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第14話 マヘンドラナ王国の滅亡

 王侯貴族として十分な魔力を持って誕生し3歳の頃から後継ぎとしての教育が始まった。

頭の出来は良くも無いが悪くも無かった。

武術の腕は騎士も太鼓判を押してくれたが、後継ぎには必要ない。

なまじ腕が立つので増長した性格に育ち、父は武術の鍛錬を止めさせた。


10歳の時、父が病に倒れ業務を補佐するようになる。

父は時々政務に復帰するもまた病になるという状態を繰り返し、段々弱っていった。

家臣は政務の中心を彼に据え、期待によく答えた。

弟や妹達も重臣も誰もが認めるよい後継ぎで、家臣の派閥争いも下火になり治世は盤石と思われた。


 15歳の時、聖王即位20年を祝う式典に招待された。

庶民なら12歳で成人扱いだが、貴族の場合は社交界に出る必要もありもう少し経験を必要とされた。


式典後のパーティで騒ぎは起きた。

現地貴族の娘が来賓と騒動を起こしていた。


「こ、この野蛮人!なんてことをするのよ!」


ワインが零れて綺麗なドレスが台無しになっていた。

来賓が彼女に粗相をしてしまったらしい。


野蛮人と罵られた来賓はここらの人間ではなく病的に白い肌をしたサブレス人だった。


「妙な奴がいるな」


傍らの騎士にあれは何処の国の者かと尋ねた。


「新興のマルタン共和国です」

「へぇ、共和国ね」

「資源と技術を抑えた侮れない国です」


庶民の選挙制度がある国か、と侮る彼に騎士は忠告した。

王侯貴族にも選挙制度があり、マヘンドラナも選挙で上王を決める。

選挙人に指名されている小王と名士達が集まって決めるので、統治者のなんたるかを心得ていない無学な庶民による衆愚政治の選挙とは違う。


「膝まづいて誠意を示しなさい!」


来賓客に少女は要求した。

客は屈辱に顔をしかめながらも仕方なく膝をついて頭を下げる。

その頭に少女はグラスを叩きつけ、尖ったガラスの破片が刺さる。


「まるで犬ね!それも躾けの悪い犬だわ!嫌々頭を下げるくらいなら毅然として断ればいいのに!」


彼女はほほほと高い声で笑った。

マルタン共和国の武官は大使を立たせて侮辱した少女に憤る。


「自分で要求しておいてその態度はなんだ!ただの事故に誠意ある謝罪をしたのにその態度は許しがたい!」


(俺は彼女が嫌いじゃないぞ)

(黙っていてください王子)


暴君だが、誇り高い態度を王子は気に入った。


「この暴力事件は問題になるぞ。たとえ子供でも許しがたい」

「許せないならなんだっていうのよ。こちらはドレスの弁償を要求するわ」

「それなら慰謝料を要求する、我が国の大使に対する侮辱に謝罪もな」

「まあまあよさないか。今日は聖王を祝う日だぞ。その国の一人前のレディを子供扱いするあなた方も随分な非礼だ」


騒ぎが大きくなる前に近くにいてもっとも地位の高い王子が取りなそうと仲裁に出た。


「また子供か。部外者は引っ込んでいて貰おう」

「なにぃ?」


成人になったばかりとはいえマヘンドラナの上級王が派遣した後継ぎに対し無礼だと王子は怒る。


(殿下、関わってはいけません。彼らは交易を独占し軍事力を高めて増長しているんです。北方は次々と難癖をつけられて領土を奪われています)


