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第13話 新生活の準備

「結婚したから給料上げてくれ」


娼館の主に頼んだらふざけるな、と言われたのでボスに頼みに行った。

ボスのジョゼフとは親しい仲だ。

以前、密輸取引の現場で敵対組織に裏切られて皆殺しにされそうになったのを助けた事がある。単に手が足りないので無理やりつれていかれてその場に居合わせただけだが、大親分なのでとりあえず助けた。

専属の護衛にならないかと言われたが、常時誰かを守って気を張るのは御免蒙りたいと断り、大きな取引の時だけ護衛を務めている。


「だったら直系組織に移れ。ずっと護衛しろとはいわん。事務所に詰めてるだけでいい」

「嫌だ。事務所の警備しろってことだろ?」


パララヴァ一家からもあいつは相手にするなという命令が出ているのでトレバーに敵はいない。小規模な抗争にわざわざトレバーが出向くことも無いので飼い殺しだ。


「お前を側においとけば睨みが効くんだよ」

「事務所でむっつり顔のおっさんを見てるより娼館のねーちゃん達見てる方がいい」


店の女に手を出したりはしないがショーを鑑賞するのは楽しい。


「じゃあうちの直営店で雇ってやる。もっといい女も集まるし、派手なショーや楽団も来る。ところで嫁さんはどんな奴なんだ?」

「目が見えないが美人で気立てがいい。出来れば家の改装もしたいし、使いやすい家具も買ってやりたい」

「なるほどなあ。金が要るってことか」

「あと治癒の奇跡が使える神術師なんだ。救貧院とかで働けるか?」


シュヴェリーンにも生き甲斐を与えてやりたくてトレバーは就職先の相談をした。

救貧院は自警団の協力と寄付で成り立っている。


「そりゃあ歓迎だが、目立って大丈夫なのか?訳アリとかじゃないのか?」

「まあ、そうかもなあ」

「自分の嫁さんだろうが」


自分が側にいればなんとかなると思って軽く考えていた。


「俺も厄介ごとは抱えたくない。按摩師とかの方がいいんじゃないか?」

「彼女に出来るかな」

「慣れればやれるさ。職場を斡旋してやるし、変な奴が寄り付かないよう指示を出してやるからお前はこっちに移れ。いいな」

「わかった。給料上げるのは忘れるなよ」

「ああ、機会があれば嫁さんの力を見せて貰いたい」

「自警団の闇医者にするつもりか?」

「駄目か?報酬は払うぞ」

「まあ、機会があればな」


 ◇◆◇


「おーい、お前の職場が見つかったぞ」


トレバーはリーンに喜々として報告した。目が見えなくてもつける仕事で先生まで用意してくれたと聞いてシュヴェリーンも夫の厚意にいたく感謝した。

隣人は追い出され、部屋も広くなり、給料も上がり生活は順風満帆である。


「有難う存じます旦那様」

「後は給湯器とかが直ればな」


火を使わせるのはさすがに危ないので大家に早く直してくれと頼んであるが、なかなか交換が進まない。


「旦那様に説明するのは難しいのですが、わたくしは人工物以外ならそれなりに把握出来ますので火はちゃんと避けられます」

「そうか?でも急に燃え広がったら怖いだろう」

「それは、はい。お気遣いに感謝します」


それでもちょっと何か言いたげだった。


「どうかしたか?」

「はい・・・たぶん高価なものですので交換は難しいのではないでしょうか」

「高価な事くらい知ってるが、貴族の家がぽんぽん潰れて市場に流れてるからそのうち見つかるだろう」

「そうかもしれませんね。でもご領主様が不在なのでそんな高価な物をお嬢様が買えるのでしょうか?」

「一人娘の為ならいくらでも金は惜しまないだろう」

「まあ、旦那様ったら」


まるでタチの悪いヒモの発言である。


「ああ、実は俺の先日の怪我はあいつの為なんだ。だから平気平気」

「何かあったのですか?」


そこでトレバーは神聖隊の話をした。


「そうでしたか・・・旦那様はお嬢様と親しい関係なのですね」

「おお、妬いちゃったか?」

「はい、とても」


珍しくシュヴェリーンは拗ねた顔をした。


「こんな高価な家を貸して下さるのですし、きっと旦那様がお好きだったのです。わたくし急ぎ過ぎて酷い事をしたのかもしれません」

「そりゃあいい仲だったが、あいつには夢があるしな。別にお前が気にすることは無いさ。いつかあいつは誰かと結婚するだろうし、俺もそうだった。ちょっと俺の方が早く結婚することになっただけさ」

「その・・・いままで避けて参りましたが旦那様も貴族の出身ですよね?わたくしは・・・」


何か言いかけて彼女は止めた。

皆政略結婚は当たり前だし、恋愛と結婚は別という価値観がある。

浮気もしょっちゅうだ。


「不安にさせちまったか?」

「いえ・・・わたくしは旦那様のお側にいられれば十分です」

「あんまり卑屈にならなくていいからな。急な事だったが俺はよかったと思ってる。こうして誰かに頼られるのは悪くない。生きてる実感がする」

「有難う存じます。わたくしもようやく生き返った気がします」


彼女も心から安心したという表情でリラックスしていた。


「で、俺が貴族の出って話だがやっぱぽんぽん魔道具使ってたらわかっちまうよな」

「はい。起動するのに魔力を注いでいるだけのようでしたがわたくしにはそういう気配はよく伝わりますので」

「最近のは一般人でも使えるのが多いんだぜ」

「そう・・・でしたか」

「まあ貴族由来の道具ってことで一部の国じゃ所持してるだけで反革命罪で処分されちまうらしいが」

「この国ではどうでしょうか」

「この辺りの国は便利な道具は使おうっていう連中の方が多いな」

「市民派でも?」

「ああ、だからあんまり怖がらなくていい」


革命裁判にかけられたらこんなくだらない事でもどういう処罰を受けるかわかったものではない。


「それで旦那様はどちらのご出身なのですか?」

「マヘンドラナって国だ。革命で滅亡しちまった。聖王国とは同盟を結んでいてな、ネリーとはその頃からの縁だ」

「あまり外では喋らない方がよろしいでしょうか」

「別に追手がかかってるわけじゃないから気にしなくてもいいが面倒を増やす必要は無いな」

「承知致しました」


祖国を失って亡命した貴族は多い。

失った国を取り返す為に戦争を挑む者もいるが、トレバーはもう興味は無い。


「このルクス・ヴェーネ聖王国と同盟を結んでいたという事ですが、それで神聖隊という特殊部隊にも詳しかったのですか?」

「まあな。彼らと共同作戦を取った事は無いからこっちの事は知らない筈だが、変な騒動なっても困るし少しは話しておこうか。俺と関わったせいでお前に迷惑かかるかもしれないしな」


話を聞いて怖くなったら無理にでも旅券を調達して貰って彼女を逃がそうとトレバーは考えた。

多少はぼかす必要はあったが彼が国を出てトレイドール領に流れ着いた経緯を話し始めた。


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