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コールド・ヘイズ 2

 自身のことを信じられなくなるのは何度目だろうか?

 俺はミヤビの話を聞いてから、何度もマシンガンの作動点検を行った。

 マガジンの底を叩き、感触を確かめる。手の平にジーンとした痛みが広がった。固いアルミ製のマガジン。ここは虚構の世界だが、これは間違いではないはずだ。

 それに、バスの周囲には頭を吹き飛ばされた徘徊者の死体がいくつも転がっていた。


「武器は本物だ」


 俺が短く告げると、ミヤビは暫く考え込むように黙った。


『……考えられるとしたら、その存在はNPCかもしれない』

「は? なんだそれは?」

『コンピューターが用意した、キャラクターみたいなモノよ。要は、AIね。ゲーム内で本当の人間のように振舞うの』 


 思わず、肩をすくめたくなるような話だった。


「何のために?」

『ゲームだからよ』


 簡潔で、明瞭な返答だった。ゲームだから。


「なるほどね。理解はできたが、共感はしがたい」

『ただでさえコールド・ヘイズは謎が多いゲーム。何が起こってもおかしくは――』 


 話していると、後方で叫び声がした。どうやらジムにたかっていた徘徊者連中が、この場に戻ってきたらしい。


「話している暇はなさそうだ」


『……病院に向かうの?』

「ああ。特効薬とやらがあるかもしれないしな」

『病院内は比較的徘徊者が少ないけど、呼び寄せたら同じことよ。確実に撒いてから侵入して』

「了解だ」


 俺はバスから飛び降り、そのままメインストリートを走り出す。

 手にある鋼鉄製の感触が肌に馴染んで、おしゃぶりを咥えた赤ん坊のように、俺の精神を安定とさせる。

 視界に巨大なタワーが映った。〝道は見えた〟不意に浮かんだそんな言葉とともに、俺は路地裏へと飛び込んでいた。



 今まで三回の派遣、二つの戦場を経験したがそれと比べてみても――

 勢いに任せて走り抜ける路地裏。そこで目にした光景は、凄惨そのものだった。

 不気味に明滅する電灯の下、部位が損壊した死体がいくつも組みあがり、ピラミッドのようになっていた。


 その下は、ちょっとした子供用プールが作れるくらいに血が溜まっていた。それが、路地裏のちょっとしたスペースにいくつも転がっているので、目も当てられない。

 誰がそんなことをしたか、何てのは明白なので聞くまでもないが。

 幸いなことは、道中、徘徊者と遭遇することが無かったことだけだ。


『まだ着かない?』


 痺れを切らしたようにミヤビが質問してくる頃には、


「良いタイミングだ。ちょうど着いた」


 俺は病院の裏口と思しき、救急車両が出動するであろうデカイシャッターの前までたどり着いていた。

 しかし、シャッターは閉じられて進入路は見当たらない。病院は塀で囲まれているのだが、


『目を凝らしてみて。柱の陰とか――ロープが垂れていない?』


 何本かある柱を探ると、おあつらえ向きなのが一本あった。


「あったぞ」


 ミヤビがふーっと、安心したように息を吐いた。


『あの子たちの中の誰かが、既に侵入している証ね』

「そうなのか?」

『ええ。私たちの中の取り決めで、先に病院に到達したものはロープを垂らすことにしているの』


 外から見てもこんな不気味な病院に、既に侵入を果たしているのか。

 流石はトップランカーたちだと思った。


「上るぞ」


 スリングで銃を背中側に回して、ロープを掴む。細いロープなので、少し手が痛んだが、何とか登り切ることが出来た。 

 現在は外壁の上だ。そこからは病院の敷地内の、尾根付き駐車場が見えた。敵影は確認できない。

 軽く息をつきながら痛んだ手をこすり合わせていると、俺はとあることに気が付いた。


「……ちょっと待て」

『どうしたの?』

「そういえばこれはゲームだよな? 痛みを感じたぞ」


 かなりリアルな感覚だ。これなら、敵から致命的な攻撃を受けた時、ショック死してしまうのではないだろうか?

