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・兵舎に潜り込んで海を見た

 港へのゆったりとした下り坂を進んだ。

 道が左右へとやたらにくねっているのは、荷馬車や台車を走らせるためだろう。


 だがそのせいで俺たちは海をいまだに拝めなかった。

 しかしどうしても見たくなってきて、俺たちは建物の隙間に入り込んでその向こう側を眺めた。


「で、でかぁぁ……っっ!?」

「嘘だろ……。向こう岸が見えねぇぞ……っ?」


 海は巨大だった。

 ロランさんが言う通りの、青く巨大な湖がどこまでも広がっていた。


 さらにその先に気になって隙間を抜けると、俺たちは船と呼ばれる物を見た。

 近隣の建物よりも巨大な船が海の上にいくつも浮いていた。


「で……でけぇ……」

「あんなに大きい物、どうやって作ったの……? どうやって海に浮かべたの……?」


 世界の広さに俺たちは驚愕した。

 ロランさんはあの海の向こうからきたんだって思うと、ますますロランさんが凄い人に感じられた。


 あの先のどこかに、ロランさんの故郷がある……。


「けど1つ謎は解けたな。通りを行き交っているあの大量の荷物、あの船から出し入れされてるんだ」

「ねぇ、ホリンッ、もっと近くで見てみたいねっ!」


「おう、行くか!」

「あっ、ちょうどこの先にお宝があるよ!」


「お、どのへんだ?」

「えっとね……あそこが港で、そこが教会だから……。あの大きな建物のお庭!」


 コムギの指を目で追った。


「おい、本当にあの建物なのか……?」

「うん、間違いないよ。あそこのお庭に、ちょっとだけだけど草が生えてるところあるでしょ? あそこに次の宝があるみたい」


 広い敷地に何人もの男たちが集まっている。

 時々キラリと輝くあれは、剣の反射だろう……。


「あれ、軍の兵舎だろ……」

「へいしゃ? あ、それブラッカにもあったやつ!」


「あれ、民間人は頼んでも入れてくれないと思うぞ……」

「そうなの? 大丈夫だよ、誠意を込めて言えばわかってくれるよ」


「わかってねーのはお前だってのっ!」


 コムギのお庭拝見作戦を却下して、俺は浸入作戦を立てた。

 やることは簡単だ。

 俺は稽古を求めてあそこに殴り込みをかけて、その間にコムギが宝を回収する。


 あそこにある宝は、兵舎に乗り込むリスク取るだけの価値があった。


「じゃあ行くけど、気を付けてね?」

「お前は自分の心配をしろ」


 俺たちは監視もなく開け放たれていた兵舎の門をくぐり、別行動を始めた。

 俺は訓練中の兵士たちの前に乗り込んで、注目が集まると声を張り上げた。


「なあっ、俺にも剣を教えてくれよ! 俺、田舎からきたんだけどもっと強くなりたいんだっ!」


 都会のルールがわからない田舎者のバカを演じた。


「お、なかなか威勢の良いやつだな」

「いいぜ、若いやつは大歓迎だ。……さあかかってこい!」


 教官風の男が俺に訓練用の剣を投げてくれた。

 それを受け取り、俺は彼と対峙した。


「お……なかなかやるな、田舎もん」

「へへへ、村じゃいつも鍛えられてるっすから」


「ほぅ、良い師匠のようだな。お前の剣はそれなりに洗練されている」

「ほ、ホントっスか!?」


 俺は教官と呼ばれる男と対等に張り合った。

 いや、違う。

 その気になれば押し切れそうな自分に驚きを覚えながらも、俺は対等に見えるように演じた。


「やるじゃねぇか、小僧!」

「教官と張り合うってこたぁ、俺より強いんじゃないか!?」

「田舎者のくせにやるなぁっ!?」

「むぅ……面白い。ジャック、交代だ! 彼と相手をしてやれ!」


 そのジャックってやつは、教官よりも弱かった。

 つまり教官と張り合った俺は、コイツには勝っていい。

 俺はジャックを打ち負かした。


「レナード、次!」

「ちょ、連戦っすか!?」


「殴り込んできておいてよく言う。お前、名前は?」

「……ホ、ホリンっす」


 偽名を使う必要はないと思った。


「ホリン、お前は良い剣士だ。良い師匠に恵まれたな」


 次から次へと教官に対戦相手をあてがわれた。

 兵士たちはお祭り騒ぎみたいにこの事態を楽しんでくれた。


 彼らは戦いを観戦して、ヤジを飛ばすのが好きな人種のようだった。

 俺も我を忘れて対戦に打ち込んだ。


「あれは?」


 ところがそこにコムギの声が聞こえてきた。

 コムギのやつは、位の高そうな兵隊と並んで歩いていた。


「活きのいい若造が乗り込んできたらしい。おい、だらしないぞ、お前たち!」

「た、隊長……だけどコイツ、妙に素早くて……!」


「隊長さんだったんですか?」

「給料はやつらと同じだ。さ、他で遊ぶといい」


「ごめんなさい、隊長さん」


 コムギが一瞬だけ俺に微笑んだ。

 お宝が見つかったようだ。


 俺は疑わないように再び訓練に打ち込んで、兵舎の連中ともう少し楽しんでからその場を離れた。


「またこいよ、ホリン!」

「次は負けないからな!」


 気のいい連中だった。

 外の世界は悪人ばかりじゃないと言うコムギの言葉に、俺は気持ち半分だけ同意したくなった。


「やるよ」

「えっ、いらないのっ!?」


「それはこっちのセリフだ。いらないのかよ?」

「いるっ! これかわいいっ、貰っていいのっ!?」


 兵舎に潜入してでも欲しかったアイテム『竜の鱗』は、思いの外にコムギの好みだった。

 その鱗は虹色の光沢を持っていて、コムギはその輝きに夢中だった。


 だから俺も欲しかったけどコムギに譲った。


「けど疾風の靴は俺にくれよっ。強くなるパンもちゃんと俺に回せよな!」

「うんっ、わかった! ありがとうホリンッ、あたし大事にするっ!」


 コムギは竜の鱗を首から吊して、幸せそうに跳ねるような足取りで海へと歩いた。

 海も港ももう目前だ。


 あの独特の臭い匂いも強くなっていた。

 コムギは何度も首から下の竜の鱗を見下ろして、天真爛漫に笑った。


 海も悪くないなって、その姿を見て思った。


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