・ただのパン屋が俺に雷神の剣をくれた……
「先にこっちの『C.39G』を取りにいこ。それから『A.やくそう』と『B.鉄壁の実』を取って、その後に『H.雷神の剣』! さあいこー、ホリンッ!」
コムギのやつに背中を押されて村を早足で歩いた。
39Gも、やくそうも、本当にこの村に隠されていた。
本当にコムギの誘いは、宝探しだった!
次の宝はどんな物だろうと、俺たちは少年少女のようにワクワクしながら村を歩いた!
「これが鉄壁の実? ずいぶんとでっかいナッツだな」
「えっとね……。攻略本さんによると……。あ、食べると『身の守り』ってやつが増えるみたい」
「それって、つまり……食べただけで強くなれるってことかっ!?」
「うん、そうみたい」
「なんでそんな凄い物がその辺に落ちてるんだよ……っ?」
「さあ? あ、でも欲しいならホリンに――」
「くれるのかっ!?」
「ううん、やっぱりこれはあげない。これをパンにしてみる」
期待していたのに貰えなくて俺は落胆した……。
食べるだけでガードが上達するなら、それでまたロランさんをあっと驚かせるのに……。
俺、ロランさんにもっと褒められたい。
ロランさんは、かれこれ1年も俺に訓練を付けてくれている。
俺はロランさんの善意に報いたかった。
「パンに……? それって、ムダになったりしないか……?」
「なんでもやってみないとわかんないよ。ダメだったら、次からはホリンにあげる」
「次……? 次って、なんだ……?」
「あのね、隠しアイテムがあるのって、この村だけじゃないの。隣町とか、そのまた先の町とか、色んなところに凄い物が隠されているみたい」
「お、おぉぉ……っ!」
それって、もっと凄い装備が手に入るってことだよな……!?
す、すげぇ……。
どうにかしてその装備も譲ってもらえるように、コムギのやつにこれから根回ししておかねーと……!
「宝探し、これからも付き合ってくれる……?」
「しょ、しょうがねーなぁっ! 世間知らずのコムギ1人だけで、村の外に行かせるわけにいかねーしっ、特別に俺が護衛をやってやるよっ!」
村の外に行ける。
最高に楽しい宝探しもできる。
この話、もう降りるわけにはいかない!
「ねぇ、ホリン、雷神の剣のところまで行ったらお弁当にしない?」
「その言葉を実は待ってた。で、中身は……?」
コムギの持つバスケットが気になっていた。
コムギはパン屋だ。パン屋の作る弁当って言ったらきっとアレだ。
「あたしが焼いたサンドイッチ! ホリンが好きなチーズサンドもあるよ。特別に厚めに切ってあげたんだから、感謝してよねっ」
俺はコムギに肩をグイグイと押されながら、村のあぜ道を軽く駆けた。
そうしてると、まるで無邪気な子供の頃に戻ったかのようだった。
絶対、俺がこの村とコムギを守らなきゃって、強く思った。
・
雷神の剣は、村北東部の高台にあるらしい。
だいぶ前に道が崩れていたので、俺はコムギの手を引いて傾斜面の上に連れて行った。
「それじゃ、取るよ、雷神の剣」
「お、おう……やってくれっ」
「なんでホリンが緊張してるの?」
「そういうコムギは、なんで平気でいられるんだよ……っ」
「だって、あたしただのパン屋さんだもん。そんな凄い剣、絶対に装備なんかできないよ」
そう言いながら、コムギは足下に手を伸ばした。
すると今回は俺にも見えた。
地面から上がってくる光をコムギが手に取ると、それがあの雷神の剣に変わった!
「はい、雷神の剣。ホリンにあげる」
コムギが引きずるように引っ張って、俺に雷神の剣を差し出してくれた。
「もーっ、重いんだからちゃんと受け取ってくれなきゃ困るよーっ!」
「く……くれるの、か……?」
いくらなんてもそんなの気前がよすぎないか!?
これ1本で、一生遊んで暮らせるんだぞ!?
「あたしにはこんなの使えないよっ、持って帰るのも無理だもん!」
「じゃあ……借りる……」
「あげるってば!」
「で、でもよ……。こんな凄い物、くれるって言われても……俺、何もお前に返せないぞ……?」
まずい返答だったのか、コムギは急に寂しそうな顔をした。
俺が受け取れば機嫌を直してくれるかと思い、差し出された剣を手に取った。
「わぁぁっ、ホリンって意外と力持ちなんだねっ!」
「あれ、これ、全然軽いぞ……?」
「そんなわけないよ。鉛みたいに重かったもん!」
「でもほら、片手で持てるぞ?」
軽々と雷神の剣を片手で掲げると、コムギが目を丸くして驚いてくれた。
ずっと昔から一緒だった妹分に、尊敬の目で見られるのは気持ちよかった。
なんかテンションまで上がってきて、俺はしっくりとくるその剣を振り回して手応えを確かめた。
いい……凄くいい……。
雷神の剣は、まるで黄金のように俺の手の先で輝いている……。
「ホリン、少し早いけどお昼ご飯にしよー?」
「お前っ、雷神の剣に少しは驚けよっ!? なんで食い気優先なんだよっ!?」
「いらないの?」
「いる!」
コムギはもう草むらに腰掛けて、バスケットを開けてサンドイッチを取り出していた。
俺はコムギの隣に飛んでいって、好物の山羊のチーズサンドを貰った。
アッシュヒルの濃厚なチーズを挟んだふわふわのパンを、天気のいい昼の日差しに照らされてほおばった。
「ロランさんきっと驚くね」
「だな! けど、なんて説明しよう……」
「拾ったって言えばいいんじゃない?」
「落ちてねーよ、こんなのっ!」
「でも落ちてたじゃない」
「そ……そうだけどさ……」
雷神の剣を鞘の上から胸に抱いて、最高の昼食を楽しんだ。
気持ちのいい日差しの下でこうしていると、誰よりも自分が恵まれているような気分になった。
「ねぇホリン、卵サンドも作ったの! はい、どうぞ!」
「お、おう……悪ぃな……」
俺をサンドイッチを差し出してくれるエルフの少女は、俺の知る誰よりも可憐だった。
同じ村で生まれた一番歳の近い男子として、俺はこの子を守りたい。
コムギの邪気のない笑顔を見ていると、そう強く思わずにはいられなかった。