 ミヤビは暫く黙った後、


『それはただの勘違いよ』

「どういうことだ?」

『本来は痛みに関する項目は除外される。つまり、ゲーム内で痛みを感じないの。それはアナタの脳がもたらした錯覚よ』

「錯覚だと?」

『気持ちは分かるわ。でも、本当にそうらしいの』

「プラシーボ効果ってやつか?」

『そうよ。博士になれるわね』


 ロープを伝って病院側の敷地内に降りる。銃を振ってクリアリングをすると、地面に貼られた養生テープのようなものを発見した。

 辿っていくと、それは等間隔で規則的に貼られており、薄暗い、気味の悪い病院内まで続いているようだった。


「病院内まで続くテープを発見した」

『それは目印よ。最初のテープの貼り方に着目して』

「貼り方? 最初のテープか?」

『そうよ。進行方向に向けて、剥がしやすいように端が折られているとか、妙に短いとか、何かない?』


 確認すると、テープは進行方向側ではなく、病院の外に向かって折り曲げられていた。それに、その横では、ローマ数字を表すように〝Ⅱ〟の文字が形成されている。

 見たままミヤビに説明すると、


『二人、病院内に侵入している合図よ。外に向かって折られたテープの意味は〝逃げ切れる者〟の称号よ』

「逃げ切れる?」

『私たちの中でも、特別に足が速いってこと。つまり、マルコムかジェイデン、そのどちらかが確実に侵入を果たしているわ』


 素直に感心していた。少年少女たちはコールド・ヘイズ内で生き残るため、様々な工夫をしていることが分かったからだ。


「了解、二人か」

『ええ。幸先が良ければ、もしかしたら既に特効薬を入手しているかもしれない』

「それは心強いが……人数分あるのか?」

『余剰分含めて入手しているはず。まずは二人を探して』

「入口は何処にある?」


 周囲を確認したが、尾根付きの薄暗い駐車場の他に、病院の無機質な壁が見えるだけで、侵入経路は確認できなかった。裏口らしきものもあるにはあるが、目に見えて侵入出来ないように、外からもバリケードが組まれていた。


『尾根付き駐車場が見えるわね? その先を抜ければ病院の入口が見えてくるはずよ』

「了解」


 俺はポケットに忍ばせていたライトを点灯。ライフルを構えつつ、病院の薄暗い、尾根付き駐車場へと踏み込んだ。




 コツン、コツン、コツン。自身の足音の他には、ジジッと明滅する非常用ライトの音だけだった。

 まばらに駐車された車両は、当然というか。外に転がっている車両たちより状態が良く見えた。

 車両の影、隙間にも警戒を緩めず、銃を向けながら歩みを進める。

 その時――

 不意に、数メートル先。進行方向の曲がり角から、複数人のバタバタと疾走するような足音が聞こえてきた。

 音は着実に俺へと近づいていた。ライトの明かりを消す。

 急いで車両の物陰に隠れ、存在が暴露しないように身を潜めながら、その方向へ銃を構え、ふーっと、息を吐きながら待機していた。


 待つこと、数秒。近づいた足音と共に、遂に――曲がり角を曲がって、こちらへと走ってくる人影たちが存在を現した。

 ライトを点灯。先頭は、緊迫した表情を浮かべた東南アジア系の小年、ジェイデン・タンだった。彼は唐突に照らされたライトに顔をしかめつつ、そのまま陸上選手のように走り去っていく。その後を殺気立った猟犬のように追うのは、八名ばかりの異形の人型。徘徊者だった。


