・夜のモクレンを二人で過ごした
夕過ぎになると、コムギと大衆レストランで食事にした。
食いしん坊のコムギはメニュー表とにらみ合って、迷いに迷った後に『ツナのバターソテー』を頼んだ。
それは癖のない魚料理で、コムギはそれをパンに挟んで美味しそうに食べた。
「う、美味いな……っ、もうちょっとくれ!」
「じゃあホリンのもちょうだい」
俺はコートレットを頼んだ。
手間のかかる料理で、まだ俺のテーブルには届いていない。
「ホリン、頼んだ料理の正体知ってるの?」
「知ってるぜ、ロランさんのオススメだからな!」
「ああ……。仲がいいことで」
「おう、俺たちは最高の師匠と弟子だからな!」
コムギは俺に呆れていた。
ロランさんと俺は信頼で結ばれている。関係を誇らしいと思って何が悪い。
ロランさんについての話が盛り上がると、給仕の女の子がコートレットと追加のパンを運んでてくれた。
コートレットは牛肉の揚げ焼きだ。
薄切りの肉にパンクズをまぶして、バターで焼いた料理だ。
「う、美味い……。俺、モクレンにきてよかった……。お前にもやるよ!」
もちろんコムギにも食べさせてやった。
てか元を正せば、これってコムギが宝箱から稼いだ金で注文した食べ物だしな……。
「ホリンッ、これパンにはさむともっと美味しいよっ!」
「本当かよっ!?」
コムギのまねをして食べてみると、確かにありだった。
ザラザラとしたコートレットがやわらかなパンに包まれて、触感が複雑になるところがいい。
パンと揚げ物の相性も最高だ。
「んん~っ、これはこれでありかもな……! これ、アッシュヒルに戻ったら作ってみてくれよ、コートレットサンド!」
「うん、あたしも同じこと考えてた! ……手間、だいぶかかりそうだけど」
楽しい夕ご飯だった。
サイドメニューのフルーツオレは、コムギと同じのを頼んだのを後悔する甘さだったけどな……。
「あ、甘過ぎるだろ、これ……」
「え、そう? だったらちょうだいっ」
「え、あ、おう……」
純粋なくせに、こういうことは気にしないんだよな、コイツ……。
レストランでの楽しいひとときを過ごすと、いちいち店の人に美味しかったとお礼を言うコムギと一緒に、夜の町に出た。
店の人から教わった高台から、夜の海をコムギと眺めた。
真っ黒な海に月光が微かに反射して美しかった。通りにそって灯火が浮かぶモクレンの夜景も。
宿に戻るのが惜しいくらいだった。
だから俺たちは、眠くなるまでその高台で粘った。
「また明日ね、ホリン……」
「ちゃんと鍵閉めろよ? ここで見てるからな?」
「わかってるよ。それよりホリンこそ1人で寝れるの?」
「もう眠い……。おやすみだ、コムギ」
「あたしも同じ。おやすみ、ホリン……」
俺たちは宿に戻り、部屋の鍵を閉めて、別々のベッドで眠った。
明日は町で買い物をして、爺ちゃんやロランさんを心配させる前にアッシュヒルに帰ろう。
そう決めて、俺は寂しさと物足りなさを覚えながらも寂しい部屋で眠った。