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ナチュラルシュート  作者: 秘伝りー
第一章
1/7

蝉が鳴く暑い夏

 父ちゃん・ママ・琉兄・が死んだ



 葬儀が行われた

 不幸を憐れむ大人達


「家族全員、事故で亡くなるなんてね」

「トラックの居眠り運転だったみたいよ」

「下の子は乗ってなかったみたい」

「不運よね、あの子まだ10歳でしょ」


 表情一つ変えず利口に座っている優太


 いきなりの出来事だった

 死ぬってことがあまりよく分からなかった

 分かったのはもう帰ってこないって事



 お葬儀3日前

 たわいもない家族の会話である


「優太ー阪南タイラーズの試合行こーよー」

「父ちゃんマジ行かないし」

「てかさぁ昼から少年野球の試合を休めよ。バ

 ックネット裏の席を予約したんだぞ。父ちゃ

 んの少ない小遣をかき集めて」

「ショボン…琉太、言わないで笑笑」

「観に行きたいけど俺が投げなきゃ勝てねーん

 だから仕方ないじゃん」

「藤岡球児のウイニングボールは任せなさいっ」

「優ちゃん嘘でも喜んであげてよ」

「ふぅーありがとう。でも将来は俺がサインを

 する側になるんだからミーハーな事し過ぎる

 と、お宝映像とかで恥搔くだろ」

「簡単にプロになれるわけないだろ」

「琉兄シャラップ、俺はなるっプロになるっ」

「どこに飛ぶか分からん球では難しいかな…ま

 ずはムービングファストボールを操れるよう

 になるべし」

「毎回うるせーんだよっクソ兄っ」


 また始まった兄弟喧嘩

 そしてこの流れで父ちゃん


「やめなさーい。ふー…。2人ともプロになれ

 るっしかしっジャイアンズだけは避けてくれ。

 自称タイラーズ応援団長の父ちゃんとしては

 息子対決だけは避けたーい」


 家族で阪急タイラーズ応援歌を熱唱


 こんな日常がずっと続くと思っていた



 お葬式が終わり洋史おじさんの家でお世話に

 なることになった


 洋史おじさんが迎えに来た


「優太、そろそろ行くよ」

「今行くよ」


 片付けを済ませた部屋

 薄汚れた箱だけが残った


 事故現場にあった僕宛の誕生日プレゼントだ

 ったんだか未だに開けれていない。家族で暮

 らしたこの家は売却する事になったので最後

 の日と言う事もあり初めて開けてみる気にな

 った。中身は藤岡球児の泥のついたウイニン

 グボールと所々凹んだ家族写真の入ったキー

 ホルダー、それと濡れ汚れて字が滲んだ手紙

 が入っていた


 手紙を手にとった

 〜手紙〜

「お誕生日おめでとう」

「お前ならプロ野球選手になれる!その前に目

 覚せっ甲子園!by父ちゃん」

「先に甲子園デビューして華々しくプロ入りす

 る俺から一言、体が開く癖を直せよ。一緒に

 高み目指すぞ!by琉太」

「おめでとう。野球どうこうじゃなく長生きし

 てくれたら嬉しいです。もしもしですがウイ

 ニングボールはママにください笑byママ」

「家族みんなで頑張るぞーby家族一同」


 自分なりに理解した

 涙が溢れ溢れた


「1人だけ残っても意味ないじゃん…」


 葬儀から1ヶ月が過ぎていた

 一生分は泣いた


 蝉が鳴く熱い夏だった




 

 あれから4年

 オレは14歳になった




 父さんの大きな声で1日が始まる

 

「優太ー学校遅れるぞー」

「分かってるよー」


 突然、勢いよく扉が開く

 ガチャッ


「優兄っ私が楽しみにしてたチョコパン食べた

 でしょっあれ私のだったんだよっ」

「レーズンパンない?」

「私はレーズンパン大っ嫌いなのっ」


 更に勢いよく扉が閉まる

 ガチャンッ


 相変わらずうるさい椿である


 椿は洋史おじさんと恵子おばさんの実の娘で

 養子になった俺は椿の兄貴ってわけ、父さん

 母さんと呼んでいる


「優ちゃん椿ちゃんママ先に行くねー」

「行ってらっしゃーい」

「行ってらー」

「優ちゃん行ってらーじゃないでしょ」

「ママーパパのシュークリーム宜しくー」

 

 とにかく騒がしい


「椿ー優太ー早くしないと遅刻だぞー」  

「行ってきまーす」

「行ってきまー」

「優太ー行ってきまーじゃないだろー」

「ほいほい」

「ほいほいじゃない…ふー。

 はいっ行ってらっしゃーい」

 

 いつもの日常である


 仏壇の前で手を合わせる父さん

 そこには父ちゃん、ママ、琉兄の写真

 

 そして今日は命日


「今日で4年経つんだな。また家族で改めて墓

 参りに行くよ。てか優太は中3になったよ。

 椿とも仲良く?してくれてるし元気にやって

 るよ。スポーツ用品店も手伝ってくれて助か

 ってるよ。もう夏の選手権も始まってる。そ

 れから優太はどこのチームにも所属してない。

 でもグローブの手入はしっかりやってるんだ。

 僕は知ってるからもう少し待ってみるよ


 あのマウンドで投げる優太を観たいね…」


 いつもの日常とは


 野球が嫌いなわけではない

 野球と家族はセットだった


 まぁハンバーガーとポテトみたいな…

 あれ?この表現は違うか?


 他に思うことは沢山あるが野球をする目的が

 なくなったのは事実である


 今は野球をすることはない


 これからもないかもしれない


 と言うことだ



 中学3年生

 蝉の鳴く暑い夏である




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