盈月
十伍 盈月
朝靄の中、瑞龍寺では戦支度が清々と進められていた。
寺の周囲の山林に潜んでいた屍人の兵たちが、斜面を這い上がり続々と境内に集結する。その様を朱色の甲冑に身を包む佐貫椿が、本殿の上がり框に腰掛け、険しい眼差しで見ていた。
三賀は、椿の傍らに控えている。昨日からどこか落ち着きがない椿の様子を、気にかけていた。
源蔵は、奥の部屋で兼定に傷の処置をされていた。戦場に出るつもりである。三賀と兼定には止められたが、椿は止めなかった。さらに椿は、戦には出ないと分かっている兼定にも、源蔵の介助をかねて状況を見届けるよう依頼した。
各々が、戦支度と整え本殿前に集まると、椿は立ち上がり歩きはじめた。
総員が、無言でそれに続く。
法螺も太鼓もない。無言の出陣であった。
屍人の兵たちが鳴らす鎧の乾いた音だけが、参道に響く。
人気のない農道を行き、土手を超えるとそこが戦場である。
椿は、腕を振って屍人たちを操り横隊に並べた。
立ち込める靄が、川上から吹く風に切り刻まれ、靄の隙間から生気のない目をした武士たちが、整然と並んでいく姿が垣間見られる。
皆の川河川敷に、椿たち屍人の軍団が集結した。
先の戦と、同じ場所である。
昼には、まだ早い。
しかし、椿は先に布陣して対戦相手を待つのである。
椿は、床几に腰掛け微動だにしない。その傍に、椿の薙刀を携えた三賀が控える。
源蔵と兼定は、土手の縁に腰かけた。椿軍と敵軍との間あたりで、観戦には最適な場所である。
「ここなら、いざというとき伏兵になり得ましょう」
源蔵が、腰の刀の位置を直しながら言う。
「なりませんよ。どこからも丸見えです。それより矢に気を付けてください。ここまで届きますよ」
兼定は、源蔵の背を支える。
靄がはれ、河川敷が一望できるようになると、土手の二人は感嘆の声を上げた。将棋の駒のように、整然と並べられた屍人兵は、今や三百を超えるだろうか。囁き声すら聞こえず、微塵にも動かないその様は、練兵の達した軍である。どこの強国であろうとも驚愕するであろう。
「全貌を見ると、すごいものですね」
そう言う兼定に、源蔵は頷き深山城の方を気にかけた。鷹鞍の軍列はまだ現れない。
土手裏には、刈り入れ時の色づいた稲穂に、雀の大群が飛来し田の実をかすめている。
風もなく、程よい陽気に源蔵は眠りに誘われた。体が回復を求めているのもあって、抗うことなくその誘惑に落ちた。
遠くで馬の嘶きが聞こえ、蹄の音と振動が徐々に近づいてくる。
源蔵は、目を開けて眠ってしまっていたことに気づくと、慌てて辺りを見渡した。
提道を駆けて、一騎の馬が源蔵たちの背後にとまった。
「やー、これはすごい」
馬上にて、男が感嘆の声を上げた。
男は、馬から降りると兼定に馬を託した。
阿見であった。
阿見は、慌てて椿のもとに走り寄り、自軍の遅れを詫びた。
「遅れてなどいない。こちらが早かったのだ」
椿は、感情のない声で言う。
阿見は礼をのべると、慌てて走り去った。兼定から、馬の手綱を奪うように受け取ると、城に向け馬を駆けた。
程なく、城へと続く街道に大勢の人の姿が見え始めた。源蔵は、兼定の肩を借りて立ち上がるとその光景に驚愕した。
鷹鞍の軍勢が、徐々に近づきその様相が次第に明らかになるにつれ、源蔵は悲観する。
すがるように椿を見るも、椿からはまだ鷹鞍の軍勢は見えない。椿は変わらず床几に座っている。
「何という事か、まさかこのような事になるとは」
源蔵は、土手に膝をついて項垂れた。
「これは、これで悲しいですね」
兼定は、源蔵の肩に手を置き同情する。
鷹鞍の軍勢が河川敷に到着した。
その出で立ちに、椿は目を細めた。
白装束を着た五日条光が先頭を歩き、同じく白装束の老人が数名が続く。その後に大勢の鷹鞍兵が追従するも、武装している者は皆無である。帯刀こそしてはいるものの、甲冑等の防具や槍などの長物を持つ者はいない。
椿たちの隊列に向き合うように、鷹鞍の兵たちは布陣した。
白装束の男たちの前に、茣蓙が敷かれる。
男たちは、神妙な顔つきでその上に正座した。
他の者は皆跪坐し、頭を垂れている。
最後尾から、隊列の整然を確認するように、黒色の甲冑に身を包んだ綱行が、ゆっくりと歩み出た。
綱行は、光の前で止まると光を見て頃合いを尋ねた。光は、無言で一礼する。
