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ナチュラルシュート  作者: 秘伝りー
第一章
7/7

走り出す

 もうすぐ夏休みです

 一難去ってまた一難…


「どうぞお茶です」

「ありがとうございます」

「椿は部屋に戻ってなさい」

「はーい」 


 我が家に弁天学園の監督が来ております


 どういう展開?


 唾を飲み込む父さんと優太


 張り詰めた空気


 激しく腹の音が鳴る父さん


 ハチ切れた空気


 緊張感のない大人だ…


「弁天学園野球部監督の森と申します」


 小言で優太は父さんに話しかける


「これはどう言う状況?」

「アイ ドント ノー」

「電話とかなかったの?」

「そう言えば…」

「そう言えば?」

「店に森さんって方から電話あったかも…」

「絶対それだよね?普通忘れる?」

「いやぁ向かいの喫茶店のマスターとさぁ阪急

 タイラーズの話でさぁ盛り上がっちゃってさ

 ぁすっかり忘れちゃってさぁ…」

「話の内容は?」

「記憶にない…」

「駄目だこりゃ」


 さぁ本題である


「本日はスポーツ推薦枠のご案内に伺いました」

「スポーツ推薦枠?」

「はい」

「優太をスカウトってことですか?」

「弁天学園野球部へのスカウトです」


 そう言えば白石を観に弁天学園の大人達が来

 ていたな、我ながらナイスピッチング…って

 何を言ってんだ俺は


「先日の試合を拝見いたしました。白石琉之介

 君を観に来ていましたところ2番手ピッチャー

 として出てきた優太君に驚きました。硬式で

 はなく軟式、しかも3年間騒がれずに埋もれ

 ていたことにも驚きました」

「色々と訳がありまして」


 ジーッと優太を観る父さん


 こらこら、こっちを観るな


「成長段階ながらも芯がしっかりしていて全身

 を使った伸びのあるストレート、球速だけな

 ら高校でも即戦力です」

「そうですか?

 そうでしょ?!

