待宵月
十四 待宵月
綱行は、佐貫定常の甲冑を支度した。漆黒の甲冑を順序に沿って身につけるにつれ、心の戦支度が整う。
先方に訪問の意を告げ、そろそろ迎えが来る頃合いであった。
綱行は、屍人としてこの瑞龍寺にたどり着きし時の、出迎えた人々の反応を思い出す。
三賀は、仏頂面であったが口端で笑っていたのを見逃さなかった。
源蔵は、負傷していたにもかかわらず、綱行を出迎えるため、わざわざ寝床から這い出てきたが、綱行を見るなり失神した。
兼定は、手を合わせて頭を垂れ、念仏を唱える。
「とうとう、俺も化け物か」
綱行はひとり呟き笑った。
慌ただしい一日だ。死んだ翌日には屍人として蘇っている。
何が変わったのか。何が違うのか。綱行は、心を静め耳を澄ます。
自らの脈打つ鼓動がない。呼吸はできるが、する必要はない。冷えはじめた秋の風も、日の光がもたらす僅かばかりの温もりも、何も感じない訳ではないが、感じる必要性が薄い。
綱行は、黒い甲冑に身を包むと庭に降りて陽を浴びた。
生と死の間にある壁の隔たりを越えたものの、もう戻ることは叶わない。
綱行は、日の光を浴びながら失った物の大きさを噛み締めた。
暗闇から、何ものも照らすこのか弱き光の尊さや、心地良さは知っている。しかし、もう感じること、それは知り得ぬ事だった。
城からの迎えが来たようだ。何者かが、参道を登る気配がする。否、これは生者の匂いか。
綱行は、上手く縛れなかった左の小手を気にかける。
生への嫉妬か、気配より臭いが先に着いた。
「お頼み申します」
現れたのは、阿見であった。
なかなか肝の座った男である。単身であった。遠くから眺めて、綱行は感心した。
綱行より、椿が先に阿見を出迎えた。
「何用か」
椿は、阿見に来意を問う。
阿見は答えない。顔面蒼白にて小刻みに震えている。
綱行は、勇敢と感じた阿見の印象を改めた。
「何用かと問うている」
椿は、阿見に詰め寄り凄む。今にも切りかかりそうである。
阿見は、俯き今にも泣き出しそうであった。
「椿殿、それぐらいで」
綱行は、椿を諌める。椿は、刹那悲しげに綱行を見て去った。
「すまんな。しかし、お前達が悪い」
綱行は、冷笑した。
阿見は、同意して謝罪した。
「あの、何故甲冑を」
阿見は、綱行の出立ちを訝しげに見る。
「死体だからな。一応、見栄えを気にしているのさ」
「しかし、そのお姿ですと年寄り達が騒ぎます」
「なに、面倒くさい奴は斬り殺すさ」
阿見は、目を見開いて驚いた。
綱行は、豪快に笑う。
参道の下に、馬と人の存在を感じた。
「他にもいるな」
「ええ、二人連れてきました。馬を任せています」
「そうか、なら源蔵殿を連れて行ってくれ。ここでは大した治療ができぬ」
阿見は、返答に窮した。
「しかしながら、源蔵殿は我々の元を離れた身ですので、やはり年寄りが騒ぐかと」
綱行は、答える代わりに刀の柄を叩いた。
阿見は、躊躇いながらも承諾した。
源蔵は、床に臥しながらも頑なに拒んだ。
「拙者は、このまま死して姫様の屍人の兵となりましょう。それが、佐貫様、姫様を裏切ったせめてもの罪滅ぼしにございます」
「あんたは死にはせん。それぐらいの傷で死ぬものか」
そう言う綱行を、源蔵は恨めしそうに睨む。綱行はその意を汲んだ。一本の矢で死んでしまった己が言うなと、その目は言っていた。
源蔵の側で世話をする兼定が、横たわる巨体をなだめる。
「拙僧にも心得がありますので、安心してください。ただ、金瘡膏があればいいのですが」