綱行は、頷くとさらに前方、両軍の中間地点まで進み出た。
「これより、先の領主佐貫定常およびその家族の殺害に関わりし者、謀反に参加せし者、またこれらの動きを認知していながら、阻止しなかった家臣らに対し処刑を執り行う」
綱行は、しばらく間を置き両軍を見かわす。
異を唱える者はなかった。
「五日条光他七名は、切腹。介錯はなし、絶命したところで斬首のうえ、この河原に晒す」
「そ、それはあんまりだ」
源蔵が、悲痛な声を上げ兼定の肩を借りながら綱行のもとに歩み寄る。
綱行は、遠くで異を唱える源蔵に気付いたが無視した。
綱行は、上帯から白い扇子を抜き取ると、神妙な所作でそれを広げる。
「はじめられよ」
綱行は、発声し宙へと扇子を投げた。刑執行の合図である。
光は、躊躇うことなく着物の前をはだけ短刀に懐紙を巻いた。他の七人もそれに続く。皆、涼しい顔をしていて死への恐怖や、不安を一片も見せない。
椿は、突然立ち上がった。床几が転がる。
「やめよ」
椿は、険しい顔で言った。しかし、距離が遠く綱行や光のもとまでは届かない。
「三賀、やめさせろ」
椿の隣に控えていた三賀は、御意と答え走り出した。
「待たれよ。腹召しますな。待たれよ」
三賀は、連呼しながら刑の執行を制した。
今、まさに短刀を腹に突こうとしていた光たちの手が止まった。
三賀が、綱行のもとにたどり着く。
「いかがされた」
淡々とした声で、綱行が問う。
三賀は、答えない。答えない代わりに、口端だけで笑った。
ゆっくりとした足取りで、椿が歩み出る。
皆、その姿を目で追った。
綱行たちの前を通り過ぎ、光たちの前まで来ると、椿は立ち止まった。
「もうよい。腹など切るな」
椿は、白装束の男たちにそう声をかけると、鷹鞍軍の兵士たちを見渡す。
「もう、よいのだ」
椿は俯き、しばらく黙っていたが、顔をあげると静かに語り始めた。
「私は怒りに任せ、其方達と今日まで戦ってきたが、亡き父は、其方等の事を恨んだりはしていなかった」
椿は、遠い目で空を見上げる。
秋の空に、羊雲がゆっくりと流れていた。
「私には理解できなかったが、我が父佐貫定常がお前たちに残した言葉を伝えよう」
椿は、一呼吸おいて続ける。
「大儀であった」
椿は、それだけ言って黙った。
周囲から鼻を啜る音が聞こえだすと、白装束の男たちは短刀を落として、さめざめと泣き出した。そして、河原の砂利に手をついて、それぞれの言葉で椿に謝罪した。
綱行は、椿の隣に並んだ。
「椿殿、もうよろしいのですな」
綱行がそう問いかけると、椿は綱行に向き直り小さく頷く。
綱行も頷き返し、了承した。
「皆の者、よく聞け」
綱行は、声を張り上げた。
「佐貫椿の遺恨は晴れた。これにて戦は終いだ、戦支度を収められい」
その掛け声で、椿の率いる屍人の兵たちは次々とその場に倒れていった。
三賀も、手にしていた薙刀を地面に置く。
鷹鞍の兵たちは歓喜にわき、事の顛末を見届けようといつからか土手に集まっていた町人や農民が抱擁して喜んだ。
綱行と椿は、二人並んでその光景をしばらく眺めていた。
光が立ち上がり、椿に深々と頭を下げ、綱行に謝辞を述べはじめると、綱行はそれを制した。
「まぁ、待て。まだ終わりじゃないのだ」
綱行は、傍らの椿に目を向ける。
椿は、綱行を見つめていた。
二人は、しばらく目で語らっていたが、綱行が微笑すると、椿は照れくさそうにはにかみ、頷いた。綱行も、ゆっくりと頷く。
「鷹鞍の者たちよ。そなたらに宣言する」
綱行が叫ぶと、喜びに沸く鷹鞍の人々は、不安そうに押し黙り綱行に注目した。
綱行は、傍らに立つ椿の肩を抱き寄せ、声を張り上げる。
「我、渡邉の綱行は、佐貫椿を妻とする」
長い沈黙の後、地響きのような喝さいが沸き起こった。
日差しが山の背に隠れ始めたころ、皆の川河川敷は、酒宴が開かれていた。
河の上流側は、多くの屍人たちが横たわり弔いが行われ、下流では綱行と椿の婚礼が行われていた。
兼定は大忙しである。婚礼の議を執り行い、弔いで経もあげねばならない。
綱行は、鷹鞍の人々に囲まれ陽気に過ごしていた。鷹鞍の人々から見れば、綱行は英雄である。戦を収め、鷹鞍の姫を娶ったのである。
酒に酔った光は、綱行にこの国を治めてくれと懇願する。
