天地始粛
八 天地始粛
翌朝、三賀は深山城に向け出立した。それを兼定と綱行が見送る。
「うまくいくかね」
綱行は、呟いた。
「戦の駆け引きや、策のようなことは私にはわかりませんが、あの方は哀れに思うほど愚直ですからね」
兼定が冷ややかに答える。
「哀れか」
「言わないでくださいよ。三賀殿はもちろん椿様にも」
兼定は、慌てて取り繕う。
「お主、やけに椿殿に気を使うな」
綱行は、兼定の肩を小突く。
「貴殿は、今の椿様しか知らないから」
兼定は、迷惑そうに答える。
「今でこそ姫君と呼ばれるにふさわしく、お美しくなられましたけど、幼い頃の椿様はそれはもうお転婆で、木刀を振り回しては大立ち回りをしていたのです。鬼椿なんて呼ばれていました」
「鬼椿」
綱行は、幼少期の椿を想像し絶句した。
「そ、それは本当に言わないでくださいよ」
兼定は、失言に慌てた。
「父上も、特に椿様を可愛がられました。女子でなければ剣豪に名を連ねたであろうと、よく言っていました」
「父上というのは、お主のお父上か」
綱行は、兼定の父卜斎に興味津々である。
「ええ、父は剣の修行で諸国を渡り歩いていまして、志を遂げてこの地に戻ってきたのは四十を過ぎてからです。寺を次いで神仏に使える身となってからは、刀を手に取ることはありませんでした」
兼定は歩き出し、綱行を本殿に誘う。
「弟子も取らず、仕官も断り、ここで近所の子供たちに護身になればと教える程度でした」
兼定は、本殿にあがると観音像とご神体の前に正座する。綱行もその脇で胡座した。
「今から五年前になりますか、父は体調を崩していました。もう長くはないと自分でも言っていましたし、私もそう思いました」
背後で、気配がした。その気配も二人に倣って綱行の隣に坐する。
朱き鎧のその人に、綱行は顔を向けたが、横顔しか見えなかった。
「父は、名だたる剣豪です。母と兄は父のために廟廊を建て石棺を設けました。しかし、ある日父は失踪しました」
観音像が、横に並ぶ三人を見下ろしている。薄く開かれた目に、綱行は畏怖した。
「寝間に、書置きがありました。俺は、鷹鞍の土になる」
兼定のその言葉に、椿が口を開く。
「あの石棺はお父上の」
「良いのです。父は、今頃は、すでに野山の土になっているでしょう。でも私は、そんな父の生き様を尊敬するのです」
綱行は、何度も頷き感慨にふける。
「父が姿を消してすぐ母が亡くなり、兄は父の背を追って旅立ちました」
兼定は、二人に向き直って微笑した。
「これが、剣豪塚田卜斎の最後です」
「大変勉強になりました」
綱行は、座を正し兼定と観音像に深く坐礼した。
三賀は日中は城に勤め、夜になると瑞龍寺に戻ってきた。しかし、長居はしない。必要な事だけ伝えるとどこかに去っていく。
この日、三賀は椿らに居所代えを申し出た。昨日、袋田は椿たちの居場所を探すよう、素破たちに命じたのだ。
椿は承諾し、夜が深まるのを待って綱行と屍人二体とで、椿庵へ移動した。
椿庵は何も変わらず、闇夜の中に鎮座している。二人は人目を忍ぶよう心がけ、静かに屋敷に入った。
燭台に灯をともし、武具などの手入れをする。
二人は、細い明りを頼りに刀の刃を確かめたり、椿の甲冑を固定する帯や緒を締めなおした。
「あ、すみません。お酒の用意を忘れていました」
ふと気付いた椿は、作業していた手を止め詫びた。
「いや結構、今宵はやめておきます。無いとは思いますが、襲撃があるやも知れません」
黙々と作業を続けていたが、そのうち綱行は胡座したまま眠ってしまった。
