表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/44

アフターコース 〆はやっぱり駅蕎麦で 上の段

 長時間にわたる紆余曲折の言い争いの結果、モラルの面倒は当番制という形に収まった。

 その順番は一番手としてナインティーから始まって、アイラ、バシュターナ、ペス、シャレンドラ、タルタドポス、ナイントゥーと続き、最後は村人代表として村娘のクーラが受け持つという形で一周分の順番が決まっていた。

 タルタドポスなんかは自分の受け持ちは要らないだのとなんだのと文句ばかりを述べていたが、これも公正な相談の上での決定だからと無理やり役目を押し付けられていた。


 逆に自分にもっと機会をよこせと不平を述べてきた者は、いつの間にやらしれっと議論に参加していた村娘のクーラである。

 一人一日担当と、相談の上で決めたのにも関わらず口出ししてきた神経の図太い乙女である。

 どうにもモラルと夫婦関係になるという当初からの計画に、竜骨を含めた不死の軍団を討伐したという付加価値がついたことでより強く望むようになってしまった様だった。

 その執念には目を見張るものがあり、モラルを訪ねてきた者たちが全員勇者シャレンドラとその一味であることが村中に知れ渡ってしまったのにもかかわらず、クーラだけは臆することなく押しかけてきて、口汚く仲間たちを罵りながら自分にも介護をさせろと言ってきていた。


 当然シャレンドラを中心に、その意見に反対表明を出すのだが、クーラは構わずかみついてくる。

 権利だ何だと激しく主張を繰り返すがそのほとんどは言いがかりにも程がある内容だったが、なにぶん口から飛び出す言葉の数が数なので、最後の方には完全に押し切られてしまい、彼女にも介護の役目を与える事になってしまった。

 それでも一日で抑えた分、シャレンドラたちは十分交渉を続けた方だった。


 それはそれとして介護の内容に関してだが、黄金色の薬水を与えるのと、全身の汗を拭きとる以外は確認の判断に任されていた。

 モラルの着替えに関しては流石に体重が重すぎる為、誰にも不可能であると判断し、全裸にひん剥いてベッドという名の大長机に寝かせた後、清潔なシーツの類をかぶせる事でとりあえずこれで良しと皆が納得してしまっていた。


 俗に全裸睡眠と呼ばれる就寝方法である。

 文句を言える立場のモラルは完全に意識を失っているので反論も出ない。

 文句が出なければ問題は無い。

 所謂完璧な処置だと呼べた。


「よーし、それじゃあ私からがんばるわね~」


 ナインティーから始まって、一日、二日、三日と続々介護を担当する人物が入れ替わり立ち代わり、モラルの容体は回復の兆しにあると思われていた。

 意識は戻らないのはきっとひどい疲れによるものだろう。

 誰もがその様に楽観視していた。

 しかし介護の順番がとうとうクーラのところに回ってきたとき、それが間違いであった事をシャレンドラたちは悟るのだ。


「ああああああああああああああああああッ!!」


 シャレンドラたちが一軒丸ごと借り受けている宿屋の一階に、血相を変えて奇声をあげるクーラが朝も早くに突如かち込みにやって来たのだ。

 目は完全に血走っており、正気の沙汰とは思えない。

 まるで怒れる狂戦士の形相である。

 一階で朝食をとっていたシャレンドラたちもこれには大層驚いた。


「な、な、なんだぁてめえ! 朝っぱらから脅かすんじゃあねえやい!」

「まったく、一体何事だ? もしやモラルの奴が目覚めおったか?」

「あらあ、それはめでたいわねえ。快気祝いにお酒なんかを持って行ってあげたら喜ぶかしら?」


 各々やんややんやとモラルの目覚めに喜びの言葉を漏らしているが、アイラとペスは駆け込んできたクーラの様子がその類には見えなくて、思わず疑念を浮かべてしまう。


「――――――――――~~~~~ッッッ!!」

「い、いえ……みなさん! なんだか彼女の、クーラさんのご様子がおかしいですよ? 何か……モラルさんの身に何かが起きたのではないでしょうか?」

「……なん、だと……?」


 喜びの雰囲気もつかの間、皆一斉に真顔になって振りむいて、クーラに視線を集中させる。

 果たして彼女は怒りをこの場で爆発させて、過去一番の怒声をシャレンドラたちに叩きつけていた。


「あんたらぁーッ! 一体何をやらかしたぁーッ!?」

「……やらかしたとは、何ぞや?」


 言葉の意味が判らなくて、思わずペスが口を滑らせる。

 そんな彼女の事をクーラはキッと睨みつけ、鳩を小屋から追い出す様に腕をぶんぶん振り回しながら口を開く。


「ああああああ! らちが明かない、とにかく来いッ! 見れば判るからとにかく来い!」


 国が掲げる勇者一味に向ける言葉とはとても思えない怒り狂った語調で彼女は急き立てる。

 流石に誰も、茶化さない。

 本当に尋常ならざる事態に陥ったのかと椅子を蹴って立ち上がり、モラルの小屋に急行する。


 もしや容体が悪化して、余命いくばくかも無いのかもしれない。

 あるいは別の病気か何かが見つかって、その事を咎められているのだろうか。

 シャレンドラ一同はその様な事を想像しながら村の大通りを全力疾走し、モラルが眠る小屋の前まで辿り着いた。


「モラルーッ! お前、まさか死ん――ぐあぁっつ、あ熱ゃあっ! あちあちあちっ!」


 開けっ放しの扉を真っ先にくぐったのは、例の如くに切り込み係のバシュターナだが、小屋の中に入るや否や奇妙な悲鳴をあげながら、外へ飛び出し地面をゴロゴロ転げまわっていた。