「おぬしは、飲みすぎだ。何を申しておる。俺にそんなことを言う前に、椿殿に申せ」
「いやいや、椿様は、あなたの奥方だ。あなたがこの国を治めるべきです」
「おい、誰かこいつの腹を切って臓物で口をふさげ」
笑いがおこる。
椿は、酔いどれ共に閉口し皆の川の上流に逃れていた。
一人の遺骸に、女と子どもが二人寄り添っている。椿は、躊躇いながら声をかけた。
「身内の者か」
女が、椿に気付くと深く頭を下げた。
「済まぬことをした。さぞ私を恨んでおろう」
椿は、謝罪した。
「いえ、ろくでもない男でしたから、ろくでもない死に方をするのはわかっていました」
女は、そう言って泣いた。
横たわる遺骸は、金で雇われた名もなき傭兵である。
「お前たちの父を殺したのは私だ、許してほしいなどとは言わない。憎んでくれ」
椿は、幼い二人の子どもにそう告げた。
「俺は、侍になるんだ。父ちゃんみたいな。あんたこの国のお姫様なんだろ、取り立てておくれよ」
子の一人がそう言うと、傍らにいた母親がその頬を打った。
何故頬を打たれたのか、幼い子供には理解できなかった。不思議そうに頬に手を当てて、その痛みに顔をしかめて大粒の涙をこぼす。
椿は、たまらずその子を抱き寄せた。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
屍人たちに念仏を唱えて周っていた兼定が、椿の様子に気付き慌てて駆け付けた。
「おやめなさい。今日は、貴方様のお祝いではないですか」
兼定は、哀れな家族から椿を引き離した。
「私は大勢殺し、多くの者を不幸にしてしまった」
椿は、多くの屍を見て呟いた。
「今日は、おやめなさい。今日だけは、あなたに幸せであってほしい」
兼定は、椿の肩を掴んで言い聞かせるように告げた。
「あの方が、気付かせてくれたのです。あの方がいなければ、私はただの妖でした」
椿は、胸に手を置き、酒宴の中にいる綱行を眺めた。
「あの方を思うと、私のこの空っぽの胸が苦しい。何もないはずなのに苦しいのです」
椿は、胸の前で拳を握る。
「大丈夫です。こんな私ですが、私は幸せです」
「良かった。貴方に降りかかった不幸を、私はずっと気にかけていました。きっと私だけではないでしょう。でも、本当に良かった」
兼定が微笑んでみせると、椿も微笑した。
「しかし、もっと喜ぶと思っていました。それこそ泣きわめいて喜ぶものか」
兼定は綱行との婚姻を、冷静に受けた椿の反応を意外に感じていた。椿が綱行に、思いを寄せていることは気付いていたが、椿の反応が薄く物足りない。
「喜んだではありませんか。あなたの目の前で、恥ずかしながら泣いてしまいました」
椿は、何かを思い出しながら笑う。
兼定は、訝し気に首をかしげる。
「一昨日の晩、あなたと剣の稽古をしていたときです」
椿が、そう言って兼定は理解した。
「あー、そういう事でしたか」
「はい。あの時、別れ際に綱行様の左手の小指に結った私の髪を通して、お気持ちをお伝えくださったのです」
兼定は、あの晩の椿の様子を思い出し得心する。そうか、あれは嬉し泣きだったのだな。
「渡邉殿は、さぞ、素敵な言の葉を紡がれたのでしょうな」
椿は、微笑して頷く。
「さて、あの御仁は何と言ってお姫様を口説いたのでしょう」
兼定は椿の顔に耳を寄せる。
「それは、言えません。私だけの宝物ですから」
二人肩を並べ、酒宴の席に戻ろうとしたとき、馬の嘶きと、何者かの叫ぶ声が聞こえた。見ると、馬上の何者かが堤道を駆けながら叫んでいる。
何事かと、多くの者が土手を見上げた。
馬上の男は、馬を止めると西の空を指した。
「襲撃にございます。狼煙があがっております」
光は、慌てて土手に上がり、他の者もそれに続く。
茜色に染まった西の山々に、一本の細い煙柱があがっている。さらに一本遠くの空に煙柱が見えた。
馬上の男が、状況を続けた。
「西の砦が、破られた模様です」
鷹鞍の国境には、いくつかの砦と狼煙番所が設けられていた。国境付近で何かがあれば、狼煙が焚かれ危急を知らせるのである。
椿は、土手にあがると光と綱行のもとに駆け付けた。
「何が起きたのです」
椿は、狼煙を見上げながら光に訊く。
「豊敷でしょう。我が国の混乱に乗じて、攻めてきたのです」