綱行は、所在なさげにうろうろする阿見を呼んだ。
「駄目だ、この木偶の棒は動かん。金瘡膏を届けさせてくれぬか」
それを聞いて、阿見はあからさまに嫌な顔をした。
「そうなると、また私がここに来なくてはなりません」
「では、片腕を置いていくか。取りに来る用事ができよう」
綱行が刀の柄に手をかけて言うと、阿見は間髪を容れず承諾した。
出立の時、すでに昼を回っていた。阿見は、すっかり疲弊している。待ちくたびれたと言うより、長時間の恐怖と緊張に耐える体力が限界であった。
綱行は、そんな阿見を参道の下で待たせ、仲間達の見送りを受けていた。
「大人しく寝ておけば良いものを」
綱行は、兼定と三賀に肩を借りながら見送りに出てきた源蔵を労わる。
「くれぐれも、用心下さい。こんな体でなければそれがしもお供するのですが」
源蔵の言葉に、綱行は呆れる。
「先程、行きたくないと申しておったではないか」
源蔵は、心当たりがない顔をした。
そんなやりとりを傍で眺めていた椿が、綱行に歩み寄る。
「綱行様、これを」
椿は、そう言って綱行の手を取った。
風が吹き、枯れ葉が舞う。
山里の、季節の移ろいは早い。
綱行の手を取り、なかなか離そうとしない椿を見て、源蔵は鼻を啜った。
「椿殿、すぐ戻りますから」
綱行は、幼児にするように椿を優しく諭した。
「必ず」
椿は、綱行の顔を見上げるとゆっくりと手を離す。
栗色の毛並みをした牝馬は、綱行を不思議そうに見つめていた。
綱行は、馬の顔をなでる。馬は嫌がるでもなく、執拗に左手甲の匂いを嗅いだ。
「申し訳ありません。我が国には馬が少なく、まともに動けるのがこの牝馬しかおらず」
牡馬は気性が荒く扱いにくいのだが、それを乗りこなすことが美徳とされ、武士に牝馬は好まれなかった。
「構わん。じゃじゃ馬を乗りこなすのも武士の誉れさ」
そう言う綱行を、阿見は恐ろしい者を見るような目で見る。
「他意は無い。変に勘ぐるな」
綱行は阿見を叱ると同時に、慌てて背後の参道を見上げる。椿が背後にいるような気がして、背筋に寒気が走った。
阿見は、綱行の騎乗を助けると手綱を引いた。
街道を行く人の姿はない。この国の騒ぎを知って、商人も旅人も迂回しているのである。交易の要衝であるこの国がこの有様では、隣国への影響も大きいであろう。
綱行と阿見は、そんな不安を語らいながら街道を進んだ。
案の定、城下の街も静まり返っていた。
店の門戸は開けているが、人々は気配を押し殺し暖簾の影から外を伺っている。綱行が目をやると、慌てて奥に消えた。
馬の機嫌は良い。時折首を振って綱行を気にかける。その度に、綱行は馬の首を撫でてやった。
「いい馬だな」
綱行がそう言うと、阿見はただ同意した。
阿見は、遠くに見える城門を気にかけていた。
綱行も、視線を向ける。何やら騒がしい。
城門に近づき事態を察すると、綱行は落胆した。
老人が、胴丸を着込んで槍を振り回している。それを光と数人の侍がなだめていた。
「なりませんぞ、妖を城内に招き入れるなどあってはならぬことですぞ」
老人は、綱行の姿を認めると走り出て槍を構えた。
「やや、現れたな妖め。刺し違えてもここは通さんぞ」
「やめよ爺、私の客人ぞ」
光が必死になだめるも、老人の耳には届かない。
綱行は、老人の前で馬を降りた。
「渡邉殿、お構いなさいますな」
阿見は、申し訳なさそうに言う。
綱行は、答えない。その代わりに、抜刀して名乗りをあげた。
