間だった。現実で見たものを夢で整理するという仮説もあるが、事実なぜ人は夢を見るのかという問いに対してはどんな科学者も答えを出せていない。さらに私はその夢では他の夢と異なる意識の持ちようをしていた、意識のレベルが現実と同じくらい高く少なくとも夢を夢と気付けるほどの明確さがあった。
私『なんだか現実の拡張といえばいいのか、、、夢という感じがしません」
私は戸惑いながらも安田と会話する為にこの世界の感想を話した。
安田『その通り。あなたに見てもらっているのは夢と言うよりも現実の拡張少なくとも難解な話が理解できるくらいに意識を保ってもらえるようにしているので。」
なるほど、いつも見ている夢とは違って少し現実に寄せた形になっているのか。そうすると安田という男もしくは彼の所属する組織はどうやら本物らしい。信じがたい事実だか信じるより仕方がない。
私『それで現実世界での話の続きを聞かせてください。」
安田『理解が早くて助かる、まずは我々の今見ていて今後君が扱うことになる”夢”について説明しよう。我々の見ている夢の謎が解明され応用する方法が誕生したのはおよそ80年前』
私『戦時中に?』
安田『その通り、”戦争が科学を進歩させる”と言うように当時日本含めた国々が様々なものを開発していた。ドイツでは現代のミサイルやジェット機構の基礎となったV1ロケットやMe262という戦闘機、イギリスでは物理学者がマグネトロンというマイクロ波を出す装置を開発してレーダーの基礎となりアメリカでは言わずとも知っているであろうマンハッタン計画により原子爆弾を開発した。」
私『そして日本は仮想現実の空間である夢を開発したと、』
安田『その通り、当時では日本の旧帝国大学は最先端の研究を行っていた。特に京都帝国大学では”F研究”と呼ばれた原爆開発をしていた。さらに医学部では捕虜の人体実験なども行われていた、いわゆる731部隊という組織とも関わりを持っていたわけだ。そして当時、東北帝国大学でも秘密裏に兵器開発が行われていた。東北帝国大学の教授であった小神野教授が原爆開発に関わる原子の研究を旧日本陸軍の命令を受けて理化学研究所の岡田博士と共同して行っていたときに理化学研究所の所有するサイクロトロン(加速器)での陽子の動きが現実世界では起こりえない挙動を示していた。ある一定の条件下で新たな世界ー仮想世界ーを創造することに成功したのだ、その仮想世界では現実世界での物理法則が適用されないのだ」
私『何だか意識のレベルが高くても理解しづらいような話ですね、」
安田『理解するのではない感じるのだ、現実ではないという実感これこそが証拠であり事実だ。』
なるほど最初に感じた違和感はこれだったのか、夢ともいえないし現実ともいえない、しかし意識がはっきりしているこの妙な感じ。
私『しかし、もしそれが事実とするのならこの状態よりも意識のレベルを下げて夢と勘違いするような状態を作り上げて人々の真の考えを暴き犯罪を阻止するというんでしょう。そんなの許されるんですか?」
私は困惑気味に質問をした。すると安田はそんな質問を予測してたかのように間髪入れずに喋り始めた。
安田「いつの時代も”秘密組織”は存在するものだよ隆平くん。さっき話したように大戦時に日本では秘密裏に捕虜に対する人体実験を行う部隊があったり、諜報員を育成するための中野陸軍学校。冷戦時にはKGBやCIAによる情報戦などもある、CIAは社会主義に傾きかけている政権を転覆する為に反政府軍に支援を行なったり、自由の国と訴えているアメリカでも超大国として存在する以上情報操作を行い国民を”正しい”思想に育て上げてきた。現代でもMI6,別班、など秘密裏の組織は必ずある。国民を正しい思想に育て上げないと国が崩壊するからね』
この安田という男もいわゆる日本という国を維持するために暗躍する秘密組織の一員なのだろう。
安田「話の流れからも分かるとおり私も防衛大学出身の自衛隊関係者だ。いわゆる”別班”という秘密組織の一員だ。』
私「なるほど。話の展開が早くてこうやって会話しているのでもいっぱいですが、私も仮想現実で治安を守る組織の一員になるわけですね、』
私の胸は緊張と困惑のなかに一握りのこの国を制御する優越感からくる嬉しさらしきものが隠れていた。その嬉しさの感情に気づいたとき私は、驚きとともに感動を覚えた。私の宿命の破壊を強いてきた社会を今度が私が教育するのだ。もちろんこの男はそんな事を望まず先ほどの話から察するに私を殺そうとするかも知れない、しかし、それでいいのだ、私の宿命のために戦い殺される、、、これほどまでに輝かしい命があるのだろうか?
ー私は、頭が良い そんなことを認めず否定し続ける社会を殺してやろうー
今までは『頭がいい』など本人なら気づける当然のことさえ言わなかった。いつもいつも関係のないもので指標を図られて自分で『頭がいい』と話すと馬鹿にされる毎日だった。私に残された最高の選択肢は、贅沢な死を遂げるか、社会に一矢酬いるかの2択だ。そして私は後者を選ぶ。
ー気づけば私は、自分の宿命について話さなくなってしまった外界(現実)と内界(空想の世界)との摩擦に疲れて仮面をつけたまま長い間過ごしてきた。そして今こそ”仮面”を剥がすー
続編で描かれる戦時中に旧東北帝国大学の小神野博士と理化学研究所の岡田博士が発見した仮想世界ー夢ーを制御することによって社会に対する見方も変わっていく隆平に是非注目していただきたいです。