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帝都初恋剣戟譚  作者: 新免ムニムニ斎筆達
帝都初恋剣戟譚 呪剣編
131/237

鴨井村正の「邂逅」


 ——ふん。考えれば意外と思いつくものだな。


 帝都武道館付近に広がるビルディングの間の路地裏。

 もうすぐ昼の位置に達する太陽のまばゆい光に比例して生まれたその闇に身を紛れ込ませながら、鴨井村正(かもいむらまさ)は口端を釣り上げた。


 季節はすでに夏。

 ロングコートの中に刀を隠し持ち、そこから『至剣』でこっそり浅く斬りつける——そんな方法は、季節的にもう使えない。たとえロングコートを着ていて暑くなかったとしても、周りから見ればかなり不自然だ。


 村正は別の方法で、刀を隠しつつ『至剣』を使わなければならなかった。


 そして思いついたのが、「コレ」だ。

 

 左手にあるのは、一本の木刀。

 だがその木刀の切っ尖の部分から、微かに本物の切っ尖(・・・・・・)が外に張り出している。

 これは木刀に似せた仕込み刀だ。

 木刀の刀身にあたる部分が鞘となっている。

 さらに鞘の切っ尖部分には細い溝があり、刀身を鞘に納めきると目立たない程度に切っ尖が飛び出る仕組みとなっている。


 これを使えば、こっそり相手を斬りつけることも容易い。


 ちなみにコレを作ったの村正本人だ。

 昔から刀剣類を除く武具や稽古具の類は自分である程度作ってきた。


 ……今回斬った相手は、子供だった。


 適当に誰かを見繕って斬りつけたつもりだったが、斬った後すぐに子供であると気がついた。

 子供にしては背丈があったのと、うつむいていたため顔つきがよく分からなかったため、大人だと思った。

 白人であるようなので、少年でも日本人より体が大きいのもさもありなんと思った。


 せっかく斬りつけたので、村正はこっそりと後をついて行って様子を見ることにした。

 子供に『至剣』を使ったのは初めてなので、大人と比べてどれくらいの影響をもたらされるのかを観察しておきたかった。


 ——今回の「実験」のテーマは、付与する「呪い」の種類の切り替え(・・・・・・・)だ。


 村正の『至剣』は、かすり傷であろうと、斬りつけた相手に問答無用で「呪い」を付与し、自害あるいは他害へ走らせるというものである。


 しかし、その「自害」と「他害」という二通りの行動は、これまではランダムに行われていた。


 ゆえに今回は、その「自害」と「他害」のどちらの効果をもたらすのかを、自分で設定できるのかという実験を行うことにした。


 この「実験」のために、村正はあの白人の子供を含めて六人は斬った。


 最初の二人は、自分の意図とは違う種類の「呪い」をもたらしてしまった。

 

 しかし三人目以降は自分の意図した通りの「呪い」を付与することに成功した。……あと四人斬ったら、今回の「実験」の結論を出すこととする。


 六人目であるあの白人の少年を近づき過ぎない程度に尾行し、控え室のある一本道の廊下に入ったところで追うのをやめた。

 もしも騒ぎになった時に近くにいたら「どうして大人のくせに止めに入らなかったんだ」と言われて要らぬ注目を浴びかねないと思ったからだ。

 なので無関係を貫くべく、別の場所へと移動した。


 しばらくして、どこかの中学の控え室にて乱闘騒ぎが起こったということで武道館がざわついた。

 やったのは都予選出場選手であるロシア人の少年とのこと。


 ——あの白人の少年に付与したのは「他害」だ。つまり、今回も「呪い」の種類を村正の随意で選択できたということ。


 それを知るや、村正はもうこの武道館から完全に興味を失った。


 武道館の敷地から出て——今に至るというわけだ。


 まだ今日という日の時間は残っている。


 もう一人か二人ほど、斬ってみようか。


 そう思いながら、裏通りの薄闇の中を歩こうとして、殺気(・・)


「——誰だ。出てこい」


 明らかに自分へ殺気を向けていたであろう存在は、表通りへ続く曲がり角の向こうにいた。


 そこから出てきたのは、白い詰襟の中華服に身を包んだ巨漢だった。


 オールバックになった髪。岩を削ったみたいに厳めしい顔つき。スリットのように細い目蓋の奥に輝く針のような鋭い眼差し。


 一見するとずんぐり太っているように見えるが、歩み出てきた時の足取りは非常に軽く、それでいて重心が安定している。小さな金字塔(ピラミッド)をその身に幻視した。

 ……さらに、足音がいっさいしなかった。


「なんだ、貴様は」


 只者ではないと瞬時に察した村正は、痩せこけて落ち窪んだ鋭い眼差しで中華服の巨漢を睨んだ。いつでも抜刀できるように気組みを忘れない。


「……やっと見つけたですよ。鴨井村正」


 ——俺の名を知っている、だと?


 村正の警戒心がさらに高まった。


 その中華服の巨漢は、どう聞いても母語話者(ネイティブ)ではない訛りの強い口調で、続けて言った。


「——私と決闘するです(・・・・・・・・)。至剣流免許の人」


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