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メリル・サイフレットの魔導学園  作者: 雁洲型 芳信
メリル・サイフレットと霞の竜玉
3/3

2  1年A組の有名人


「ぶっはははははははは!!クソコラじゃん!あっは、はっははは!はぁ…ひぃ…ダメだ…腹痛い。ふっふふ」


 講堂での入学式が終わり、1年A組の教室に戻ってきた私達を待ち受けていたのは、鋼のような肉体を曝け出した半裸のスタン君だった。


「こら止めろミラ。被害者なんだぞスタン君は」


 笑い転げるミラを嗜めるが、ツボに入ったのだろう。抑えようとはしているがどうしても吹き出してしまうようだ。


「お、お前!えっと誰だ?えっと、わからんけどな!俺だってなりたくてこうなってる訳じゃないんだぞ!わらうな!」


 ギュッピギュッピと謎の足音を響かせながらスタン君が近づいてくる。やめてくれ何だよその音、それ以上動くな耐えられなくなる。


「だあっはははは!どんな足音なんだよ!やめろやめろ!いやすまん、じ、事情は聞いてるけど、でも。んっふ…ふんふふ。あっははははははは!」


「無理だスタン、面白すぎるよそれ。治らないとか命の危険がある訳じゃなかったんだろ?かわいそうより面白いが勝るわ」


「ジンてめえ。あっやめろ!写真撮んじゃねえ!」


 スタン君とは幼馴染らしい半獣人のジンクロウが携帯通信デバイスで写真を撮っている。先月出たばっかの最新機種じゃんいいなあ。


「はいはい、さっさと席につけ。初等部じゃあねぇんだぞ。ハーディの写真は撮るな、どうしても撮りたいなら本人に許可貰ってからにしろ」


 白髪混じりで髭面メガネのちょいワルおやじ、1ーAの担任、ジュード先生がやって来た。威圧感が凄いなこの人、ミラの爆笑が一瞬で止まったぞ。


「ハーディについてはさっき説明したとおりだ。こいつも疲れてるだろうから、そっとしておいてやれ。ハーディは後で職員室に来い、慰謝料やらの話がある。さぁて配るもんが色々あるんだ、一枚ずつ後ろに回していけ」


 時間割やらなんやら色々なプリントが配られた後、自己紹介タイムに突入したが、スタン君の番になると撮影会が始まった。なんやかんや本人もノリノリである、まあ二、三日で治るそうだからな。




 1.学生食堂ランチタイム


 翌日は朝からスタン君を一眼見ようと、他クラスや上級生が1ーAに押しかけてきた。わざわざ上着を持ってきて、千切れ飛ぶ様を録画する人までいたらしい。


「ああいう変な薬渡してくるような人達ばっかりなのかな魔導研究部系って」


 日替わり定食を食べ進めながら、部活動一覧を見ていたエリカがそんなことをいいだした。


「それは無いんじゃないかな?…多分」


「三日ぐらい前に公園で変なことしてる連中見たっていってただろタツキ」


「あれは…んーどうなんだろう。確かに白衣だったけど」


「タツキが見た奴らが薬研だったんじゃない?」


 結局魔導研究部系はヤバイんじゃないかと結論が出た時、呆れたような少し怒ったような声で近くにいた我がクラスの学級委員長が待ったをかけた。


「そんな訳ないでしょう、今回やらかした連中だけよ頭がおかしいのは」


 委員長は生まれも育ちもオルファムっていってたからな。おかしいのが多い街と思われるのは嫌なんだろうか。


「あんな爆発するなんてこと滅多にないわ。そもそも路上で試作品ばら撒くなんて普通に違反行為よ。みんなちゃんとルールを守ってるのに、ああいう一部の馬鹿の所為で」


 ドンと、どこか遠くから割と大きめの爆発音がした。ざわつく食堂の中、私達から目を逸らす委員長。周りの上級生の会話からは、またやってんのか、等どこか慣れたような声が聞こえる。


