・セクシーな草を手に入れた
あのユリアンって男、いったい何者だったんだろう。
部屋のベッドに横たわって、俺はぼんやりと考えた。
アイツは腰に剣と、それに妙な筒を吊していた。
それにあの異常な体力、凄みのある威風、あの男はただ者じゃない。
だが信用できるかはわからない。
町の連中の反応からして、この先ユリアンと出くわしても関わらない方がいい。
俺は少し休み、休み終わると気合いを入れ直して部屋を出た。
マジで薄暗い廊下だ。
ランプくらい置いてくれてもいいのに、なんかケチ臭い店だった。
「おいコムギ、きたぞー」
「あ、開いてるから入ってー!」
「いや閉めろよっっ?!」
俺はコムギの部屋に乗り込み、マジで施錠されていないドアにあきれ果てた。
どうしてこいつは、いつもこうなんだ……。
俺は頭を抱えた……。
「いいか、コムギ……。ここは、アッシュヒルじゃ、ないんだ……。わかるか……?」
「うん、わかってるよ?」
「全然わかってねぇっ! 鷹の目のあのおっさんだって、治安が悪いって言ってただろっ、頼むから鍵だけはちゃん閉めろっ!!」
コムギの首が小さくかしげられて、元に戻った。
コムギは反論しなかったが肯定もしなかった。
「行く? お宝探し」
「おう、付き合ってやるよ!」
どうやったらコイツは、外の世界は危険だと理解してくれるのだろう……。
支度を始めるコムギと一緒に、俺は廊下に出て熊ネズミ亭を出た。
「ところでコムギ、次の隠しアイテムはなんなんだ?」
「あっ、見つけたよ! あそこの木の陰みたい!」
港のある南ではなく北に進んだ。
こちらは住宅街のようだ。
あの目には見えない本を頼りにコムギはあちこちをさまよって、やがて裏通りで宝を見つけた。
「……おい、そんだけか?」
「うん。これでモクレンの北側は終わり。港の方に行こ!」
現れたのは大銀貨が3枚。たった3Gだった。
「それ、後回しでもよかったんじゃないか……?」
「ダメだよ。全部綺麗に拾わないとなんかスッキリしないもん」
「そういうもんか?」
「そういうものだよ」
「わかるような、わかんないような……。その本が見えてるお前からすると、そうなのかもな」
今度は海の方に行くらしい。
迷わないように大通りに出て、恐ろしく賑やかな往来を田舎者2人で歩いた。
信じられない量の物資が行き交っている。
モクレンは見たこともない物でいっぱいだった。
「なんかこの町、魚臭ぇな……」
「魚の干物の匂いがするね」
海は独特の匂いがすると、訓練の休憩中にロランさんに聞いた。
ロランさんはいい匂いと言っていたが、俺にはどうも合わない……。
「おい、前を見ろ……。もうしょうがねぇな……」
「あ、ごめん……。あ……」
人通りが多かったので横に並ばずにコムギの手を引いて歩いた。
コムギは人混みが苦手だ。
触れられて嫌がっているような素振りはなかった。
「ねぇ見て、あの店、色んな色の粉を売ってる!」
「おや。これは香辛料だよ、お嬢ちゃん」
「へーー!」
「後にしろ、後に。荷物がいっぱいになるだろ。それより次の隠しアイテムは?」
「その先。右に曲がったところのお花畑」
「花畑……?」
コムギが俺の手をふりほどき、前に出た。
そしていきなり元気に走り出すから困る……。
当然俺は後を追い、少し先で花々が活けられた広場を見つけた。
モクレンの憩いの場、といった感じだった。
「ホリン、あの草見える?」
「いや、どの草だよ……」
「光ってる草」
「んなのあるわけねーだろっ?!」
つまり俺に見えないってことは、それがお宝なんだろう。
コムギが土を掘り返すと、突然そこに桃色のスズランに似た花が現れた。
「何もないところから花が現れた……。ホント不思議だな、その力……」
「凄いのはあたしじゃないよ、攻略本さんだよ。鉢植えを買って帰ろ」
「戻るのか? ま、干からびたら困るしな……。一度そうすっか」
鉢植えが見つからないのでコムギは小鍋を買った。
そこに土を入れて、あの『セクシー草さん』とやらを植え替えた。
鍋に入れられ、宿の窓辺で光に照らされるその花は、少しシュールだったがコムギが気に入るだけあって綺麗だった。