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第19話 リーンの治療と取材

 市内で不審死が増え、自警団は警戒を強めたがしばらくすると下火になって忘れられた。

リーンはトレバーとおだやかな休日を過ごしていた所、ネリーが訪問してきた。


「よう、久しぶりじゃねえか。どうしてた?」

「仕事よ仕事。あ、これお土産と結婚祝いね」


ネリーは部下に少し大きめの箱を持ち込ませた。

トレバーが開いてみると随分高価な贈り物だった。


「おぉ、受信機じゃないか。どうしたんだ?」

「欲しいって言ってたじゃない。リーンさんもこれで退屈せずに済むでしょ」


リーンはさすがに自宅に欲しいとおねだりしたことは無かったのだが、気を利かせてくれたようだ。


「でもめっちゃ高いんだろう?」

「家の蔵に壊れて眠ってたのを出張ついでに修理して貰ったの。気にしなくていいわ」


ちょっと高めの店に行かないと聴けなかったので二人は大いに喜んだ。


「せっかく来たんだからお茶でも飲んで行けよ。リーン任せてもいいか?」

「はい」


水を温める魔道具も直ったのでリーンなら魔力を与えれば簡単に沸かせられる。

料理も自分で大分出来るようになったし、かなり自立出来るようになってきていた。

トレバーは重いものを持ち込んでくれた部下に礼を言い、馬車で待機して貰ってネリーだけ歓待する。


「ほんとお前には助けられてるなあ」

「いいのよそれくらい。少しは家具も増えたのね」


新しく買ったソファーにネリーはトレバーの腕にしがみついまま倒れるように座り込む。


リーンは目が見えずとも二人のマナが近づいてもつれ込んだのを察知した。

二人の仲がいいのは分かっていたが、見えていないからといって堂々とじゃれあうのは少し悲しい。


ネリーには感謝しているが、どういう態度に出るべきなのか判断が難しい。

好きな人を奪ってしまって御免なさいといったら侮辱になるだろうか。


「おいおい、駄目だって。おい、ネリー?」


トレバーの小声も聞こえているが、それとは別に気になる音もした。

ネリーは具合が悪いのか息を荒くしていたのだ。


「御免、ちょっと休ませて」

「ああ、おーい。リーンちょっと診てやってくれ。具合が悪いみたいなんだ。俺が茶を淹れるから」

「はい、旦那様」


ちょっと普通ではない様子に気が付いていたリーンはぱたぱたとスリッパの音を立てて急いで様子を見に行った。


 ◇◆◇


 トレバーは三人分お茶を淹れてソファーの前の机に並べる。


「どうだ?」

「少し肺の具合が良く無いようですね。熱もあります」

「治せるか?」

「ええ、肺は時間がかかりそうですが熱はすぐに」

「ネリーやって貰っていいか?」


苦しそうなネリーは黙って頷いた。


「では」


リーンが『視る』と体のマナのバランスが狂っている。

火気が強く水気が足りていない。

自分の水気で火気を打ち消し、水気を補充してやる。

肺については少し時間がかかりそうだ。

手探りで服を脱がし始めてから、はたと気が付いて夫とネリーに確認を取った。


「服をはだけさせて貰っても構いませんか?」

「ええ」

「まあ、ネリーがいいなら俺はちょっと食器でも洗って来るか」

「そんなとってつけたような真似しなくてもいいわよ」


ネリーは自分で服をはだけてリーンに任せた。


リーンは喉から胸までを何度か撫でる。

首回りの肌が少し荒れている。物理的にこすれたのか病気とはちょっと違う。


「それどうしたんだ?なんかあざがあるぞ」

「え?そ、そう?ああ、ちょっと慣れない鎧着たからこすれたのね」

「お前が武装しなきゃならないほど危ない所に行くなら俺を呼んでくれていいんだぞ」

「あんた新婚じゃない」


ネリーとトレバーが出来ていたのはリーンも感づいているが、彼女は戸惑いつつも祝福してくれていたし随分と世話になっている。

堂々と浮気されたら悲しいが、トレバーがネリーを心配するのは当然だと思うし、そうしてあげて欲しい。


「旦那様にとっても大切な方ですから危ない時はどうぞ頼って下さい。私達の今の生活があるのは全てネリー様のおかげです」

「公務だから兵士も十分つけてたしいいのよ」


服を緩めて確認すると脚や腕にも少し荒れて赤くなった所があった。


「鎧下が合わなかったんなら綿とか詰めないと痛かっただろう」

「慣れないから調整不足だったの。出張に出た後段々悪化したのよ」

「あんま無理すんなよ」


リーンが見た所、首や手足のあざは放置しても良さそうだった。


「やはり肺ですね。過労で弱っているようです。少しお力をお貸ししますが、今後はよく休養を取らないとまた悪化してしまいますよ」


お世話になっているので自分の力でネリーのマナスのざらついた所を何度も撫でるように正常な状態に戻していく。リーンが数分間処置をするとネリーの顔色は大分良くなった。


「凄い。もう苦しくない。どうやったの?」

「少し力を貸しただけで、ネリー様の力ですよ。人の体には元の状態に戻ろうとする力が備わっているのです。過労でそれが弱まっていたから少し手を貸しただけ」

「へへ、凄いだろ。この前ほとんど死にかけてた奴も助けてくれたんだぜ」


トレバーはちょっと前の事件で死亡したと思われていた二人が息を吹き返したことを自慢する。


「それって取材させて貰ってもいい?」

「取材?」

「トレイドールは寄付が少ないって中央神殿が文句つけてくるのよ。神殿に寄付なんかしなくてもちゃんと祈れば神様は手を貸して下さるって広く訴えたいの。うちの財政はもう火の車なのよ」


神殿の許可が無いと扱えない交易品もあったり、市場の地権を持っているのは神殿だったりして機嫌を損ねると厄介なのだが、出したくても出す寄付金が無い。

領主から寄付を取っているのに市民にもあの手この手で寄付を要求する。

商人の契約書の発行権なども神殿側が握っているのだ。広い地域に影響を及ぼす権威による保証というものは新しい商売を始める商人には有難くもあり、保証など必要としていない者には迷惑である。


「何もしてないのに利益を持っていかれるのはまっぴら。これだから密輸も横行するのよ」

「大変だなあ・・・。どうするリーン?」

「私はいつもお世話になる救貧院の指示に従って参りました。土地ごとにどうすべきかは違いもあるでしょうからお任せします。個人的には領主代理であるネリー様の仰せなら問題無いかと思います」

「だってよ?神殿がごちゃごちゃ言ってきたら守ってくれるんだろうな?」

「勿論、任せて」


こうして通信社の取材を受ける事になった。


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