別れ
其の参
結局、1週間程で俺は学校を辞め、語学の家庭教師が俺につくことになった、朝から晩まで、修練場での稽古以外はずっと読み書きの勉強で、気が滅入ってくる毎日を送っていた。
ジンやナターシャに、この世界の地理や歴史など色々聞いた。俺には魔法が使えないようなので、役に立たないと言う事で魔法は諦めた。こっそり魔法の練習もした時期もあったのだが、
出てくるのは魔法ではなく、汗とため息だけだった。まあ無くてもなんとかなるけど、ナターシャのような治癒系の魔法が俺には魅力的だった。
ジン達の学校の成績の方はと言えば、当然の如く、ジンがダントツでトップ、流石勇者様って所だ。ナターシャは、学年で7番目だった。どうやら数学が少し苦手だったようだ。それでも、高校で欠点だらけの俺からしたら、学年で7位は悪くない、と言うか、凄い事だと思う。
コンコンと俺の部屋を誰かがノックする。
「どうぞ、開いてるよ、」
ジンが部屋に入って来た。
「ヒロ、明日で学園生活終わるけど、」
「そうか、たったの3ヶ月程の学園生活だったけど、あっという間だったな。」
「そうだね、色々と空白の時間が埋められたよ、俺がこの世界で死んでから今まで、約200年程経っていたらしい、」
「へー、結構経ってるな、」
「こっちに戻って、記憶も戻ったけど、全然こっちの世界の雰囲気が違うから、おかしいなとは思っていたけどね、」
「それで、ジン達は、卒業したらどうするつもりなんだ?」
「ああ、その事で来たんだけど、明日卒業式が終わったら、翌日には、旅立とうかと思ってる。」
「卒業した翌日って、そりゃまた急だな、」
「前にも言ったけど、取り敢えずヒロとは別行動で、」
「そうだったな、俺もまだまだ読み書きが不完全だからもう少しここを出るのに時間がかかりそうだ。」
「まあそれじゃあ、また明日、お休みヒロ。」
「ああ、お休み。」
そんなこんなで、こっちに来て3ヶ月経ったってことか、
しかしなかなかこっちの文字覚えられない。困った。
最初は簡単に覚えられると思ったんだけど、いったい俺はいつになったらこの城から卒業できるんだろう?
そして無事ジン達は卒業を終えて、
卒業祝いに王様がご馳走をたくさん用意してくれた。
「めでたい、めでたい、これで娘のナターシャも無事卒業したわけだ。勇者ジン殿も卒業おめでとう、」
「ありがとうございます。国王陛下、おかげさまで、この時代の世界を知ることができました。」
「ウム、これからの活躍、期待しておるぞ!」
「御意。」
そんな宴の中俺はかなりプレッシャーを感じていた。早く俺も文字を覚えないと、まずいなこれは、こちらの世界事情は取り敢えず、ジンやナターシャ、ゼバスさんから教えてもらったけど、文字というランゲージバリアーが俺の前に立ち塞いでいる。
俺が考え込んでいると国王が、「龍神殿はこれからどうなされるのであるか?」と聞いて来た。
「はい、まだ少々文字の読み書きに時間が必要かと、」
「まあそんなに心配線でも良い、龍神殿は暫くこの国を守りながら勉学に励んで頂ければそれで良い。」
「ありがとうございます。でも、いつまでも甘えている訳にはいきませんので、私も明日ジン達を見送ってから、ギルドに冒険者登録をしようかと思います。」
「何も冒険者にならぬでも良いではないか、」
「いえ、勉学の時間以外は出来れば、魔物の討伐に赴き、少しでも国王に恩返しが出来ればと思いまして、」
「それはありがたい、立派な心さし、感謝する。ゼバスよ、それでは明日、龍神殿にギルドまでついて行ってくれぬか、」
「ははっ、御意に御座います。」
「ヒロ様はギルドに入られるのですか?」
ナターシャがヒロに尋ねる。
「ええ、明日から、ジンや騎士の方達もいなくなるので、実践を兼ねて、国のためにと思います。」
「私もギルドに入りたいですわ、」
国王は目をひん剥いて、
「ナターシャ馬鹿なことはするな、」と国王が嘆いていた。
「何故です。わたくしも少しは剣術が出来ます。わたくしも、この国のお役に立ちたいです。」
「だめだだめだ、馬鹿を申すでない、」国王は声を荒げた。
「姫様、その様な危険な真似は、お辞めくださいませ、」
ゼバスもナターシャを止める。
ナターシャは俯いて、黙り込んでしまった。
ナターシャの隣に座っていたジンが、
「ナターシャ姫、魔物の討伐はヒロやギルドの方達に任せていれば大丈夫です。僕もこれからの旅先で、魔物や魔人族達を討伐しますから、ですから安心して、ここで皆んなの帰りをお待ち下さい、」
ナターシャは、黙り込んだままであった。
そんな中俺が話題を変えるべくジンに話しかけた。
「ジン、所でお前達は何処に向かっていくんだ?」
「うん、先ず手始めに、南のマルカリエンテに行こうと思ってるんだ。」
そこで国王が、「あそこは、海岸沿いの都市で、商業も盛んに行われておる。
いろんな情報も飛び交っているはずじゃから、手始めとしては、有益な場所じゃの、」
「ええ、僕もそう思ってマルカリエンテを選びました。」
海岸都市かー、そう言えば、小学校以来、海なんて行ってないな、
こっちの世界の海産物気になるな〜
王国は海から遠いから川や湖の魚しか食べた事ないし、イカとかタコや、蟹に海老みたいなのいてるのかな?
「その後僕たちは、西側に海岸側から向かって行こうかと考えています。」
「何、あそこから西に海岸沿いに向かうと、ウーム、その道のりは魔の森、
無事に通り過ぎるのは困難じゃぞ、」
「はい、それは重々承知しています。だからこそ、皆が成長していけるのですよ、国王様、騎士団も魔王討伐のためなら、多少の危険は構わないと言っていました。
魔王と戦うのであれば、やはり避けて通る訳にはいけません、皆んな1人もかけることなくあの森を制覇して見せます。」
多分、ジンも騎士団長達も、相当意気込んでいるのだろう。
「わかった、勇者ジン殿、くれぐれも大事にならぬ様頼みましたぞ、」
「はい、国王様」
そううして宴も終わり、旅立ちの朝を迎えた。
「国王様、ナターシャ姫、それと、ゼバス、行ってまいります。」ジンがそういうと、その声に続き、騎士団長のボルドと副団長も行って参ります。是非とも国王陛下やこの国の方々、そして、この世界の方達の為に、身命を捨て、戦ってまいりますと、声を揃えて言った。
「勇者ジン殿、騎士団達もよろしく頼んだぞ、そなた達にこの世界の未来がかかっておる。」
王は力強く、ジン達に激励する。
ナターシャも別れ惜しそうに、ジンに別れを告げた。
「必ず無事にお戻りください、」
「はい、必ず無事戻ります。」
「ジン、負けるなよ、俺も準備が整ったらすぐに旅立つから、」
「うん、待ってるよ、また会う時までに、ヒロより強くなってるから、」
「ああ、楽しみにしてる。それから、旅先で野宿して、風邪なんかひくなよ、
ちゃんとあったかくして、栄養あるものを食べるんだぞ、」
「なんだよヒロ、母さんみたいな事言うなよ、」
二人は笑いあった。
「其れでは皆さんお達者で、」
ジンがそう言って騎士団一行と旅立って行った。