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16/25

・俺たち、なんか強くなっていた

「あれ……。ホリン、あれ見て、なんかローブをきた人たちがこっちにくるよ」

「な、なんだありゃぁ……っ」


 大木ばかりの影の森林道に入ると、俺たちは奇妙な連中を見つけた。

 それは抹茶色のローブを着た不気味な連中だ。


 皆が同じローブ、同じ杖を持ち、不安定に左右に揺れながら歩く。

 さらに観察すると体格も皆同じで、骸骨のように痩せた顔はシカバネのような色だった。


 数は8。そいつらはロランさんに教わった特徴に合致していた。


「こんにちはー、ブラッカに行くんですかー?」


 コムギがのん気に声をかけると、敵が杖を掲げた。

 ヤバいと感じて街道脇の木陰にコムギを引っ張り込むと、アイスボルトの魔法がその木の幹に着弾していた。


「バカッ、顔を出すなっ! あいつらはマホウツカイって名前のモンスターだよ!」


 1体ならなんでもない敵だけど、8体はさすがに多すぎる。

 敵のアイスボルトが矢の嵐となって俺たちを襲い、木の幹を氷のハリネズミに変えた。


「あんなの人間にしか見えないよ!?」

「あんな顔色の悪い人間がいてたまるか!」


 あの数に遠距離攻撃をされては近付けない。

 俺1人なら森の中に入って攪乱できるが、俺の後ろには守らなきゃいけないコムギがいる。


 俺はどうやって、この場を切り抜ければいい……?


「ふふーん、ここの魔法使いのあたしの出番かな! ホリンは隠れて見てるといいよ!」

「こ、こらっ、お前は俺が守る――」


「今度はあたしがホリンを守ってあげる!」

「な、なんだってーっ?!」


 そうだった。

 俺の幼なじみは、黙って男に守られるようなたまじゃないんだった。

 そこが頼もしくもあり、コムギの不安な部分でもあった。


「フレイムッ! 当たれーっ!!」


 コムギはフレイムの魔法をマホウツカイに放った。

 大きな火の玉となったそれは、怪物の全身を炎で包み込み、瞬く間に宝石へと変えた。


 危険なモンスターを魔法1発で倒してしまうパン屋に、俺は戦闘中だというのに驚き呆気に取られた。


「お、お前の魔法……結構威力あるんだな……?」

「うん、あたしも驚き……。こんなに凄かったんだ、お母さんに教わった魔法……」


 フレイムは長時間燃え続けるという特性がある。

 パン屋にもってこいこの魔法は、攻撃魔法として見るとかなりエグい……。


 アイスボルトをかいくぐってもう1発コムギがフレイムを放つと、マホウツカイはまたもや1撃で宝石に変わっていた。


「おい、あいつら突っ込んでくるぞ! コムギ、お前は後ろの木を盾にしろ!」

「えっ、ホリンは!?」


「やつらを攪乱する!」


 俺は囮となって姿を現すと、雷神の剣を使った。

 激しい落雷が突撃してきた敵を吹き飛ばしたが、マホウツカイはそれだけでは死んでくれなかった。


 どうやらおかしいのはコムギの魔力のようだ。

 後ろに下がったコムギが再びフレイムを放ち、一撃で敵をほふっていった。


 これじゃ護衛の俺の立場が――


「ホリンッ、後ろ!」


 叫びに驚き振り返ると、マホウツカイに杖で頭をぶっ叩かれた。


「あれ、こいつら……弱いぞ?」


 かなり強く叩き付けられたはずなんだが、大した痛みにはならなかった。

 雷神の剣で反撃を入れると、今度は宝石に変わってくれた。


「なんだ、魔法だけ気を付ければザコじゃん、コイツら。そうとわかったら片付けるぞ、コムギ!」

「ちょ、ちょっとぉ……っ?!」


 俺は鱗の盾を構えて、マホウツカイたちに突撃した!

 この数ならば問題ない。敵のアイスボルトは、全てコムギがくれた鱗の盾で受け流した。


 敵は苦し紛れにまたもや俺を杖で殴ってきたが、こっちはなんともなかった。

 俺とコムギは力を合わせて、敵を各個撃破していった。


「ふぅぅ~~! これで最後だな、やったなっ、コムギ!!」

「う、うん……。大丈夫、ホリン……?」


「余裕余裕! 俺たちってこんなに強かったんだな!」


 後ろを振り返ると、コムギのやつはまた宝石を拾ってポケットに移していた。

 暗い緑色の石を木漏れ日に掲げて見上げる姿が、宝石なんかよりも綺麗に見えた。


「えへへ……。子供たち、喜ぶだろうなぁ……」

「それ、売らないのか?」


「なんで?」

「なんでって……。売った方が金になると思うけど……」


「そうかなぁ……。お金より、おみやげにした方がみんな喜ぶと思うけど!」


 コムギにとっては、宝石はちょっと綺麗な宝石くらいの認識なのだろうか。

 あれだけの修羅場をかいくぐったというのに、コムギは息一つ乱していなかった。


「ねぇホリン、この森なんか物騒だし、ちょっと走らない……?」

「いいぜ。でも疲れたら言えよな」


「こっちは鎧を着てるホリンを気遣ったつもりなんだけど……?」

「男が女に負けるかよ、ちょうどいいハンデだ」


 風車の仕事とロランさんとの訓練が俺の日常だ。

 たとえ鎧を着ていてもコムギに体力で負けるはずがない。


「あっ、こらっ! 先頭は俺だろっ! 待てって、危ないだろが!」

「えへへっ、そうと決まったら早くいこうよっ、ホリン!!」


 コムギがいきなり無茶なペースで走り出した。

 俺は後を追って、その背中を追い抜こうとした。


「ホリン、凄い! 鉄の鎧とか装備してるのに全然バテないねっ!」

「待てって言ってるだろ……っ、俺はお前の護衛役だろ……っ!?」


「へへへーっ、追い抜けたら考えてあげる!」

「な、なんなんだよぉーっ、その体力はよぉーっ!?」


 どうもおかしい……。

 いくら走ってもコムギが息を乱さない。


 半ば追いかけっこの状態で始まったというのに、コムギはリードを譲らなかった。


「お、お前っ、お前こんなにタフだったかっ!?」

「ふふふっ、それはホリンもでしょ?」


 俺がペースを上げると、コムギまで加速する。

 しかもコムギは少しも苦しそうな顔をしない。


 それでも俺は悔しくて、コムギを追い抜こうと森の中を駆け抜けた。


「森、抜けちゃったね」

「ク、クソ……ッ、ただのパン屋に負けた……」


 森を抜けるとそこは広大な草原地帯だった。

 追いかけっこに満足したようで、やっとコムギはペースを落として肩を並べてくれた。


 俺たちはその先も走った。

 男が女に体力で負けるわけにはいかないので、ここで弱音なんて吐けなかった。


「疲れたら言ってね、ホリン」

「よ、余裕だし……。お前にだけは負けねぇ……っ!」


「もう、負けず嫌いだなぁ……」


 しばらく走ると、やっとコムギのやつも息を乱し始めた。

 俺たちはペースを少し緩め、言葉を交わしながら道を進んだ。


 草原を抜けた先は石と砂の荒野だった。

 道が緩やかな上り坂となり、看板とT字路を見つけた。


 北に行けば王都、このまま東に行けば港町モクレンとある。


「王都もいつか行ってみたいね」

「おう、そんときは俺を連れてけよ。1人で行こうとすんじゃねーぞ?」


「えへへっ、はいはい、わかりましたよーっ!」


 モクレンまで後少しだ。

 俺たちはさらに街道を東に進んだ。


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