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第20話 ネリーの憂鬱

『やーやー皆さん。今日も聞いてくれてありがとう。アル・パブリカのエウジェニオの時間だよ~!』


広域魔力通信の受信機から陽気な音楽と番組進行役の声が聞こえてくる。

新聞社、企業などは広域魔力通信の放送時間帯を買い取って番組や宣伝を流している。


『皆は知っているかな?時々ウェルスティア神殿まで行かなくても治癒の奇跡を起こせる人物がいる事を。我が聖王国にもそんな人が現れたという噂を聞き確認に行ってまいりました。そして探索の末にその人物を発見!トレイドールの聖女に取材をしてきたのでその時の録音放送となりまーす』


ネリーは取材の為に入市を許可する条件として個人的な事には触れない事、取材陣に監視がつく事などを要求した。

リーンのキャラクター設定は謎の巡礼の聖女で、既に旅立った事になっている。

取材で受けた名前も偽名にした。

基本的にガンビーノの直接依頼での治癒以外は引き受けていないので、後で誰かが取材にきても本人に辿り着けはしない。

盲目であることも放送しない事になっている。

編集もネリーがチェックしてから放送を許可した。


取材陣に自分の目で確認して貰う為に、リーンを連れて病院に行き癒しの力を見せて貰った。


『神々の手を煩わせずに済むよう、心身ともに健康でいられる努力をしましょう』


リーンには台本通りごく当たり前の事を言って貰った。


『みだりに神の名を呼び、頼ってはなりません。自分の足で、力で立って歩く努力をしなくてはなりません』

『そういえば聖女様は特に祈りの言葉を呟いてはいらっしゃいませんでしたね』

『心の中で祈ればそれで十分です』

『神官はしきりに名を連呼していますが・・・『だれそれよ』力をお貸しくださいとか』

『神官や司祭の方々は布教の為もありますし、土地ごとの風習もあるのではないでしょうか。私はどこの組織にも所属しておりませんからこの土地の風習については土地の方にお任せします』

