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帝都初恋剣戟譚  作者: 新免ムニムニ斎筆達/岳兎佐助
帝都初恋剣戟譚 呪剣編
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vs葦野女学院清葦隊 〜峰子の復活〜

 ——へぇ。復活しやがったよ。


 開始位置へ戻った峰子(みねこ)を見た大河内(おおこうち)(しの)は、愉快そうに口端を吊り上げた。


 先ほど竹刀を吹っ飛ばされてからしばらく、峰子の顔はそれはもう酷いものだった。戦意が喪失しきったと誰もが一目で判るほどに。


 それを見た時、篠はガッカリした。

 散々息巻いたくせに、去年と同じ負け方をするのか。

 少しは期待していたのに、残念でならない。

 とりあえず富武中(とみたけちゅう)のことはもう忘れて、決勝について考えよう——


 だが、そんな篠の気持ちの切り替えは、早計だった。


 立ち直ったのだ。峰子は。


 それも、一瞬で。


 ——富武中の大将、秋津(あきつ)光一郎(こういちろう)を見た、その瞬間に。


(……なぁるほどなぁ。あの坊やか。卜部(うらべ)ちゃんを変えた(・・・)のは)


 篠はそれをすぐに察した。


 あの二人の間にどういう物語があるのかは分からない。


 しかし、峰子にとって、光一郎が特別な存在であることはよく分かった。


(卜部ちゃんも隅に置けないねぇ。仏頂面のくせに、きちんと女してんじゃねーの)


 篠はそのことが、可笑しくて、面白くて、楽しくて、そして嬉しかった。


 もう峰子に、さっきまでの萎えは無かった。

 あるのは、篠を必ず倒すという、気概と覚悟。

 それを顕在化したような、地にしっかり足をついた立ち姿。


 ——今年は、楽しめそうじゃん。


 根拠は無いが、なんとなく分かる。

 今の峰子には、簡単には勝てないと。

 全力で挑まなければ、逆に足元をすくわれかねないと。


 であるならば、自分も全力で挑まなければなるまい。


 篠は竹刀を右肩にもたれさせるようにして構えた。神道(しんとう)無念流(むねんりゅう)八相(はっそう)の構え」である。


 対して、峰子が見せた構えは、


(——中取(なかど)り、だと?)


 左手で柄を握り、右手を竹刀の峰に添えた、いわゆる中取りという持ち方だ。

 その状態の竹刀を、正中線を隠すように垂直に構えていた。


 鹿島(かしま)新当流(しんとうりゅう)にあんな構え方あったか? と一瞬思ったが、すぐに峰子の狙いが分かった。


 ——あたしの打ち込み対策か。


 篠の打ち込みは、峰子の握る竹刀を弾き飛ばすほどの威力を誇る。

 だが、両手で剣を持つ中取りの状態なら、衝撃で体勢は崩しても、竹刀を吹き飛ばされずに済む。両手で竹刀を固定しているからだ。

 それでいて、相手の太刀を受け止めてから瞬時に己の剣を回し、向きを変え、相手の手なり顔なりを素早く斬ることができる。

 堅く守りつつも、その後の反撃に繋げやすい持ち方。

 

 考えたな、と篠は思った。


(面白ぇ。どこまで耐えられるのか、見せてもらおうじゃねーか)


 受け止めてから即座に反撃するつもりなら、受け止められないくらいの強烈な一撃を繰り出せばいい。それは自分の得意分野だ。


 やがて、


「二本目——始めっ!!」


 開始の合図とともに、篠は前へ出た。


「エィィィィッ!!」


 峰子を間合いの範疇に納め、轟然とした気合とともに袈裟斬りを発した。


 峰子はそれを、中取りの状態の竹刀で受け止めた。


「っ……!」


 竹刀は弾き飛ばされずに済んだ。しかし篠の打ち込みの衝撃を全身で受け止めたことで、篠より小柄な峰子の重心が崩れかけ、横へ数歩よろめく。


 さらに篠は左から袈裟斬りに放った。峰子はそれも防ぐ。重心の安定がさらに崩れ、足下の心許なさが増す。


 今度は右。今度は左。

 右。左。

 続けざまに峰子へ激烈な打ち込みを加えていく。


 やがて、限界が訪れた。


「あ……っ」


 峰子がとうとうバランスを崩し、尻餅をついた。


 倒れたからといって終わりではない。面か小手か胴に竹刀を当てるまで、競技撃剣は終わらない。


(良い考えだったが……今一歩及ばなかったな、卜部ちゃん)


 篠は容赦なく竹刀を上段から全力で振り下ろす。どうせ倒れたのだからと最後の一太刀に手心を加えさせる算段かもしれない。だから最後まで手加減しない。それが峰子への礼儀だと思っている。


 上段に構えられた竹刀が、落雷のように振り下ろされる——次の瞬間。


 峰子が消えた(・・・・・・)


(な——)


 と、思った瞬間には、振り下ろされようとしていた竹刀が、虚空で止まった。


 止められた(・・・・・)


 ——両手で竹刀を頭上で平行に構えた、いわゆる「鳥居(とりい)受け」の構え。


 深く腰を落としながらその構えになった峰子の竹刀によって、柄を握る篠の右手が押し上げられる形で止められていた。


(……おいおい、マジかよ。こんな止め方(・・・・・・)されるとか、予想外だったぞ)


 篠は二つのことに驚いた。


 一つは、ずっと峰子には受け止めきれなかった篠の打ち込みを、とうとう受け止められてしまったことだ。


 確かに篠の打ち込みは驚異的な威力を誇る。

 しかし、その威力が最も強く乗っているのは、竹刀の半ばほどまでだ。

 その辺りが(・・・・・)最も振りの動きが(・・・・・・・・)大きいからだ(・・・・・・)

 それより奥へ行くほど動きが少なくなるので、当然威力は弱まっていく。


 峰子は、働いている勢いが一番弱い篠の手を止めることで、打ち込みそのものも止めてみせたのだ。

 

 そしてもう一つは——打ち込みを受け止めると同時に、篠の小手に(・・・・・)竹刀で触れて(・・・・・・)いたことだ(・・・・・)


 これが真剣同士の決闘なら、篠の指は転がり落ちていただろう。


「小手あり!! 一本!!」


 審判も、それをちゃんと見ていたようだ。


 篠は開始位置に戻りながら、額に冷や汗をかいていた。


(なるほどな……卜部ちゃんめ、本当に変わったみてーだな)


 去年の峰子なら、こんな戦い方を絶対したがらなかっただろう。無理矢理にでも鹿島新当流らしい戦い方にしようとしていたことが、彼女のことをあまり知らない自分にだって分かるほどだったからだ。


 今の峰子は、こだわりを捨てて、あらゆる手を用いて自分を下そうとしている。


 ——こりゃ、マジで手強いかもな。


 だが、最高に面白い。


 去年、自分に全く敵わなかった敵が、これほど手強い相手となって戻ってきたことが、たまらなく痛快だった。


 きっとこの勝負、勝っても負けても、自分は笑っていられるだろう。


「三本目——始めっ!!」


 篠は己の全てを解き放つ勢いで、目の前の鹿島の剣士へ切り込んだ。


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