椿は、綱行を横にさせると肌掛けをかけてやる。抜き身で転がっている鬼狩を鞘に納めると、綱行の傍に置いた。
朝が近づくと竈に火をおこし、屋敷に残っていた干し大根や玄米を味噌で炊く。
雀の声が聞こえる。屋敷の東側の隙間から光の線が差し込んできた。
椿は警戒しながら慎重に、屋敷の外へと出る。
すでにだいぶ明るかった。何者かの気配がないか探ると、木戸のすぐ先に生者の気配がする。戸に耳をあて、音を探っているのかもしれない。
椿は忍び足で木戸に近づき、扉を手で触れ耳を澄ます。
聞こえる。生者の息づかいが。
樫の木で作られた、観音開きの戸一枚を隔てて敵がいる。
椿は薄っすらと冷笑し、刀の鯉口を切った。
かちっ、と小さな音が生じる。
すると、木戸の先にいた気配は遠ざかっていった。
椿は、音を出さないよう慎重に戸を開けた。
そこには、誰もいない。椿はすぐ後ろを向いて戸を閉めた。
綱行はまだ寝ている。椿は炊いていた鍋を竈から降ろすと、上がり框に腰をかけ綱行の起床を待つ。
武家窓から刺し入る朝陽の中を、炊事場の塵が舞う。椿は光の粒が漂う様子を、膝の上に両手で頬杖をつき眺めて過ごした。
この日の夜遅く、来客があった。
人々は寝静まり、夜行生物が主役となり暗がりを闊歩する頃である。
椿は昨日の偵察者と思い込み、木戸を開けると同時に切りかかった。
しかし、それは兼定であった。兼定は身を翻し、辛うじてかわした。
「何をするんですか突然に」
兼定は、涼しい顔で納刀する椿に詰め寄る。兼定でなければ、切られていた。
「貴方が悪いのです。このような時間に紛らわしい」
椿は、兼定を睨む。
「謝りましょうよ。とりあえず」
兼定がそう言っても、椿は無視した。
兼定は、仏頂面で書簡を椿に突きつける。
「三賀殿から預かりました」
兼定が、ふてくされて語気強く言う。
椿は、慌てて兼定を木戸から引き込むと、乱暴に戸を閉めた。
「声が大きい」
椿は小声で兼定を叱責する。兼定は小声で謝罪するが、何故謝罪しているのか疑念を抱いた。
「おや、喧嘩でもしたのですか」
居間にいた綱行は、入室した兼定の仏頂面を見て訊ねた。
「聞いてくださいよ、渡邉殿」
兼定は書簡を届けたら突然切られそうになったと、尾ひれをつけてまくしたてた。椿はそんな兼定を気にも留めず、三賀のよこした書簡に目を通す。
「三賀殿はなんと」
綱行は、兼定を軽くあしらい訊ねた。
「明日の深夜になるようです」
椿は、書簡を握りしめ淡々と言った。敵の襲撃の事を言っている。
「では」
綱行は、不服そうな顔でいる兼定の肩を抱く。
「今宵は襲撃も無かろう。お酒を頂こうか、兼定殿」
綱行は渋る兼定を、強引に酒席に誘った。
翌日、日が沈むと椿庵は静かな臨戦態勢に入った。兼定は瑞龍寺に戻り、今は椿と綱行の二人と屍人の二体だけである。
椿は、縁側に腰かけ思案する。三賀の裏切りを懸念していた。不本意ながら、この作戦の成否は三賀にかかっていた。屍人二体が増えたとはいえ、劣勢である事は否めない。もし三賀が裏切った場合は、敵を屋敷に引き込み隙を見て、高みで見物する袋田を討つ。この間のように、綱行に大怪我をさせるようなことは避けたい。苦渋の決断になるが、撤退も考慮しなければならない。
思案に沈む椿であったが、水沫が顔にかかり我に返った。
「これは失敬、かかりましたか」
綱行は、井戸で水を汲んでは屋敷にかけるといった作業を繰り返していた。
「いえ、大丈夫です。何をしているのです」
椿は、綱行の行動に首を傾げる。
「火矢を受けるかもしれませんから、少しでも延焼を避けねば」
