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第16話 弾丸の謎

「兄貴、ちょっといいですかい?」


大親分の命を救った事もあるのでトレバーは組織を移動しても周囲からは敬意を払われていた。煽情的な格好をした女達のショーに鼻を伸ばしていたトレバーは横やりに不機嫌そうに応じる。


「急ぎか?別に店内に問題は起きて無いだろ」

「親父の使いがきてやして。あっしも詳しいことは」

「しょうがねえな」


トレバーが店の外に出ると緊迫した顔の男がいて急ぐのでおいおい話ながら行くと告げてきた。


小走りで事情を聴く。


「どうした」

「傘下組織同士で抗争があって重傷者が多数出た」

「身内同士でか」


縄張り争いは多々あるが実際に抗争で怪我人を出してしまうとは馬鹿な話だ。


「俺にどうして欲しい。鎮圧すりゃいいのか?」

「いや、今はお互い引いているから睨みを効かして欲しいのと姉さんに手当の手伝いを出来るか聞いてこいと親父が」

「そうか。ま、見てみよう」


 ◇◆◇


現場に着くとあちこち血まみれだった。

古い倉庫でまだ怪我人が倒れている。


「医者は?」

「今呼んでます」


現場には火薬の匂いがまだ残っていて、怪我人には銃創もあった。


「おい、銃を持ち出すのは違反じゃなかったのか?」

「ああ、だから親父がこの件は預かる事になると思う」


治癒の奇跡でも銃弾は摘出出来ない。


「ちゃんと外科医は呼んだか?」

「え?さあ」


私塾はあるが公立学校は無い都市で育っているのでかなり常識が足りない。

医師免許も無いので医者と名乗れば誰でも医者になる。


「綺麗な水や包帯を、熱湯を沸かす準備を出来るだけやっておくように。医者が来るならここで治療して貰えばいいだろう。俺は嫁さん呼んでくる」


死亡者四名、重傷者多数。結構面倒な事件になりそうだ。


 ◇◆◇


 リーンを死んだ奴と怪我人を並べている所に案内し、早速状況を見てもらう。


「こちらとこちらとこちらのお三方は危ないですね。彼らから始めましょう」


彼女は死者二人と重傷者の一人を指してそういった。


「え?少なくともこの二人はもう死んでるぞ」


俺がもう完全に脈が停止していると判断した二人と、かなり危ない重傷者を彼女は指していた。そういうと彼女はしばし硬直する。


「そ、そうでしたか。私の勘違いかもしれませんがまだ助かると思いました」


稀にだが、息を吹き返す奴はいる。


「見込みがあるならなんでもやってくれ」

「はい。ところで火薬の匂いがするのですが・・・」

「ああ銃撃戦になったみたいだ」

「もしかしてこの方達も?」


彼女が言いたいことを察する。


「あ、そうだな。治癒の奇跡には銃弾があったら邪魔になるな」


医者は「もう死んでる」と判断を翻さなかったので、俺が手と器具を消毒して銃弾を摘出する。これくらいは戦場で昔覚えた。銃弾の摘出が終わると彼女がまた神術を使い、傷口はみるみる修復されていった。血も通い始めたのか血色も良くなる。だがまだ息を吹き返さなかった。


リーンがそれから人工呼吸をしてやると遂に死んだと思われた男は自力呼吸を開始した。


「旦那様、この方はもう大丈夫です」

「そうみたいだな、有難う」

「はい」


同じようにもう一人の死者も息を吹き返す。


「兄貴!姐さん!有難うございます!有難うございます!」


抗争を起こした男の兄弟分らしき男が額を地べたにこすりつけんばかりに泣いて喜んだ。


 ◇◆◇


 軽傷者は闇医者に任せる事にして撤収準備をしていた所、リーンでも助けられなかった唯一の犠牲者が少し気になった。


「うーん、最初に見た時よりなにか違和感があるな」


それほど時間は経っていないのに急速に状態が悪化している気がする。

腐敗しているわけでもなく劣化しているような感じだ。

気になって皮膚を触ってみると砂のように崩れる感覚がした。


「錯覚か?」


感覚があっただけで実際に体が崩れたわけではない。


「どうかなさいましたか?」


リーンが問う。


「いや、ちょっとな。別に毒の弾丸ってわけでもないだろうが普通の遺体と少し違う気がする」

「ひょっとしたら私がこちらから力を借りたからかもしれません」

「どういうことだ?」

「もう手の施しようが無かったので、先ほどの二人に生命力を融通して頂きました。よくなかったでしょうか?」

「いや、脳みそも飛び散ってたししょうがない。他二人が助かるなら合理的でいいんじゃないか?でも神術ってそういうもんなのか?遺体がなんだか脆くなってる気がしたんだ」


トレバーが癒しの力を受けた時はむしろ体に熱が籠って活性化していたような感じだった。


「こちらの方はもう亡くなっていましたが、肉体を構成するスペルマータの間には結び付けていたマナが残っていました。それを手当に利用させて頂いたので劣化させてしまいました。私の力だけでは足りず勝手をしてしまって申し訳ありません」

