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23/25

・目覚めるとそこは海賊船だった

 翌日、俺はあの男にハメられたことに気付いた。

 揺れる海賊船の船倉で、鳥かごのように天井から吊るされる牢に押し込まれ、途方に暮れた。


 俺たちを売ったのは、あの熊ネズミ亭の男だ。

 あの宿は奴隷商人と繋がっていた。


 俺もコムギ同様に捕らえられたと、見張りの海賊に聞いた。


 コムギが心配で胸が張り裂けそうだ。

 今頃おかしなことをされていないか、想像するだけで気が狂いそうだった。


 鳥かご型の牢は、俺が暴れると激しく揺れる。

 それが監禁者を消耗させる。

 頑丈な鉄の柵は、人間の力ではとても斬れそうになかった。


 せめてあそこにまとめられている俺たちの荷物、その中の雷神の剣さえあれば、船を焼いて切り抜けられそうなのに。


 そうだ、テレポートだ……!

 テレポートを使ってこのモクレンに飛ぼう。

 一度脱出して、陸からコムギを助けよう!


 そう思い先ほど魔法を使ってみたりもした。

 しかし結果は失敗だ。

 俺は牢屋ごと船倉から浮き上がり、天井に頭をぶつけて落っこちた。


 テレポートの魔法の弱点は、天井だった……。


 こうなってはもう手詰まりだ。

 今はチャンスをうかがうとしよう。


 空が現れた瞬間に、墜落覚悟でもう1度テレポートを使えばいい。


 俺はコムギのことばかり考えながら、ただただ脱出の時を待った。



 ・



「あ、ホリンだ」

「へ、その声は……んなっ、コ、コムギィッ?!」


 ところが船倉にコムギの声が響いた。

 願望が望んだ幻聴かと思えば、それは本物のコムギだった……。


 俺と一緒に騙されて捕まっているはずのコムギが、鳥かごに吊される俺を見上げていた。

 どうやって、脱走したんだ、コイツは……?


