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35だったら私は……

「それで、ジャスミンは一体、私に何を話したかったのですか?」


「ああ、あれね。どう説明したらいいものか……」


 家の中に入ると、九尾たちは頭とお尻にケモミミと尻尾が生えた姿でリビングのソファでくつろぎ始めた。私とジャスミンはリビングのテーブルに向かい合い、じっとにらみ合いを続けている。先に根負けしたのはジャスミンで、先ほどまでの強気な口調が嘘のようで声に張りがない。


「この話をしたことは、綾崎さんには言わないで欲しいんだけど、約束できる?」


 話す気になったようだが、どうやら綾崎さんにも関わりがあるらしい。話を聞いてみないことには何とも言えない。私が返事をしないのを見ると、観念したのかジャスミンはため息をつきながら、自分たちの身に起こったことを話し始めた。



「私たちに変な手紙が届いたのはちょうど、私たちが向井さんに会う前日のことだった」


「手紙、ですか?」


 何を話し出すかと思って聞いていたら、いきなりよくわからないことを言い始める。思わず聞き返してしまう。


「蒼紗が驚くのも無理もないわ。今時、手紙なんて書かないし、届かないものだからね。で、も、私と綾崎さんの家に、ある内容が書かれた手紙が届いたの」


 これだと、証拠とばかりにスマホを鞄から取り出し、画面を操作して手紙を撮った写真を見せてくれた。最初の画面には白い封筒で「佐藤様」と書かれていたが、住所は書かれていなかった。そして、ジャスミンが指で画面を横に操作すると、次の画像には白い無地の紙に警告するかのように真っ赤な文字が記されていた。


『朔夜蒼紗とつき合ったら不幸が訪れる』


「ひどいでしょ。いったい誰がこんなことしたのか。どうにもいたずらにしては手が込んでいるなと思って」


 ジャスミンが呆れたように何か言っているが、言葉は頭に入ってこない。こんないたずらみたいな脅迫分文を送った犯人が誰かということで頭がいっぱいだった。可能性としてはいくつか考えられるが。まさか、彼らがそんなことをするとは思えない。とはいえ、向井さんの家での出来事を考えると、あるいは。


「綾崎さんの家に届いた手紙も、私のように白い無地の封筒で、宛名は『綾崎さん』だったみたいだけど、内容は私と同じだったみたい」


「私とつき合ったら不幸が訪れる……」


「こんな手紙を真に受けたらダメよ。私たちはそんなことないって、胸を張って言えるわ。だから、当の本人がそんなに悲観しちゃダメ」


「でも、組合のせいで、ジャスミンたちは」


「蒼紗!」


 気分がどんどん急降下していく。私がジャスミンたちを不幸にする。私が向井さんの家に行ったせいで、荒川結女は。私のせいで西園寺桜華が。私のせいで、翼君や狼貴君が。


 考え出すときりがない。ジャスミンが私の肩を揺さぶってくる。


「しっかりしなさい!蒼紗!正気に戻りなさいよ!」


 何か私の耳もとで叫んでいるみたいだが、頭に入ってこない。私のせいで周りのみんなが不幸になる。それは嫌だ。でも、私だって自分の特異体質のせいで、不幸な目にあっている。


「よく考えたら、ジャスミンたちの今回の件は、犯人の予想はついています」


そうだ。確かに彼女たちを不幸にしてしまう可能性がある。しかし、そんな可能性を一つずつつぶしていけばいいのだ。今回だったら、彼女たちに手紙を送り付けた相手、雨水君が加入している『組織』を。


私自らがこの手で『組織』をつぶしてしまえばいい。



「その辺にしておけ。殺気が漏れ出しているぞ。そこの蛇娘もおびえている」


 はっと声のする方向に目を向けると、面白いおもちゃを見つけた子供のような、どこか嬉しそうな顔で私を見つめる狐のケモミミを生やした少年がいた。そっと自分の周囲に目を向けると、いつの間にか両隣にはうさ耳と狼のケモミミ美少年が立っていた。目の前には、私の肩から手を離し、どこか恐れを含んだ表情を見せる、大学の親友がいた。


「蒼紗さんって、僕たちが気を付けていないとやっぱり駄目ですね」


「何をしでかすかわからないからな」


「そ、そうよ。まったく、わ、私がいないと、ダメ、なんだから」


彼らは口々に私のことを心配してくれているのか、それともからかっているのかわからない口調で、私に話しかけてきた。


「だ、そうだ。だから、お主が一人で抱え込む必要はないということだ。少し落ち着け」


 九尾にじっと見つめられてしまうと、先ほどまで考えていた物騒な考えを読まれていたのかと身構えてしまう。



「プルルルル」


 九尾たちの言葉で少し落ち着いたところで、突然、私のスマホが着信を告げる。部屋に電子音が響き渡った。



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