 俺は即座に車両から身を乗り出し、構えていたサブマシンガンの引き金を絞った。

 キシュンッ、キシュンッ、キシュンッ、という、控えめな音とともに薬莢が排出される。

 徘徊者を貫通した弾丸のいくつかはコンクリートを跳弾し、粉塵と火花を散らしていた。


「わあああ!? なんだあっ!?」


 ジェイデンの叫ぶような声。

 徘徊者はこちらに気付くと即座に進路を変えてきたが、俺のサイトにとらえられると同時に、糸が切れた人形のように倒れていった。

 カランッ、最後の排莢の音。十数発発砲して、徘徊者八名は完全に沈黙していた。


「ジェイデン!」


 尚も走り続けるジェイデンに声をかける。

 ジェイデンはビクリとして立ち止まり、恐竜のように手を丸めながら、恐る恐る振り返った。


「嘘だろ……シェーン?」

「そうだ」


 ジェイデンは俺がライトで照らした、倒れた徘徊者を確認するなり、顔を輝かせて走り寄ってきた。


「アンタ、凄いよ! 徘徊者が……徘徊者が一瞬で死体に早変わりだ!」


 興奮したように身振り手振りで感動を伝えてくるジェイデン。俺は無視して曲がり角の先を確認した。ライトを短く点灯。敵影は無し。


「もう一人は?」  


 聞くと、一瞬にしてジェイデンの顔が曇った。アドレナリンの噴出が収まったのか、途端にブルブルと震えだす。


「どうした?」

「カーニバル・クイーンだ……」

「は?」

「カーニバル・クイーンを見たんだ。ああ、発見はされていない。だけど、それで俺とマルコムはパニックになって……病院内ではぐれた」

「……特効薬は?」

「マルコムが持っていた。もしかしたら、ここで待っていたら……ああ、いや」


 いまいち要領を得なかったので、俺は無線の通話ボタンを押した。


「ミヤビ、俺だ。ジェイデンと接触した」 

『本当!?』


 通話先、ミヤビの背後から職員たちと思しき歓声があがっていた。

 それを聞いて、急に自分が外の世界と繋がっている、という実感を得ていた。


『それで、もう一人は――』


 ミヤビが喋っている途中、ジェイデンが俺の肩を掴んだ。


「お、おい! それは無線だよな? ミヤビがいるのか!? ミヤビがこの世界に来ているのか!?」


 ジェイデンは途端に希望に満ち溢れたような表情を浮かべていた。

 通話ボタンを押してその様子を聞かせてみると、ミヤビは息を呑んで押し黙っていた。

 どうやら、真実は話さないほうがよさそうだな。


「ああ。だが、離れたところにいる」

「離れたところって……どこ?」

「分からん。ミヤビもいずれ合流する予定だ」

「そ、そっか」


 そんな会話内容を聞かせたあと、ミヤビを呼びかけると。


『……シェーン、ありがとう』


 ミヤビにお礼を言われた。ミヤビはこの世界に入るのを頑なに拒んでいた。

 それを彼女の仲間たちに伝えるのは酷すぎるだろう。 

 とりあえず、その後はジェイデンから聞いた情報をミヤビに伝えた。

 ジェイデンとマルコムはカーニバルなんたらに追われてはぐれたこと、肝心の特効薬とやらはマルコムが持っていること。

 暫く黙って聞いていたミヤビは、カーニバルなんたらと聞いて、電話越しにでも分かるくらい、あからさまに怯えていた。


「どうした?」

『カーニバル・クイーン……それはコールド・ヘイズで最も出会ってはならない怪物よ』

「どうして?」

『先回りして、瞬間移動してくるの。しかも、死ぬことはないわ』


 話だけ聞いていたら、対処のしようがなさそうだな。しかも死ぬことはないときたもんだ。


「どうすればいい?」

『……死に物ぐるいで逃げ回っていれば、いずれ諦めるんだけど……時間を食いすぎるわ』 


 ふむ。つまりは見つからないようにするのが得策ということか。


「とにかく、マルコムを探して病院内に入ってみるよ」


 俺が無線でそう話していると、ジェイデンがギョッとした表情を浮かべていた。


「シェーン、無理だ!」

「……どうして?」

「どうしてだって!? ミヤビから聞かなかったのか! カーニバル・クイーンは見つかったらゲーム・オーバーのクソ怪物だぞ! 病院内には入らないほうがいい!」

「仲間を見捨てるのか?」


 聞くと、ジェイデンは諦めたように俯きながら、


「……仕方のないことなんだ。今回は諦めよう」


 それを聞いて、俺は両目から血を流す兵士を思い出していた。

 黙って歩みを進めると、ジェイデンは慌てたように俺を呼び止めていた。


「待てよ、シェーン!」

「お前は塀の上で待機しておけ。直ぐに戻る」

「無茶だよ!」


 俺は無視して歩き続けた。その間、無線から響いてくるのはミヤビの高い声でなく――


『シェーン、命は天秤だ』


 あの戦場で聞いた、そんな言葉だった。



 

