巫女の世間話
二〇〇三年六月七日、土曜日——東京都八王子市。
鈴代辰之進は、苔むした長い石段を一段一段登っていた。
現在はちょうど真上に差しかかっている太陽は、日を追うごとに照りつける力を強めている。以前は金に染めていた短い黒髪の根元からにじんだ汗のひとしずくが、彫りが深く硬そうな顔つきを伝い、顎先から落ちる。
木立をまっすぐ貫く形で伸びた石段。その横の木々の間では、人間の都合などお構いなしに昆虫たちが活動している。石段の端から飛び出してきた一匹のスズメバチを、手元の鞄と中身入りの刀袋を振り回して追い払う。
やがて石段は終わり、その果てに佇む鳥居の前へ立つ。一度立ち止まって呼吸を整えつつ、Tシャツの胸を片手で掴んで前後させて、汗ばんだ内側に吹子よろしく涼気を送る。
目の前の鳥居は、花崗岩質の石鳥居だ。三年前までは木製だったが、劣化が酷かったため建て替えたのだということを辰之進はここの主人から聞いていた。それを裏付けるように、表面の花崗岩の輝きはまだ強い。
鳥居へ一礼し、くぐった途端、心なしか涼気が全身を包んだ気がした。その土地——大桐神社の奥に続く鎮守の杜の濃厚な木陰で冷やされた空気が漂ってくるためか。それとも、神域に入ったためか。
地面を磨く竹箒の音が聞こえてきたのもまた、鳥居をくぐった瞬間からだった。
「——あら、鈴代さん。こんにちは」
境内の涼気と同じくらい涼やかな響きを持った、少女の声。
快活な笑顔より控えめな微笑みの方がよく似合う、落ち着いた端麗さの目鼻立ち。肩の位置まで伸ばされた髪と、身に纏う巫女装束が微風で絹のように揺れる様も相まって、一本の柳のような存在感がある少女だった。その両手は竹箒の柄を握っている。
そんな彼女——大桐琴乃の姿を見咎めると、辰之進はそちらへ向いて一礼した。
「はい、お嬢さん。今日もご指南賜わりたく参りました」
彼女は辰之進よりも年下だ。なので、このようなうやうやしい態度にもそれなりの理由が存在する。
琴乃はくすりと一笑すると、残念でしたとばかりのからかい口調で辰之進に告げた。
「今、父はお買い物に行ってます。もうすぐ戻ってくると思うので、それまでどうかお待ちになってくださいね」
「……そうですか」
すぐに稽古を始められないことに、辰之進は内心少しがっかりする。
——この琴乃は、辰之進の今の剣師の娘だった。
この大桐神社は、名前の通り大桐家が社家をしている。
神職の世襲は明治時代に消滅したが、それは神宮などの格式高い神社が主な対象であり、この大桐神社のような小規模の神社では今なお事実上の社家の世襲が続いていたりすることが少なくない。
担い手不足となるのを考慮してのことだろうか。内務省も黙認しているようだ。
そして大桐家には、家伝として甲源一刀流が伝わっていた。
琴乃の父の曽祖父にあたる人物が、八王子千人同心の一員だったからだ。千人同心の間では甲源一刀流が伝えられていた。
辰之進は現在その甲源一刀流を、琴乃の父……つまりこの神社の神主より学んでいる。
その理由は——辰之進の祖父の一代で途絶えてしまった道枢一刀流を、再び作り直すため。
甲源一刀流は、道枢一刀流の元となった剣術の一つだ。それを深く学ぶことで、開祖たる祖父の考えが少しでも理解できるかもしれないと思ったためだ。
この神社は八王子にあり、辰之進の住まう都心から結構遠いが、確固たる志が生まれた今、距離など些事であった。
「俺も手伝いましょうか? 境内の掃き掃除」
そんな剣師が戻ってくる間はどうしても暇になるので、辰之進はすすんでそう持ちかけた。師が祈る場だ。弟子として、綺麗にしておきたい。
「まぁ! よろしいんですかっ? ではお願いしますね」
すると琴乃は不自然なくらい輝かしい笑みを浮かべ、近くの木の幹に立て掛けられた一本の竹箒を即座に片手で示した。