綱行は、屋敷を焼かれる可能性を示唆した。しかし、椿は気に留めない。
「燃えても構いません。ここには良い思い出が多くありますが、嫌な思い出が一番大きい」
そう答えた椿に、綱行は頭を振った。
「今はそう言えるでしょう。でも、必ず良い思い出が蘇ります。残しましょう」
椿は、そう言う綱行を制止しようと手を伸ばしたが、思いとどめた。この人がそう言うのなら、その方が良いのかもしれない。
「お食事の仕度をしますね」
椿は、そう言ってその場を離れた。その口元は、無意識に微笑んでいる。
この日の夕食に、猪肉の味噌焼きを用意した。初めて食すご馳走に綱行は歓喜する。
「何ですかこれは、こんな旨い物は初めて食べた。酒が欲しい」
大袈裟に喜ぶ綱行に、椿は嬉しくなって酒を用意するか問う。最初は辞退した綱行も、絶品に惹かれ一杯だけ、景気づけと称して所望した。
嬉しそうに酒を舐める綱行に、椿が躊躇いがちに切りだす。
「あの、一つだけお訊きしてもいいですか」
椿は、改まって綱行に尋ねる。
「何でしょう」
綱行は、上機嫌だ。
「唐突ですが、お名前の綱行は、どのような字を書くのでしょう」
「普通ですよ。大綱小綱の綱に、海行かばの行くです」
「そうですか」
椿は、嬉しそうに笑った。
深夜、綱行は木戸の外で待機していると、眼下の街道に無数の松明が線となって現れた。
この日、月はない。
その線は、少しずつ椿庵に近づいている。
松明の線は、麓の竹林のあたりで消えた。
「来た」
綱行は、屋敷内の椿に知らせた。
闇の中、甲冑の動く音だけが屋敷の奥から近づいてくる。
朱色の甲冑が姿を表す。
椿の表情は、既に戦闘態勢にあった。
暗がりを、大勢の気配が坂を駆け上がってくる。音を減らす工夫をしているのであろう。気配の数と音の数が合わない。
二人は、遠距離からの火矢に気をつけねばならなかった。
椿と綱行は、同時に抜刀する。
「気づいておったか妖よ」
すぐ前方に、袋田の声がした。しかし、闇が濃く姿は見えない。
「今度は逃がさんぞ」
袋田のその声に呼応するごとく、大勢の気配が椿庵を囲むように散開する。
綱行は、気配をたどり敵の人数を探った。
前方に袋田と三賀を含め十二人。左右に十人から十二人ずつ。総勢三十と数名。
綱行は、唇を噛んだ。一人当たり六から七人、多いな。
袋田が、闇から出た。その隣には三賀の姿があった。
綱行は、三賀の顔を見た。目配せも、唇の動きもない。しかし、綱行は感じた。
袋田が、何かを言おうとした瞬間、綱行は前衛に向け斬りかかった。同時に、三賀は抜刀し、そのまま袋田の首を落とす。勢いそのまま、周囲の者に斬りかかった。
椿は、突然の開戦に躊躇したが、屍人の二人とともに斬り込んだ。
椿以上に、討伐隊の兵達は混乱していた。先制したはずが、遅れをとった。
多くは山賊や素波の輩である。襲撃には慣れていたはずであったが、大将のいない部隊は弱い。
「三賀様、何故です。何故裏切る」
悲鳴と、三賀を罵倒する声が聞こえた。三賀と共に、行動を共にしてきた素波達である。信頼していたし、期待に応えたいと手も汚してきた。
その三賀が、眉一つ動かさず寝食を共にしてきた仲間を切り捨てていった。
悲痛な叫びは、怒号に変わる。逃げ出せばよいものを、三賀許すまじと多くの素波が三賀に切りかかっては、討ち取られていった。
技は無くとも、闘いには慣れていた輩である。こうも脆いものかと、綱行は敵と切り結びながら内心不憫に感じた。
椿は叫びながら、背を見せる敵を切り倒す。
