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6/25

・山を下り、スライム相手に無双した

 ロランさんが先頭で、俺が最後尾を受け持った。

 コムギのやつはのん気に空を見上げたり、木の根に足をひっかけそうになって飛び跳ねてる。


 俺たちは渓谷の道を進んだ。

 魔物が出るようになってから、整備のしようがないので道はボコボコだった。


「コムギさん、お願いします」

「は、はい……え、えいっ!!」


 なんでか知らんが、ロランさんはついでに道を整備をしながら行こうと言い出した。

 コムギの棍棒が古い吊り橋の杭を打ち直し、邪魔な木の根を砕いた。


「あたしたちって……凄いところで暮らしてたんだね……」

「今さら気付いたのかよ」


「だってこれって、人が通るような道じゃないよっ?!」

「だから俺たちが整備しながら下りてんだろ?」


「商人さんたち、よく荷馬車を連れてうちの村までこれたね……。あの人たち、凄い……」

「ホリン、次はあそこの除草をお願いします」


 俺の雷神の剣も、なんか納得いかないけど大活躍だった……。


「落ちろ、電撃っっ!!」


 雷神の剣は魔法剣だ。

 俺は剣を振り下ろし、少し先の草地に電撃魔法を落とした。


 道を浸食した草も根もそれで一網打尽だった。


「お見事です、ホリン。やはりその剣、便利ですね」

「ロランさん……っ、俺の雷神の剣は、草刈り鎌なんかじゃないですよーっっ!」

「いいじゃない、人の役に立ってるんだから」


 火の付いた草を、ロランさんは抜刀術一発で斬り消した。


「なんか納得いかねぇ……」 

「ホリン、次はあそこをお願いします。あのままでは車輪が木の根に引っかかってさぞ難儀でしょう」

「がんばってね、ホリン!」


 せっかくカッコイイ魔法剣なのに、なんで俺は除草作業をさせられているんだろう……。

 何度も何度もため息を吐きながら、ロランさんと明るく笑うコムギと山を下りていった……。



 ・



 さらに進んでゆくと、モンスターの群れに囲まれていた。

 あんな騒がしい下山をしたら、当然といえば当然だけどな。


 除草作業以外の雷神の剣の出番がやっときたか、って感じだった。

 スライムが8体、盗掘モグラが6体、厄介な暴れイノシシが1体だ。


「ホリン」

「は、はいっ、ロランさんっ!」


「あの暴れイノシシは貴方に任せます。コムギさんは私の後ろに」

「……は、はぃぃぃっっ?!」


 お、俺1人であんなでかいモンスターを……?


「今の貴方ならできます。さあ行きなさい、彼女に勇敢なところを見せるチャンスですよ」

「わ、わぁぁっっ?!」


 ロランさんが力いっぱい俺の背中を突き出した。

 俺は雷神の剣を鞘に収めたまま、暴れイノシシの前に飛び込むことになった。


 鋭い牙をかいくぐり、雷神の剣をさっきのロランさんみたいに居合い斬りにした。

 暴れイノシシが悲鳴を上げ、俺は2発目の剣を叩き込んだ。


 けどそれは甘かったみたいで回避されてしまった。

 イノシシと俺は距離を取り、次の激突のために相手をうかがった。


 いやそうはさせない。

 俺は雷神の剣を使って雷を落とし、敵が電撃に怯んだ隙にこちらから先制攻撃した。


 爺ちゃんみたいに1撃では倒せないのが悔しいけど、俺は斬撃2発と、雷1発で、暴れイノシシを褐色の宝石に変えることに成功した。


「あちらも片付いたようです」

「ホリンッ、大丈夫っ!?」


 声に振り返ると、パン屋であるはずのコムギのやつがスライムと盗掘モグラをやっつけていた。

 ロランさんが手を叩いて俺たちを褒めてくれた。


 後になって、自分が膝に擦り傷を負っていたことにも気づいた。


「た、倒せたっ、倒しちまったっ! 見たか、コムギッ!? 俺、爺ちゃんみたいにっ、あのでかいイノシシを倒せたっ!」

「え、えっと……。ごめん、こっちも大変で、一瞬も見てなかった……」


「そりゃないだろっ?! 俺はお前にカッコイイとこ――あっ、いやっ、なっ、なんでもねぇよっ!」


 そう答えたらコムギのやつ、いきなり嬉しそうに微笑みだした。

 よくわかんないけど、俺の活躍を喜んでくれているように見えた。


「よくやりましたね、ホリン。助太刀に入る予定だったのですが」

「そりゃないですよ、ロランさんっ!?」


「私の予想を上回る成長速度です。しかし慢心は成長を阻害する猛毒、これからもたゆまぬ研鑽を続けなさい」

「はいっ、ロランさんっ! 俺、貴方に褒めてもらえて超嬉しいですっ!!」


 けどすぐにコムギに対する感情は飛んだ。

 尊敬して止まない人に褒められて、天にも昇りそうな気分だ。


「さて、そこを下れば平野です。名残惜しいですが、お二人を赤い街道までご案内しましょう」

「――ウッッ?!!」


 ロランさんが膝に薬を塗ってくれた。

 恐ろしく染みる薬だった……。


「コムギさんも怪我はありませんか?」

「な、ないですっ、あっても遠慮しておきますっっ!」

「し、滲みる……っっ。塗るなら塗るって、言って下さいよっ、うっっ、うぅぅっっ?!」


「ホリン」

「な、なんですか、ロランさん……っ、メチャクチャ滲みるんですけどっ、この薬……っ」


 いつだってやさしい雰囲気のロランさんから笑みが消えていた。

 訓練に熱が入った時のように、厳しい目が俺を見つめていた。


 俺は弟子として表情を引き締めた。


「師として命じます。これより貴方はコムギさんの守護者、命を賭けて彼女を守りなさい。いいですね、ホリン?」

「言われるまでもないですよ、ロランさん。コムギは俺が守ります。この命に賭けても」


「よろしい。それでこそホリンです」


 俺はロランさんにコムギを守るように命じられた。

 言われなくともそんなこと当たり前のことだけれど、ロランさんに言われるとまるで違った。


 田舎に逗留する自由人とは思えない、カリスマにあふれた言葉がコムギを守れと俺に命じていた。


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