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13/25

・体力のジャムパンがただの村人を巨人に変えた

 それからまた日々が過ぎ去り、爺ちゃんからある話を聞くことになった。

 コムギはジャムパンってやつを村のみんなに無料で振る舞うそうだ。


 俺はピンときた。

 そのジャムパンには、きっと特別な力があるんだと。


 俺は爺ちゃんに頼んで、自分の分を取り置きしてもらう約束をした。

 ところがそんな修行の日々の午後、魔女の森に巨大なモンスターがまぎれ込んだ。


「婆ちゃんっ、フィー、無事かっ!?」

「はわぁっ、おにいちゃん強いのです! 意外に……」


 それは豚に似た巨大な亜人、オークだった。

 俺は雷神の剣で不意打ちの雷を落とし、動きが鈍った隙にオークを斬った。


 敵は倒れ、魔女のばあちゃんが追撃を入れると宝石に変わっていた。


「今、意外に、って言ったか?」

「い、言ってないですよーっ、全然、そんなこと思ってないですよーっ!?」

「ホリン、アンタは村の様子を見てきな……」


「え……? あ、そうか、同じようなやつが村に行ってたら大変だ!」

「ヒェヒェヒェ、がんばりな……。アンタとロランの努力が、正しかったと証明するチャンス……ありゃ? 人の話を最後まで聞かないところは、ヨブにそっくりだねぇ……」


 俺は駆けた。村のみんなを守るために塔から村を目指した!

 そしたら見つけた! あれは、少し色が違うがオークだ!


 って、なんでコムギまでいるんだよっ!?


「コムギッ、逃げろっ!!」

「へ……?」


 あのオーク、他の個体とは違う。明らかにでかい!

 あれがコムギを襲ったら、殺されてしまうかもしれない!


「俺のコムギから離れろっ、このオーク野郎ッッ!!」

「えっ、まさか、ホリンッそれ違……っっ」


 俺は雷神の剣を抜き、巨体に怯まずに敵に突撃した!


「う、あ……」


 どこかで見た顔だがきっと気のせいだ。

 俺の知り合いに、こんなにでかいやつはいない!


 よって、斬る!!


 いや、ところが、だった……。

 オークと俺との間に、矢よりも早く飛び込んでくるモノがあった。


「ロ、ロランさん……っ?」


 ロランさんは俺の剣を素手で止めてしまった!

 なんでロランさんが怪物をかばうのかわけがわからない!


「このバカ孫がッッ!! 成敗ッッ!!」

「爺ちゃんっ?! うわあああああっっ?!!」


 おまけに爺ちゃんまで現れた!

 爺ちゃんは俺の背後に回り込むと、腰をつかんで、なぜか俺を空へと投げ飛ばした!


「ぐぇっっっ?!!」


 わけがわからない……。

 身内に投げ飛ばされて、俺は地の上を転げ回った……。


 顔を上げるとコムギが駆け寄ってきた。

 コムギは少し心配そうに俺のことを見下ろしていた。


「ホリン、ついてなかったね……」


 オークの姿をよく見た。

 そのオークは、村の働き者の農夫のダンさんによく似ているというか……完全にそのままの顔をしていた。


「なんなんだよ……っ!? あれって、ダンさんだよなっ!? なんで、オークみたいにでっかくなってんだよっ!?」


 犯人は俺の目の前にいた。


「えっと……。ごめん……」

「またお前かよ……っ」


「体力のジャムパン、作ってみたの……。そしたら、ああなっちゃった……」


 コムギのやつは俺をいたわってくれた。

 土埃を払ってくれた。


 申し訳なさそうに手を差し伸べてくれたので、それを頼りに俺は立ち上がった。

 10日ぶりのコムギは、いつもと変わらない様子で俺のことを見つめていた。


 いや、けどよく見ると……。


「コムギ、お前痩せたか……?」

「えへへ、そう……? ありがとっ!」


「褒めてねぇよ、痩せて心配だって言ってんだよ……っ」

「へへ……心配してくれてありがと!」


「お、お前な……」


 やたらに前向きなところも相変わらずだ。

 コムギはいつまでもいつまでも俺を見つめて、ずっとニコニコとしていた。


「それにしてもロランさん、凄かったね」

「おう……。俺の雷神の剣が、まさか手だけで止められるなんて……。少しはロランさんに追い付けたと思ったのに……」


 俺とロランさんの力の差は歴然だった。


「ホリンの倍も生きている人だよ? 追い付けなくて当然だよ」


 コムギのやわらかな両手が俺の手を包み込んでくれた。

 目線を上げると、コムギは慰めも忘れて目をつぶって何かに安堵していた。


 巨人となった農民ダンさんが申し訳なさそうに頭を下げ、爺ちゃんとロランさんも俺たちに微笑んで立ち去っていった。

 俺はコムギが落ち着くまで好きにさせることにした。


「あれっ、ダンさんとロランさんは……?」

「二人なら何も言わずに帰ってったぞ」


「えーっ、一声かけてくれたもいいのに!」

「気を使ったんだろ……」


 コムギは俺の手を離して、彼方に見えるみんなの後ろ姿を確かめた。

 ダンさんは、遠くから見ても異常にでかかった。


「ホリン、修行終わりそう?」

「もうちょっとだと思う……。てか、俺、塔に戻るよ」


「え……。もう戻っちゃうの……?」

「魔女の婆ちゃんと、ソフィアが無事か気になる」


 俺の役割はこの村を守ることだ。

 誰に命じられたわけでもない。

 俺がそうしたいと思ったからそうしている。


「ホリン、それなら魔女さんに伝言をお願い。魔女さんの木イチゴのジャム、ジャムパンにしたらみんな凄く喜んでた! って伝えて!」

「おう、ざっくり伝えておくぜ! ……じゃ、また今度な」


「うん……またね、ホリン……」


 さあ戻ろうと決めると、別れが惜しくなった。

 すぐに背中を向けて塔に戻らなければならないのに、その気になれなかった。


 俺は足下を見下ろし、胸に浮かんできた感情を確かめると、顔を上げてコムギに迫った!

 強引だったのが悪かったのか、コムギに一歩逃げられた。


 だが俺は引き留めるようにコムギの手を握った。


「コムギ……」

「は、はい……。じゃなくて、何……?」


「待たせて悪いっ! 俺っ、修行がんばって、魔女の婆ちゃんを納得させるからよ! もうちょっとだけ待っててくれっ!」


 コムギは旅を楽しみにしていた。

 なのに俺がふがいないから待たせてしまっている。


 それにこうして顔を見たら、また一緒に旅がしたくなった。


「うん……。わかった! 次の町、楽しみだね、ホリン!」

「おうっ、絶対一緒に行こうぜ! んじゃ、またな!」


 これ以上ここにいたら、マジでホームシックになってしまう。

 俺はコムギに背中を向けて、振り返らずに魔女の塔を目指して走り去った。


 がんばろう。

 長距離移動魔法テレポートを上達させて、コムギと新しい旅に出よう。


 俺は魔女の塔に戻ると、ソフィアと一緒に再び訓練に打ち込んだ。


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