光は、悔しそうに唇をかんだ。
「椿様、祝宴の最中に申し訳ありませんが、我々は行かねばなりません」
光は、そう言うと土手下の鷹鞍兵たちに戦支度を指示した。
「どうする光殿。今から戦支度をして出陣しても、夜間の行軍になるぞ」
綱行は、危惧した。
「左様ですな。疲弊したうえで、山林での戦闘となると厳しい。城に籠ることになるやもしれません」
光は、苦渋の決断を迫られた。
狼煙を見上げていた椿は、傍らの綱行の腕を掴む。
綱行が、椿の顔を覗き込むと、その顔は決意していた。
綱行は、苦笑する。
「姫の仰せのままに」
椿は、微笑で返すと、険しい顔をして言を発した。
「豊敷討伐は、我に任せよ」
椿は、光にそう言い残し土手を駆け降りた。三賀と綱行が、それに続く。
屍人の兵たちの安置所にたどり着くと、椿は先ほどの親子に声をかけた。
「すまぬな。火急の事にて、またお主らのお父上をお借りするぞ」
母親と男子が、頷く。
椿は、両の腕から黒髪を放出し、屍人たちの上に雨のように降らせた。椿の髪を受けた屍人たちが、次々と起き上がる。
親子の父親が起き上がると、男子が歓声を上げて父親に飛びついた。
「父ちゃん。頑張っておくれよ」
父親は、生気のない目で男子を見下ろした。
黒い山肌を、屍人の兵たちが無言で這い上がっていく。満ちた月光を背に浴びて、難所を迂回することなく、一路西へ邁進する。
椿は、髪を繰り屍人を走らせ、崖を飛び越えさせた。屍人の兵たちは、常人ではありえぬ速度で突き進む。
屍人たちは、疲れを知らぬ。痛みを感じなければ、死を恐れることもない。
西の砦までは、山道に慣れた者でも二日はかかる道程である。無理をして一日と半日。
「屍人で良かった。生きていたら、とてもついていけなかった」
綱行は、苦笑して隣を走る三賀に言った。
「何を申す。死んで良かったなどと、源蔵が聞いたらどやされるぞ」
三賀は、綱行を睨む。
椿たちが、渓谷の崖を駆け降りている。その最中、椿は対岸の崖の頂に微かな光を認め屍人たちを停止させた。
微動だにせず、獲物を狙う獣の如く観察する。
綱行は、感じた。生者の気配を。谷間を流れる風の中に、生きている人間に匂いがする。
綱行は椿に向けて、指を二本立てた。
椿は頷くと、先行していた屍人二体を対岸の斜面に飛ばす。
二体の屍人は、するすると音もなく崖を登って行った。
しばらくすると、争う音と小さな悲鳴が聞こえた。火のついた松明が、崖下に落ちていく。
椿たちは進軍を再開し、対岸の頂で倒れている遺体を検分した。
豊敷軍の先遣隊であろう。本隊は近い。
椿は、頂から西に突き出た岩山に登る。
生者の気配は感じないが、麓の開けた場所に小さな火を見つけた。
椿の隣に綱行が並ぶ。
「もうすぐです。行きましょう」
そう言って椿はその岩山を飛び降りた。綱行たちもそれに続く。
山の斜面を下り終え、開けた場所に出た。椿は、屍人たちの進軍を止める。
まだ暗いが、夜明けの気配が東の空に感じられる。そして、生者のにおいが前方から漂ってきていた。
三賀は、椿のもとに歩み寄り、跪坐して進言する。
「勝機です。敵軍を包囲するよう散開し、一気に壊滅させましょう」
砦を落とし、その周辺で敵軍は野営したのである。
まだ距離はあるが、椿の耳には生者の寝息が聞こえていた。
椿は、屍人を慎重に操り敵軍を包囲すると、両の手を天高くあげる。
それが、総攻撃の合図であるかのよう屍人たちは、一斉に動き出した。
敵兵は、全くの無警戒であった。
奇襲をかけた自分たちが、奇襲を受けるなど思ってもみなかったであろう。鎧の緒は緩めていたし、兜などは皆外していた。長物や弓などは隅にまとめられ、脇の物を抜刀するのがせいぜいであった。
瞬く間に、豊敷の兵たちは次々と倒れ半壊する。
残った豊敷の兵士たちは、円形に背を寄せ守りを固める。
「何者だ。名を名乗れ」
その中の頭首らしき人物が声を荒らげる。紺色縅の胴丸を身に纏い、整った身なりの男であった。
「他国の領地に攻め入って、名を名乗れとは片腹痛い」
椿は、嘲るように言う。
「女子か」
頭首らしき人物は、椿の声に驚く。それが椿の癇に障る。
三賀が人物の正体に気づき、椿に耳打ちした。
「ほう、忍の頭目か。豊敷の忍は品が良いのだな」
