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18九尾たちの身代わり

「渡した資料の中にいた人間の調査はどうなっている?」


 新しいバイトの指示を受けてから一週間が立ち、雨水君から人探しの進捗を聞かれた。どうと言われても、資料の中にあった人物は私の知り合いであるため、何と答えたらいいのかわからない。そもそも、そのことはすでに雨水君も知っているはずだ。


「どうと言われても、まだ調査中ですとしか言えません。雨水君もわかっているでしょう」


「まったく、意地の悪い質問をするものだな。お前は我たちを組合のボスに差し出すのか?」


「そんなことはしないよねえ。だって、僕とお前の仲だろう?」


 私の答えを遮って、九尾と七尾が雨水君に話しかける。雨水君と七尾は私の家にやってきて、リビングのソファに座ってもらっている。



「はあ」


 雨水君は観念したのか、私たちに依頼された人探しについて説明してくれた。


「さすがにこれはあからさますぎるよな。だが、ここに書かれている人物を見つけないと困る。まったくわかりません状態だと、逆に怪しまれる。組合での実績を上げられないということで、朔夜を勧めたオレの組合での地位が下がる可能性がある」


「でも、九尾たちや大学の後輩を組合の人に引き渡すことはできません。そんな身内や知り合いを売るようなことを私は」


『私の身内や知り合い』


 あれから、依頼書に添付されていた資料を念入りに読みこんだが、読み込めば読み込むほど、彼らが捜索されているのは明白だった。こんなあからさまに見知った人物のことが書かれていたら、初めから私たちのことを知っていて、それで雨水君を私たちにけしかけた可能性が高いとしか思えない。ちらりと雨水君を見るが、首を横に振る。私の考えを読んだかのように話し出す。


「玄田さんが九尾たちを探しているのは本当だが、朔夜のもとに居候していることは知らないはずだ。だが、オレの知り合いということで、九尾のことを知っていると思われているかもしれない」


「私はどうしたら……」


 九尾たちを差し出すことはできないし、かといって雨水君の顔に泥を塗るような真似もできない。




「一つ、僕に提案があります。本当はこんなことを彼らに頼むのは良くないとは思いますけど……」


 ここで翼君が口を開く。何を彼らに頼むというのだろうか。他人の心が読める九尾が翼君の心の内を読んだのか、なるほどと感心している。


「どうやら、翼はお主たちが働く塾の子供に、我らの代わりをさせたいようだ。お主たちの塾に三つ子がいるだろう。そいつらに任せたらいいと」


「ふうん。僕たちの代わりをできる人間がいるとは思えないけどね。何せ、僕たちって人間から見たら神様みたいな存在でしょ。人間が神様の身代わりなんて無理に決まってる」


「でも、僕たちがバカ正直にのこのことこの姿で組合に姿を見せに行くわけにはいかないでしょう。そうなると、彼らに協力してもらった方がいいと思います」


「だが、その相手は翼の塾の生徒だ。子供を危険な目に会わせるわけにはいかない」


「そうは言っても、他に良い方法が」


 翼君が言いたいことを九尾が代わりに話してくれた。要するに組合から出された依頼書にあった、ケモミミ少年を三つ子に頼みたいと言っているのだ。それに対して、七尾や狼貴君が批判している。私も当然、翼君の意見には反対だ。


「ねえ、翼君。さすがに私も中学生を私たちの事情に巻き込むわけにはいかないと思います。そもそも、どうして彼らに頼もうなんて思いついたんですか?陸玖りく君たちに何か特別な力でもあるので」


「なぜ、彼らの見分けがいまだにつかないのか、疑問に思ったことはないですか?」


 私の話を遮り、翼君が真剣な表情で質問する。突然のことでとっさに口をついて出たのは、ありふれた回答だった。


「そ、そんなの一卵性の三つ子だからでしょう?似ていて見分けがつきにくいのは当たり前だと」


 思う、と最後まで口にすることはできなかった。本当にそうだろうかという疑問が頭に湧いてくる。すでに彼らと塾で過ごして一年近くになる。一年も経つのに、いまだに見分けがつかないのはおかしい気がした。だとしても、それが何だというのか。


「それが今回、彼らに僕たちの代わりを頼みたい理由になります」


 翼君は、質問の意図を簡単に説明してくれた。そして、陸玖君たち三つ子の能力も口にした。




「なるほど、そう言うことなら、頼んでみてもいいかもしれないね。静流はどう思う?」


「あまり気が進まないが、翼君がそこまで言うのなら、試してみる価値はある。もしばれたとしても、ケモミミ少年だと思ってしまったと言い逃れすればいいし、責任はオレが取る」


「我は賛成だ」


「九尾が賛成なら、従うしかないな」


「じゃあ、今度の塾で話してみます」


 なぜか、三つ子の能力を聞いた七尾が急に意見を変えてしまう。今まで黙っていた雨水君もそれに同調する。九尾も狼貴君も賛成だと言い始めてしまい、残るは私の意見のみ。


 じっと熱い視線を注がれてしまうと、もうどうにでもなれという気分になる。だって、目の前にいるのは、私の癒しのケモミミ美少年たちだ。


「わかりました」


 次に三つ子が塾に来る日に、翼君と私で九尾たちの身代わりをしてくれるか頼むことになった。


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