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7/25

・実際田舎者だった

「では私はこれで。……コムギさん、ホリン、どうか貴方たちの旅に、神のご祝福があらんことを」


 赤い街道の橋までやってくると、そこでロランさんと別れた。

 ここからは俺とコムギの2人だけだ。


 ロランさんの遠い後ろ姿を目で追っていると、コムギを守れるのか不安になってきた。


「なぁコムギ……。やっぱり、ロランさんと一緒がよかったのかな……」

「ううん、ここからは2人だけでいこ!」


 けどコムギの顔を見たらそんな不安が飛んでいった。

 不安なんてどこにもない、旅行を満喫している笑顔だった。


「わかった……。けどいいか、俺から離れるなよ……?」

「なら、昔みたいに手とか繋ぐ?」


「ガキっぽいからそれはイヤだ」

「え、そうかなぁ……? ま、いいや、じゃ、いこっか!」


 俺も楽しいことを考えた。

 俺の楽しいこと、この旅の目当てと言ったら当然アレだ。


「それで、ブラッカの町には何があるんだっ!?」

「隠しアイテムのこと?」


「おうっ!」

「ふっふ~ん、知りたい?」


「知りたいに決まってるだろ!」

「えーっとね、知恵の実と、体力の種!」


「おおっ、体力かぁっ! 知恵は別にいらねーけど体力は欲しいなっ!」


 ってコムギに返したら、なんか怪訝そうな顔でこっちを見てきた。


「えぇ……? ホリンにはもう少し、知恵も必要だと思うけど……」


 それどういう意味だよ。

 それに食べただけで知恵が付くなんて、そんなのおかしいし怖いだろ……。


「えーっと、後はね。A.魔法の水。C.鎖鎌。D.鉄の鎧。E.580G。G.小さ過ぎるメダル。H.青銅の盾が隠されてるんだって!」

「て、鉄の鎧……!?」


「あ、また感動してる……?」

「あ、あったり前だろっ!! それっ、ブラッカの店で買ったら1800Gするやつだぞっ!!」


 俺が丸一年働いても到底届かない値段の高級防具だ。

 それがなんと、タダで手に入るという!


「だから、なんでそんなに正確に覚えてるの?」

「欲しかったからに決まってるだろっ!! 鉄の鎧っ、鉄の鎧かぁっ!!」


 鉄の鎧、鱗の盾、雷神の剣。

 この3つが集まれば俺だって立派に村を守れるはずだ。


 尊敬するロランさんには、それでも届かないだろうけど……。


「どうしよっかな。今回はロランさんにもお世話になったし、ロランさんにあげちゃおうかなー?」

「ロランさんなら、もっともっと良い鎧持ってるぞ」


「え、そうなの?」

「ロランさん、俺にだけ見せてくれたんだっ! あれは、魔法の鎧だったっ!」


「えっと、魔法の鎧、魔法の鎧……。ろ、6800Gっっ!?」


 コムギはあの俺の目には見えない本をめくって、ピタリと値段を言い当てた。

 そう、ロランさんは一日中ブラブラしている無職のように見えて、実は超金持ちだ!


