プロローグ 学園都市へようこそ
「入学おめでとう!はい、これどうぞ。新作エナジードリンクの試作品、先輩からのささやかな入学祝いだよ」
桜舞う通学路。これから始まる学園生活に胸を躍らせる新入生達に、白衣を纏った上級生と思しき人達が小瓶を配り回っていた。
「えっ、あっはい。ありがとうございます?」
爽やかな笑顔を浮かべて小瓶を渡して来た女生徒は、すぐに別の新入生の元へ向かって行った。
「これ大丈夫なやつなのかな」
一緒に登校していた寮で同室のエリカが渡された小瓶を訝しげに見ている。
「大丈夫って…あの事?流石に入学式だし、いきなりってのはないんじゃない。いやーでもそっか、エリカの両親も言ってたんだもんね」
学園都市に来るにあたって私は両親に口酸っぱく言われたことが一つある。それは『知らない人から渡された物は受け取るな』である。エリカも同じことを言われていたらしい。二人してどうしようか相談していると、30メートル程先から歓喜に染まった男の声が響き渡った。
「飲んだぞ!!!」
「えっ、えっ?な、なんすか?駄目でした?」
五人組の男子生徒の中で渡された小瓶を飲んだのだろう一番小さな少年が、突然大声を出した白衣の上級生の男に驚き慌てている。
「いやいや素晴らしい!どうだい調子は!身体の奥底から活力が溢れてくるかい!?」
テンションが振り切れている男の様子に戸惑う少年を囲むように白衣の集団が集まってくる。
「別に何にもないっすけど…えぇぇなんすかコレなんかやばいもの、っっぐ!?」
と、突然少年が胸を押さえて蹲った。あっこれやばいやつだ。私とエリカは小瓶を桜の木の根元にそっと置いた、後で先生に言って回収してもらおう。
「うっぐっ……お、おおおぉ…ォォォォオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!デヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
蹲っていた少年が叫びながら立ち上がると、可視化される程の高濃度の魔力が身体から噴出し体表をバチバチと駆け巡る。真新しい制服の上着が千切れ飛び、その下から明らかに先程迄の少年とは違うバキバキに仕上がった筋肉の鎧が姿を表した。短く切り揃えられた黒髪が金色に染まり天を突く様に逆立つ。
「う、うわああああ!!スターーン!」
少しずつ宙に浮き始めた少年(叫びから察するにスタン君)の異常に腰を抜かした友人達の手から栓の空いた小瓶が転がり出ていった。
「なっ!これ程とはっ!ははははは!いい、いいぞ素晴らしい!!……いや待てちょっと、ゃば…」
転がる小瓶から漏れる極彩色の液体にスタン君の弾ける魔力がって、あれ?これ何か不味いんじゃないの。私は咄嗟にエリカの手を引いて木の陰に隠れて身を伏せる。
「っっ!!班長離れて!!瓶が!!」
周囲の白衣達が慌てて障壁を張った直後。衝撃と閃光が通学路を走り抜け、青空に桜吹雪が舞い散った。
ーーーここは学園都市オルファム。数々の研究施設や教育機関が存在する、魔導科学の最先端をかっ飛んでいく都市。私達の中等部生活が始まる都市。お父さん、お母さん、桜って綺麗だね。