……その竹箒は、前からずっとそこに放置されていた感じではない。明らかに真新しいつやつや感が見受けられる。つまり、今日、ここに持ち出されたモノ。誰が? 琴乃以外考えられない。
そして辰之進は、土曜日と日曜日に、ここで稽古をしている。当然ながら琴乃はそれを知っている。……つまり、そういうことだ。
辰之進は琴乃へ視線を戻す。なおもにこにこと笑っていた。仮面をかぶったみたいに。
(……相変わらず、いい性格してんな。この女)
内心でため息をつきながら、辰之進は鞄と刀袋を木の幹に置き、竹箒を持ち出した。掃き掃除に参加する。
乗せられて箒を握らされたことに若干悔しさめいたものが無くもなかったが、いざ始めてみるとすぐに没頭できた。手と箒が自然に動き、頭で考え、口を動かす余裕も出てくる。
「お嬢さん、学校の方はどうです?」
ここでいう「学校」とは、琴乃が今年の中学卒業後に通い始めた、神職養成校のことである。
養成校のある場所は渋谷区。この八王子市からは遠く離れていて、鉄道を使っても一時間以上はかかる。なので必然的に学生寮住まいとなった。その一方で、週末にはこうして実家の大桐神社へ戻ってくるのだ。
彼女は箒を動かしながら、振り返るように空を見上げ、
「想像していたより、少し大変ですね。ですが、毎日充実していて楽しいですよ」
「そうですか。それは何よりです」
「ええ。……不満があるとするなら、今年から瑛士さんと学校が別々になってしまったことでしょうか」
「そう……ですか」
やや気圧された態度で相槌を打つ辰之進。
琴乃には許嫁がいる。——國木田瑛士、という少年だ。
剣術に通じる者にとって、「國木田」という名はそれなりに有名である。
一度絶伝した天然理心流を復元し『國木田派天然理心流』として多摩地域に広めた一族の姓。
その少年は、そんな國木田一族の末裔である。辰之進も時々会い、そのたびに話をしている。
親同士が決めた許嫁であるとはいえ、二人の仲は見るに良好であり、このままいけばまぁまず結婚するだろうなというのが辰之進の感想だった。
……一方で、琴乃が瑛士に向けている愛情は、少々重たいモノがあった。
辰之進も見て知っているが、瑛士は文句無しの美男子であり、性格も物静かでかつ紳士的だ。さぞ女にモテるだろうなという予想に違わずやはり大層モテるらしく、恋文なんかもよく貰っているそう。
許嫁の琴乃としては、そんな瑛士の色男ぶりが誇らしい一方で、面白くないらしい。
端的に言うと、ものすごく嫉妬深い。
瑛士が女子生徒からの黄色い声に手を振り返すとその足をべしべし蹴ったり、貰った恋文を検閲したがったり、告白の現場へ尾行したり、告白を断ったのに「顔がにやけてた」とか言われてチクチク体を抓られたり…………瑛士からそんな苦労話を延々と聞かされ、辰之進は不覚にも同情してしまった。
そしてそんな琴乃の重量感溢れる愛情は、瑛士が秀青学院高等部に、琴乃が神職養成校にと進路が離れてからさらにヘビィさを増した。自分がこの神社へ帰ってくる週末二日間のうち、必ずどちらか一日一緒にいるよう瑛士に要求してきたからだ。それを忘れてしまうと、電話で小言を言われるそう。なので瑛士は毎週欠かさず許嫁に会いに来る。
……まぁ、それでも瑛士が全く嫌そうに見えないので、あれはあれで良い関係なのだろう。
「鈴代さんこそ、最近大丈夫ですか?」
そんなモテモテの許嫁に関する愚痴がまた飛び出すのかと身構えていたが、琴乃の口から出てきたのは、気遣わしい口調。
思わず面食らった辰之進は、幾許の間を置いてから答えた。
「俺が、ですか?」
「はい。……先日、ありましたでしょう。人斬り事件」
辰之進は息を呑み、それから沈むような声で「……ええ」と応じた。