「まさに野蛮人じゃないか」


なんとか小声で諫めようとした騎士の忠告に王子は大きな声で感想を漏らした。


「思いあがった貴族が!」


一触即発の雰囲気になったが、マルタンの同盟国の大使が彼らをなだめ、王子は聖王が宥め、少女を叱りつけて両者を退かせた。


 ◇◆◇


 しかし半年後、マルタン共和国は交易路への妨害行為の排除を名目に聖王国に侵略を開始した。

聖王国とは同盟関係にあり、王子を侮辱した共和国に対し市民も参戦を支持。

王子は自ら大軍を率いて聖王国に援軍に出向いた。


王子には軍事の才があり、瞬く間に共和国軍を撃破して敵の首都まで進撃したが、今度は共和国の友好国が参戦を表明し押し返された。


「あと一息で首都が陥落してたんだぞ!」


王子は悔しがって母国に強制徴兵を命じた。

結局両陣営ニ十国ほどが参戦する大戦となり、王子は数か月でいくつか降伏させたがそれ以上は犠牲と疲労が大きく再進撃は阻まれた。

いくら王子が軍事の天才でも戦線が広くなり過ぎて、奪っても奪ってもどこかで味方が破れて取り返されている。


この時代、既に銃器が一般化しており貴族の騎士は少ない。

庶民から成りあがった騎士は何十年も前に姿を消した。

槍騎兵としては機動力、打撃力があるので必要とされているが、高価な重装騎士はもう必要ない。


魔力を持つ装甲に身を包んだ特殊な貴族の騎士だけが銃弾を物ともせず、今も戦場にいる。

少数精鋭の職業軍人が戦場を支配出来る時代は終わっていた。


「こうなったら連中に兵器を提供しているリ・ニーネ連邦共和国に攻め込んで補給を止める」

「殿下、それは無茶です。遠すぎます」

「私ならやれる。大体全ての貴族も神も殺すべしなんて標語を掲げてる国なんか滅ぶべきだ。連中と同盟関係にある国も。そうだろう?」

「それはそうですが、国民に負担が大きすぎます。我らにとって直接の脅威ではありません。聖王の為にそこまでする必要は無いと心得ます」

「甘い!愚か者め!いつか連中は我々の周辺国にも長い手を伸ばすようになる。今のうちに排除すべきだ!聖王に補給を要求しろ。いったんトレイドール領に集結し、マルタンの首都を目指すとみせてから増援と共に出陣する」


3年にも及ぶ長期戦で疲れ切っている兵士に休養を与える為にトレイドールまで戻り、そこの領主には我が娘の不始末の為に申し訳ないと謝罪された。

少女もいつの間にか随分大きくなっていて、自責の念を抱えていた。


「まだそんな事を気にしていたのか。あれは些細なことだ。連中はああいう難癖を繰り返して国民感情を戦争に誘導していたんだ」

「そうかもしれませんが、我が領地が奪還出来たのは殿下のおかげです」

「ま、俺は天才だからな。今度こそ決着をつけてやる。補給を頼むぞ」

「はい、殿下」


交通網、兵站、保存食などが発達しておりすぐに大軍を搔き集めて王子は出撃した。

これほど大規模な戦争は近代に例がなく、国民の負担は王子の想像以上だった。

またも快進撃を続ける王子だったが、段々補給が滞り始める。

聖王国は何度も敵の侵入を受け治安が悪化し、敵の略奪で人々は貧しくなり同盟国の補給部隊を襲う始末だった。


何故あんな国の為に、と国民の怨嗟の声は高まる。

王子が直接指揮する部隊は負け知らずだが、徐々に将軍と兵士達の戦意は乏しくなり敗北や命令不服従で後退が増え始める。


それでも遂にリ・ニーネの首都付近まで到達し、決戦は間近だった。


 ◇◆◇


 あと一歩で勝利という所で本国から反乱が起きたという情報が伝わり、兵士に動揺が走った。

王子が緘口令を出しても敵地であり、兵士は敵の住民と接触する機会が多く情報は広がり、緘口令を出した王子への不信感が募った。


次々と伝令がやってきて様々な情報が錯綜した。

既に反乱は成功し臨時政府が誕生した、反乱は鎮圧された、王族は全員処刑された。

反乱ではなく共和国連合軍に侵入された。同盟国が破れ降伏した。


後に分かった事だが、聖王は故意に情報封鎖を行って王子に伝わるのを遅らせていた。

もちろんあと一歩でリ・ニーネが敗北するからだ。

聖王国内の領主達もそれに協力していた。


側近の忠言により、王子は首都攻撃を諦めて帰国の途についた。

その途上、先に帰還させていた筈の将軍達の部隊から渓谷で待ち伏せを受けた。

彼らは臨時政府に降っており、王子の暗殺を指示されていた。


側近の騎士達にも裏切られ四方八方から銃撃に遭い、彼は渓谷に転落した。


 ◇◆◇

 

 辛くも生き延びた王子はようやく祖国の状況を知った。

病床の父は処刑されていた。

まだ10歳前後の弟達は幽閉され、真っ暗な水牢で発狂し、食事を拒否し、髪の毛は抜け、体は腐り、見る影もない姿になり鼠に食べられて病にかかり死亡した。

これを報告した王宮の医師は反革命罪で事実を告げた罪により処刑された。


王子が新聞記事でそれを知った時には手遅れだった。いや、退却するかどうか迷っていた時にはもう終わっていた。王子の栄光は過去のものとなり、どの新聞社、通信局も王家のありもしない不正、汚職を報じ、重臣、国民を無視した自分勝手な戦争でどれほど国民を苦しめていたかを社説に出して臨時政府の正当性を協調した。

王家の親衛隊だった七騎士も新聞の取材で王子がいかに聞く耳を持たずに自分一人で戦争を決めたかを答えていた。


王子の意志は強かったが、同盟国に対しては参戦義務がある条約を締結しており重臣会議でも全会一致だった。騎士達は嘘をついた。


王家だけでなく、王子を擁護していた貴族は臨時政府の標的となり、家は取りつぶされ成人男性は処刑、男子は弟達と同様の目に遭い、女性達は売り払われ神殿、洗礼院(※)で神聖娼婦、公娼、使用人となった。王子の妹達もそこにいた。


王子は名を変え、姿を変えて祖国だった土地へ戻り、七騎士を暗殺してまた姿を隠した。


※女真族に捕えられた宋の妃、宋姫、族姫らが公娼として働かされた洗衣院がモデル。幼い姫も成長後はそこで性的奉仕を要求された。

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