戦闘は、すぐに決した。東の空があかるむ頃、あたりは無数の死体の転がる凄惨な光景を露わにした。
三賀は刀の血糊を懐紙で拭うと、椿の傍らに跪坐する。
「他愛のない」
椿は、不機嫌そうに言った。
前回対峙した時は、逃げるので手一杯だったのである。
今回の勝利は、単に三賀とその策によるところが大きい。
綱行は、勝鬨をあげた。
「他愛ない」
椿は、三賀を見やる。
袋田を一刀に、首を落としたことが気に入らない。しかし、この勝利を、三賀がもたらしたことに違いはなかった。
椿は、自分の毛髪を戦死者達に配ってまわった。椿の毛髪は、口や傷口から遺体の体内に入ると、次々と、死した兵士達が起き上がる。
袋田が、最後に残った。
「屍人となり、此奴が味方になるとは思えません」
椿は、袋田の切り離された頭部に目を落としながら言った。
「必ずしも、心を持つとは限らないでしょう」
綱行がそう言うと、椿は、躊躇いながらも髪を袋田の頭部に投げ落とした。
椿の毛髪は袋田の口から侵入すると、首の傷口から出て、線虫のように蠢いて体を探した。体を見つけると、離れた胴と縫い付けるかのように結合し、他の屍人同様に立ち上がる。しかし、言葉を発することはなかった。他の屍と同様に、生気のない目でただ立っている。
「意外でしたね。心を残す者と残さない者の差は、何なんでしょう」
椿の疑問に答えられるものはいない。
「さて、大所帯となりましたがいかがしましょうか」
綱行は、蠢く屍人達に嫌悪感を覚えた。
「兼定さんには申し訳ないですが、あそこしか思いつきません」
椿は、南西の瑞龍寺に目を向ける。
一同は同意して、瑞龍時に向け出立した。
総勢三十四名の屍人と一人の生者の軍勢となった。
早朝の街道を行く人々は、その軍勢を見て度肝を抜かれた。
国内外の噂となるであろう。しかし、椿の足取りは揚々と軽い。勝利の凱旋である。
朝日を受けて、椿達一行は瑞龍時に到着した。鳥居の前で、兼定が出迎える。
「椿様、お帰りなさい。まずは、本懐遂げられましたこと、おめでとうございます」
兼定は、深々と頭を下げた。
「まだ途中ですが、今はとても嬉しい。ありがとう」
椿は、真っ先に廟廊に向かった。
椿が、父親に戦勝報告をしている間、綱行と兼定は入り口にて待機した。三賀は、椿のすぐ後方に跪坐して控えている。
何を語っているのか、聞き取れはしないものの、綱行は微笑してその様子を眺めていた。
程なく、椿は綱行を呼ぶ。
「父上、こちらが渡邉綱行殿でございます。此度の袋田討伐に尽力していただいたばかりか、先に討ち取りましたこの三賀は、渡邉殿が幻の剣技、支綱流鬼抄虚蝉で討ち破ったのでございます」
紹介に預かり、綱行は照れ臭そうに頭をかいた。
背後で跪坐する三賀は、微動だにしない。
椿は、石棺の奥に飾られた椿の甲冑とよく似た漆黒の甲冑と、二振りの刀を指した。
「渡邉殿もお会いしたと思いますが、当家の世話をしてくれていた一家が、危険を省みず、椿庵からこちらへ運び出してくれたそうです」
当主の甲冑というのは、豪華な装飾がされているものだが、この甲冑は実用に特化していて装飾などはほとんどない。唯一といっていい装飾は、兜の前立ての幼児を抱く観音菩薩である。
「私は、家族を奪われ国をも奪われました。何の財もなく、たいしたお礼もできかねますが、父の甲冑と大小の二振りを受け取って頂きたく存じます」
綱行は、すぐさま辞退した。
「お父上の形見じゃございませんか。何より、墓前で人に譲るなどお父上が悲しまれますぞ」
「いえ、父もそうするように申しております」
綱行は、怪訝な面持ちで尋ねる。