 尾根付き駐車場を抜け、病院の入口側に回った。

 怪物対策か、ゲート付近では警察車両が行く手を阻むように設置され、その甲斐なく突破されたような痕跡が残されていた。


「病院内に踏み込む」


 ジャリッ。ガラスの破片を踏みしめる音。フロント内と椅子の並んだ待合室をライトで照らすが、敵影は確認できない。

 更に先に進んでいくと、階段の手前。大量の血痕とともに、複数の死体が転がっていた。

 そこには鼻腔を突き刺すような、強烈な匂いが漂っている。

 戦場で体験した匂いと、一致していた。

 ピチャリ。血液で出来たプールをスリップしないよう踏みしめながら、歩みを進める。なるべく大股に、かつ繊細に。習った技術は全て駆使し、クリアリングを優先した。

 そうして一階は全て確認をし終わり、俺は階段へと差し掛かる。


「二階に到達。マルコムの姿は見えない」


 通話ボタンを押したが、返答は無かった。代わりに聞こえてくるのは不快なノイズ音だけだ。


「ミヤビ?」


 再度の問いかけ。やはり返答は無い。

 俺は諦めて、そのまま二階を探索することに決めた。

 それからしばらく二階を歩き回ったが、マルコムの姿どころか、徘徊者の姿も見えなかった。続いて三階に向かうため、再び階段に向かう。

 そうして廊下の突き当りに差し掛かった時。飛び出した影を見て、思わず引き金を絞りそうになった。


「……シェーン」


 ジェイデンだった。彼は俺にフラッシュライトを照らされ、身を竦めていた。


「待っていろと言ったろ」


 ジェイデンはおぼつかない足取りのまま、俺に近づくと。


「マルコムは多分四階だ」


 震えた口調で言った。それを聞いた俺は内心、昂っていた。過去の自分が贖罪されるような身勝手な感覚。


「誇っていい。お前は勇敢な男だ」


 褒めたが、ジェイデンの表情は変わらなかった。


「カーニバル・クイーンは――」


 シャン、シャン、シャン、シャン、シャン――

 ジェイデンが何か言いかけた時、唐突にクリスマスのベルのような音が響く。

 それを聞いたジェイデンは、即座に顔を青くさせていた。


「か、隠れろ」


 ジェイデンは俺を引っ張って、待合室の椅子の陰に誘導した。


「絶対に、喋っちゃだめだ」


 椅子の隙間からは、三階へと通じる階段が見えた。どうやら音はそこから鳴っているようだ。

 俺はそのまま低い姿勢のまま、様子を窺っていた。

 ――信じられない出来事が起こった。

 三階と二階を繋ぐ階段。その天井。種の状態から、果実が実っていく様子をハイスピードカメラで捉えたように。

 にゅうっと。まるで意思を持ったかのように、祭りで使われるようなランタンが生えてきたのだ。

 それは俺たちの隠れる待合室も同様で、天井から不規則な感覚でランタンが生えてくる。


「カラスのツバサをもぐと、コどもみたいにナいちゃうの♪」