『神の名を呼ばずとも力を貸して下さるなんて聖女様は神々に愛されていらっしゃるんですね』


神殿に真っ向から喧嘩は売らずに疑問を提示するような形にして番組は進む。


『戦争も終結した事だし、聖女様は巡礼を再開するそうです。みんなも神々への敬意は忘れずにな!じゃあまた来週!お元気で~!』


特にハプニングも無く番組が終了して受信機を切った。


「なんだかお恥ずかしいです」


リーンは照れてしまう。本名を隠す必要があったとはいえ聖女として持ち上げられるのはくすぐったいようだ。


「政治に利用してしまって御免なさい」

「お世話になっていますからこれくらい当然です。また何かありましたらお申し付け下さい」


いつも小さな微笑を浮かべた優しい人を利用してしまってネリーは心苦しく思う。

家族を悲惨な形で失ったトレバーを幸せにしてくれて有難うと感謝の念もある。

公職にある自分がトレバーと結婚するのは目立ちすぎるので最初から彼と幸せになる気は無かった。


だが、まだほんの少し嫉妬も残っていた。


「お父様も返ってくる事だし、私も忙しくなるわ。じゃ、また今度ね」


二人に挨拶をして去ろうとする。


「親父さんが返ってくるならお前の肩の荷も降りるんじゃないか?」

「あ、ああ、そうね。私でも結構やれるってわかっちゃったから面倒を押し付けられちゃうかも」


同志と独立宣言を出すのか、まだ力を溜めるのかは前線で戦っていた父でないと分からない。挙兵が決まれば忙しくなる。トレバーも傭兵として雇いたい。


「無理すんなよ、過労で倒れたって俺が言ってやろうか?」

「ん、有難う。でも大丈夫だからまたね。近くに事務所も作ったし街中での仕事もやりやすくなるから大丈夫」

「そうか?」


最後まで心配そうなトレバーに礼を言って辞去した。


 ◇◆◇


 新設した事務所で隠し撮りした物を映し出しながら事務処理を行う。

父が戻る前に資料を写して裏帳簿を整理しなければならない。

かなり派手にお金を使ったので自由に動かせる残金がどれくらいか把握する必要があった。


投資で得た資金と個人的な事で使ってしまった差額を誤魔化す為に、架空の出費を作る。

父は騙せてもマルタン側の投資家を騙すのは厳しいからハーマンの協力がいる。

頭をひねっていると来客があった。


レドラムの甥のグレイスだった。


「ちわっす。報告に来ました」


レドラムと違って少し軽薄だった。

そうでないとトレバーの勤めていた店に出入りは出来ないので都合が良かった。


「そう、書類はちゃんとしておいてね」


日付、交友関係、何にお金を使っているか、ちゃんとメモさせないとこの手の男はどんどん適当になる。


「お嬢様も大変ですねえ。ガンビーノに仕える街一番の腕利きとはいえ」


彼の素性は明かしていない。

領主の娘が恋愛関係にある男の内偵をさせているのかと聞かれたり、手を焼いている自警団の幹部達を監視させているのかと疑われたりしたが、明確な回答は与えず勝手に想像させている。


「何か特別に報告したいことでもあるの?」


相手にしないといつも退屈そうに報告してさっさと帰るのに今日は絡んでくる。


「だって、ほら」


画面を見ると夫婦が愛を育んでいた。

書類に集中していてあまり見てなかった。


「貴方は見なくていいの」


画面を消す。


「あーあ。もったいない。トレバーさんの事忘れられないなら混ぜて貰ってくればいいじゃないですか。トレバーさんも前は一度に数人買ってましたよ。嫁さんもべた惚れだし、お嬢様には恩があるから拒まないんじゃないですか?」

「余計なお世話よ」

「前にお嬢様が部屋に上がり込んで来た時には吃驚しましたよ」

「忘れなさい」


やっぱりあの時はいたらしい。

操作方法を覚えたのか勝手に操作され、また夫婦が映し出される。


「うひゃー、白い肌。イレス人でもサブレス人でもないしずっと遠くから来た人ですよね」

「アーモロートですって」

「知らないなあ。お嬢様も負けてないのにどうしてもっと強引に迫らなかったんですか?」

「おだまり」


グレイスは息も掛かりそうな距離まで近づいて、後ろから画面を眺めていた。


「まだ何か用があるの?」

「いいじゃないですか。ちょっと見学させてくれたって。店にはあんな美人いないんだし」

「はぁ、小遣いでもせびりにきたの?」

「だってトレバーさんは前よりずっと上玉が揃ってる店に移動したんですよ。前の給料じゃ足りないんですよ」


グレイスはトレバーの酒呑み仲間であり、客として店にも通っている。

経費として彼が女を買う金も出してやらねばならない。

トレバーが遊ぶ金ならともかくこいつの分まで出してやらないといけないのはさすがに嫌になってくる。自分が依頼している事ではあるのだが。


「これ以上は出せないわ。回数を減らしなさい」

「だったらお嬢様が相手をしてくれたっていいんですよ」


といって体に触れてくるのですかさず鉄拳を食らわす。


「調子に乗ったわね」


乗馬用の鞭を手に取り、振り下ろす。


「いって!なんだよ。あんただって結構遊びまくってるだろ!お高くとまるなよ。こんなもん見ておいて」

「おだまり!」


もう一度鞭を振り下ろす。


「あんたひとりくらいパララヴァに引き渡して寸刻みにして薬品で溶かして下水に流したっていいのよ?レドラムには悪いけど主人に逆らった犬は処分しなきゃ」


そういって思いっきりブーツで蹴り飛ばした。

多少だが剣は習ったし、護身術もトレバーに教わっている。

チンピラ風情に舐められるほど弱くは無い。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ただの軽口じゃないですか。俺がどういう男かなんて知ってますよね?」


ちょっと脅せば簡単に怯えて尻尾を振り始めた。


「フン、次は無いわよ。態度は軽薄でもいいけど仕事は真面目にしなさい。トレバーの周りに怪しい影が無いか、外国人が接触しないか調べるの。彼を危険に晒したら本気で下水に流す」

「わ、分かりました」

「真面目に仕事すれば昇給はしてあげるわ。店を移ったのは確かだしね」

「有難うございます!」

「・・・ところでトレバーは本当に拒まないと思う?」

「え、あ、はい。大丈夫だと思います。いつもお嬢様の事褒めてますし大切に思ってますよ。じゃあ行ってきます!」


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