椿は、自国の素破どもと比べ感心する。
「よかろう。我は佐貫定常が長女、椿なり。そちらは、豊敷忍衆頭目、行方安次殿でよろしいか」
「如何にも」
行方は、椿の隣にいる三賀に目を向ける。
「そちらに御座すは、三賀義道殿とお見受けする。三賀殿との一騎打ちを所望する」
指名された三賀は、刀を下段に椿の前に出る。しかし、椿はそれを制した。
「ならん。貴殿の相手は、この私だ」
椿は、傍らの綱行を見る。綱行は黙って頷くと、椿から離れた。三賀もそれに倣う。
「女子と馬鹿にするのなら、私を倒してから三賀に遊んでもらうと良い」
椿は行方に正対し、八双に構えた。
豊敷の兵士たちも、行方の後方に下がる。
行方は黙って頷くと、本差しを片手で持ち脇差を逆手に抜いた。
椿は顔には出さなかったが、内心二刀の構えに驚いた。初めて見る型だった。
椿と行方は、にじり寄りながら反時計回りに動く。
行方の右足が土から離れた瞬間、椿は飛び込み、八双に構えた刀を振り下ろす。
行方は、それを本差しで払うと逆手の脇差で切りかかる。
椿は身をそらして刃をかわし、行方の左腕を目指して切り上げた。行方は、前方に蜻蛉を切ってかわす。しかし、椿はそれを読んでいたかのように、行方の体が宙にあるうちに足を大きく開き刀を天に突きあげると、気合とともに振り下ろす。
行方が着地すると同時に、その首は地面に転がった。
それを取っ掛かりに、乱戦となる。
朝闇の中、屍人の兵を操る朱い甲冑の椿に、名高い剣豪三賀、黒き甲冑を纏った鬼狩り綱行とが、敵中野営陣を暴れまわった。
朝日が遠くの山の頂を超え、この地を照らし始めたころ。戦闘は終結した。
敵軍は、大した反撃もできずに瓦解する。
椿と三賀と綱行は、立っている豊敷兵がいなくなると刀を収めた。
敵わぬと悟った者は、武器も持たずに敗走する。
百に近い屍が、あちこちに転がっていた。
「このまま、豊敷を落とす」
椿は、新たに手に入れた屍人を屍人兵に変えながら言った。三賀と綱行は、頷き了承する。
屍人の軍勢は、新たな兵力を得て、ゆっくりと進軍を始めた。
今度は、急がない。
敗残兵に敗北の知らせを届けさせ、絶望を味合わせるためである。
豊敷城まで普通に行けば一日と半日程度の距離である。
しかし、急いではいなくとも、休養のいらない屍人兵の脚は早かった。
翌日の早朝には、山を降り街道にでた。
豊かな国である。
どこまでも続く田園の先に、山のような城都が霞んで見えた。
人々が、雨戸をあけ近隣に朝の挨拶をかわすころ、屍人の軍団は城下町を行軍した。
阿鼻叫喚の大騒ぎとなり、泣く子を親が抱えて走り、老人は念仏を唱える。
約四百の死体が、ぞろぞろと商家の前を歩いていくのである。
知らせを聞いたのであろう。城から侍たちが馬を走らせてきたが、屍人の兵に怯えた馬が暴れ皆落馬した。
城門前にたどり着くと、椿は屍人たちで城を包囲させつつ、門番に名乗り来意を告げた。
天守閣にて、城下の騒ぎを見ていた豊敷国領主谷田部友康は、項垂れた。
鷹鞍国境での戦にて、自軍敗退の知らせが、先ほど届いたばかりである。
鷹鞍攻略に発たせた兵士は、その殆どが戻らず、忍衆頭目の行方も討死したと聞いていた。
朝時のため、登城している者も少ない。
また、他の近隣国とも一触即発の様態で、主力部隊はそちらに回していた。
慌ただしく階下から迫る足音が、谷田部の臓腑をさらに締め付けた。
「殿、佐貫定常様の長女佐貫椿様が、お目通りを請うております」
知らせを届けた家臣は、慎重に言葉を選びながら告げた。
谷田部は、顔を上げて眼下に広がる広大な領地を眺める。
堅牢な城郭を囲む武家屋敷や商家が立ち並び、その外を黄金色の田園が遠く海岸線まで続く。
「お通しせよ」
谷田部は、細い声で家臣に命じた。
城門前で、椿は薙刀にもたれ掛かり、慌てる敵兵を嘲笑し眺めていた。
三賀は苛立ち抜刀し、開門を急かした。
「今すぐ門を開けよ。せねば押し通る」
綱行は、苛立つ三賀を見て憐憫たる思いにかられる。
ここから、すべてが狂い始めた。
城内から、開門を指示する声が聞こえた。
閂が抜かれ、巨大な門がゆっくりと開く。
直垂姿の侍が数名、頭を垂れて椿たちを向かい入れる。
三賀は、垂れる頭に遅延を叱責し、先導を申し出た男を突き飛ばした。