 音の外れた、聞くに堪えない奇妙な歌が聞こえてきた。

 ジェイデンの緊張がマックスになったのか、チアノーゼを起こしたのかと疑うくらい、真っ青になっていた。

 シャン、シャン、シャン、シャン、シャン――


「キミはいつも、おびえてばかり♪」 


 シャン、シャン、シャン、シャン、シャン――


「ダレもカレも、ウタがうわ♪」


 シャン、シャン、シャン、シャン、シャン―― 

 遂にその存在が姿を現した。

 俺もジェイデンと同様、息を呑んでいた。

 全長、三メートルはありそうな、女と思しき怪物。

 その存在は、文字通り、〝骨組み〟で出来上がった手押し車を押していた。

 どういうギミックか、複数の骨が組み合わさり、胸骨と思しき骨がカタカタと音を鳴らしていた。


「ああ、マルコム。そんな」


 ジェイデンの絶望した声。その手押し車には、四肢を鉄条網で拘束され、痙攣するように震える長身の黒人少年、マルコムが座らされていた。


「ギャハハハハハハッ」


 不意に女が大きな笑い声を漏らす。マルコムがビクリとすると、女はそれを感知したのか、笑いを止め。

 何処から取り出したのか、細い杭のようなものを取り出し。マルコムの大腿部に思い切り突き刺した。


「あ、ああああ!? やめてええええ!」

「ギャハハハ! ヤメテ、ヤメテ!」


 巨大な女が、マルコムの言葉を馬鹿にしたように真似した。

 ――アレには勝てない。本能がそう告げていた。

 屈服するように凝り固まった筋肉。それとは裏腹に、指が勝手に動いて、セレクターを操作し――マシンガンをフルオートに設定していた。

 ジェイデンがそれを察知したのか、信じられないといった表情を見せてくる。

 彼は俺の腕を掴み。


「何を考えている……」


 懇願するように言った。

 銃声と共に、近づいてくる民兵の声が聞こえた気がした。


『シェーン命は天秤だ』


 無線から響いてくる、無慈悲な宣告。

 両目から血を流す兵士の、断末魔が脳内で再生された。


「よく、見てろ」

「――え?」


 俺は立ち上がって、女に向かって引き金を絞った。握力検査のように、必要以上の力で、だ。

 バッ、シュッシュッシュッシュッシュッシュッ!


「うわあああああああ!!」


 ジェイデンの絶叫。

 巨大女の至るところに弾丸は命中し、鮮血を迸らせる。

 ランタンにも命中し、ガラスのように砕け散った。

 それを皮切りにか、天井に生えていたランタンは休息に萎んでいき、姿を消す。


「ギャアアアアアアアッ!!」


 だが、巨大女はまだ健在だった。痛みから逃げるように、左右どちらかへと踏み出そうとして、ダンスのような動きをする。

 ――弾が切れた。巨大女が怒ったようにこちらを見たが、その頃には既に弾倉交換が終了していた。

 バッ、シュッシュッシュッシュッシュッシュッ!

