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【番外編】もしも、高校生だったなら……2

 学校は何と徒歩圏内にあった。まさか学校が歩いて15分ほどの場所にあるとは思わなかった。


「ていうか、九尾。あんた、先生なのに、私たちと一緒に登校してよかったの?先生なら、もっと早く登校しなくちゃいけ」


「なぜ、我がほかの教師と一緒だと思う?我は我の行きたいように学校に行くだけだ」


「九尾のことは気にしなくていいですよ。それより、お昼は教室に迎えにいくので一緒にお昼を食べましょう!」


「翼と一緒にオレもついていく」


 結局、私たちは全員で家を出た。一緒に行動することはあっても、足並みそろえて一緒というのは初めてな気がした。現実の彼らは人外で、世間で堂々としていられる存在ではない。私もまた、一般人からかけ離れた人外みたいなものなので、こうやって朝から堂々と外を歩くのはなんだか新鮮だった。


 それにしても、なぜ九尾だけケモミミ美少年姿のままなのか謎だ。服装もその姿でスーツというわけにいかず、パーカーに半ズボンというかなりラフな格好だった。それで先生というのは、なかなかぶっ飛んだ設定だ。まあ、夢なので気にしなくても大丈夫だろう。


 朝は、誰もがせわしなく学校や勤務先に向かっている。車も人もなんとなくせかせかとしている。そんな中、私たちの間だけ、のんびりとした空気が流れていた。



「おはよう!蒼紗、今日も素敵ね!」

「おはようございます、蒼紗さん」


 学校に着いて玄関で翼君たちと別れた私は、自分の下駄箱を探していた。すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、そこには予想通りの人物が私を待ち構えていた。


「おはようございます。ジャスミン、綾崎さん」


 二度目の大学で知り合った人たちは、もれなく高校に通っているのかもしれない。ジャスミンも綾崎さんも私と同じセーラー服を着用していた。しかし、どうにも私と同じ制服には見えなかった。


「やっぱり、私も蒼紗さんみたいに制服を改造したほうがいいでしょうか。毎日、思考を凝らした変化は素晴らしいです」


「スカーフの色を変えたのね。昨日は確か、黄色だったから。カラーも違うのね」


「はあ」


 制服を改造など、いったい何をほざいているのか。制服は校則通りに着こなすのがセオリーのはずだ。とはいえ、目の前の2人と私の制服は同じようで同じではなかった。


 まず第一に、スカートの長さが違う。私はひざ丈くらいだったが、彼女達はそれより短くしていた。今時の若者、という奴だろう。あとは、綾崎さんの言う通り、スカーフの色が彼女たちは白色だったのに対して、私は真っ赤な色のスカーフだ。よく見ると、セーラーのカラーも私は二本の白いラインが入っていたが、彼女達は無地だった。


「何ぼうっとしているの、さっさと教室に行きましょう」


 ジャスミンの声に我に返る。校則の緩い学校なのだと自分に言い聞かせて、私はジャスミンたちの後ろに続いて教室に向かうことにした。



「おはよう、蒼紗。やっぱり、あなたには赤いスカーフが似合うわ。私とおそろいね」


 廊下を歩いていると、懐かしい声が私にかけられる。その声はもう二度と聞くことができないはずだった。だって、彼女はすでに。


「そんなに驚いた顔をしてどうしたの?私の美しさにやられてしまった?」


「や、やっぱりこれは夢」


 声の主を確認するために振り返ると、そこには亡くなったはずの西園寺桜華が立っていた。夢の中とはいえ、まさか再会できるとは思わなかった。彼女もまた、私と同じ赤いスカーフをつけていた。


「桜華。あまり朔夜をいじめるな」


 西園寺桜華の隣には当然のように雨水君がいる。夢の中でも雨水君は彼女と一緒に行動をしているのだろう。


「別にいじめていないわよ。ああ、なんで蒼紗とクラスが違うのかしら?一緒だったら、ずっと一緒に居られるのに」


「残念だったわね。あんたと蒼紗は結ばれない運命だったってことでしょ。蒼紗と運命の赤い糸で結ばれているのは私。悔しがるがいいわ」


「佐藤さん、嘘はいけません。もし、運命の赤い糸があるというのなら、それは蒼紗さんと私を結ぶ糸に違いありません」


 目の前で現実でもよく見る見慣れた口論が始まる。当然、口論をしているのはジャスミンと綾崎さんだが、今回はそれに加えてもう一人参戦している。


 この三人が口論している光景は現実では起こりえないことだった。現実と時系列が違っている。


 そもそも、私は最初に西園寺桜華に目をつけられて、趣味のコスプレに付き合わされることになった。ジャスミンは西園寺桜華にあこがれていたので、彼女と一緒にコスプレする私が気に入らなかった。その後、瀧との一件があり、ジャスミンを助けたことで風向きが変わった。助けたことが原因なのか、それ以降、ジャスミンは私と一緒に行動するようになった。