「いや、いいんだいいんだ。やっぱ神殿の神像みたいな力が無いと大変なんだな。ほぼ死んでたしな」


 ◇◆◇


 用は済んだのでリーンを職場まで送ってやる。

今日は休んだらどうかと言ってみたが別に疲れてないから仕事に戻りたいと言った。

せっかく来たので彼女の職場をしばらく見学しているとまたボスからの使いが来た。


「親父が呼んでます。今回の事で世話になった礼がしたいと」

「あー」


疲れた声が出る。

一日に何度も行ったり来たりはめんどくさい。


「嫁さんは目が見えないんだ。親父には悪いがそんなに何度も移動させたくない」

「あー、そうですよね。じゃあ車を手配します」


馬の維持費は高いので基本人力車だ。


「・・・・・・」


正直めんどくさい。


「兄貴、お手数おかけして申し訳ないんですが抗争をやらかした組織の親分衆も来る予定です」

「彼女の仕事が終わって一休みしてからだ。親分衆には頭冷やす時間を与えとけ。それなら足を運ぶ」

「承知しました。親父に伝えます」

「悪いな」


年齢不詳で通しているが明らかに年下の俺に遠慮してくれている。

まあ実力主義の社会だから当然っちゃ当然だが、このくらいでこっちも譲ってやらなきゃな。


リーンは疲れているだろうにまた面倒をかけるのを心よく引き受けてくれた。


 ◇◆◇


 たっぷり時間をかけて呼ばれた場所へ辿り着く。

闇カジノが併設されている飲食店でアジトのひとつである。そこの応接室に幹部達が待っていた。


「おう、来たな」


首領のジョゼフ、相談役のグリエルモ、それから見知らぬ男が二人。たぶん抗争を起こした組織の親分だろう。


「待たせてすんません」

「ああ。そっちが嫁さんのシュヴェリーンさんか。今回は世話になった」


リーンは俺の袖を掴んで隠れながら小さく顎を引く。


親分衆も「有難うございやした」と礼を言った。


「俺はただの用心棒だし親分衆の集まりに呼ばれるような男じゃない。話はもう終わりですか?」


他の親分の前なので大親分には一応礼儀を払う。


「まあ、そういうな。とりあえず座ってこれを見てくれ」


皆で囲む机の上には金属ケースがあり、その中に潰れた銃弾がいくつかある。


「どこの銃弾か分かるか?」


いくつかは今日摘出したものだが、一つ異質な物があった。


「こいつはマルタンのイジェフ武器工場のもんだな」


つい素で感想を漏らす。より遠距離に飛ばし貫通力を高める加工がしてある。

先端は潰れているが芯の部分で違いが分かる。


「分かるのか?」

「そりゃ精錬技術も違いますからね。同じサイズの弾丸でも潰れ方も変わってくる。工場の専門家に聞いた方がいいんじゃないですか」

「うちの連中は自分とこのしかわからん。お前は傭兵として世界各地を渡り歩いて来たからな。呼んでよかった。やはりよそに流す密輸品を使った奴がいる」


一応経歴としては傭兵として戦争を潜り抜けてきた猛者という事で報酬を支払われている。


「どういう事ですかい?」

「まず身内の抗争で銃を持ち出して死亡者を出すというのが掟破りだが、その前にフランキーが襲撃を受けてブツを奪われたらしい。今回はその報復で襲った。そうだな?」

「へい・・・」


フランキーにはそれなりに根拠があったらしいが、相手は否定し口論となる。


「あーよせよせ。客人もいる前でみっともねえ」


相談役のグリエルモが仲裁した。


「よそに流す筈だったブツをちょろまかした奴がいたら本部が制裁を下す。今回はこっちで調査をする。子分達にはそういっとけ。隠蔽しようとしたら組ごと潰す」

「グリエルモさん。パララヴァの連中かもしれませんぜ」


まったく別の外部組織が入り込んでいるかもしれない。


「ああ、もちろんその可能性はある。最近パララヴァもよその連中と揉めたそうじゃねえか」


グリエルモはこっちに視線を向けてきた。


「ええ、そうです。しかし連中はマルタン製の武器は使いません」

「確かか?」

「はい」


神殿で祝福を受けた武器しか使わない連中だから関係は無いだろう。


「お嬢さんに外部の連中が入り込んで無いか調べて貰えないか?」


ジョゼフやグリエルモ達一部の幹部にはネリーと親しい事は知られているのでたまに仲介を頼まれる。


「ネリーはマルタンに商談に行くと言って出かけてますよ」

「そうか。彼女は関係無いよな?」

「勿論、ボス達を出し抜こうなんてしてませんよ。彼女はそこまで冒険家じゃありません。むしろ斡旋する仕事の枠をどうやって増やそうかいつも困ってます」

「ならいい。今回は世話になった。店でうまいもんを食って帰ってくれ」


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