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・事実上、俺は年下の幼馴染の紐だった

「いらっしゃーいましーっ! あらかわいいお客様、物騒な物持ってますね~!」


 ま、そうなるよな……。

 フクロウ亭に入ると、明るい宿屋のお姉さんが俺たちを迎えてくれた。


「お姉さん、騎士のロランさんを知ってるか?」

「ロラン様っ!? もちろん知っていますよっ、今ロラン様はどちらにっ!?」


 フクロウ亭はロランさんが勧めてくれた。

 ロランさんのお勧めなら安心だった。


「うちの村にいるけど……。それより、シングルってやつを2つ」


 内心、お姉さんの反応が嬉しくなった。

 このお姉さんは同志だ。

 このお姉さんもロランさんの魅力を理解しているようだった。


「ねぇ、そっちの鎖鎌を持ってるエルフの子、君の彼女?」


 ただ、いきなり話が飛ぶ人だなとも思った。


「え、あっ……ち、違いますっっ! ホリンとはあたしっ、ただの友達だから……っ!」

「そう……? そうは見えないけど」


 これはアレだ。

 俺たちは今、からかわれているみたいだった。


 ここで俺まで恥じらったら、向こうをさらに喜ばせることになる。


「姉ちゃん、目んたま腐ってんじゃねーのか?」

「ホリン……その言い方は失礼だよ」

「ふーん……だったら不用心だから、同じ部屋にしておくね」


「……はっ?」


 ちょ、ちょっと待て、なんてそういうことになる!?


「2人で4G、食事は別途注文。はい、決まりっ!」


 宿屋の姉さんはコムギに鍵を突き付けてウィンクをした。

 いや、そいつがその鍵を受け取るわけがねーだろ……。


 だがコムギは俺とちらりと見ると、鍵を受け取って俺の懐から財布を抜き取った……。


「お、お前っ、自分のやってることわかってるのかっ?!」

「同じ部屋で寝ること? だってこっちの方が安いし、1人で寝るより安心じゃない。ただ同じ部屋で、一晩だけ一緒に寝るだけだよ」


「それっ、一大事じゃねぇのかっっ?!」

「いいからいいからっ!」


 今度は俺がコムギに手を引っ張られる番らしかった。

 俺はコムギに引かれて階段を駆け上がり、危うく転びそうになった。


「危ねぇじゃねぇかよ……っっ」

「だって、あそこで騒いだら目立つでしょ」


 部屋の前に着くとコムギは鍵を使って、開くなり飛び込むように中へと入り込んだ。

 そして、凍り付いた。


 コムギは部屋にたった1つだけのベッドの前で、自分の間違いにやっと気付いたようで呆然と立ち尽くしていた。


「ホリン……」

「お、おおっおうっ?!」


「床で寝て?」

「なんでだよっ! これって突っ走ったお前の責任だろっ!?」


「じゃぁ……い、一緒に、寝るつもりなの……?」

「う……っ」


 そ、そんなことしたら、爺ちゃんとロランさんに殺される……。


 いや一緒に寝たいかといったら、寝てみたい……。

 けど、寝れるわけねーだろ、そんなのよっ!?


「ま、いっか!」

「い、いいっ、いいのかよっ?!」


「知らない町で、1人で寝るのは寂しいもん。だから……ホリンが床で寝て?」

「なんでそうなる……。ベッドの間に、なんか仕切りとか作ろうぜ……」


「あ、それいいかも……」


 そう提案すると気が楽になった。

 いや、深刻な事態を先延ばしにしたとも言える……。


「さっ、宝探しを再開しよっ! 夜のことは、夜になればわかるよっ!」

「どこまで前向きなんだ、お前……」


 明るく健康的で愛らしいこのエルフの少女と、今夜一緒の部屋で眠る。

 ……別々の部屋で眠るよりも、一緒の部屋で俺が床で眠った方が、確かに不安の方はなさそうだった。



 ・



 宿を出ようとすると、さっきの姉さんにまたからかわれた。

 それと気になることも教わった。


 町のバザーでは、美味い屋台が出てるって話だった。

 食いしん坊のコムギがその話に目を輝かすのは、まあ当然のことだった。


「がんばってね、彼氏」

「彼氏じゃねーっす……」


 俺はこの町で、あと何人の人間に微笑ましい目で見られなければならないのだろう。

 俺たちはバザー町を目指しながら、宝探しを再開させた。


「あっ、あそこに赤い箱があるっ!」

「俺には見えねぇな……。ってことはっ! お前の言う隠しアイテムってことだよなっ!」


 不思議なブラッカの住宅地を歩いてゆくと、コムギが宝を見つけた。

 俺が辺りを見回してコムギに合図をすると、コムギは笑顔と一緒に目には見えない箱を開封した。


 箱の中に入っていたのは、卵に似た形をした水色の種だった。

 『?』マークに似た奇妙な模様があった。


「それ、なんか不味そうだな……」

「そう?」


「だって水色だぜ……? そんな色の食い物なんてないだろ……」

「好き嫌い言っちゃダメだよ。ホリンはバカなんだから、これを使ったパンを食べてくれないとあたし困る」


「ナチュラルに人のことをバカとか言うなってのっっ?!」


 一応俺、アッシュヒルの技師でもあるんだけどな……。

 そりゃ、仕事をサボって剣の訓練ばかりしている俺は、端から見ればバカ野郎かもしれないけどよ……。


「あ、ごめん……ちょっと本音出てた……」

「そこは『本音』じゃなくて、『冗談』って言えよっ?!」


 悪気がない分、たちが悪かった。

 だが彼女の興味はすぐに薄れ、その青い実ばかりを見るようになった。


 俺が村長のバカ孫なら、コムギは村のパン馬鹿だった。


「なんかお腹空いたね、ホリン……」

「……おう、文句はあるけど俺もそう思う」


「次の隠しアイテム取ったら、宿のお姉さんが教えてくれたバザーに行ってみよっかっ!」

「そうしようぜっ、都会の食い物って美味いんだろうなぁっ!」


「ホリンにはあたしが奢ってあげるね」

「い、いいのか……?」


「うんっ、だって一緒に同じの食べたいし!」


 しかし俺はその時、認めがたい真実に気付いてしまった……。

 コムギと町を歩くのは楽しい。

 一緒にバザーを回ったらもっと楽しいだろう。


 だが……。

 俺の今の状態ってもしや、コムギの、ヒモというやつなのでは……と。


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