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7面接

「君が雨水君の紹介で組合に入りたいと言っていた子だね。雨水君から君の話は伺っているよ。まずは自己紹介をお願いしようかな。ああ、その前に僕の自己紹介からした方がいいよね。僕は玄田くろた。サイオン寺子屋組合の代表を務めています」


 どうぞよろしくと手を差し出され、恐る恐る私は目の前の玄田と名乗る男と握手する。


 男は40代後半から50代くらいの中年のおじさんに見えた。体型は腹が出ていて、頭は髪が薄くなっていたが、さすがにまだハゲとは言えないが、危ない感じだ。見た目だけでいえば、そこらへんにいそうな普通の男性である。組合の代表を務める男だとは一目ではわからない。


 しかし、彼らと違っている点が一つあった。


朔夜蒼紗さくやあおさです。今年大学二年生になりました。ええと、雨水君とは大学一年生の時に同じ学部です」


 男の簡単な自己紹介が終わったので、次は私の番である。こちらも簡単に名前と大学生であることを伝える。


「うんうん、それは彼から聞いている。朔夜さんは独り暮らし?それとも実家から通っているの?」


「じ、実家から通っています」


「そうなんだ。ご家族は?兄弟はいる?雨水君は朔夜さんが能力者だと言ったけど、具体的にどういった能力を持っているの?」


 それは目力である。私に次々と質問する姿はまるで、頭に浮かんだことを次々と質問する子供の様だった。その様子が男性に見た目以上の若さを見せていた。少し茶色がかった瞳の圧に圧されながらも、質問されたことに答えていく。


「家族は……。両親だけです。一人っ子なので。能力は」


「そこまでにしてくださいよ。オレがあらかじめ彼女については説明をしていたでしょう?それ以上のことはプライバシーに関することで、彼女も答えにくいと思います」


 能力について答えようとしたら、雨水君に言葉を遮られる。そして、私の代わりに簡潔に説明してくれた。


「彼女の能力は、言霊を操るものです」


「言霊とはすごいね。じゃあ、朔夜さんは他人を思い通りに操れるということ?」


「そう言うことです。うかつに彼女から話をききだそうとしたら、逆にこちらから情報を引き出されてしまいますよ。彼女が本気を出せば、簡単に、ね」




「ハハハハハ!これは面白い!」


 最後の意味深な言葉に何を思ったのか、突然、男は腹を抱えて笑い出す。突き出た腹が笑いに沿って上下に動いている。いったい、何がおかしいのか。雨水君の言葉は、私にちょっかいをかけて、怒らせるなという警告の言葉にも聞こえる。


「いいねえ。雨水君。君のそんな真剣な表情、久しぶりに見たよ。西園寺桜華の次は彼女にご執心というわけか。つくづく君は誰かに尽くしたい、しもべ体質な人間だねえ」


 笑いながら、とんでもない発言をする男に絶句してしまう。雨水君にとって、その名前は禁句である。それなのに、平然と口にして笑っていられるこの男の神経を疑う。


「いい加減にしてください。そろそろ本題に入ってもいいでしょう?」


「まったく、尽くす相手以外にはそっけないのは変わらないね。では、ここからは真面目に面接をしていこうか」


 今までは真面目な面接ではなかったということか。




「言霊を操る能力と言っていたけど、朔夜さんは、能力を持っていることで、何か困っていることはありますか?」


 真面目にやると言い出したら、言葉遣いも変わった。急に話し方を変えられると、答えにくい。とはいえ、質問されたことに素直に答えることにした。


 この力のおかげで、私はいま、二度目の大学生活を送れているし、他人に自分の特異体質を知られることなく生活できている。私の体質に気付いている者はいるが、彼らは例外だ。


「困っていることはないです。ですが、自分が他の人間とは違う、ということで疎外感を感じることはあります。でもそれは、能力者全員が感じることではないでしょうか」


 そもそも、言霊の能力については自分の特異体質を隠すために大いに役立っている。この能力で困っていることはない。もし、言霊の能力がなければ私はいま、大学に通ってなどいないだろうし、静かに平穏に生きてもいなかっただろう。感謝こそすれ、いらないと思ったことはない。