「我は鬼狩り、渡邉の綱行なり。お相手いたす。名乗られよ」
綱行は、鬼狩を青眼に構えすごんだ。
老人は、綱行の凄まじい気迫に尻もちをついた。顔面蒼白となり、腰が抜け恐怖で声も失った。
綱行は、老人を面頬の奥の鋭い眼でにらみつけながら、静かに納刀する。
辺りは、静まり返っていた。
綱行は、無言で入城した。その後を、他の者たちが続く。
城内で綱行と出会った者は、皆目礼した。
老人たちが騒ぎかけたが、光が邪魔する者は切れと側近に命じると、すごすごと奥に姿を消した。
光は、綱行に城内を案内して回る。
小さく質素な城であったが、手入れが行き届き清潔で美しかった。
綱行は、磨かれて光沢を放つ廊下の木床の軋む音を楽しんだ。
中庭の白砂に浮かぶ巨岩と、枝垂れ桜の枝ぶりも見事であった。
綱行は、脚をとめしばらく中庭を眺めていた。光は、黙って綱行を待つ。
「ああ、すまん。先へ進もう」
綱行が、光を待たせていることに気づいて詫びると、光は微笑して尋ねた。
「本題を急がれませんね」
「聞かずともわかっている」
綱行は、もう一度庭に目を向ける。
「おぬしが見せたいものは、俺も見たいものだ」
大広間に通された。調度品もなく畳が敷き詰められているだけの部屋。
ここで、城主佐貫定常が殺害されたと光が語る。
綱行は、開け離れた戸からの景観を眺めた。
見下ろせば皆の川、見上げれば紅葉の鮮やかな山々が連なる。
夕刻、綱行は広間の上座に胡坐して書をしたためた。最後に自署すると光に筆をわたした。光も一読した後に名を記す。
綱行が、顔を上げ広間を見渡す。
広間には、要職に就く年寄りたちが七名横一列に正座している。天井を見上げる者、震える膝頭を手で押さえつけている者、呆然としている者、綱行と光の決定に見せる反応はそれぞれであったが、意を唱える者はなかった。
「貴殿らより若い領主を立て続けに二人も死なせて、自分たちが生き残っていることを、不思議に思わないか」
綱行の問いに、老人らは無言で答える。
「明後日の正午とした。それまで家族と過ごすが良い」
綱行は、感情のない声でそう言い残し広間を出た。光もそれに続く。
「お主も、自由に過ごすとよい」
綱行は、背後の光に告げた。
光は足を止め、綱行の背に一礼する。
夜闇に篝火が焚かれ、薄っすらと闇の中に照らされる巨岩と枝垂れ桜は、海面から救いを求める人のようであった。
中庭の通路に立ち、昼とは違う景観を綱行は眺めている。
「気に入られましたか」
背後から光が声をかけた。
「俺にかまうな。家族と過ごせばよかろう」
綱行は、肩越しに言った。
「明日は、そうさせていただきます。今宵はまだ、貴殿に伝えておかないと事がありますので」
光は、綱行に並ぶと酒瓢箪を振って見せた。
「酒は、もう必要ないらしい」
綱行は、辞するもその場に胡坐した。
光は、腰をおろしながら語り始める。
「なぜこのような事になったか、色々な要因が積み重なってはいるのでしょうけど、決定的な出来事がありました」
光は、猪口を床に二つ並べると酒を注ぎ、一つを自分の口に運んだ。
綱行は、床の猪口を一瞥した。
光は、言葉を続ける。
「この国は、貧しい国でした。工芸もなく資源もない。農作物を育てる広大な平地もなく、山の幸とわずかな稲作で凌いでおりました。それを改善したのが、佐貫定常様のお父上です。街道を整備し山賊を打ち払い、この国を東西南北の隣国をつなぐ交易の要衝としたのです」
綱行は、短く相槌をうって先を促す。光が酒で口を湿らし話を続けた。
