果物 完熟果実の皇帝盛 お残し
彼は悪運に満ちていた。
彼は才覚に溢れていた。
彼は卑死操団が崇め奉る造死神ヒビュ=イコラ・カシムに感謝と祈りの文言を捧げながら、ふたつの白骨死体に向けて、おのれの生き血を与えていた。
脱水症状と飢餓の果て、生と死の狭間において、死と荒廃と滅びの影の薫る荒野の果てに見つけた代物は、彼に残された僅かな命の灯火を捧げるに足る、この上なく強力で凶悪な、二頭の骸の跡であった。
もっとも純粋で、野蛮であった混沌の時代、もはや何が起きたのかを人の身では推察すら出来ない、そんな神話世代の落胤に、彼は狂喜乱舞する。
力の象徴。
滅びの象徴。
死を内包した無骨な体躯。
恐ろしき、神々の敵対者。
数々の曰くの付いた名を冠された、魔にも神にも属さぬ物質世界の王者の亡骸に、どろどろ、ざらざらとした水分の少ない非常に粘度の高い血を捧げながら、彼は復讐の為に死そのものを冒涜する呪文を唱え続ける。
彼は己の命を使い切る覚悟をもって呪文を唱え続けていた。
例え自身の命が尽きたとしても、死の影として蘇った二匹の怪物が、この国を、人々を、にっくきあの勇者シャレンドラを討ち取ってくれるものだと信じていたからだ。
彼は復讐の為にすべてを捧げるつもりでいた。
だが悪運と悪戯の神は、邪悪の使徒に今ひとたびの好機をくれてやるのがお好みであるらしく、彼がその命をぎりぎり繋ぎ止められるその時に、目の前にて眠る二匹の骨に仮初の力を授けさせたのだ。
「――……ふ、ふは、ふはははははは……はは、ひゃはははははああっ! おお、ヒビュ=イコラ・カシムよ、そしてすべての悪徳の神々よ! 我を、そしてこの蘇りし暴力の化身に禍々しき暗黒の祝福を! そしてここに誓おう、そなたらに、この世全ての死と荒廃と滅びを、捧げてごらんにみせようとッ!」
彼は枯れ木の様な腕を振り回しながら宣言し、そして自身が操る蘇りし暴力の化身へと跨り、それに命じた。
死をもたらせ。
荒廃を生み出せ。
滅びを世界に広げるのだ。
魔力を帯びた骨が羽ばたいて、二匹はふわりと宙に舞う。
彼はその痩躯に吹き付ける風を一身に受け止め続けながらあごに手をやり思案した。
まず最初にやるべき事は、何時の時代も兵隊を増やす事である。
そういえば――と、彼は全身の関節をごきり、ごきりと不気味に鳴らしながらやせ細った身体を不自然な角度で反り返らせ、地平線の先を睨みつけた。
「そういえば……久しく里帰りをした事が無かったなぁ。ククク……丁度いい、たまには顔を見せに戻ってやるか。さあ行け、我が最強のしもべたちよ! 我が故郷を蝕み、滅ぼし、そして死を撒き腐敗の力を証明せよ!」
二匹は声も無く雄たけびを上げ、ルシコフ・ポルスターが命ずるがままに一直線に空を駆る。
滅びが彼の故郷へ向かい始めたのは、丁度シャレンドラたちがロモニー村にたどり着いたのと同時刻の頃合いであった――……