 綾崎さんは大学一年の後期で親しくなった。駒沢の授業を熱心に聞いていて、発言も積極的にしていた姿が印象に残っている。後期は死神の車坂との出会いもあった。死神との一件で綾崎さんのお兄さんと関わることになり、そこで初めてかかわりを持った。お兄さんを助けたことで、綾崎さんもジャスミンみたいに私を慕い始めた。



「その辺にしておいたらどうかしら。蒼紗を運命の人だと言っているのに、当の本人が困っているのも分からないの?」


 過去を思い出して懐かしさに浸っていたら、さらに驚きの人物の声が聞こえる。


「もしかして、荒川結女あらかわゆめ?」


「そうだけど?とうとう頭がいかれた?幼馴染の顔を忘れるなんて」


 今度は最近亡くなった幼馴染が姿を現した。当然、彼女もまた高校生の姿だった。最期に会ったのが老婆の姿だったのでギャップが激しい。一重の細い瞳はそのままで白髪だった頭髪は真っ黒で、ストレートの髪を肩まで切りそろえていた。


「幼馴染がなによ。よく言うでしょ、時間よりもどう過ごしたのかが重要だって」


「そうですよ!私たちは出会ってまだ一年と少しですけど、既に私と蒼紗さんは」


「あなたたちの言うとおりね。私は蒼紗と出会ったときにビビッときたの。ああ、蒼紗と私は」


 荒川結女がせっかく私をこのカオスな空間から救ってくれようとしてくれたのに、彼女の言葉は逆にジャスミンたちの心に火をつけてしまった。


 ジャスミンも、綾崎さんも西園寺桜華もみんないかれている。どうしてこんなに堂々と私のことを好きアピールができるのか。


『運命の赤い糸で結ばれています(いる)(いるから)』


 いや、好きを通り越して運命の人とは愛を通り越して怖いくらいだ。三人が放った言葉は息ぴったりでまるで、事前に打ち合わせした台本を読むかのように見事なハモリを見せた。


 どうして、こんなに私は彼女達から好かれているのか。そもそも、運命の赤い糸とは本来、異性に対して使うものではないだろうか。私の見た目では男には見えないし、女として魅力的でもない。どこにこんな恥ずかしい言葉を言える要素があるのか。夢の中でも、彼女達の暴走ぶりは変わらなかった。



「廊下の真ん中でほかの生徒の迷惑になっていますよ。さっさと自分の教室に入りなさい。ああ、誰かと思えば、またあなたですか。朔夜さん」


 次から次へと予想外の人物が私に声をかけてくる。声の主を確認して、思わず顔をゆがめてしまう。この男に夢の中でも会うとは。私の深層心理をこの夢が再現しているのなら、出てきてほしくなかった。


 声の主は、私が嫌いな大学教員の駒沢だった。私の正体を知ろうと躍起になっている、50代くらいの男性だ。私を見つめる視線が気持ち悪くて姿を見るのも嫌な男だった。


 とはいえ、今回に限っては彼によって助けられた。さすがに先生に注意されたら、その場はおとなしく離れるしかないだろう。


「すいません。今度からは場所を考えることにします」

「俺からも気をつけるように言っておきます」


「駒沢先生、私は先生のことも尊敬しています。ですが、私の運命の相手は蒼紗さんだけなので」


「ふん、ただの先生ごときが私に指図しないで頂戴」


 いや、彼女達は先生に注意されたからと言って、おとなしく引き下がるタイプではなかった。とりあえず注意を聞いて謝っているのは意外にも西園寺桜華だった。雨水君は彼女のお目付け役としての言葉を口にした。


 あとの二人、ジャスミンと綾崎さんは注意を受けてもまったく気にしていなかった。綾崎さんなら、素直に謝るかと思っていたが、彼よりも私の方に気持ちが向いているようだ。それはなんだかうれしい。その場にいたはずの荒川結女はいつの間にかその場からいなくなっていた。


「ああ、またやってる。毎日、良く飽きないよね」

「西園寺さんはどうして、あんなパッとしない人に目をかけているんだか」

「私も西園寺さんに『運命の人』って言われたい」


 駒沢の登場により、ようやくここがどこだったかを認識する。そして、私たちの周りに人が集まりだしていることに気づく。


そうだった。ここは高校の校舎内で、私たちは教室の外の廊下にいたのだった。そんな生徒たちが往来する中で、私は女性三人に「運命の人」宣言をされてしまったのか。



「キーンコーンカーンコーン」


 ちょうどタイミングよく、始業を告げるチャイムの音が鳴り響く。生徒たちはいっせいに自分の教室へと足早に入っていく。私たちもまた、自分のクラスに足を運ぶのだった。駒沢はどうやら、私のクラスの担任らしい。私とジャスミン、綾崎さんと同じ教室に入ってきた。

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