先頭を三賀、その後に椿と綱行が続き、屍人と化したこの国の兵士たち百名足らずを引き連れ入城した。
城に勤めていた者たちは、目の前を通り過ぎる光景に驚愕した。
変わり果てた同僚が、友が、敵兵となって戻ってきたのである。
抗う者はない。多くの者が、痛烈な敗北と恐怖に泣き崩れた。
三賀は、広大な城内を迷うことなく突き進む。本丸御殿にたどり着くと、荒々しく荘厳な戸を開けた。
豪華な障壁画が並ぶ廊下を抜けた先に、柱に昇竜の彫刻が施された広間にたどり着く。三賀は、その入り口の前で立ち止まると、後に続く椿に、恭しく頭を垂れた。
「こちらにございます」
三賀は、跪坐して襖を開けた。
椿、綱行、三賀の順に広間に入る。
贅の限りを尽くした広間の奥、一段高い上段の間に、谷田部と従者がすでに着いていた。
「これ、殿の御前である。兜ぐらい取らぬか」
老齢の従者が、膝を詰めて乗り出すと椿らを叱責した。
椿は、怯むことなくそのまま歩んだ。
椿の意図を察した三賀は、駆けだして椿の先を抜くと、上段の間に座している谷田部の胸倉を掴んで、下段に投げ落とした。
「何をするか。無礼者。出合え」
三賀は、絶叫する老人も労わることなく投げ飛ばす。
老人は、投げ飛ばされてからも助けを乞うように出合え出合えと叫び続けたが、その声に答える者は無かった。
椿らは上段の間にあがり、三賀は座敷飾りに置かれていた漆塗りの文机を椿の背後に置いた。
椿は、大仰しくそれに腰かけ、手にしていた薙刀の石突で畳を突く。
椿の右隣に綱行、左に三賀が立った。
「さて、谷田部よ。申し開きはあるか」
椿が、下段に転がる谷田部にそう投げかけると、傍らで転がる老人がすぐさま嚙みついた。
「この小娘、様をつけぬか」
老人は、そこまで言ったところで、椿に頭を薙刀で叩かれ舌をかんだ。
「爺よ。お主こそ様をつけよ。次に私を小娘などと呼んだら、その首を自ら抱くことになるぞ」
谷田部は、改まって正座した。家臣の老人も渋々それにならう。
綱行は、椿の横柄な態度に顔をしかめた。
「聞こう。何故、我が国に攻め入った」
椿は、冷たい視線で谷田部を見下ろした。
「弱国は、滅ぶべし」
谷田部は、膝頭を鷲掴みにして椿を睨んだ。
「ほう。では、お前たち滅びるのだな」
椿は、冷笑した。
谷田部は、宙をにらみ奥歯を軋ませる。
「貴国の民草を救うためにて、誠の挙兵であった」
谷田部は、震える声を絞りだし続ける。
「佐貫定常殿亡き後、鷹鞍を統治できるのは我が国しかない」
谷田部は、顔をあげて言い放った。
「しかし、今跪いているのは誰か」
睨みつける谷田部を、椿は疎ましそうに見下ろした。
「此度のこと、どう責任を執るつもりか」
「国を治めるということは、戦の勝敗でどうにかなるものではない。民を飢えさせぬようあらゆる面で、策を練り統治せねばならぬ。隣国の四国は、どの国も貴国の領土を我が物にしたいと舌舐めずっているのだ」
谷田部は、額を流れる汗もそのままに、椿を諭すように語った。
「四国の中で最も豊かな豊敷が、統治してやるからありがたく思え、そういう事か」
椿は三賀に薙刀を渡し、片膝に頬杖をついた。
「余計なお世話だ」
椿は、谷田部を睨みつける。
谷田部は、背筋を伸ばし堂々とした態度に改めた。
「沙汰を申し渡す。貴殿ら此度の首謀者は全員切腹、介錯はなし、絶命したところで断首のうえ城門前に晒す」
椿が言い放つと、聞いたこともない重罰に谷田部と老人は目と口を全開にして驚愕した。
綱行は、渋い顔で椿に耳打ちする。
「椿殿、それはあまりにも」
「あら、一昨日だったかしら、どなたか同じことを申しておりましたよ」
椿は、肩をすくめて笑った。
綱行は、苦笑する。
「何卒、ご慈悲を」
綱行の進言に、椿は頷いた。
「沙汰を改める。許す」
椿は、そう言って黙った。
谷田部と老人は、見合って安堵した。
「そう言えば昨年の会合で、父上はこちらに赴いたのでしょう」
椿は、優しく谷田部に語り掛けた。
「おお、そうであった。定常殿は、古くからの友、あの日も楽しく語り合った。それが、今は亡き事を思うと無念だ」
谷田部は、大袈裟に袖で顔を隠した。
「酒宴の席も、さぞ盛り上がったのでしょう」
椿は、含みのある声音で訊ねた。