「すっげーだろっ!」

「ホリンはロランさんの金魚の糞だね」


「へへへ……褒めるなよ」

「いや、全然褒めてないから……」


 俺たちは楽しく言葉を交わしながら赤い街道を進んだ。

 道中、モンスターと遭遇することもあったが、俺たちの敵じゃなかった。



 ・



 ブラッカにたどり着くと、俺は初めての町に感動した。

 本当にロランさんが言った通り、その町の建物は石で建てられていた。


 見張り台には噂に聞く兵隊というやつがいて、歴戦の傷跡の残る防壁が町を囲んでいた。


「おい……おい、コムギ。見られてるぞ」

「……へ?」


「田舎者だと思われるから、口開けっ放してあちこち見渡すのは止めろ」

「でも実際田舎者じゃない」


「ただでさえ俺たちは目立つんだから、おとなしくしてろ」

「目立つ? 何が?」


 コイツ、やっぱりわかってねぇ……。


「外の世界では、エルフと人間は別々に暮らしているんだって、散々教わっただろ……っ」


 俺にも半分だけエルフの血が入っている。

 俺たちの故郷はそういう村だ。


 エルフの長い耳と美しい容姿は、ブラッカの町では注目の的もいいところだった。


「先にロランさんが紹介してくれた宿に行こうぜ」

「うんっ、えーっとね、それなら攻略本にも載ってたからあたしが案内するねっ」


「おい、その本もあんまり街角で開くなって……っ」

「え、ダメ……?」


「ダメに決まってるだろ……っっ」


 反論される前に俺はコムギの手を引いた。

 乱暴で強引な行動になってしまったが、人前で『透明な何か』を包んだブックカバーを開かせるわけにはいかなかった。


 人目のない路地裏までコムギを連れて行った。


「悪い、痛かったか?」

「ううん。でもちょっとここ暗いよ?」


「疑われるよかいいだろが……っ」

「そうかなぁ?」


 コムギはあの本を開き、物陰から表通りを見回した。

 それから、宿屋への道中に2つアイテムを回収できると、コムギは俺にそう伝えた。


「人がいなくなったときに、こっそりだぞ? 人に見られたら面倒だから止めろよ……?」

「あ、それはわかるよ。突然何もないところから、鎖鎌とか出てきたら、みんなビックリしちゃうもんねっ!」


「ビックリだけじゃ済まないかもしれないぜ……」


 ブラッカにきて早々、俺は不安になった。

 コムギの純粋さや明るさは、外の世界ではとても危ういものだった。


 俺たちは表通りを避けて裏通りを進んだ。

 すると俺たちは、ロランさんが言っていた色街ってところに入り込んでしまった。


「おう、そこの田舎者臭いにーちゃん、いい宿紹介するぜ? 彼女としっぽり――」

「コムギッ、行くぞっ!」

「……えっ?」


 またコムギの手を引くことになった。

 客引き、ヤクザ、娼婦、客のひしめく色町を俺はコムギを引っ張って抜けた。


「ねぇ、ホリン? さっきのとこ――」

「お前は知らなくていい!」


「えーっ!? なんでーっ!?」

「知らない方がいいこともあるんだよ……っ。お前は知っちゃダメだ!」


 俺が必死でそう叫んでも、コムギは不思議そうに首を傾げて丸い目で俺を見るだけだった。

 やっぱり、ロランさんと一緒にくるべきだったかもしれない……。


「よくわかんないけど、ま、いっか。あ、そこの赤い箱に隠しアイテムが入ってるみたい」

「箱……? 箱なんてどこにある? 全然見えねーぞ」


 きっとその本と同じように、コムギにしか見えないのだろう。

 コムギが何もない路地裏の地面を見下ろすので、俺は制止して人目を確かめた。


 大丈夫そうだ。今なら問題ないと合図した。

 コムギが元気に両手で箱を開ける動作をすると、そこにガラス瓶が現れていた。


「それが【魔法の水】か……?」

「うん、そうみたい。それにしてもこのガラス瓶きれーっ! 使い終わったらうちの家で使おうっとっ!」


「それ、どういう物なんだ?」

「魔法の力が回復するんだって!」


 コムギたち魔法使いには魅力的な物なのだろう。

 だが剣士である俺にはどうでもよかった。


「次のはなんなんだ?」

「鎖鎌!」


「確かそれ、ここの武器屋で700Gで売ってるやつだ」

「さすがホリン、詳しいね」


 けど鎖鎌といったら扱いにくい武器だ。

 それに俺にはもう雷神の剣がある。


「ならいっそ、売っちゃえばいいんじゃないか?」

「……ううん、村に持って帰る。アッシュヒルにはもっと武器が必要でしょ?」


「ま、それは重さによるな。鉄の鎧と青銅の盾のことを考えると、重量オーバーかもしれないぜ」

「あ、そっか……」


 遅れて俺は思った。

 どうも最近のコムギは、以前のコムギらしくないんじゃないかって。


 少し前まで、コムギは俺とロランさんのやっていることに懐疑的だったはずだ。


「瞬間移動とかできればいいのに」

「できるわけねーだろ……」


「だよねー……。あたしたち、勇者様じゃなくてただの村人だもんね……」


 コムギはまだ何かを俺に隠している。

 俺は疑いを覚えるも追求せず、宿屋フクロウ亭に続く石畳の道を歩いた。


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