表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/44

甘味 三刻金貨五枚分の無制限甘味天国 注文

 取りあえず、手伝う事が決まっている清涼祭を終えるまでには身の振り方を考える。

 それまではもう少しだけ待ってくれ。

 ――と、葡萄亭で食事をしながらペスに告げたモラルだが、そこから数日しか経過していないのにも関わらず、自分の小屋へとアイラやバシュターナ、ナインティーが押し掛けてきた現状に、酷く困惑してしまっていた。


「おい、いやおい、おまえらなあ……そのぉ、なんだぁ……なにをしにきた?」


 これまで押しかけてくる人数は一人と決まっていたのに対し、突然乙女が三人もやって来たとあれば、いつもと違って華やかさも賑やかさも指数関数的に増大する。

 さしものモラルもこれにはタジタジだ。

 更に言ってしまえば後一刻もしないうちに、ペスまでこの場に加わってしまう事だろう。

 男女二人で共に夜過ごすべからずと、村の宿屋で寝泊まりをしていたペスではあるが、彼女まで加わってしまえ場何処まで姦しくなる事やら……と、男一人でこの場を捌かなければならない事実に、モラルは軽いめまいも覚えていた。


「おうおうおう、なぁ~にへこたれてるんだよぉモラルちゃんよぉ。なんだ、寂しくて飯も喉を通らなかったってか? くはは、そんな訳ねえよなあこんな腹して」

「いたっいたい! はらをペチるな!」


 二度三度と手首をしならせ腹や尻肉をべちんと叩き、バシュターナはにたあと獲物を前にした猫科の生き物じみた笑みを浮かべてしまう。

 どうにも彼女は贅肉叩きの手ごたえに、何やら悦に浸れる特殊な性癖を開花させてしまったらしい。

 何やら危ない傾向にしか見えないが、人の倍はあるかと思われるモラルの背丈を思えば、今更尻叩きだの腹叩きだのといった光景を、気にも留めるものなどは誰一人として居なかった。


 比較的常識のあるアイラでさえも、今や何一つとして小言を告げるしぐさすら見せない。

 どうにも異常を正しく異常として認識できる事すら出来ない有様である。

 もはやこれまで。

 モラルはすべての抵抗を諦めて、理不尽なべちべち攻撃に耐え続けながら、この場にそろった理由を再び尋ねる事にした。


「おっまえたちがこっこにきたっということはっ、やはっりひしそっだんのざんっとうがっ……」

「待って待って。しゃっくりしながら無理やり話しているみたいで聴き取り辛いって、それぇ~。聞かれなくてもちゃあんと答えてあげるからさあ、その妙に笑える喋り方はやらないで欲しいな~って思うんだよねえイヤホント」


 ぺちっぺちんっと音韻を利かせるように、肉を叩くバシュターナのせいで所々途切れるモラルの声を、彼女たちは笑いながらきちんと説明するぞと助言する。

 その言葉の通り、一番おしゃべりのナインティーが彼女たちを代表して、ロモニー村へとやって来た理由を説明した。


「なんて言ってたかなあ……予備工作? タルタドポスのおっちゃんの計略っていうか提案なんだけどね、万が一にも卑死操団の生き残りが居たら困るからって事で、念には念を入れてうちらが派遣されたってワケ。それぞれの派遣理由なんだけど、私は無口極まりない弟と一緒にこの周辺の探索に、アイラちゃんは死者の浄化と万が一蘇りしもの(アンデッド)が湧いてきたときの為の保険用、そんでもってバシュちゃんは私ら二人の護衛役……ってところかな」