「ば、バシュターナ!? どうしたっていう――うおおっ!? なんだ一体この熱気! とんでもない蒸気だぞ? まるで蒸し風呂のようではないか!」

「ひええっ空気が循環して外に漏れだしてきた熱気を浴びるだけで、汗がぶわあって出てきちゃう……何よこれ、何が起きたっていうのよぉ?」


 吹き出す汗を服の袖などで拭いながら、シャレンドラたちは浮かぶ疑問を口にする。

 しかし何よりも問題なのは、浴びるだけで肌が沸騰してしまいそうな空間の中に置き去りにされているであろうモラルの容体の方が気がかりであった。


「一体何でこんな状態に陥っているんだ……」

「はあああ? 何でこんな状態にって、あんたたちが仕出かしたんじゃあ無いって言うの!? 昨日モラルさんの看護をしたのはあんたたちの誰かが――」

「待ってください、言い争いを始めるよりも、今はモラルさんの救出が先ですよ! ですが、この熱気では誰も中に入れません! まずはこれをどうにか鎮めないと……」

「ええい、仕方あるまい。ナイントゥーよ、石術で天井をすべて吹き飛ばせ! さすれば熱気も辺り一面に霧散する事だろうて!」


 まともに侵入することもできなければ体格が規格外のモラルを引きずり出す事も出来ないと判断し、ペスが石術による破壊行為を提案すると、ナイントゥーは即座にそれを実行する。

 大粒の石つぶてが床下から何十と天空目掛け飛び出して、屋根をバラバラに砕いてしまう。

 ナイントゥーは部屋の中へと破片が落下しない様に、乱気流が如くつぶてを螺旋に描きながら射出することで、上手く木材を外側に向けて弾いていた。

 そうして屋根がなくなれば、蒸気はもくもくと空へ向かって昇っていき、咽かえるような熱気もともに晴れていき、次第に気温が下がっていった。


「ふむ……もう少し気温を下げたいところだが、今は悠長にしていられる場合でもないか。ゆくぞ、皆の衆」

「おいおいおい、この中を行くのかよ……ええい、覚悟を決めて突入するか」


 バシュターナとタルタドポスを先頭に、シャレンドラたちはモラルが眠るベッドに向かって侵入する。

 意外にも、ここまでシャレンドラたちを怒鳴りつけ、あるいは焚きつけてきたクーラが我先にと小屋に向かって駆け出さなかったのは、何が起こっているのかが判らない状況に対する恐怖もあったが、正確には自己愛による判断からの保身行為が理由だった。

 如何にモラルが魅力的な花婿候補であったとしても、自らの命を危険にさらしてまで助けになってやろうという気概は持ち合わせてなどいない様だった。


 クーラは短慮で浅はかなところがあったのだが、何より一番の欠点は、打算と保身の類に忠実すぎるその本性が腐っていた。

 なのでモラルの小屋の異変に関しても自分の手で解決しようとは思わないし、何か本当にまずい事態に陥っていた時には自発的にもみ消してくれるに違いないはずだと信じ、シャレンドラたちを呼びつけたのだ。

 ある意味この場で最もモラルの容体を心配していないのは、この女であったのかもしれなかった。


「おいおい見ろよ、なんだあれ。豚の丸焼きでも作ろうってのか?」


 ベッドをいち早く目視出来たバシュターナが疑問の言葉を口にする。

 豚の丸焼きとはなんぞやと、まるで意味の分からないシャレンドラたちが彼女に続いて寝室に乗り込んで見てみると、モラルが眠るベッドの周囲を囲む様に石造りの土台が組まれていて、その上には赤々と燃える木炭と小石がぐるりと一周囲む様に置かれていた。

 豚の丸焼きとは言い得て妙な例えであった。


「何だこれは。サウナのつもりか? いや、小屋の中でこの様な細工を施すとは正気の沙汰とは思えぬな。ナイントゥー、一体これがどういう事なのか説明せよ」

「ちょっとぉ! うちの弟が犯人だって言いたいワケッ!?」

「待て。憤る前にまずはワシの説明を聞け」


 ペスの言葉に姉のナインティーがすかさず噛みつくが、その怒りが短慮な行動へ出てしまわぬうちにと、急ぎ推理の説明をする。


「まず、このような場所にこれほどまでに精巧な石細工を組み上げる事が出来るものと言えば、貴様の弟の他に誰もおるまい。だが貴様の弟が自発的にこの様な愚行をしでかす可能性はとても低い。つまり、誰かの支持に従わされてやらされたとみなす方が自然であろう。例えば、タルタドポスが一昨日の担当をナイントゥーに押し付けると共に、この部屋を蒸しあげろと命令した……とかな」

「……ぬあっ!? 待て、待て待て待てココカラよ! もしや某を疑っておるのか? ばっ、馬鹿をぬかすな! 某がこの様な企みを働く理由が無いではないか!」


 ジロッと皆の視線が集中して、タルタドポスは居心地の悪い思いをしてしまう。

 普段の色ボケしている態度から信頼の無い事くらいは軽く理解はしていたものの、いわれのない嫌疑まで掛けられるとは思ってもみなかったらしくいつも以上に慌てていた。

 その態度がより一層不信感を抱かせるのだが――ただ一人、ナインティーだけはいち早く誰が真犯人であるかを突き止めていた。


「違うわみんな。この件に関してはタルタドポスは無実のはずよ」

「ええっ!? だけどタルタドポスさん以外にこんな命令をする人なんて……」

「いるわよ、そこに一人。モラルちゃんの外見に一人だけ見慣れてない上、うちの弟に対して一方的に命令を出せる立場にいる子が、一人だけ……ね」


 ナインティーは、此処までずっとモラルに対して目も合わせず、部屋の一番出入り口側のところで棒立ちを続けているシャレンドラを指差しながらそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