「年に三、四回あるかないかぐらいなのよ。で、でも怪我人が出るようなのは本当にないの!実験施設にはちゃんとセーフティがあるから建物の外には被害出ないし、それに魔杖隊(まじょうたい)の」


 周りの上級生の会話からは、軽症四人だってよ、等の声が聞こえる。


「…何でこんな時に障壁抜くような事故起こしてんのよ」


 やっぱりヤバイじゃないですか。魔導研究部系には近づかないようにしよう。


「で、みんな何か部活やるの?」


 さらっと話題を変えるとエリカが乗ってくれた。


「私はブルームレースかブルングだね」


 魔杖隊目指してるっていってたから、まぁ当然の選択だよね。毎日朝からトレーニングしてるし頑張ってるよなぁ。


「何かやりたいとは思ってるかな。運動苦手だから文化系の部活色々見学して決めるつもり」


「部活はしないな。バイトはするけど」


 タツキは文化系でミラはバイトか。どうすっかなー、特にやりたいこともないんだよねぇ。


「私とバルバラは吹奏楽部よ。メリルさんは?」


 委員長の隣でコクコク頷く牛の半獣人、バルバラ。何で無口キャラよ、自己紹介の時はハキハキ喋ってたじゃん。


「なんも決めてない、私も見学ツアーだね。地元民的には何かおすすめある?」


 委員長はしばらく考えた後、笑いながら口を開いた。


「魔導研究部系とか?」


 やめなさいよ。




 2.エリカの朝


 澄んだ朝の空気の中、息を弾ませる。なんとなく、今日は遠い方の公園まで行こうと決めた。進むごとに、私と同じ運動部系の人達の姿が少なくなっていく。いつもより集中できる、いい感じだな。明日からこっちのルートにしよう。

 公園の奥、人気のない方に、ない方にと足を運ぶ。そろそろ引き返そうかなと考え始めたころ、連続する風切り音と微かな息遣い、地面を叩く足音が聞こえてきた。


「ふっ!はっ!…ふん!」


 流れるように繰り出される杖、踏み込まれる足、レッドブラウンのポニーテールが揺れ、普段よりも鋭い視線に射すくめられる。常々美人だとは思っていたが、杖を手に舞う彼女はいつにも増して綺麗だった。


「よう、エリカ」


 こちらに気づき、手を止めた彼女。ミラ・ロバーツが微笑みかける。さっきまでとは違う、優しい視線。


「おはようミラ。邪魔しちゃったかな?」


「いいや、もう終わるとこだったよ」


「そう?ならよかった。…ていうかミラって杖術やってたんだ」


 汗を拭き水を飲む彼女は、どこか言いづらそうに答える。


「あー、まぁそうだな。実家が流派の家元だからな。一応杖術と槍術の段位は持ってんだよ」


「えっそうなの?すごいじゃん」


 なるほど道理で。少し荒い口調や態度なのに、端々の所作が綺麗なわけだ。授業で見せる高い身体能力にも納得いく。


「はっ、すごかねぇよ。私なんてみそっかすだ、まったく嫌気がさす。だからこの国に、ここに、逃げてきた」


 息を呑む。なにかダメな部分に触れてしまったのだろうか。暗い顔の彼女はしかし、すぐに笑い飛ばしてしまった。


「まあ家出て正解だったな。マジで兄さんには感謝してるよ。ぐちぐちいってくる奴らもいねぇし、何より自由だしな。実家じゃ朝から晩まで延々鍛錬だぜ?才能ねえとか散々いってくる癖によお、だったらほっとけっつーの」