「なるっほどっなあっ」


 律動的な打撃は止まらない。

 モラルは一撃一撃ごとに声を詰まらせた奇妙な返事をしたことで、乙女三人に笑われた。

 いや、叩き続けている本人(バシュターナ)は笑うなよと心の内では突っ込みながら、まあこのくらいなら構わないかと気の置けない友人に対する度量の広さで受け入れていた。


「うっ……しゃれっんどらはっどぅっしてる?」


 尻肉をこねくり回されながら腹を叩かれたので奇妙な声をあげてしまったモラルだが、目下のところ一番気掛かりな相手であるシャレンドラの事を尋ねてみた。

 するとナインティーは耳たぶに触れながら、


「あの子はよそのパーティたちのまとめ役までこなしながら、第二王都側からゆっくりしらみつぶししている最中ね。主戦力をこっちに全部割り振っちゃったから、色々とね~」

「……そうか」


 とまあ、相変わらず貧乏くじを引かされているらしい事を聞かされる。

 以前ならばそういった損な役割の一部はモラルが引き受けたりなどしていたが、彼が抜けてしまった今ではシャレンドラにしわ寄せが向いているらしい。

 勘違いからパーティを飛び出してしまったモラルからすると非常に心苦しいものを感じてしまい、少し胸を押さえながら表情を薄く曇らせてしまっていた。


 早く結論を出さなければなあ。

 モラルはなるべく早くに身の処し方の心づもりをしておこうと思いつつ、あごをぞりぞりと撫でていた。

 だがしかし、そんな悠長な考え方をしている場合ではないという事を、モラルは次の発言で思い知らされた。


「……って事でね、とりあえずの目安って事でこの村で行われるお祭り――清涼祭だっけ――が終わるまでの間、君の家にご厄介になるつもりだからよろしくね、モラルくん」

「………………はぁん?」


 本人の知らないところで勝手に決まっていた同居案に、モラルは裏返った声をあげてしまう。

 可憐あるいは美形ぞろいの乙女三人との同棲生活とあれば男の夢の一つとして挙げられる事だろうが、当人が全くその様な期待をしていなければ、それはただの占領です。

 モラルはこの中では一番真っ当な常識を持っているであろうアイラに対し、慌てて視線を向けてどういう事だと説明を求めるが、彼女は微笑みの中に何やら暗雲渦巻く言葉にし難い感情を漂わせながら、無慈悲にこの様に述べてみせた。


「良かったですね、モラルさん。私たちと一緒に暮らせれば、きっと痩せる努力も捗りますね? 特にバシュターナさん辺りがビシバシあなたを鍛えてくださいますよ?」


 どうにもソルベの一件で手玉に取られたことを恨んでいる様子であった。

 夕飯を好き勝手食べ放題にさせてもらう権利を勝ち取ったモラルだが、この様な往復行為を受けてしまうとは思ってもみなかった為、喉を詰まらせ狼狽えた態度を見せてしまった。

 それをどのように捉えたのか、ひと際強く平手打ちでパッシャァァァンという甲高い音色を響かせながら、バシュターナはカカカと笑い声をあげていた。


「なあに、任せろって! どうせあたしは暇だからなあ、この村に滞在している間、お前が痩せに痩せれるように鍛えてやるから安心しろよ!」

「はああああああっ!? いやっそんなっ、我はそんなことねがっても……くぅぅ、は、はかったなあ、きさまらあ!」

「いや、謀ったって何をよ。私たちは単純に、その見苦しいデブデブしたところを叩き直してあげようって、そういう善意で動いてあげているだけじゃない」

「それがありがたメーワクなんだよなあ! ええい、それがハナからのもくてきであったなあ!? 我のせいかつをおびやかすのが、お前たちの目的かあっ!」


 三人は容赦なくゲラゲラと笑う。

 モラルは憤慨した。


「まあまあ、お前もほら、いい加減痩せとかねーと色々問題あるだろぉ? アタシが朝晩痩せられる様につきっきりで訓練つけてやるからよォ、そういうツレない態度は止してくれよなぁ」

「ことわるっ! 我にりてんはまったく無いし、やぬしのことわりもなく勝手にすむとか、ただのフホウシンニューじゃあないか!」


 叫ぶモラルの反論に対し、衝撃を受けたかの様にわざとらしくよよよと崩れ倒れたバシュターナは、これまたわざとらしい萎れた態度を見せながら、泣きまねをしつつ()()を作った。


「おろろーんおろろーん、モラルのあぽぉが酷い事を言うよお。アタシと一緒は嫌だって言うのー」

「あーあー、泣かせた泣かせたんだあ。女の子の好意を無為にするとか酷いんだあ」

「モラルさんは冷たい人なんですね。バシュターナさんのお気持ちに応えてくれないなんて……。その上私たちをこのまま追い出すつもりなんですか? 酷い人ですね」

「お前らのほうがよっぽどあくらつでひどいわ!」


 突如三人が始めた寸劇にもはや抵抗する気概も失ってしまい、モラルはすべてを諦めたかのように肩を落としながら出入り口の扉を大きく開いた。


「ああもう、わかったわかった。もう好きにしろ、あほぼんどもめ」

「やったー! それじゃついでにペっちゃんもこっちに住むように声かけとくね。大丈夫大丈夫、家賃代わりに掃除洗濯ならしといてあげるから、君は立派に痩せる努力に努めなさい!」

「はぁ……おくにあいている部屋ならたくさんあるから、すきに使え」


 きゃいきゃいと、三人の乙女が部屋の中へと入る姿を眺めながら、モラルは一言、平穏よさらばと、心の中で最後の嘆きを吐いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