第3話 目の見えない女②
あの女何処行った?実は目が見えていて何か盗んで逃げたか?と思ったが机の下に可愛らしいケツを見つけた。
「おい」
声をかけたら慌てて立ち上がろうとしたのか頭を机にぶつけた。
「いた」
「悪い、吃驚させたか?」
「済みません、服を探そうとしていたもので」
なんでそんなところに?と聞こうとしたら先に答えられた。
「服?ああ、洗濯婦が持って行っちまったかな」
浴場の洗濯かごは外から回収できるようにしてある。
三日に一度くらいの頻度で回収して洗濯してくれるサービスに入っているのでいつも勝手に終わっている。
「すまん、うっかりしてた。外套は玄関にかけてある」
「構いません。何か着るものをお借りしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
洗い立てのシャツが別の籠にいれてあったのでそれを渡した。
「裏表とか変ではありませんでしょうか」
「大丈夫だ」
シャツ一枚でそそる格好になってしまったのでズボンも渡してやる。
美人で何をしても誰からも抗議も来ない。
慈愛の女神の信徒で襲われても自分のせいだと受け入れるような都合のいい女。
危ない女だ。妙に惹かれる。なのに関わったら不味い気が最初から拭えない。
慈愛の女神の信徒に何故こんな印象を受けるのだろうか。
◇◆◇
卵とパンだけの簡単な朝食後、茶を淹れてやる。
「さて、お嬢さん。シュヴェリーンだったか?役所に連れて行ってやる前にあんたは何処の誰で何処へ行くつもりなんだ?」
「わたくしはカース家のシュヴェリーン。お察しの通り元貴族です」
「カース?何処の国だ?」
「アーモロートです」
「随分遠いな。馬車でも一年以上かかるんじゃないか?」
「はい、途中で救貧院で奉仕活動をしながら旅をして参りましたので気の遠くなるような長い年月がかかりました」
何処の国でも救貧院は寄付でぎりぎり運営が成り立っているだろうし、そこからさらに報酬を貰いながら旅をするとなると確かに何年もかかるだろう。
「しかしアーモロート王国といえば革命で潰れたんじゃなかったか?」
「ええ、でも王政復古と革命を繰り返し弱体な革命政府に協力した貴族は存続を許されていました」
「今は違うのか?」
「はい。王党派の勢力を分断する為に取り込んでいただけで最初から時機を見て取り潰しにするつもりだったようです」
世間知らずのお嬢さんという印象は修正する必要がある。
何年も旅をしてきて世間知らずということもないだろう。
「それにしても無防備だな・・・」
「はい?なにかおっしゃいましたか?」
つい呟いてしまって聞きとがめられた。
「チンピラに襲われたのも一度や二度じゃないんじゃないか?もう少し一般人らしく取り繕えばいいのに」
「確かにその通りです。でもわたくし演技が下手らしく自分でもこの目ですから客観的にどう見られているか判断がつかないのです」
演技するだけ無駄と開き直るしかなかったらしい。
「で、何処へいくつもりなんだ?」
「ザカル・フージャ古王国まで」
「はぁ?」
大陸南端にある温暖で綺麗な水と豊かな森に囲まれた理想郷と言われる伝説の国だ。
「貴族のお嬢さんとしてはそんな伝説に縋らなきゃいけないくらい苦しい時代だろうが、そりゃ無茶ってもんだぜ」
「確かにそうですね」
くすり、と微笑まれた。
本気じゃないらしい。
「つまり何処か理想的な落ち着き先を探したいってことか?」
「はい。その通りですトレバー様」
理想郷って言葉の本来の意味で使っただけだったらしい。
「吃驚したぜ。まさか地上に出て亜人領を抜けていくつもりなのかと」
「え・・・、トレバー様は本当の所在地をご存じなのですか?」
「そりゃあ伝説で語られてるくらいはな」
しまったな、変に期待させただろうか。
「んじゃ役所に連れて行ってやってもいいが、ここの領主はお飾りでパララヴァ一家の自警団からお前の身分証や旅券を取り返せるような力は無い。お前が貴族だって言ったら逮捕して革命政府連合に送り込みかねないぞ。それでもいいか?」
ここの領主は実際にはそんなことはしないと思うが、近隣では十分あり得る。
「それはさすがに困ります。ここはそんな土地なのですか?」
「あんたの故郷と同じだよ。議会が王様の実権を奪って貴族達も徐々に権力を削がれてる真っ最中さ」
被害者ではあるが、今の彼女は不法滞在者だ。
「悪い事は言わないからお前の旅券を発行してくれた所まで引き返した方がいい」
「それがもう滅亡してしまいまして・・・」
革命の火の手はあっという間に広がって、革命政府も誕生してはすぐに内輪揉めで潰れてしまい、三年で十もの政府が入れ替わった国もある。
この混乱で各地に多くの難民を産み、収拾をつける為に各地の革命政府は連合国家を作った。
「ここでは不法滞在者というのは目立ちますでしょうか?」
「いや、自警団の保護下にあれば大丈夫だ。そこら中にたくさんいる。自分から出頭しなけりゃ普通に過ごせるだろう」
役人はいちいち取り締まりなどしていない、というか出来ない。
自警団は不法滞在者を労働力として使って荒稼ぎしているが何も言えない。
「出国は可能でしょうか?」
「可能だがあんたには無理だろう・・・。革命家の流入を防ぐ為に南の国はどこも国境警備は厳重だ。革命政府連合との間に火種を作らない為に貴族の受け入れもしていない」
「一般市民であれば問題ありませんか?」
「まあな。正規の旅券と目的があれば問題ない。旅行や貿易、留学は普通にやってる」
「わたくしが手に入れる方法はありませんか?」
「この国の男と結婚すりゃ不法滞在者でも市民権は手に入るが、何なら俺と結婚するか?」
つい軽口を叩く。
「はい。よろしくお願い致します旦那様。婚姻の神エイラシーオの名に誓ってトレバー様の求婚を受け入れます」
あっさり結婚を了承された。
普段の作品なら何百話も必要な所ですが今作では三話で結婚成立