——六月三日、千代田区の富武中学校に、刀を持った危険人物が押し入った事件。
その人物によって、学校の守衛の警備員十数人が斬殺された。
逮捕された犯人の名は……久原錦蔵。去年九月に起こった豊島拘置所集団脱獄事件の脱走囚の一人であり、今から十四年前に帝都を震撼させた殺人鬼『人斬り錦蔵』本人であった。
そんな人斬りの使う剣術の名は、道枢一刀流。
……錦蔵は、辰之進の祖父である鈴代一玄斎の門弟だったのだ。
まだ興ったばかりで、出回っている情報が少なかった道枢一刀流の風評は、その『人斬り錦蔵』の殺戮によって血みどろに汚された。それによって弟子が辰之進を除いていなくなり、一玄斎の逝去とともに道枢一刀流はたった一代で絶伝。
錦蔵は逮捕され、その後死刑判決を受けて豊島拘置所へ収監されたが、脱獄事件によって再び野に放たれ、またも私欲のまま殺人に走った。……祖父の剣で。
今年の五月後半から続いた連続殺人事件。その殺害方法から、辰之進は早い段階から『人斬り錦蔵』の仕業ではと疑っていたが、六月三日に逮捕されたのちの取り調べによって案の定そうであったと判明。
——祖父の剣が、またも人を無意味に大勢死なしめた。
その事実は、道枢一刀流を立て直そうと努力していた辰之進には、かなり堪えた。
それでも。
「確かに、最初はヘコみましたけど……一方で、嬉しかったこともあったので」
「嬉しい、ですか?」
「ええ。だって、その人斬りを止めるために戦ってくれたのが……俺の兄貴みたいな人、だったので」
『人斬り錦蔵』は、確かに中学校に押し入り、守衛を殺した。
しかし一方で、学校の生徒には、誰一人犠牲者は出なかった。
理由はひとえに——二人の若い剣士が錦蔵と戦い、止めてくれたからだ。
秋津光一郎という、同中学校の男子生徒にして、去年の天覧比剣の優勝者。
そして……香坂伊織。かつて辰之進が兄のように慕い、一度対立し、そしてまた友となった男。
伊織は今年から、この国の最高学府である帝都大学に入学した。つまり、富武中学校とは縁もゆかりもない。行く理由が存在しない。
それなのにわざわざそこへ向かい、『人斬り錦蔵』と戦ったのは……十中八九、辰之進のためだ。
道枢一刀流を復活させようと奮起している辰之進のために、これ以上道枢一刀流で人を斬らせないようにと。
本人の口からまだそうだと聞いていないのに、しかし辰之進はそう疑い無く確信できていた。
「だから、俺にはヘコんでる暇なんてないんす。せっかく兄貴が道を作ってくれたんだから……歩き続けなきゃいけないって思ったんです」
辰之進は、気力のこもった顔つきで、はっきりとそう述べた。
琴乃は安心したような、嬉しそうな微笑を見せ「……そうですか」と応じた。
「あ、そういえばお嬢さん、去年の天覧比剣の予選で富武と試合したんですよね。ってことは、秋津って坊ちゃんとも戦ったんですか?」
「はい。私ではなく、瑛士さんが。……強かったそうですわ。一昨年に負けた葦野女学院の方とは、また別種の強さだと」
「そうなんですか……」
「それから「仲良くなれそうだ」とも。……うふふ。瑛士さん、試合開始直前、唇の動きだけで秋津さんと何やらヒソヒソと話していたみたいで、審判の方から叱られていましたわ。いったい何を話していたのかしら。うふふ。気になります。でも瑛士さんはぐらかして教えてくれなくって。うふふ。気になります。そういえばあの時、瑛士さんのファンの方々がきゃーきゃー言っておりましたね。うふふ。本当に何を話していたのかしら」
(……怖)
冷えた陰が差す琴乃の微笑に、辰之進は内心で震えた。外面似菩薩内心如夜叉とまではいかなくとも、少なくとも一度でも浮気などしようものなら確実に刺してくる類の女であるということは疑いようが無い。