「この国は、急速に豊かになりましたが、それを隣国はねたみます。それで、佐貫様は金品を手土産に例年隣国を周っていたのです。定常様もお父上をならってそうされていました。そうやって、武力も資源もないこの国が安寧を得ていたのです」
「その弊害が、武力の弱体か」
「左様です。私の父は、それを危惧しておりました」
五日条信政は、この国の弱体を嘆き、三賀という剣士を育て山賊や素破の類を取り入れ戦力を少しでも高めようとしていたのである。
「昨年の秋の終わりです。いつものように佐貫様は、金品を持って豊敷に赴かれました。私の父と三賀も同行したのですが、豊敷領主の谷田部友康殿が、酒席で佐貫様に裸踊りを所望されたのです。これに私の父は憤慨し、佐貫様が止めなければ切っていたと申しておりました」
「なるほど」
綱行は、理解した。
「舞わられたのだな」
綱行が訊くと、光は頷いた。
「そうか、舞わられたか」
綱行は、溜息をついた。
「父は、泣きながら止めたそうですが、聞き入れてはもらえなかったようです」
光は、猪口の酒を飲み干した。
兼定と源蔵の夕食が済んだ頃、瑞龍寺に書簡が届いた。
椿が、黙読すると三賀がそれを受け取る。源蔵は、三賀の持つ書簡を覗き込んで驚愕した。
「ど、どういうことです。何故、渡邉殿の名が記されているのです」
源蔵の声は、悲鳴に近かった。
「他意はない。気にするな」
三賀がそう言うも、源蔵はおさまらない。
「渡邉殿は、あちらに付いたという事でござるか」
文面は、期日と場所が記されているだけである。
「そのような事はありません。落ち着きなさい」
椿は、そう言ってなだめたが源蔵の鼻息は荒い。
「許しません。この状況で姫様を裏切るなど断じて許せません」
源蔵は、今までに見せたことのない怒りようであった。
椿は、あきれ顔で肩をすぼめる。
三賀は、怪我に触ると源蔵をなだめながら奥の部屋に引き取らせた。
椿は、やれやれとこぼし縁側に腰を降ろすと庭に目を向ける。
紅葉や楓が、薄っすらと朱色に葉を染め始めていた。
もうこんな季節かと、椿は感慨深く空を見る。枯れた桜の葉が舞い落ちて、乾いた音をたてながら地を撫で去っていく。
兼定が配膳の片付けを始めると、いつにない静寂に違和感を覚えた。綱行がいないとこうも静かなものかと考えたが、それは違った。
兼定が異変を感じて椿のほうへ目をやると、庭を眺める椿の背が小刻みに震えていた。
訝しく思った兼定は、恐る恐る椿の横顔を盗み見る。椿の顔は、激しい憎悪をうかべていた。
突然立ち上がると、椿は兼定に言った。
「久しぶりに、稽古をしましょう」
椿の平静を装う声色に、兼定は嫌とは言えなかった。
篝火に照らされた境内にて、兼定は椿の乱撃を受けている。息をつく暇もない猛攻に、兼定は辛うじて対応していた。椿の四方八方から飛んでくる木刀を、受けてはかわし体をひねっては飛び退き、とても反撃に転じる余裕はなかった。
椿は、気合と共に渾身の一撃を兼定に見舞う。
兼定は、木刀を水平にしてそれを受け止めた。木刀と木刀が軋み、今にも折れそうであった。
「椿様、少々お手柔らかに」
兼定は、木刀の先にある椿の顔を見る。その眼は、大きく見開かれ何も見てはいなかった。目の前にいる兼定はもちろん、境内の土も山の木々も、その眼には映っていなかった。
どこか遠く、未来か過去か知りもしない異国の地か、兼定が見たことのないものを、見ているような眼であった。
するりと椿の木刀から力が抜けた。兼定は、前のめりに倒れそうになる。その兼定の眼下に、しゃがんだ椿がいた。