「お父上が、おっしゃっているのですか」
「もちろん」
椿は、不思議そうに綱行きを見て首を傾げた。
綱行も不思議そうに首を傾げる。
椿は、生者の綱行には父の存在を感じ得ぬと理解し、語り始めた。
「これより、父が申しますこと私が代弁させて頂きます」
綱行は、半信半疑で狼狽えた。
「此度の貴殿の働き、大義であった」
椿は、父の言葉を語り始めた。
「また、娘をここまで導いてくれたこと感謝する」
綱行は、半信半疑であったが途中からゆっくりと片膝をついた。
「我が采配の至らぬばかりに、椿をはじめ家族や家臣、民を不幸にしてしまった。しかし、もう謝罪の機会もない」
長く沈黙した。椿は、不快な様子で言い淀んでいる。
「私には、父の申すこと理解致しかねますが、そのまま申し上げます」
やっと口を開いた椿は、不本意そうに父の言葉を繋ぐ。
「どうか貴殿には、この鷹鞍の国が安寧の日々を早急に迎えられるよう尽力されたい。我が家臣、三賀、袋田の両名は丁重に埋葬される事を望む。そして、大義であったと労いたもう」
綱行は、衝撃を受けた。
全身に鳥肌が立ち、金縛りにあったかのように硬直した。
「御意」
同じく朝を迎えた深山城では、蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
妖となった前領主佐貫定常の娘、椿姫討伐に出した三十余名が、たった一人を除いて全滅したのである。
しかも、鷹鞍の国政に携わる袋田と、武術指南役である三賀も失われたとのことである。三賀に至っては、裏切りの可能性もあった。
報告に戻った生還者も、混乱から醒めず要領を得ない。
城内は、守りを固めろ、武器を集めろ、兵を集めろと、怒号が飛び交った。
城主五日条信政は、要職にある者達の報告を受け、指示を出していた。その表情は険しい。
「那珂、探りに行かせた素波は、まだ戻らんのか」
五日条は、部屋の隅で一際目立つ歌舞伎装束の男に訊ねた。
那珂は、黙って頷く。
「だいたい、椿姫討伐隊の素波供も相当な手練れであったはず。そうであろう那珂」
那珂は、口をへの字に曲げ肩を窄めた。
この那珂は、鷹鞍が抱える忍衆の頭目である。忍といっても中身は、山賊の残党や素波の寄せ集めである。いわば傭兵集団。それを管理しているのがこの那珂で、この集団を那珂衆といった。
「袋田様も、急に男気みせちゃって無理するからこんなことになるんですよ」
那珂は、冷ややかに笑った。
五日条は、那珂を睨みつける。
「お前が、動かぬからだ」
「おやおや。妖怪退治は専門外ですよ。まぁこれ次第ですがね」
那珂は、指で輪を作り金を示唆した。
五日条は、嫌悪感をあらわにする。
那珂は、高笑いで去っていく。
正午前に、椿庵を探りに行った素波が帰城した。
再び五日条に呼び出された那珂は、不満顔である。
「骸が無いとはどういうことか」
五日条は、報告する素波に問いただす。
「だから。血痕とか、武器防具の残骸はあったけど、骸は無かったんだって」
報告する素波は、面倒くさそうに答えた。
「那珂」
五日条は、苛々して那珂衆の頭を叱る。
「おい、もっとお行儀よく喋れ」
那珂は、面倒くさそうに手下を叱った。
「そうではない。骸が無いとはどういうことだ」
「知りませんよ。持っていったんでしょう。妖だから、食べちゃったのかも知れませんね」
那珂は、ぶっきらぼうに答えると、手振りで手下を下がらせた。
「食われただと」
五日条は驚愕し、うなだれた。
「那珂よ。集められるだけ兵を集めよ。野盗でも罪人でも構わん。国の一大事だ」