「それは、素晴らしい宴であった。定常殿も、大層に喜ばれておった」
谷田部は、上機嫌で答えた。
「聞くところによれば、お主は父上に裸踊りを舞わせたそうだな」
椿は、口端で笑い頬杖をついた。
「どのような舞か、見てみたいものよのう。谷田部殿」
椿が、そう投げかけると、場は氷ついた。
谷田部は、袖で口元を隠し傍らの従者に目を向ける。
年老いた家臣は、畳に額をつけ椿にひれ伏していた。
綱行は、苦虫を噛み潰したよう顔をして椿に耳打ちする。
「椿殿、お戯れを申しますな」
椿は、綱行を見上げ悪戯っぽく笑う。
「さぁ舞え、舞わぬか」
しかし、三賀は本気であった。鬼の形相で谷田部の元に歩み出ると、睨みつけながら舞を強いた。
「もうよい三賀」
椿は、立ち上がると三賀を諫めた。
「谷田部殿、この場で誓って頂こう。金輪際、我が国には手出しせぬことを。もし違わば、この椿の屍人の軍勢で蹂躙しようぞ」
椿は、上段の間を降り谷田部を見下ろす。
「末代まで、申し伝えるがよい」
椿は、左腕をあげて何者かを手招きした。
近くにいた屍人兵が三体、広間へと入ってくる。
その中には、椿に討ち取られた行方安次の姿もあった。
谷田部と、老人は悲鳴をあげた。
「貴国の武士だ、我が屍人の兵たちと勇敢に戦った。手厚く弔ってやるがよい」
椿は、両手を広げ拳を握ると頭上に掲げ、拳を開いた。
目の前にいた屍人が、畳の上に糸を切られた繰り人形の如く倒れる。同じように城内にいた豊敷の屍人たちが、呪縛を解かれその場に倒れていく。
こうして、大国対小国の争いは終りを迎えた。
椿たちは、帰国の途に就く。
椿姫と、屍人兵たちの凱旋である。
知らせを受け、鷹鞍の人々は首を長くしてその姿を待っていたが、椿たちは中々現れなかった。
椿は、帰路を商人や旅人たちが使う街道を選んだ。険しい道を選べば、屍人の脚なら二日で帰れる道程を、四日かかるが山間部を大きく迂回する平坦な道である。
楽しい道のりであった。
思い入れのある物を見つけては、足を止め綱行に話して聞かせた。その度に屍人兵たちに抜かれ、慌てて先頭に戻るようなことを、何度も繰り返した。
茶屋に寄っては、何を食すわけでもないのに女将と談笑したり、農家の子供たちと歩遊びをしたり、椿は少女のようにはしゃいでいる。
常に、綱行の腕を引いて私の育った国を自慢気に見せていった。
椿たち屍人の隊列が、鷹鞍にたどり着いたのは三日目の昼過ぎであった。度々道草を食っても、休息を必要としない屍人の足は速い。
今や椿は、鷹鞍の危機を救った英雄である。
人々は、深山城の城下町に続く街道に群がり、朱き鎧をまとった美しい椿姫の姿を一目見ようと沸いていた。
椿たち一行が姿を見せると、割れんばかりの喝さいが起こる。
椿様、椿姫と声がかかる度、椿は愛想よく手を振った。
椿に次いで、綱行も人気である。
鷹鞍に降りかかった一連の窮地を救った立役者である。また、憫然たる椿姫を妻に娶った好漢である。
鬼狩り様、綱行様と声がかかる度、綱行は照れくさそうに手を上げた。
深山城では、五日条光が出迎えた。
すぐさま酒宴が、催された。城の門は開け放たれ、街の目抜き通りには、屋台が立ち並び、宴というよりは収穫期であったこともあり、祭りのようであった。
囃子に合わせて老若男女が舞い歩く。
鷹鞍では収穫期にこの祭りを催すのが習慣として残り、豊穣の神に捧げる舞として下帯のみの裸体で成人男性が舞う、鷹鞍舞が踊り継がれていった。
鷹鞍城の大広間では、飲んだくれどもが椿と綱行を肴に酒杯を無駄に空けていった。酒を飲まない屍人の英雄らは、閉口して仏頂面である。
その席で光は、椿と綱行そして三賀に国政に携わるよう懇請した。
「この国は、安寧を取り戻しました。私たちにできることは、もうないでしょう」
椿は、そう言って申し出を固辞する。綱行と三賀もそれに同調した。
以降、椿と綱行は椿庵に身を寄せる。
冬は屋敷の周りの雪かきなどして、生垣の椿の花が咲けば愛で愉しみ、梅の花が咲けば、春が来たと喜んだ。
雪が解け、土筆などが地表に顔を出すと、桜はまだかと待ち焦がれる。
桜咲く。
二人は待ち望んだ桜舞う空を、手を取り合い眺めた。
そうやって、いつまで続くかもわからぬ悠久の時を歩み始める。