椿は立ち上がる動作と同時に、木刀を兼定の顔めがけて突きあげる。
椿の突きは、兼定の顎をかすめ耳をかすめた。辛うじてかわした兼定は、前方に飛び左手一本を地について蜻蛉を切る。すぐさま振りかえると、青眼に構えた。その顔は、苦痛に歪む。顎が痺れ、耳には激痛が走った。
しかし、そこに椿の姿はない。
兼定は刹那、身の毛がよだつも慌てて動いたりはしない。全身を集中して椿の気配を探る。
当然、背後である。兼定は、後ろ手に木刀を振り上げながら反転した。そこには、今まさに上段から木刀を振り下ろそうとする朱い甲冑姿があった。その一撃を、兼定の振り上げた木刀が受け止める。
鍔迫り合いの形となり、椿と兼定の目が合った。椿のその眼は、弟を見るような優しい目であった。
椿は後方へ飛び退き、兼定も二歩下がりながら青眼に構える。
兼定は、構えを解いて木刀の切っ先を地につけた。肩で息をして、流れ入る汗に目をかせる。木刀を杖に体を支えなければ、立っていられなかった。
「強くなりましたね」
椿は、木刀を収めると穏やかな表情で言った。
「褒められている気がしません」
兼定は、尻をついて座ると苦笑した。
「やっぱり、椿様には敵わないや」
そう言う兼定に椿は微笑した。
「私のは妖の力です。純粋に剣術だったら、到底兼定さんには及びません」
椿の体からあふれ出ていた怒りは、消失している。
兼定は、息を整えると立ち上がり木刀を収めた。
「木刀をお預かりします」
椿は礼を述べながら、手甲から伸び木刀に絡みついた自分の毛髪を眺める。
「私は、どんどん恐ろしい妖になってしまいます」
「そんなことありませんよ。椿様は、椿様です」
兼定は、木刀を受け取ろうと椿の手に目をやると、その手は小刻みに震えていた。訝しく思い椿の顔を見上げると、椿は目を見開いて宙を凝視している。
「え、あ、あぁ」
椿は、右手に持っていた木刀を落とす。見開かれたその眼から、涙があふれてきた。
「どうされました」
兼定は、驚いて椿の肩を揺らす。
椿は力なく膝をつくと、両手で顔を覆い嗚咽をもらし号泣した。
兼定は、椿の肩に手を置いて何度も呼びかける。ここまで辺りかまわず号泣する椿の姿を初めて目にし、兼定は戸惑った。椿のかよわい女の姿に、胸が締め付けられる。
椿は、肩を震わせながらゆっくりと顔を上げた。震える左手を胸の前で握りしめ、深山城の空を見上げる。
涙で滲んだその眼には、大きな月が映っていた。
満月には僅かに満たない、月であった。
綱行は、背後に人の気配を感じると口を閉じ気配の方へ注意を向けた。
「書簡を届けてまいりました」
阿見であった。周囲に目をやり光の姿を探している。
「光殿なら、もう休んだぞ」
綱行は、肩越しに背後の阿見に伝える。
「左様ですか」
阿見は、不思議そうに首をかしげる。
「しかし、渡邉殿。どなたかと話しておられませんでしたか」
阿見の問いに、綱行は苦笑して答えた。
「独り言だ」
綱行は、視線を中庭に戻して黙る。その後姿を阿見は眺めた。
「渡邉殿、左の手甲がほつれておりますな」
月光に照らされた綱行の甲冑の左手から、細い糸のようなものが垂れ下がって輝いている。
「ああ、これか。気にするな」
綱行は、そう言って左こぶしを握りそれを隠す。
中庭の景観の先に、連なる山が黒い壁となっている。その壁の上に、月が登っていた。
綱行は、その月を見上げる。
満月には僅かに満たない、月であった。




