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第8話 トレバーの眠たい一日②

 神聖隊の被害者がまだ生きている事に望みを託してネリーと動員できる全兵力でパララヴァ一家に乗り込んだ。


「どうしたお嬢さん。物々しい恰好で」


フルプレートを受け取って調整して貰っている間にネリーも完全武装に切り替えている。

一家の大親分は一応名士として名が通っているので居場所は誰もが知っている。


「アレスト通りの殺人事件についてお前に聞きたい事がある」

「殺人事件なんてあったのか?」

「お前の部下が事件の当事者の一人を連れ去ったという証人を得た」

「へぇ。俺が関係しているって?」

「今はまだ殺人に関与しているとまでは言っていない」

「ほぉーぅ」


パララヴァ一家の家長ハーマンは目を細めて真意を伺った。


「証人を脅そうと考えているな?お前の協力次第では裁判まで発展させなくても済む」

「悪いがお嬢さん。俺はあんたと交渉する気は無い。親父さんが帰ってきたら代わって貰いな」


しっしっと犬でも追い払うかのような仕草をした。

そこでトレバーは槍の石突をドシンと床について前に出る。

パララヴァの部下達はボスを守る為にざわつきながらも同じように前に出てくるがフルプレートの兵士には気圧されていた。


「止めろ。これはいたって政治的な問題だ。大事になればトレイドール領そのものが消えてなくなる。お前達もガンビーノも全員抹消される」

「どういうことだ?」

「部下は全員退かせろ。連れ去った男が生きているならいますぐ丁重に扱え」


ネリーの強気な物言いに何か感じる所があったのかハーマンは要求通りに部下を退かせた。

室内にはネリーとハーマンとトレバーだけが残る。


「そっちの男もさっさと出ていけ」


トレバーはハーマンの言葉を無視してネリーの指示を待った。


「彼は私の騎士だ。彼は例外とする」

「俺はそこまでお人よしじゃねえ。完全武装の野郎が側にいるのに腹割って話す気はねえ。部下にも示しがつかねえ」

「彼は立場上今回の件について私よりも詳しく知っている。彼が必要なんだ」

「そうか、じゃあお嬢さんは俺の所まで来な。そっちの要求を聞いてやったんだ、お前は人質だと思え」


連中のアジトでこちらの要求を通してハーマンの面子に傷をつけた。それくらいは仕方ない、ネリーはあちらの指示に従った。

ハーマンは銃を右手に持ったまま追加の指示を出す。


「鎧を脱いで武器を机の上に置け」

「ちっ」


仕方なくそれも聞く。


「よしよし、いつもそんな風なら俺だって優しくしてやるんだぜ」


ハーマンは革鎧の胸当てだけを外したネリーを膝の上に乗せた。


「どうだ。俺の嫁になる決心はついたか?」

「馬鹿を言うな。私は一人娘だ」

「だが、親父さんは領地を捨てるつもりなんだろ?」


ネリーの父は政府改革が進めば領地を国家に返上する意思を表明していた。

選挙を実施するか政府が決めた市長に譲る事になる。


「今はそんな話をしている場合じゃない。単刀直入に言うが、お前達が連れ去った男は聖王家の神聖隊だ。気付いているのか?」

「神聖隊?なんだそりゃ」


奴は何も知らなかった。


「モレスの神聖隊だ。聖王家の特殊部隊で神殿を守り、王家と国家の敵を抹殺する使命を受けている」

「へぇ。やたらガタイは良かったがな」

「生きているのか?」

「まあな。どこかの鉱山に売り払おうと思ってたが」

「すぐに解放しろ。私が直接話す」

「うちの女を乱暴に扱ったんだ。ケジメはつけて貰う」

「仲間を吊るしたんだ。十分だろう」

「吊るした奴はうちの可愛い部下を殺しやがった。あっちはその報復だ。仲間がいるっぽいからみせしめにな」


ハーマンは拷問にかけて他に仲間がいないか調べていたが、連れ去った男は一切口を割らなかった。


「お嬢さんは筋肉ダルマにビビってるみたいだが、所詮は人間よ。ビビるこたぁねえ。毒でもくらわしゃ誰だってぽっくりいっちまう」


ハーマンはそういいながら彼女の腹を撫で始め、ぴしゃりと叩かれた。


「止めろ。私を嫁に欲しいならガンビーノと決着をつけろ。私は勝った方と結婚して市長選挙に出る」

「ガンビーノはまだ嫁さん生きてるぜ」

「なら息子の方でもいい。とにかく選挙に協力してくれれば別に誰だって構わない」


フン、と鼻息荒くネリーは立ち上がる。


「もし神聖隊が潜入調査ではなく完全武装で征圧にやってきたらお前達がいくらいても敵わない。銃で撃っても連中の特殊装甲を貫通させることは出来ない」

「そりゃおもしれえ。試してみたい」


ハーマンは銃弾が効かないという話を信じてない。


「冗談ではないんだ。我々以外にも聞き込みをしていた人物がいたらしい。お前はもう奴らに目をつけられている」

「それで俺の事が心配になってきてくれたってわけか。いやあ愛されてるなあ、へっへっへ」

「街を維持する為にお前達の力を必要としているだけだ。勘違いするな」


パララヴァ一家とガンビーノ一家のどちらかだけが生き残ると、領主は生き残った方のいいなりになってしまう。ネリーは決着をつけろといいつつ両者の均衡を保とうとしている。

連中が争っている内に自分達の力を蓄えたいのだろう。

さきほどハーマンに抱き寄せられた時も抵抗はしなかった。


「神聖隊の事は後で自分で調べろ。今は引き渡してくれ。私が大事にならないよう処置する」

「まあ、あいつひとりくらいどうでもいいが、いいなりってのもな」

「なんだ、何が欲しい」

「そりゃもちろんお嬢さんさ。前から俺の女になれって言ってるだろ」

「だからそれはガンビーノと決着をつけてからだと言っている。金は無いが何か公務の委託を回してもいい」

「そんなもんはいらん。ガンビーノと決着をつけたら本気で俺の求婚に答える気があると証明してくれ」

「どうすればいい?」

「まあキスでもしてくれれば信じよう」

「い、今か?」


貴族らしく必要なら政略結婚くらいする気の彼女だが、さすがにトレバーの目の前でやるのは恥じらう。


「また今度ってなら引き渡すのもまた今度だ」


くそ、と毒づいてネリーは言われた通りにした。

やはりいい根性をしている。

あいつを嫁に貰える立場なら求婚してもよかった。

いい女だ。


「やりすぎだ!もういいだろう」


舌までなぶられてさすがに怒って胸を殴るようにして突き飛ばし、離れた。


「おい、遊んでる間に手遅れになったみたいだぜ」


外から戦いの音が聞こえてきた。


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