家族のぬくもり
その孤児院には10人の子供達がいて、必ず生き残って幸せになると誓い合ったものだ。しかし大人になるにつれて、一人二人と死を選び、結局、私以外全員が他界した。ある一人は、長い遺書を残した。この世に残す私への謝罪と、置かれた立場への苦しみにどうしても耐えられないという弁解が述べられていた。
弁解を聞いてなお、私の心は憎悪に染まった。唯一信じていた9人の家族全員に裏切られたのだ。私一人を残して、皆が楽な方に旅立ってしまった。しかし同時に、涙がこぼれた。絶対に助けたかった人達を助けることができなかった自分が悔しくてならなかった。死んだ者は決して生き返ることはないのだと思うと、何のために今日を生きればいいのか、生きる意味が消える。
この平和な時代に、なぜ私達ばかりがまるで戦場のような境遇に生まれたのだろう。まともな環境に生まれていれば幸せに暮らしていたであろう彼らが、なぜ苦しみしかない人生を生きて死を選ばねばならなかったのだろう。真面目に生きても不幸な人々は、存在しないことにされてしまう。立場の弱い者に侮辱が降り注ぐ、理不尽な人間の社会。
毎日のように私は、彼らに向けて手紙を書く。その内容のほとんどは、私を残して死んでいった裏切りに対する叱責だ。そして、彼らのためにしてやりたかったけれどもできなかったことについての心からの謝罪。それらに加えて、今日を生きた私についての状況報告。死後の世界なんて信じてないけど、もしもあるなら、皆の笑い声を聞きながら食事でもしたいんだ。死ねば家族と会える幸せが保証されていると無理にでも信じるから、私はもう一日を戦場で過ごせる。
家族などと呼べないわずかな心の繋がりしか本当はないのだけど、それでも私は、家族なる幻想にすがってる。愛のぬくもりをいつまでも願望している。弱くみじめで、救われることのない生き物。今は手を合わせて、冥福を祈る。