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19私が知らない彼らの能力

「今日もよろしくお願いします」


 今日は、組合で依頼された人探しについての話を雨水君たちとしてから、初めてのバイトだ。三つ子にケモミミ少年の身代わりを任せたらという言葉が気になって、塾で生徒たちを迎えるための支度をしていても、ずっとそのことを考えていた。


「朔夜さん、掃除の手が止まっていますよ。何か、悩みごとでもあるのですか。このまま仕事を続けていたら困ります。私に悩みを話してみてはどうですか?どうせ、ろくでもない悩みだとはお察ししますけど」


 今日は車坂と私、途中から向井さんが来ることになっていた。翼君はシフトに入っていない。そのため、生徒を迎えるための準備は私と車坂の二人で行っていた。


「車坂さんは、もし、自分に捜索願が出されていたとして、どうやってばれないように替え玉を手配しますか?」


 車坂は、すでに私たちのことを知っているので隠すようなことはない。西園寺家の複雑な事情も知っているし、私の特異体質も能力もばれている。その特異体質のせいで、私は死神である車坂に監視されている。


「いきなり、驚きの質問をしますね。捜索願で、自分の代わりに替え玉、ですか?そうですねえ」


 しばらく車坂は私の質問について考え込んでいた。その間に私は生徒がいつ来てもいいように掃除を手早く終わらせていく。先ほどまで悩んでいたのが嘘のように、掃除に身が入る。やはり、他人に悩みは打ち明けるべきである。



「ところで、その捜索依頼とやらですが、実はすでに、蒼紗さんかもしくは、家に居る狐が何者かに指名手配されているとかではないですよね?」


「ええと、それはその、例えばの話ですよ。私みたいな普通の人間が誰に指名手配されるっていうんですか。わたしなんて、ちょっと不老不死体質で特殊能力があって、家にケモミミ美少年を居候させている一般人ですよ」


 勘の鋭い死神である。しかし、ここで『はいそうです』とバカ正直に答えるのもなんだか負けた気分になる。私は黙秘することにした。私が黙っていると、車坂は大げさにため息を吐いた。


「朔夜さんの言う、一般人の基準がよくわかりませんが、そこは突っ込まないことにしましょう。あなたがたとえ話というのなら、そうということにしておきます。それで、私の答えですけど」


 相手が人間であるならば、替え玉などまどろっこしいことはしません。捜索願を出した人間を調べ上げてつぶします。



 なんとも物騒な回答である。私はそんな回答を望んでいたわけではない。ただ、車坂が言っていることは、九尾たちも考えそうなことである。彼ら人外には、人間の組織の一つや二つ、簡単につぶすことができる力がある。九尾たちが組合をつぶすと言い出さないだけ、まだましなのかもしれない。



「結局、朔夜さんが何者かに捜索願が出されているのですか?それとも、あの狐ですか?」


「たとえ話だと言ったのを信じてくれたのではないんですか?」


「朔夜さんがそんな例え話を唐突にするわけないですからね。塾で一緒に働く時間も長いですし、あなたの性格はだいぶわかってきましたよ」


 すでにばれているのなら、先ほどまでの会話は茶番だったということか。まったく油断ならない死神である。とはいえ、そうだとしたら組合をつぶす以外の方法、つまり、最初に質問した、替え玉の方法を聞いてみればいい。


「私ではなく、九尾たちが西園寺家に関係のある組織に捜索されています。組織をつぶすとかいう物騒な方法を取ることはできません。だから、替え玉を作ろうと考えているのですが」



「替え玉、ですか。だったら、簡単な話ですよ。彼らに協力を求めればいい。ちょうど今日、彼らは塾に来る日なので、相談してみたらいいと思いますよ」


 彼らとはいったい誰のことか。先日の翼君の言葉を思い出すが、まさか車坂も同じことを考えているのではないか。私が急に悩みだしたのを受けて、車坂は意外だとばかりに大げさに驚いて見せる。


「おや、私は替え玉と聞いて、真っ先に彼らを思いつきましたけどね。その悩みようだと、あのうさ耳少年辺りがすでに口にしていた、というところでしょうか」


 高橋 陸玖りく海威かい宙良そら兄弟。


 ここで、車坂が挙げた人物たちの名前は、翼君が口にした人物と同じだった。いったい、彼らにどんな能力があるというのか。塾に来ている生徒とはいえ、だいぶ親しくなってきたところである。そんな彼らの能力について、私は何も知らなかったのだと痛感させられた。翼君も車坂も私の知らない彼らの能力を知っているようだ。




「こんにちは」


「はい、こんにちは。今日も頑張って課題を進めていきましょうね」


 ここで時間切れとなった。教室の扉を開ける音とともに元気な生徒の挨拶が聞こえてきた。


「先生たちが来るときは雨、降っていた?外は今、すごい雨だよ。おかげでここまで来るのにびしょ濡れになっちゃったよ」


 生徒の言葉にちらりとガラスの扉の外を見ると、確かに大粒の雨が地面をたたきつけるように降っていた。私が家を出るときは曇り空だったのに、梅雨とは嫌な季節である。念のためと折り畳みの傘は持ってきたが、気分までどんよりとしてしまう。


「タオルを貸しますから、身体をしっかり拭いてから勉強を始めましょうね」


「はーい」


 車坂の声と生徒の会話を聞いて、私は頬を軽くたたいて頭を仕事モードに切り替える。車坂の話しと三つ子のことは気になるが、今は仕事に集中するべきだ。


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