 そうなんすよー

 良かったな優太、勉強しなくて済みそうだな」

「いやいや俺は」

「いやいや優太は勉強が全く駄目でどうしよう

 か困っていたんですよー」


 こらこら勝手に話を進めるな


「8月末日までに返事を頂ければ助かります。

 夏休にメイングラウンドで体験会も行います

 のでも是非参加してみてください。優太君に

 も良い刺激になるはずです」

「分かりましたっ是非ともっ」

「日程などは追って連絡させて頂きます」

「ありがとうございますっ」


 おいおい行かないよ…


「優太君自身は進路についてどうしたいと考え

 ているんだい?」


 そうそう俺の意見が大事だよ


「……いや俺はエンジョイ」


 エンジョイのワードに即反応

 空かさず話しに入ってくる父さん


「エンジョイライフですよっエンジョイっ野球

 イコール楽しむっライフwithベースボールっ

 大丈夫ですっ大丈夫っです」


 父さん喋らせて…


「とにかく家族でしっかり話し合ってください。

 何か分からないことがあれば言ってください」


「ありがとうございますっ」

「良い返事をお待ちしてます」


 そう言い残し弁天学園の監督は帰った行った


「父さん勝手に進めすぎっ」

「片道4時間よりはマシだろハッハッッハー」

「だからそうならない様に受験勉強でしょ」

「せっかくだからやってみたら良いじゃん」

「だから野球はやらないよ」


 少し間が開き

 父さんが優太に問いかけた


「優太は野球好きか?」

「急に何?好きだけど趣味程度だよ」


 父さんは園側の廊下に座り

 一息吐いて空を見上げた 


「それが本音じゃないのは分かってる。そろそ

 ろ野球と向き合っても良いんじゃないか?」

「…」

「優太が夜中に練習してるの知ってるんだよ」

「…」

「これでも優太の親だぞ」

「…」

「まぁこっちに来て座りなさい」


 園側の廊下に2人並んで座る


「僕と兄さんも昔は高校球児だったんだ。文理

 高校って当時は全国制覇もしたことがあるん

 だ。昔ほどではないが今も弁天学園と全国の

 切符を懸けて闘うほどの強豪校だよ。でねぇ

 兄さんはね全国制覇成し遂げたメンバーでエ

 ースだったんだ。150キロを超えるストレ

 ートとストレートと同じ軌道から来る高速ス

 ライダーっ大会ナンバーワン投手だった」

「強豪校で野球やってたって想像つかないね。

 で父ちゃんってそんなに凄かったの?」

「プロ注目選手で雑誌にも掲載されてたんだよ。

 プロ球団のスカウト陣も来てたな、海外から

 も幾つか来てたと思うよ」

「そんなに?!」

「そんなにだよ。平成の怪物松坂裕介に近いっ

 てか兄さんが平成の怪物になってたかもだ。

 まあプロデビューは確実だったんだけどね」

「それは言い過ぎだろ。てか、だったんだけど

 ねって何かあったの?」

「投げ過ぎたんだな、2年の夏から3年最後の

 夏の大会まで殆ど1人で投げ抜いたからね。

 チームも兄さんに期待して応えようとしては

 連投連投、昔はそれが絶対的なスーパーエー

 スの理想図だったんだ。結果、肘と肩が使い

 物にならなくなった。継投策や球数制限のあ

 る現代ではあり得ないことだよ」

「そんなことがあったんだ…」

「だから兄さんも僕も野球は高校までなんだ」

「父さんも怪我?」

「父さんは3年間補欠で心が怪我した」


 聞いた俺が悪かった


「兄さんは自分みたいに選手が少しでも減って

 欲しい思いでスポーツ整体を学び5年後に飯

 塚スポーツ整骨院を開業、僕はスポーツメー

 カーの修理製造会社で技術と流通を学び5年

 後に飯塚スポーツ用品店を開業」


 そう言う経緯があったんだ


「まぁ色々あったけど自分達の経験を活かして

 少しでも野球をする子供達の手助けをしたか

 ったと同じくらい自分自身が野球に携わりた

 かったんだ」


 そう言うもんかねぇ


「それからお互い結婚して琉太が産まれ優太が

 椿が産まれた。子供達が野球を始めたキッカ

 ケは優太が阪急タイラーズのファンになった

 のが始まりだよ。」

「父ちゃんや琉兄じゃないの?!」

「優太だよ。しかも2歳でだよ。意味分かって

 んのかなって兄さんよく首を傾げてたよ」

「何か俺ヤバくない…」

「1人で飽きもせずにピッチャーやバッターの

 真似をしてたみたいよ。でっ琉太や椿も釣ら

 れて野球を始めたんだ。兄さんは釣られて阪

 急タイラーズのファンになったんだ。毎週毎

 週、阪急タイラーズの試合観戦に誘われて大

 変だったよw」

「何かごめん」

「何はともあれ野球に携わる仕事が出来て子供

 達が野球をやってくれて僕も兄さんも嬉しか

 ったよ。子供達が成長する度に自分の事の様

 に喜んでたよ」

「…」

「この話は兄さんと酔っては毎回話してたよ。

 兄さん最後にコイツらはプロに行くって真面目

 な顔で話し尽くして寝てたなぁ思い出したら笑

 けてくるなぁ」

「俺もう野球は…琉兄も父ちゃんもママも…」


 庭に立ち優太に背を向ける父さん


「事故の日、急いで病院に向かった。兄さんだ

 け息があった。でも内臓は全て潰れていて助

 からないって言われた。息は荒く震えながら

 小さな声で泣きながら兄さんは僕に言った」

「急にどうしたの?」

「優太ももう15歳になる。このタイミングで

 話して良いだろう」


 優太の顔つきが変わった


「兄さんは優太が壁にぶち当たるのを分かって

 たんだな。兄さんからの最後のメッセージだ

 から聞いてくれ」


 

 最後の父ちゃん父さんの会話


「香織と…琉太は…ダメだったんだな…」

「兄さんも、もう」

「分かっ…てるよ…」

「兄さんもう喋らないで」

「琉太…香織…ごめん…

 優太…

 ストレッチは…しっかり……

 体の開きは…足の軸を……

 可動域を……ゴホッゴホッ……

 教えたい事が色々と……

 困ったな……もう駄目だわ……」

「僕から必ず」

「今は…まだ…無理だ…

 ただ見守ってやってくれ…

 俺たちにも…運命と言う子供と出会えた……

 優太にも運命と言う出会いが…野球が……

 その時に立ち止まってしまってたら…

 助けてやってくれ洋史…」

「分かった」

「優太…燻ってるなら大丈夫…燃えてる証拠だ…

 野球が嫌なら辞めても良い…でも…

 もし…この事故が原因で…野球を辞めたら……

 家族全員悲しむ…死んで尚…後悔する…

 優太の心が幸せなことが…俺たちの幸せだ…

 琉太の分も楽しめ…………」

「兄さんっ」

「洋史…優太のこと…頼む…

 

 そろそろ逝くわ………


 洋史………ありがとう……………………」


「兄さーーーんっ」



 ??



「優太…野球好きか?…」



 好きに決まってんじゃん


 だから苦しいんだよ


 でもマウンドに居る時は

 皆んなに会える気がする


 父ちゃん、ママ、琉兄、


 確かに燻ってるよ

 不燃物は混じってるけど

 確かに燃えてた


 皆んなが俺が後悔しないように

 あの世にも届くように

 

 とりあえず走ってみるわ


 あの世で会えたら

 またみんなで





「優太、行くぞ」

「琉ー早いよぉ」

「優太っ琉之介が来てるぞっ」

「わってるよー父さん行ってきまー」




 

 じゃあ行ってくるね



 


 

 


 

 

 

 


 


 


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