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12/25

・コムギと離れ離れで、魔女の塔で修行を始めた

 魔女の婆ちゃん、アルクエイビス様のところで修行の日々を過ごした。

 塔の頂上で朝から昼まで瞑想をさせられたり、得体の知れないドロドロの煮汁を飲まされたり、魔法の使い方の初歩を叩き込まれた。


 まだ9歳の小さな魔法使いソフィアと一緒にだ。


 魔女の婆ちゃんは少し不気味なところはあるけど、口が悪いだけで本当は親切な良い人だ。

 けれど魔法の師匠となると、それは鬼婆もいいところだった。


()……っっ?!」

「お前さん、コムギを空から落っことす気かいっ!? しっかりやりな、ヨブの孫!」


「お、おうっ!」

「言った側から魔力がブレてるよっ! ハーフエルフのくせに、なんだいその体たらくはっ!」

「お、お師匠様、ホリンお兄ちゃんは……ぴぇぇっっ?!」


 お、恐ろしい人だ……。

 俺はフォローしようとしてくれたソフィアに微笑んでお礼をした。


「まったく……若い頃のヨブに似て、憎たらしい顔さねぇ……!」


 魔女の婆ちゃんにしごかれて、俺はロランさんのやさしさを再認識した。

 アルクエイビスの婆ちゃんは、飴と鞭の使い分けがとても上手い人でもあった……。


「ヒェヒェヒェ、よくがんばったねぇ。その顔以外は、まあ合格点さ……」

「お疲れさまです、ホリンお兄ちゃん!」


「今日の昼食は、ドングリのホワイトシチューだよぉ」

「わーいっ、お師匠様のシチュー大好きなのです!」


 苔とか、ドングリとか、得体の知れない根を食べることにも慣れてきた。

 美味いとは思わないけど、どれも一応食えるって感じの味だった。


「えへへー、おにいちゃんがきてからー、おねえちゃんのパンがいっぱい食べられて、ソフィーは幸せなのですよーっ!」

「ヒェヒェヒェ、ヨブのジジィの顔は毎日拝みたいもんじゃないけどねぇ……」

「いつも爺ちゃんがやかましくてすんません」


「ま! ヨボヨボの死にかけだった頃よりはいいさ!」

「ははは、まったくっすね」


 爺ちゃんが毎朝、コムギの焼きたてパンを抱えて差し入れにきてくれた。

 そのたびにアルクエイビスの婆ちゃんと口ゲンカをするんだから、本当に元気になってくれたもんだった。


 家族として、コムギにはもっと感謝しないとな……。


「午後はソフィアを連れて飛んでみな」

「あっあっ、いいですかーっ!? ソフィー、一度空を飛んでみたかったのですよーっ!」


「わかったっす。落っことさないよう気を付けます」

「お、落っことさないで欲しいのですよーっっ?!!」


 俺はドングリ入りの変な触感のシチューを食べ終わると、ソフィアと一緒にテスト飛行をした。

 いざ飛ぶと、ソフィアは耳が痛くなるほどの金切り声を上げて、恐怖のあまりに俺の胸にしがみついてきた。


 コムギに同じことをされたら、俺は驚いてアイツを落っことしてしまうかもしれない。

 気を付けようと、半泣きのソフィアをあやしながら反省した。


「ぢ、ぢぬ……ぢぬがどおもだでずよぉぉぉ……!」

「スリルありすぎだよな、この魔法……。ほら、おぶってやるから塔に帰ろう」


「え、えへ、えへへへ……お、お願いしますです……っ♪」

「そうだ、ゲルタのおばちゃんのところに寄ろうぜ。ジュースおごってやるよ」


「い、いいのですかーっ!? ありがとう、おにいちゃん!」


 丘の上からコムギのパン屋を見下ろして、立ち寄らずに酒場宿に向かった。

 修行が始まってから、コムギとは1度も会っていない。


 会ったら気が抜けそうだし、アイツの方も塔に会いにこなかった。


「おねえちゃんに、会わないですかー?」

「いいんだ。アイツもがんばってるって、爺ちゃんから聞いたし……会いたいけどいいんだ」


「わぁぁ……いいですね、いいですねーっ!」

「何がだよ。それよりアップルとオレンジとグレープ、頼むならどれがいい?」


「オレンジジュース!」

「よし、俺がおごってやる!」


 俺たちはちょっと寄り道してから魔女の塔に帰った。

 魔女の婆ちゃんには、ソフィアを甘やかしたのがバレバレだったみたいだけどな……。


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