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第23話 理想郷へ

「もうやだあ・・・しにたい」


呆然としていたネリーを無理やり彼女の事務所に連れ込んだ。

ネリーの事務所は領主にも内緒で構えたものなので、敵もまだ知らないと見て案の定無事だった。そこにはグレイスがいてトレバーとリーンが抱き合っている姿を鑑賞していた。

で、生活のすべてをネリーの指示で監視していたことがバレた。

そしてネリーはぐずぐずと泣いている。


「まさかお前にそんな趣味があったとは・・・」


さすがにトレバーもちょっと引く。


「おはずかしいです」


リーンも頬を染めて困った顔をした。


「趣味じゃないもん・・・」


幼児退行しているネリーはしばらくそのままにしておいてトレバーはグレイスに指示を出す。


「可能な限り書類や記録は処分しとけ。ガンビーノやパララヴァにも連絡を取って街の出入り口を封鎖してる連中がいたら排除するなり混乱を起こすなりさせろ」

「な、なんで俺が!」

「ネリーに巻き込まれて国家反逆罪に問われたくなかったら言われた通りにしろ。このスケベ野郎が。俺達が捕まったらお前も一味だって言ってやるからな。ここの記録にだってお前の関与が残ってるだろ」


グレイスにはレドラムと共にこの街の後始末をさせた。


ここにはある程度金目のものがあるので助かった。

映像の念写装置は持ち歩けないが、記憶石は持っていける。


「売るのですか?旦那様」

「うーむ。内容を消せればいいんだが」


ひとまず後で考えるとして多少の現金と金目の物は手に入った。

茶を淹れて一休みする。


「ありきたりだが、夜になったら脱出するか」

「絶対見張られてるわよ」


多少元気を取り戻したネリーが反対する。


「特殊部隊にそんなに人員はいないんじゃないか?」

「お父様の手紙から大分時間経ってしまったし、ある程度の支援部隊がここまで来ててもおかしくない」

「うーむ、確かに」


自分一人だったら暴れまわって死んでもいいんだが、リーンは逃がしてやりたい。

まるで無関係なのだ。


「わたくしは旦那様にお供致します。旦那様がいなければとても生きていけません」

「・・・・・・貴女の国の事、マルタンの図書館で少し調べたわ」


ネリーは前に出張したついでに可能な限り調べた。


「三百年前に貴女と同じ名前の女王がいたんだって。国民を人体実験に使った魔女で革命が起きて目を繰り抜かれて、両手両足を縛られて牛裂きの刑にあって、首も刎ねられたけどそれでも死ななかったんだって」

「怖い伝説ですねえ」

「ネリー、こんな時に止せよ」

「だっておかしいじゃない!あんなの!」

「そりゃあおかしいけどな。目ん玉くり抜く刑罰なんて北の方じゃよくある話だ。彼女はこんなに暖かいし」


リーンを抱き寄せて温もりを確認する。


「旦那様」


リーンもうっとりとして応じた。


「彼女を愛してる。守ってやりたい。伝説が事実でも罰は受けたろ。俺にもお前にもよくしてくれてる。お前は何か彼女が嫌いになる事されたか?」

「別にされてないけど・・・」

「俺なんて国民を無益な戦争に引きずり込んで大勢死なせた極悪人だって評判だぞ?俺の事嫌いか?」

「そんなことない。世間の評判が間違ってるのよ」


そういわれるとネリーも自分が間違ってるような気がしてきた。


「今は御伽噺より脱出手段を考えよう。ネリーは何処かしらいい逃げ道を知らないか?」

「・・・ハーマンが密輸とか、自分の夜逃げの為に地下道を作ってる」

「郊外まで出られるか?」

「聞いてみないと分からない」

「んじゃ、行こうぜ。いいだろ?三人で逃げよう」

「わかった」


 ◇◆◇


 特殊部隊は街全部を征圧できるような人員は無く、街中はまだそれほど混乱していなかった。

夜、といっても地底世界なので常に赤黒い疑似太陽が昇っているのだが、特に暗くなる時間帯にハーマンの屋敷にたどり着く。


「そうか、賭けに負けちまったか」


事情を説明するとハーマンも一度この街を捨てると宣言し一緒に行く事になった。


「いいのか?」

「俺たちゃこんな時に備えて他の街にも資金隠してるからな。ほとぼり冷めるまではトンズラするさ。お前らは行く当てあるのか?」

「あるさ。伝説の古王国ってやつが」


なんだそりゃ、と首をひねり深く追及はせず脱出後に分かれた。


「それで本当にどうしようか。マルタンは過激な革命政府連合に入っちゃったし」

「だからザカル・フージャ古王国へ行くんだって」

「伝説なんでしょ、それ。地上世界なんて誰も見たことないのに」

「まあ俺も古王国は見た事無いが」

「でしょ」

「でも地上への出口は知ってる」

「え?」


トレバーの国には世界で七つしかない地上への出口のひとつがあった。

王家の人間にしか開ける方法を語り継がれてない出口が。


「地上はまだ氷河期の世界だ。亜人じゃないと生活は厳しい。しかし十分な装備があれば生き残れないほどじゃない」

「そうなの!?」

「まあ、さすが旦那様。まさか行ったことがあるなんて」

「亜人達とは定期的な会合があった。俺達の祖先は亜人との戦いに敗れて地上から逃げて地獄と呼ばれた地底世界に逃げ込んだんだと。大昔の事で別にもう誰も恨んじゃいないが、地上に出て都市を建設すれば潰しに来るとさ」


恨んではいないが、縄張りを荒らすなら普通に攻撃を加えると宣言されている。


「ザカル・フージャの地はその亜人の領域のずっと南にあるらしい。それでもいいなら三人で行こう。俺はこの世界に未練は無い」

「わたくしは勿論参ります」

「む、私だってもう気兼ねしないから。あと一歩で理想の国が作れたのに。あーっ!」


ネリーはこれまでの努力が吹っ飛んでしまったのが悔しくて大声を出した。


「おい、いくらなんでも大声を出すな。静かに行くぞ」

「はいはい。で、まずは何処へ行くの?」

「俺の故郷だよ。出口はそこにある。嫌だけどあの国に帰らざるを得ない。んじゃ、行くぞ!」


気合を入れる為にトレバーも大声を出し、ネリーに怒られた。

革命から逃れた貴族達はついに理想郷への旅を始めた。


三日で書いた短編なのでここまでです。

ヒロインはまた死霊魔術師でした。


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