プロローグ
腰先くらいまで伸びているであろう草むらに、伏せっていた。同じくらいの長さのライフルを持って。
居心地は最悪だ。露出した首元や手首に葉先が突き刺さって、チクチクとする。
茂みの先には道路がある。舗装されていない土の道路だ。戦車らしきものが通ったであろう履帯の痕と、それから――
「絶対に道路上には出るな。良いマトになるぞ」
真横に伏せる黒人兵士がそんな言葉を漏らした。視線をやれば、彼は自分と同型の迷彩服を着ている。腕章は第百二連隊。別の部隊で、空挺隊員だ。
彼とはつい数分前に出会った。戦線エリアから抜け出ようとしたところ、バッタリと遭遇したのだ。
別の州を旅行中、ハイスクールの同級生と町中で偶然邂逅したような、不思議な感覚だった。
示し合わせたでもなく、その後は行動を共にした。もちろん、異論は無かった。銃を持った人間同士、徒党を組めば火の泉もなんとやらだ。
お互い、伏せっているので、胸に縫い付けられたネーム札は見えない。不意に〝クラレンス〟という名前が浮かんだ。多分、違う。
「もうすぐクソ野郎共が来る。動くなよ」
黒人兵士はそう告げた。俺は伏せった状態で少し顔を上げ、草むらの開けた道路上を視界に入れた。
五メートル先の道路上では。負傷した、同連隊の仲間の兵士が仰向けに倒れ、涙を流していた。
俺と、黒人兵士が置き去ったのだ。同連隊だが、彼の名前も、生い立ちも俺は知らない。
負傷した彼は動けない。被弾した足からの絶え間ない流血を見れば、もうすぐ彼の命の蝋燭が尽きるであろうことは明白だった。
「頼む、写真をとってくれ。右ポケットに入っている。足のポケットだ」
彼は呟くように言った。そんな彼の両目は血まみれだ。仮に写真を取り出したところで、それを視界に納めることは出来ないだろう。
「君に……」
また何か言った。だが、続きは聞き取れなかった。
「来たぞ」
黒人兵士が言った。途端に喧噪のようなものが耳についた。
道路上では、フェイスマスクを被った民兵達が上空に向けてライフルを発砲しながら、雄叫びをあげて行進していた。
あっという間に負傷した仲間の兵士は民兵達によって取り囲まれる。
「写真を……」
そこまでは聞き取れた。だが、そこから先に聞こえてきたのは絶叫だ。その絶叫は、痛みと絶望を孕んでいた。
カチリッ。俺はライフルのセレクターを操作して、フルオートに切り替えた。
「何を考えている」
黒人兵士が慎重な動作で俺の肩を掴み、囁くように言った。
止めてくれた。
それに安堵する自分がいることに気づき、えづきそうになったのを堪えた。
嬉しげな民兵の歓声が耳をつんざく。負傷した兵士の絶叫はもう聞こえなかった。
『我々は決して仲間を見捨てない。それが我々の誇りであり、先祖の頃からの――』
ふと、新兵訓練所での教官の言葉が頭に浮かんだ。