 しかし、能力者という普通と違う人間であることは確かであり、そのことで周りと自分の間に壁のようなものを感じることがある。目の前に座る男が喜びそうな回答を口にすると、案の定、男は私の話に食いついてくる。


「疎外感。それは大変だ。けれども、ここに来たからにはもう大丈夫だよ。僕が立ち上げたこの組合は、能力者たちが抱える問題に寄り添いながら、生活を支えていくために作られた組織だからね」


「はあ」


「だから、僕の組合に入れば、朔夜さんの悩みもすぐに解決するよ。朔夜さんみたいな人は組合にはたくさんいる。組合に入れば、同じ悩みを持つ仲間がきっとできると思う」


 仲間ができると言われても、私が組合の彼らと真に仲良くなれるはずがない。そもそも、私の能力は一つではない。さらには、能力以外に厄介な体質を抱えている。もちろん、すべてを話してしまうのもアリかもしれない。代表が言うように、能力者同士で互いの悩みを共有することで、少しは気持ちが楽になるだろう。


 しかし、私は組合を完全には信用していない。雨水君の話によると、この組合は西園寺家の復活に協力しているとのことだ。もしそれが本当だとしたら、私の素性がばれてしまうのはまずい。ちらりと雨水君の様子をうかがうと、身体の下の方で両手の人差し指で罰を作って私に示す。下手なことを言わないようにということだろう。


「心遣いありがとうございます。実は私、親しい友人などがいなくて、一人寂しい大学生活を送っているんです。組合の人たちと親しくなれたらいいなとは思います。やはり、一人の生活は何かと寂しいですから。雨水君が組合にいるのなら、それだけでも心強いです」


 とりあえず、組合に加入したい理由を伝えることにした。男はニコニコと私の話を聞いている。私は慎重に言葉を続ける。


「私としては、ぜひこの組合に入りたいです。一人暮らしなので、お金も必要でバイトはしているのですが、やはり自分だけでアルバイトを探すのは限界を感じています。それに、せっかく能力があるのに、活かすことができないのはもったいないなと思っていたので、ここで、私の能力を生かした仕事をあっせんしていただければいいなと」




「その心構え気に入った!朔夜さん、あなたを私たちの組合に加入することを認めましょう」


「あ、ありがとうございます」


 どうやら、私のことを代表は認めてくれたようだ。これで、面接は終わりだろうか。それなら、早く九尾たちと合流したい。そろそろ、癒し成分が欲しくなってきた。


「では、朔夜さんを外まで送ってきます。書類はオレが朔夜さんの家に届けるということでいいでしょうか?」


「この後に、何か用事でもあるのかい?私はまだ朔夜さんと話がしたいのだが」


「ええと……」


 私は基本的に初対面の人と話すのは苦手である。今日は知り合いの雨水君がいたのであまり緊張せずに話すことができたが、何年生きていようが、人の性格は変わらない。どうやって断ろうかと考えていると、雨水君が助け舟を出してくれる。


「朔夜さんも一人暮らしでいろいろ忙しいので、そんな彼女の時間を独占してはいけませんよ。それに、彼女には待たせている相手がいるので」


「待たせている相手?もしかして、朔夜さん、彼氏がいるの?それなのに、雨水君と一緒にここまで来たの?それはいけない人だなあ」


「玄田さん、その辺にしてくださいよ。その質問はセクハラです。では、オレたちはこの辺で失礼します」


「失礼しま」



「ああ、間に合った。まったく、代表、人を雇うのなら、僕にも相談してくださいよ」


 雨水君の言葉に私は席を立ち、同じように挨拶してこの場から離れようとしたが、それは第三者により邪魔された。ノックもせずにドアから入ってきたのは、全身黒づくめの男だった。出口はドアがある一か所で、男がそこで立ちふさがっているので、部屋から出ることはできない。しぶしぶ私たちはイスに座り直すことになった。



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