 俺は射撃訓練場のような動作で、前進しながらフルオートを連発する。


 女はガードする腕が吹き飛び、痛みを堪えるように体をちじめていた。

 高温でマズルからは煙が噴き出し、絶え間なく射出される弾丸は雨のように降り注ぐ。作業的なそれは、銃というよりかは、最早工業機械のようだった。

 二度目の弾切れ。階段手前へと到達していた。

 俺はしゃがみこんでうめき声をあげる女に蹴りを見舞って転ばせる。

 呆然としていたマルコムと目が合った。


「……シェーン?」

「助けにきた」


 そう口にすると、マルコムは涙を流し始めた。


「ありがとう、ありがとう……」

「まだ感謝するには早いぞ」


 なるほど、不死身か。女は既に再生を始めて、消失していた腕の殆どは修復されていた。


「ジェイデン!」


 名を呼ぶと、待合室の椅子の陰からひょこっとジェイデンが顔を覗かせた。


「マルコムが拘束されている! 運び出して外してやれ!」

「ど、どうやって!?」

「俺がこいつを引き付ける。その間にこの趣味の悪い車ごとマルコムを医務室に運び込め。医務室なら器具があるだろう。それで拘束を解いてやるんだ」


 そのタイミングで、ある程度再生を終えたのか、巨大女が起き上がってきた。

 俺は再びマシンガンで顔面を撃ち抜き、地面にゴミのように転がせる。


「この救助はジェイデンの発案だ。奴は英雄だ!」


 そう叫ぶと、マルコムは驚いた表情でジェイデンを見た。


「ジェイデン、ありがとう! ありがとう! もう、ダメかと思っていたんだ!」


 マルコムにお礼を言われ、ギョッとした様子のジェイデン。彼は暫く頭を掻いた後、「ああ、もう!」と、覚悟を決めたようにこちらに走ってきた。


「アンタ、イカれているよ!」


 ジェイデンがそんな言葉を吐きながら、マルコムの拘束された手押し車のハンドルを握った。


「趣味の悪いゲームに手を出したヤツに言われたくない。そんなことより急げ」

「分かってるよ!」


 ジェイデンはそのまま、手押し車を押して奥の部屋へと消えていった。


「さて」


 巨大女が立ち上がろうとする。俺は頭を思い切り蹴って、階段から転がせた。


「今、最高の気分なんだ」


 フルオートから、単発へと切り替えた。マガジンを三つ空にしたが、まだ三つ残っている。

 それに、腰には拳銃だって備わっていた。


「いじめっ子の気持ちが分かったよ」


 銃を向けると、巨大女が怯えたように顔を覆った。


「あ?」

「イタイ、イタイ、ヤダ」

「なんだって?」

「イタイ、イタイ、ヤダアアアアアアアアアアアアアッ!」


 女が大声量で、町中にも響かすような咆哮をあげる。

 ビリビリとしたプレッシャー、思わず耳を覆っていると。

 その後、巨大女は黒い粒子となって、その場から掻き消えた。


「は? ……死んだのか?」


 ダダダダダッ。集団が疾走して、こちらへと向かって来る足音。

 俺はそれを聞いて、嫌な予感をさせていた。


「まさか」


 階段を確認する。左右の壁を見ると、防火扉のようなものがあった。

 慌ててマシンガンをスリングで背中に回し、手をかけて、防火扉を閉めようとすると。


「ラアアアッ!」


 足音の正体、階段を駆け上がってくる複数の徘徊者の姿が目に映った。俺は拳銃をホルスターから抜き放って、先頭の徘徊者の頭にぶち込んだ。

 俺は発砲の勢いそのまま、防火扉を無事に締め切ることに成功した。映画みたいに直前で阻止されることは無かった。

 即座にガンガンと扉が叩かれる音。脈動するかのように防火扉が揺れる。

 俺はその時、他にも階段があるかもと思考を巡らし、振り返ると――

 そこには既に拘束を解いたのか、呆然と立っているマルコムとジェイデンの姿があった。


「……カーニバル・クイーンは?」

「知らん、何処かに消えた」

「……その扉の向こうには何がいるの?」

「徘徊者だ。奴が絶叫したら、急に大勢で来やがった」


 俺はマルコムの足を確認する。確か巨大女に杭を打ち込まれていたはずだ。

 しかし、マルコムは出血もなく、五体満足の様子だった。


「足はどうした? 歩けるのか?」

「ああ、医務室に落ちていた治療キットを使った」

「……治療キット?」

「使えば一発で怪我が治る」


 流石ゲームの世界だ。感心していると、


「それより、問題は特効薬だ」


 ジェイデンがそんなことを口にしたので、特効薬を持っていたとされるマルコムを見ると。


「……すまない。カーニバルクイーンに追われていた時、落としたんだ。今は三階にある」

「まあ、仕方ないさ。それより、他に階段はあるか?」


 聞くと、二人とも顔を見合わせていた。


「どうした?」

「他の階段はバリケードで封鎖されているんだ。上にも下にも、移動するならこの階段を使うしかない」


 それなら連中が来ることは無いだろうが。しかし、困ったな。

 現在、この階段は多数の徘徊者によって封鎖されている。防火扉を叩く音からして、


「ロープを使って――」


 俺が言葉を吐こうとした時、廊下側からフラッシュライトで照らされ、反射的に銃を向けていた。


「おっと、おおっと。自分でプレゼントした銃で撃たれたら歴史に名を刻むことになっちまう。勘弁してくれよな」


 気安い口調。それにフェイスマスクに、背中に背負っている大きなライフル。


「ジムか?」


 聞くと、フェイスマスクの男は両の手を広げた。


「その通り、俺サマことジムだ。姓はキャリーじゃなく、バリー。お見知りおきを」

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