辰之進は掃き掃除に集中した。
琴乃も同じように掃除に専念したため、境内はすぐに綺麗になった。まぁ、それほど広い境内ではないし、普段から掃き清められていたからというのもあるのだろう。
掃き溜めた枝や葉を大きめのプラ塵取りの内に集めると、二人はそこで一度手を休めた。
「——そういえば、お嬢さんは『枢剣教』っていう団体、知ってますか?」
辰之進は、琴乃にそう尋ねた。
年若い巫女は目を瞬かせて、
「……どちらで、その名前をお聞きに?」
「俺の職場の同僚のダチが、その団体に入ったらしくて。なんか……最近出来たっていう新宗教? らしくて。詳しくは同僚もよく知らないそうなんですが、神職見習いのお嬢さんなら何かご存知かなと」
鳥居の方角から突風が吹き、鎮守の杜の梢たちが大雨めいた音を立てる。
琴乃の黒絹のような髪と、纏う巫女装束もまた、風圧で一緒に暴れ出す。
そんな中で、琴乃は静謐な雰囲気を崩さず、静かな、しかしはっきり響く口調で答えた。
「『枢剣教』とは、「剣」を崇める団体です」
「剣を?」
「ええ。——『剣は大和の枢である』。それが彼らの信仰。
この国は神話の時代から、「剣」によって築き上げられてきた。伊邪那岐命による軻遇突智の斬殺、素盞嗚尊の八岐大蛇討伐、大国主命による国譲り……神話における重要な局面で、「剣」はたびたび重要な役割を果たした。そして「剣」は神話を超えた現在においても、帝室の「三種の神器」の一つになっている。大和は「剣」によって切り開かれた。「剣」あってこその大和。ゆえに「剣」は大和の枢。それを尊び、崇めることで、荒廃した大和を再び切り開く。
……彼らの信仰を簡潔に語ると、このような形となります」
辰之進は「……なるほど」と、とりあえず納得したという反応を見せる。
琴乃は、ここからが本題とばかりに口調を再び引き締めた。
「そして、彼ら『枢剣教』の最大の特徴は——不思議な力を持つという開祖の存在」
「不思議な力……?」
「はい。『枢剣教』の開祖は、私達とそう年端の変わらない、十代の少女なのだそうです。開祖はかつて練剣の最中、神の声……経津主神の声を聴いたそうです。それによって「豊葦原を剣にて平らげよ」との使命と、それを為すための剣技『刀自剣』を授かった」
「刀自剣、ですか」
「はい。「刀自」というのは知っての通り、亡くなって祖霊となった女性に対する諡です。その語源は「戸主」……つまり家事全般をとりしきる女性への古称。それが変じて「刀自」となったのです。
家事を取り仕切る……それは炊事洗濯だけにとどまりません。家の鍵の開け閉めもまた「戸主」の仕事。
まるでその名を反映したかのように——『刀自剣』は、その刃で傷つけた者の精神の中にある「蔵」の鍵を開き、その中に堅く閉ざされていた「剣」を開け放つのです」
話が徐々に理解を超える方向に進みつつあることに、辰之進はいささか目眩を覚えた。
しかし、目の前の若き神職見習いの口は止まらない。まるで厳然たる真実であるかのように、非現実的なことを語り続ける。
「己の内に眠っていた「剣」……彼らはこれを『枢剣』と呼称しています。
『枢剣』とは、その人の内にのみ眠る、その人にしか使えぬ神技。
個々によってその内容は違えども、いずれも通常の剣技の範疇を超えた、不思議な剣技であると聞きますわ」
「神技……それって、例えばめちゃくちゃ速くて避けられない一太刀とか?」
今の話への抵抗感を堪えつつ、辰之進は問いを投げかける。
琴乃は、ただただ落ち着き払った口調で答えた。
「そういった分かりやすく強力なモノもあれば、まさしく神力のような不思議なモノもあると聞きます。
代表的な例が——二番目の信者の方が持つ『枢剣』ですね。
