・赤い街道を二人で歩いた
大股で元気に歩くコムギと一緒に、まぶしい朝日を正面にして街道を歩いた。
こうしているとなんだか不思議な感じだ。
俺たちはついさっき村を旅立ったばかりなのに、もうモクレン東の街道にきている。
しかもそれは俺の魔法がもたらした奇跡だというのだから、どうにも不思議でならなかった。
コムギの力になれて嬉しいと思う一方で、まだ夢でも見ているかのような気分だった。
「そういえばお前、鎖鎌は……?」
「ダンさんにあげちゃった。だってあれ、重いし、かわいくないし、鉄臭いんだもん」
「あげたってお前な……。あれ、結構高いやつなんだぞ……」
「だから?」
「なんでお前は、なんでもかんでも人にほいほいあげちまうんだよ……」
コイツ、その気になれば自分が億万長者になれることに、まだ気付いていないのか……?
コムギの宝探しの力は、コムギの人柄とは正反対の力だった。
「それ、あたしから雷神の剣をねだったホリンが言う?」
「うっ……。そこを突かれると、うぅ……ぐうの音も出ねぇけどよぉ……」
俺は腰の雷神の剣に手をかけて、あらためてコムギに心の中で感謝した。
コムギの手には棍棒がある。
彼女が強欲な人間だったら、雷神の剣は彼女の腰にあっただろう。
「それにホリンが守ってくれるんでしょ。鎖鎌なんてなくても大丈夫だよ」
「おう、お前に怪我なんてさせたら、爺ちゃんとロランさんにぶっ殺されちまう!」
比喩抜きできっとそうなる。
俺は雷神の剣を朝日に掲げて、勇ましい黄金色の輝きを確かめた。
それからふと、思った。
「ロランさん……最近お前にやさしくないか……?」
「え……? あー、言われてみればそうかも。お店も手伝ってくれるし……」
「ロランさん、お前を見る目が……。なんか変だ……」
以前と比べると、やけに長くコムギを見つめるようになった。
訓練中にコムギのパン屋を丘から見下ろすことも、目に見えて増えていた。
「き、気のせいだよ、ホリン……。ロランさんがやさしいのはいつものことだし……」
「そうだけど、お前を見る目がなんか、やさし過ぎる……? なんでだ……?」
ロランさんには謎が多い。
俺が剣を教えてくれと必死でせがんだから、ずっと村に滞在してくれている。
そう思っていたけど、最近よくわからなくなってきた。
「あっ、スライム!」
コムギの言葉を聞くなり俺は剣を抜いた。
コムギは棍棒を握り締めて、あたふたしながら俺の前に出ようとしていた。
「前に出るなっ、俺がどうにかする!」
「で、でもっ、ちっちゃいけど10匹くらいいるよっ!?」
「下がってろ!」
「う、うん……わぁぁっ?!」
スライムなんて束になっても俺の敵じゃない。はず。
俺は前に出て敵を引き付けた!
次々と飛びかかってくるスライムたちを、1匹ずつ返り討ちにしていった。
最後の1匹に先制攻撃を仕掛けると、後に残ったのは10粒の小さな宝石だけが残った。
『カッコイイ……』と、コムギが小声でつぶやいたような気がした。
「お、俺……俺、つええ……。修行、今日までがんばってきて、よかった……」
俺は感動した。
スライム10体を無傷で瞬殺する自分自身に驚いてしまった。
俺は俺が思っていたよりもずっと、強くなっていた。
「スライム相手にそんなに感動しなくても……」
「でも強かっただろ、俺! 俺、今スッゲーかっこよかったよな!?」
「はー……。せっかくかっこよかったのに、台無しだよ、ホリン……」
「へへへっ、ありがとよ!」
コムギは辺りに散らばった宝石を拾った。
財布ではなく自分のポケットに入れると、嬉しそうに元気良く立ち上がって俺に笑った。
「行こうよ、ホリン」
「ああっ、モクレンまで俺に任せとけ! 俺が全部やっつけてやるよ!」
「ホリン、調子に乗りすぎ……」
モンスターが出るとわかったのに、コムギは俺と並んで歩こうとした。
それではコムギを守れないというのに、彼女はいつものピクニック気分で危険な旅を楽しんでいる。
俺の方はもっとモンスターをやっつけたくなった。
ロランさんに教わった技を駆使して、コムギにいいところを見せたくなっていた。
「敵、いたか!?」
「いないと思うけど……」
「安心しろ、俺が守ってやるからな!」
「はぁ……っ」
後から考えれば、その時の俺はだいぶガキっぽかったかもしれない……。