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51私大好き人間

「向井さんが、退学、ですか?それは悲しいです。せっかく、親しい後輩ができたのに……。でも、大学を続けるのも辞めるのも、本人の自由ですからね」


 この場で唯一、駒沢に好意を抱いている綾崎さんが、向井さんのことを純粋に寂しがっていた。彼女は私やジャスミンが特殊能力を持っていることを知らない、ただの一般人だ。駒沢も能力を持たない一般人だと思うが、何かと私の能力について言及してくる。私が能力者であり、不老不死体質だという決定的証拠がないため、いまだに私に付きまとってくる迷惑な男である。


「あなた方の反応を見る限り、退学理由を知らされていないようですね。ですが、朔夜さんに関しては、何か退学のきっかけになるようなことを知っていそうですけど」


「そ、そうなんですか?」


「綾崎さん、ちょっと黙ってくれる?駒沢先生、蒼紗が知っていたとして、あなたには話しませんよ。先生だからと言って、他人の個人情報を知ろうとすれば、痛い目に遭いますよ」


 ジャスミンにはいつも助けられてばかりいる。私が反論できないでいたら、助け舟を出してくれた。他人の個人情報を大学教諭だからと言って、話す必要はない。


「そう来ましたか。まあ、彼女の退学についてはこちらで調べることにします。ところで」


 先日のビル火災について、何か知っていることはありませんか?


 私たちから向井さんの退学理由を聞けないとわかると、男はすぐに別の話題を振ってきた。これもまた、私の口からは説明したくはない案件だ。いい加減、この場にいるのも嫌になってきた。ちょうど昼食も食べ終えたことだし、バイトだからと言って、帰ってしまおうか。



「ブーブー」


 そんなことを考えているうちに、私のスマホが着信を告げる。これはチャンスとばかりに食堂を離れる。着信相手は、今まさに話題に上がっていた人物だった。


「もしもし」


「あ、蒼紗先輩ですか?向井ですけど、今、お話よろしいですか?」


 彼女の声を聞いて重要なことを思い出す。彼女の曾祖母である荒川結女が亡くなったが、葬儀はしたのだろうか。最期の別れは病院だったが、その時は彼女の死について実感がわかなった。そもそも、死ぬだろうと、九尾や車坂から聞いたに過ぎない。実際に自分の目で確認したわけではない。葬儀には出られないが、彼女の死が確実なものだという事実が欲しかった。とはいえ、亡くなったのはビルの火災があった日だろう。葬儀はすでに終わっているだろう。


「蒼紗先輩?」


「ああ、はい。今大学の食堂にいるんですけど、だいじょう」


「大丈夫じゃないから、また改めてかけなおしてくれる?」


 ジャスミンたちには悪いが、このまま電話を続けようとしたら、何者かにスマホを取り上げられる。そして、私の代わりに向井さんに話しかける。


「じゃ、ジャスミン!どうして」


「そうそう、あんたの退学理由を駒沢先生が気にしていたわよ。何か申し開きがあるなら、電話じゃなくて、直接蒼紗と会って話すことね。これ以上、蒼紗を面倒事に巻き込まないで頂戴」


 まったく、私が電話をしている途中で邪魔するとは。駒沢の追及を止めてくれたことはありがたかったが、今回の行動はいただけない。


「はい、スマホは返すわ。それより、駒沢と私たちを残して一人だけ席を離れるなんて、どういう了見かしら?」


 通話を終えたスマホは画面が真っ黒になっている。返してもらったスマホを手に持ち、ジャスミンを睨みつけたが、彼女の怒った表情には勝てない。瞳が爬虫類のように瞳孔が横に開いてしまっている。


「さ、佐藤さん。私を置いていかないでください!」


 そこに慌てて近づいてきたのは綾崎さんだ。ジャスミンは小ばかにしたような表情で綾崎さんに突っかかる。


「綾崎さんは、駒沢先生と積もる話でもしていれば良かったんじゃないの?あのくそ男が好きなんでしょう」


「そ、それは……。いえ、それとこれとは話しが違います」


 ジャスミンの怒った表情に綾崎さんは一瞬ひるみかけたが、きっと彼女を睨み返す。しばらく両者は睨み合っていた。



「ジャスミン、綾崎さん」


 いつまでも二人をそのままにしておいても仕方ない。おそらく、私が勝手に席を離れたことで彼女たちは怒っているのだろう。私大好き人間は、こういう時面倒くさい。


 私の声に二人はハッとした表情を浮かべ、私の方を振り向く。


「ご、ごめんなさい。蒼紗さんの姿が視えなくなったら、不安になってしまって」


「蒼紗は目を離すと、何をやらかすかわからないから……。ま、まあ、電話を勝手に切ったのは悪かったわ……」


「別に私は怒っていませんけどね。とりあえず、今から私の家に来ますか?話したいことがあるのでしょう?」


 いったい、私はどんな表情をしているのだろうか。二人は急にばつが悪そうな顔をしてもごもごと言い訳を口にする。彼女たちが私のことに関して暴走するのは今更過ぎるので、怒っても仕方ない。怒ってもいないのに、そんなに怖い顔をしていただろうか。自分の頬を触るが、やはり鏡がないと表情はわからない。


 二人と話しているうちに、また新たなことを思い出す。彼女たちに届いたいたずらの手紙を出した犯人について、彼女たちに話していなかった。ジャスミンからは少し話は聞いていたが、綾崎さんの口からはきいていない。向井さんのことはまた後日、改めて電話することにして、目の前の二人を家に招くことにした。



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