 色々闇の深そうな家庭だ。なんてコメントしたらいいのかわかんないよ。


「あーなんか、大変そうだね。ごめん」


「あ?いやいや別に謝るこっちゃねえよ、勝手に喋り出したのは私だし。悪りぃな気使わせた」


 そこからは他愛もない話をしつつ、お互い柔軟運動でクールダウンしていく。色んな話を聞けた。彼女の国の料理のこと、優しいお兄さんのこと、旅の途中で麒麟を見たこと。

 色んな話をした。魔杖隊への憧れのこと、受験に落ちたこと、美味しいスイーツ店のこと、流行りのファッションのこと、どんどん料理が上手くなるメリルのこと。


「おかしくない?この短期間で上達しすぎだよメリル。私が下手くそみたいじゃん」


「実際下手だろ。まぁ、あいつ何でもそつなくこなすよな。才能マンなんだろうよ、無自覚だけどな。多分杖術教えたら半年ぐらいで私に追いつくと思うぜ」


「流石にそこまでは…えっマジなの?そんなに?」


「腐っても家元だぜ。才能ある奴は見りゃわかる。あれは兄さんと一緒、天才ってやつだ。何も習ったことねえつってあんだけ動けんだから笑えてくるよ」


 確かにメリルは体育も魔法も、毎朝毎晩トレーニングしてる私よりできる。ついでに勉強も。私は自分に才能がないのは理解してる、初等部のころから散々。だから本音をいうと少し悔しい。この一ヶ月、まだ部活も決めていない彼女が、私が頑張ってるからって家事の分担を減らしてくれる彼女が、ゲームやネットばっかりしている彼女が、学年でもおそらくトップクラスの成績であることが。

 少し妬ましい。私は嫌な子なんだろうか、友達にこんな感情を向けるなんて。彼女はとても優しい、いい子なのに。


「そんなもんだろ。才能ある奴を妬むなんて人間なら当たり前だ、その感情をどうするかだよ。そのまま腐るか、それを糧にするのか。見てきたよ、どっちも。糧に出来る奴は高く飛ぶぜ、びっくりするぐらいな」


 口角を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべるミラを見ていると、心が軽くなった気がした。少しドキッとしちゃった。顔がいいんだよコイツ、イケメンか?胸は私よりあるくせに。


「ふふ。そっか、じゃあ飛ぼうかな私も。びっくりするぐらい」


 お互いに笑いながら寮まで走り出す。今日はなんだかいつもより清々しい朝だ。




特に本編では語られない世界観解説及び用語集。略して特語集


ブルームレース


 杖に乗ってコースを飛び、ゴールを目指す競技。魔法による妨害が可能である。魔法以外の妨害は禁止されている。

 先史文明から存在していた競技であり、当時は箒に乗っていたらしい。何故箒なのかはわかっていない。


 使用可能な魔法は初級魔法の中の2種類に限られる。攻撃及び捕縛の魔弾系と障壁である。属性は不問。


 マイナーではあるが魔法による妨害なしのレース、通称キャノンボールがある。



ブルング


 22個の、直径10メートルの六角形状の陣地を取り合う、8人1チームの団体競技。ブルームレースと同じく杖に乗って飛ぶ。

 陣地中央、高さ10メートルに浮かぶ、50センチメートル代の六面体ターゲットの二箇所に、誤差5秒以内で魔弾を当てると自軍の陣地になる。

 全ての陣地を取るか、試合終了時により多くの陣地を獲得しているチームの勝利である。


 陣地は奪い返すことが可能であり、15秒間ターゲットに直接触れ続けることで占領状態を解除できる。


 使用可能魔法はブルームレースと同様のものに遅延魔法が追加されている。



 上記の2つの競技は魔杖隊に要求される技術の大半が詰まっているとされ、魔杖隊を目指す者達の多くが、どちらかの競技の経験者である。

 また、過去には国軍が教導隊にスカウトしたプロ選手も存在している。有名なのは60年前にブルングで活躍し、今なお最強の選手といわれる、時間の支配者『トロ・サマーライト』である。

 彼の残した、遅延魔法を使用した単独による、四つのターゲットの同時テイクは未だ破られぬ伝説である。

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