その方は、不動産やその関連事業を営む実業家なのですが、その娘さんが不運にも若くして癌を患ってしまいました。若年者の癌は進行が早く、もはや娘さんの命は長くありませんでした。治療を諦め、残り少ない余生を良く過ごそうという考えへと変わりかけていたその時……『枢剣教』の開祖と出会ったのだそうです。開祖の『刀自剣』を受け、『枢剣』を得た彼は、娘さんにその技を施したのです。
すると、驚くべきことが起こりました。娘さんの容体が、日を追うごとに良化していったのです。今年の二月に入る頃には病を克服し、現在では大学に普通に通えているそうです。……娘の病を治した『枢剣』。それを授けてくれた開祖に対して多大な恩義を感じた彼は、『枢剣教』の二番目の信者となり、経済的、物質的な援助を続けているとのことです。その援助のおかげで、『枢剣教』は短期間で帝都にいくつかの支部を持つに至りました」
どこかで聞いたような話だと思った。
健康に関わる大きな問題を教祖が超常的な手段で解決したという話は、真偽を問わず、新興宗教にありがちな話だ。
枢剣教もその「ありがちな話」を持っているようだが、それによって活動拠点を短期で広げたという事実が、「ありがちな話」の信憑性を強めていた。
個人によって種類が異なる、不思議な剣技……
「……まるで、至剣みたいっすね」
「かもしれませんね。私は至剣というものを目にしたことはありませんが。……いずれにせよ、そのような開祖の力に魅せられ、頭を垂れる信者の方々は、今年に入って急速に増えております」
「その割には……その『枢剣』ってのを堂々と使う奴が、全然出てこないですね」
「おそらく、開祖の教えによるものでしょう。
『枢剣』は確かに解放されたが、それは裏を返せば、『枢剣』が外界の「穢れ」に晒される危険性を得たという事。私欲の赴くままみだりに『枢剣』を振るえば、その刃にはたちまち「穢れ」がまとわりつき、それはやがて『枢剣』と、それを持つ本人の心身を蝕み、衰弱して気が枯れる——そして死に至る。ゆえに『枢剣』は極力秘めて、みだりに振るうべからず。
本当にそうなのかもしれませんし、あるいは『枢剣』を悪事に使わせないための方便かもしれません。もし悪用されれば、『枢剣教』は内務省から目をつけられかねませんから」
内務省は警察機構の管理統括役として語られることが多いが、それ以外にも多くのものを管理している。宗教組織などもその対象の一つだ。
もしもその宗教組織が、この帝国において多大な害をもたらす存在であると内務省に判断された場合、弾圧の対象となることもあり得る。……かつての大本教のように。
「……つまり、今はまだ目をつけられていないってことっすか」
「そうなりますね。『枢剣』という不思議な要素こそありますが、『枢剣教』は基本的に愛国的性質の強い宗教団体です。その証拠に、信者の多くは国家主義団体に所属する方々だそうですし。
もしも皇祖神よりも先に生まれた神……たとえば国常立のような神を祀っていたとするなら「国体を揺るがす教えの可能性アリ」と警戒されていたかもわかりませんが、祭祀の対象は「剣」……つまり「神に使われる道具」です。
何より、急速に信者を増やしているといっても、まだ大した数ではありません。
いずれにせよ、この帝国を揺るがし得る勢力にはなっていません。——少なくとも、今のところは」
ざぁっ! と、鎮守の杜の梢が吠えた。
それをなした強い風が、プラ塵取りに集められていた木屑や落ち葉を吹き飛ばし、周囲に散らばらせた。
「あぁっ、ちくしょう。せっかく集めたってのに。あ、こら、逃げんなっ」
辰之進が慌てて竹箒で集め直そうとする。
琴乃はあらあらと苦笑し、それを手伝ったのだった。
瑛士さんはもしかするとMなのかもしれない
幕間的な話なので、単話で投稿しました。
これからまた書き溜めます。




