・宝探しのついでに2人でバザーに寄った
バザーへの道中、もう1つのアイテムを回収した。
そのアイテムは下水道の中にあり、平気でよくわからない場所に入ってゆくコムギに俺はまた頭を抱えた。
下水道に隠されていた物は、なんと580G。58枚の金貨だった。
「マ、マジか……」
「わぁぁ~、本当に580Gもあるよ、ホリンッ!!」
「お、おいっ、そういうこと大声で言うなよっ?!」
「……あ、そっか。なんか人が聞いたら嫌味ったらしいもんね」
ああ、やっぱわかってねぇ……。
本当にコイツ、自分の立場とか、外の世界を全くわかってねぇ……。
「そういう問題でもねぇ! 悪人にもっと気を付けろって、そう言ってるんだよっ!」
「えっと……たくさんのお金持ってるのが知れたら、困るってこと?」
「はぁぁぁ……っっ。お前、次も村の外に出るときはちゃんと俺に相談しろよ……。じゃないと、こっちの気がもたないからよ……っ」
コムギは俺の財布に580Gを入れた。
『俺が持ってていいのか?』と聞いたら、不思議そうな顔をされた。
不思議なのは俺じゃなくて、お前だ、コムギ……。
俺たちは臭くて得体の知れない下水道を出て、もうすぐそこに見えていたバザー街へと歩いた。
いや近付いてみると、俺たち田舎者には衝撃的な場所だった。
数え切れないほどの露店と人が、バザー街と呼ばれる広場にひしめていた。
俺たちはこんなに大勢の人間を初めて見た。
「ゎ…………」
「どうした、いこうぜ?」
「で、でも……なんか、怖い……」
いざそこに入ろうとすると、コムギが急に足を止めて、ずいぶんと心細そうな声で俺にそう主張した。
「怖い? 何が怖いんだ?」
「あ、あたし、ここで見てる……っ、ホリンだけ行ってきて……っ!」
ここに残る? そっちの方がこっちは怖いっての。
「独りになんてさせられるかよ、ほら行くぞっ」
「ちょっ、何勝手に人の手触って……っ」
「お前がいつもやってることだっての……っ!」
手を引いて歩くと、小さい頃をまた思い出した。
凄まじいとしか言いようのない人混みの中を、俺は2つ下の妹分の手を引っ張って歩いた。
俺たちは注目の的だ。
特にコムギはエルフである上にかわいいから、年頃の男たちは次々と振り返ることになった。
ロランさんの警告は正しかった。
自覚がないようだが、コムギは男たちにやたらとモテていた……。
「ほら、かわいいエルフの彼女におまけだ。じゃあな、お嬢ちゃん」
「あ、ありがと、おじさん……」
バザーにいる間、コムギは借りてきた猫だった。
「くぅぅ~っ、うちの娘もこういう、素朴でおとなしい子だったらなぁ~……っ!」
屋台のおっさんも勘違いしておまけしてくれた。
俺たちは買い物を済ますとバザーを離れ、広場の外れのベンチに腰掛けた。
「誤解しまくってたな、あのおっさん。お前のこと、素朴でおとなしいだってよ」
「ごめん……なんか、慣れなくて……」
コムギは人混みがよっぽど息苦しかったのか、ため息を吐いたり、深呼吸をしていた。
「それより早く昼飯にしようぜっ!」
「う、うん……わっ、何これっ!?」
「お前、話聞いてなかったのか? これが牛串、こっちがジャガバター、で、これがピザパンだってさ」
食べ物を見せるとコムギの目の色が変わった。
パン屋の興味はパンだった。
コムギはピザパンを手に取って、いつになく真剣に観察を始めた。
パンとチーズとサラミと、オリーブオイルのいい匂いがする。
「見てないで食えよ」
「ねぇホリン、この赤いの何……?」
「トマトだってよ。うちの村じゃ育ててないし、なんか珍しいよな~」
「へーー……。あっ、これ美味しいっっ!!」
さっきまでは気弱な子供みたいになっていたのに、コムギは幸せそうにピザパンを両手に抱えて食べていた。
「もぐもぐ……。むむ、もぐもぐもぐ……。んむむむ……」
「おい、目立つから静かに食えよ……」
俺も食べてみた。
確かにこれは、間違えようのない王道の組み合わせだった。
「ねぇ、ホリン……?」
「お~、本当にこれ美味いな……!」
「帰りにさ、このトマト買っていってもいいっ!? このピザパンってやつ、あたしも作ってみたい!」
「もちろんいいと思うぜ。お前が作ったら、もっともっと美味いに決まってるしな!」
俺だって村のみんなにもこの味を伝えたい。
気に入ってくれたら、村の誰かがトマトの栽培を始めるかもしれない。
「へへへっ、じゃあ決まりだね! そうだっ、知恵の種も入れちゃおう!」
「い、いや……あれは色がちょっと……。俺はどうかと思うぜ……」
食べ応えのある牛串と、ほくほくのジャガバターもなかなか美味かった。
けどアッシュヒルのバターと比べると、こっちのは風味が飛んでいる。
「よく食うよな、お前……」
「こんなに買ってきておいて、ホリンこそよく言うよっ」
「みんなお前を見ておまけしてくれたんだよ」
「そうなの……? へへへ、都会の人って、良い人もいっぱいいるんだねっ!」
「いやどっちかって言うと……。お前がその……超、かわいいからじゃないかな……」
つい小声になっていた。
「え、何? なんで急に声ちっちゃくするの?」
「た、大したことじゃねーよ……っ!」
コイツはもっと、自分の魅力を知るべきだ。
だけどそれを俺の口から伝えるのは、簡単なようでとても難しいことだった……。
「ふぅ、ごちそうさま! じゃあ行こうか、ホリン!」
「おう、今日中に全部集めたいしな」
よっぽどピザパンが気に入ったのか、その後のコムギはトマトとパン作りの話ばかりだった。
笑顔いっぱいのコムギと一緒に、俺は石の町を歩いた。