椿庵には、世話役の一家も戻ってきて、屋敷の手入れや清掃などの管理を務めた。
この世話役の計らいで、椿たち佐貫一家の亡骸は掘り起こされ、椿庵の裏庭に建立された霊廟に埋葬された。瑞龍寺の佐貫定常の遺骨も、後に椿庵に移されている。
源蔵は、深山城に戻って再び財務に携わることになる。八十六歳で死去するまで、城の要職を努めた。
源蔵は小国の一役人であったが、その人柄が多くの人に愛され、葬儀には隣国の要職にある者から、商人、農民などが詰めかけ屋敷の門前に人だかりができたほどであった。没後、愛刀の御楯は城の宝物庫で大事に保管された。また、その防御に徹した剣術は楯流と呼ばれ親族に引き継がれていった。
なお、後年に判明したのが御楯は元々は太刀であったが、大摺上げし茎の銘をを切り落としたため無銘となり、刀身も短くなって太刀ではなくなる。しかし、鑑定の結果その造りから同時期に作刀された椿丸と同じ刀匠、鷹綱と認定された。
刀 銘 鷹綱 号 御楯
兼定は、しばらく瑞龍寺で僧侶であり神主であったが、それを親類に任せ旅に出た。
その消息は、不明である。
瑞龍寺の神社としての役割と、人々の認識は次第に薄れていく。務める者の装束も僧衣となり殆どの神事は行われなくなった。
瑞龍寺には、卜斎の愛刀とされる無銘の刀が祭られていたが、近代の歴史研究家がその銘を確かめると、無銘で号として鬼椿とに記されていた。いつ彫られたのかは不明である。以後、剣豪卜斎愛刀の名は、無銘鬼椿として知られることになった。
太刀 無銘 号 鬼椿
この鷹鞍には同時期に名刀が集まり、鬼狩重綱、椿丸鷹綱、御楯鷹綱、無銘鬼椿、そして佐貫定常の愛刀、作 幾綱 如意輪観音菩薩 十九夜とを合わせて、鷹鞍五剣と呼ばれるようになる。
太刀 銘 幾綱 号 如意輪観音菩薩 十九夜
この十九夜は、佐貫定常の妻が最初の子を身ごもった時に、安産祈願で刀匠幾綱に打たせたものであった。定綱の死後、綱行の手に渡るも綱行は定常の意を汲んで、この太刀を帯刀しなかった。そのため、十九夜は一度も人を傷つけたことがない。
いつの世も、出産に伴う不安や安産への切望は変わらないものである。今の世も安産祈願に十九夜を一目見ようと、遠方から鷹鞍の地を訪れる者も多い。
また、現在の所有者は綱行であるが、十九夜と同時期に作製された四十二間の筋兜の前立ては如意輪間菩薩であり、妻と子を最大限に愛する定常の姿勢が評価され、佐貫家一家が眠る霊廟には献花が絶えない。
三賀は、いつの間にか不明となる。
世話係が、椿に三賀の所在を訊ねたことがある。それに対し椿は、このように答えた。
「三賀は、その罪が許されるまで人の世を彷徨うであろう。いつまでも」
椿庵の周辺では、椿と綱行が、仲良く散歩している姿が度々目にされた。しかし、時が過ぎ世話係が母から娘の代に変わるころには、奥の座敷に籠るようになっていた。
二人並んで床几に腰掛け、鳥のさえずりや木々のさざめきを心地よさそうに聞いていた。
たまに掃除に入る世話係に、世間の事を訊ねたり、労をねぎらったりする。
さらに代が変わると、二人は挨拶をする程度しか話さなくなり、いつしか沈黙した。
椿庵は、改装や増築が進み椿姫と鬼狩り様をご神体とした神社になった。
世話係の子孫は、その神社の神職となる。
神社の名を、椿神社といった。
椿神社は恋愛成就と安産祈願、勝負事にもご利益があると評判となり、いつも参拝者が絶えない。
椿姫と鬼狩り様の活躍を讃える舞として、古くから伝わる神楽剣舞が朱い甲冑姿の巫女と、屍人の顔を模した面を着け男たちが舞う、屍人剣舞に変わり踊られるようになる。
椿の花が咲き、梅が咲き桜が咲く冬から春にかけて、毎月の望月に舞奉納された。
隣国豊敷は、椿の言いつけを守り二度と攻め入るようなことはしなかった。それどころか、鷹鞍が災害に窮した際には、国をあげて支援に尽力した。
後年、世情により鷹鞍は豊敷の管理下に置かれるが、豊敷の民たちも鷹鞍の人々やその風習を尊重した。
いつの頃からかこの地方では、毎年三月三日の桃の節句に、黒い甲冑を着た男雛と、朱い甲冑を着た女雛を雛人形として飾るようになった。
これを、鎧雛という。
朱き鎧の椿様
鬼狩り様が守ってる
小指と小指を黒髪で
繋いで仲良く
過ごしてる
屍人の国の屍人姫 完