「声おっきいよ、ホリン。待っててね、すぐ出してあげるから」

「お前、閉じ込められてたんだよな……? どうやって外に出たんだ……?」


「ずばり、パンの力で!」

「……はぁっ?」


 コムギが奇妙な物を取り出した。

 それは焦げ目の付いたビスケットだった。


 コムギはそれを鉄格子に当てると、キコキコと斬り始めた……。

 俺は口を開けっぱなしにして、ビスケットが鉄を斬ってゆく光景を目の当たりにした……。


「お前のパン……もうなんでもありだな……」

「しかもいざとなったらこれ、食べられるんだって」


「お、おおっ、鉄格子が、パンで切れた……」

「へへーっ、どうだーっ、参ったか!」


「おう、参ったわ……。心の底からお前には降参だ……」


 これでコムギをまた守れる。

 ロランさんと爺ちゃん、ソフィアの前にコムギを連れ帰れる。

 安堵のあまりに俺は全身の力が抜けてしまった。


「なぁ、コムギ」

「なーにー?」


「フレイムで鉄をあぶってから切ればいいんじゃないか?」

「あんまり熱くするとビスケットが焦げちゃうよ」


 コムギが鉄格子を1本抜き取ってくれた。

 もう1本抜けば出られる。

 後は自分でやると、俺は彼女からビスケット型のナイフを受け取った。


「えっと、次はどうしよう……」

「盗られた装備と荷物ならあそこだ。全部持って強行突破だ!」


「え……。でも、あの海賊さん……いい人……じゃないかもしれないけど、そんなに悪い人じゃないよっ」

「普通の人は、俺たちをこんなところに閉じ込めたりしないっての」


 荷物へとコムギは駆けてゆき、その中から自分の棍棒を握った。

 竜の鱗も大切そうに首に戻していた。


「よっし、階段見張っててくれっ」

「キャッ、ちょぉっ、いきなり脱ぐなぁっ?!」


 牢を脱出すると、俺は着せられたボロ着を脱いだ。


「なんだよ、女みたいな声上げるなよ」

「あたしは女だってばっ! わっ、うっわぁぁーっっ?!!」


 下を脱ごうとすると、コムギは階段の見張りに出た。

 悪いけど今は急ぎたい。すぐに装備を調えたかった。


「おいクソガキ、あんまり調子乗ってるとブッ殺すぞ。あんまうるさくすると、兄貴が味見する前に、俺が――」

「えいっっ!!」


「フゴォッッ?!!」


 コムギが危険だと、半裸で雷神の剣を握ったところだった。

 けどコムギもやるようになったもんだ。


 物陰から棍棒を振って、海賊を1人片付けてくれた。


「ナイススィングッ、コムギッ」

「ああああ……やっちゃった……ぁぁ……」


「悪者をやっつけたんだから堂々としろよ!」


 見るとそいつは、捕まった時に俺の尻を触ってきた変態海賊だった。

 俺は雷神の剣、鉄の鎧、鱗の盾を身に付けて、コムギにはバッグを渡した。


「悪い、荷物持ち頼む」

「うん、わかった。あたしも何1つ渡したくない!」


 アッシュヒルの女はタフだ。

 荷物持ちくらいどうってことない。

 コムギは小さな身体で、奪われた物を全部持ってくれた。


「そだ、この船の番、今この人だけだって」

「なら急いでここを出ようぜ! 俺についてこい、コムギ!」


「助けてもらっておいて威勢がいいんだからっ!」

「だったら汚名返上させてくれ!」


 俺は船倉から駆け上がり、船の甲板を目指した。

 思っていたよりでかい船だ。階段を3つも上がることになった。


「おい、さっきアイツ1人だって言ってなかったか……?」

「わー……タイミング悪いね、あたしたち……」


 甲板に飛び出すと、俺たちはちょうど戻ってきた海賊たちと鉢合わせになった。

 蛮刀カトラスがやつらの腰から冷たい音と共に抜かれ、俺はコムギを背中でかばった。


「脱走か。おいガキども、俺のかわいいペッティちゃんは無事か?」

「え、誰?」


「おめぇの面倒を見させておいたウスノロだよ、エルフちゃんよぉっ!」


 俺は知りたくもない世界を想像してしまった……。


「アイツならコムギに棍棒で顔面ぶん殴られてたぜ!」

「ちょ、バラさないでよぉーっ?!」

「俺のペッティちゃんにっ、なんってことしやがんだこのクソアマァッッ!!」


 敵の数はざっと20名。このくらいなら十分にいける。

 兵舎での訓練といい、俺はどうやら外の世界ではかなり強いらしかった。


「そうだホリンッ、テレポートで逃げようよ!」

「悪い……。もう今日の分は使っちまったんだ」


「え、いつ!?」

「船の中で……。頭、ぶつけた……」


 テレポートは使えないと知ると、背中のコムギが不安そうに俺を見た。


「ビビんなよ、コムギ。今の俺たちなら勝てる!」

「そ、そうかな……?」


 海賊船の船長がサーベルを抜くと、ついに海賊たちが動き出した。


「野郎どもっ、ペッティちゃんの仇だ!! ぶち殺せ!!」

「殺してませんってばーっっ!」


 海賊どもが奇声を上げて突撃してきた。

 俺は前進してそいつらを迎撃した。


「落ちろ、稲妻!!」


 集団戦に持ち込まれる前に、そいつらの真ん中に雷を落としてやった。

 甲板が燃え上がった。


「卑怯だぞテメェ!! 俺のペッティちゃんを陵辱した上に甲板を……っ、お、お前ら何やってんだっ、早く火を消せーっ!!」

「コムギ、そこのマストにフレイムを撃ってやれよ?」

「え、そんなことしたら、火事になるよ……?」


「火事にしてやるんだよ、そしたらそっちに手一杯になるだろ」

「えっと……。じゃあ……フレイムッ!!」


 海賊船のメインマストに、コムギが持久力バッチリの炎魔法フレイムを放った。


「お、おおおおっ、俺の船がああああーっっ?!!」


 海賊からすれば、炎魔法使いっていうのは最悪の存在だろうな。

 大切な船に火を放たれ、魔法の炎を消そうとバケツリレーが始まった。


「ぶっ殺してやる!!」

「だ、だって、ホリンがやれって言うから……っ」

「かかってこいよ、おっさん!」


「海賊を舐めるな、クソガキ!!」


 船長は消火を配下に任せ、俺に一騎打ちを挑んできた。

 やつはこちらの攻撃を紙一重でかわし、すかさず反撃を仕込んでくる。


 中年臭い見た目の割に強かった。

 ヤツと俺は剣と剣を打ち鳴らし、時に回避し、仕切り直した。


「ロランさんほどじゃないな」

「なんだぁ?」


「ロランさんと比べたら、お前なんて犬のうんこだ!」

「誰だよ、そのロランってクソ野郎はよぉっ! 俺は最強だぁぁっっ!!」


 そういう狙いはなかったんだが、俺の挑発が活路を開いた。

 我を忘れた船長は無謀な身のこなしでこちらに迫り、怒り任せのサーベルを振り下ろした。


 身軽な俺は滑り込むように身を落とし、その一撃を鱗の盾で受け流した!


「痺れろっ!!」

「ギャーーッッッ?!!」


 後は雷神の剣で雷を落とせばダウンだった。


「船長が……船長がやられた……」

「あのガキ、田舎者臭いけどやたら強いぞ!?」

「か、囲め! 囲んでみんなで叩きのめせ!」


 広い場所で戦ったら不利なだけだ。俺はコムギの前に引き返した。

 やつらは消化を数人に任せ、俺たちの前に迫った。


 しかしその時、彼方より爆音が(とどろ)いた。

 海の彼方から何かが飛来し、それが甲板に激突すると、船が激しく揺れることになった。


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