3話
暖かな日差しが窓から入り込むお昼時。
いつもなら賑わうはずの店内も、今日は何故だか静まり返っていた。
「おかしいわね…」
お菓子屋だけに。と付け加えるとアルバの冷めた視線がぶつかる。全く、冗談の通じない男だ。
冷えた店内を温めようとしたカタミラの言葉は、さらに店内の温度を下げた。
「それにしても本当に変よ、何かあったんだわ。」
外を眺めながらアルバを手招きする。
いつもなら聞こえるはずの八百屋さんの声も聞こえないし、人も全くと言っていいほど通っていない。
あからさまな可笑しさに、店の扉を開けてひょっこりと顔を出すと同時に出て来たパン屋の娘、アンが笑顔で挨拶する。
「あら奥さん、こんにちは。」
アンの言葉にカタミラはうへぇっと顔をしかめた。
「私、誰とも結婚した覚えはないんだけど…」
もう15歳も終わりかけだというのに、そういった浮ついた話は全くない。色気が無いのを自覚してはいるものの、虚しい現実だ。
年頃の娘だというのに、これでは本当に嫁の貰い手がない。
そんな自分に「奥さん」だなんて。
嫌味かと思いながらじっとりとした目で見ていると、キョトンとした顔でアンはあらそうなの?と首を傾げた。
「アルバさんと遂に結ばれたって噂を耳にしたわよ?」
「はああぁあ!??」
突然の告白に驚きを隠せずに叫んでしまう。
様子を見に来たアルバにげっとなり、身振り手振りで引っ込めと伝える。
「アルバはもう20歳よ!確かに相手がいないのはおかしいけど…だからってなんで私!?」
有り得ないとばかりに目をむくと、アンは口に手を当てて微笑んだ。
「でも結構お似合いよ?」
カタミラはカッと目を見開き、信じられない事を聞いたとばかりにぽかりと口を開けたまま、呆然と立ち尽くす。
「アルバが相手だなんて絶対にごめんだわ!!」
「俺が何ですって?」
いきなり後ろから声をかけられて思わずうびゃあっととびあがる。
「まだ居たの!?」
「いや、俺の名前が聞こえたから…」
私の驚きっぷりに驚いたとばかりに見てくるアルバに、
行き場の無い感情をぶつける。
「何でもないわよ!!さっさと店に戻りなさい!」
不思議そうな顔をしながらもアルバが店に入ったのを確認するとふーっとため息をついた。
「冗談じゃないわ…なんで私があいつと……」
アルバの入っていった店の扉を見ながらブツブツと文句をを言っていると、アンがあらいいじゃないと頬を染めながら話し出す。
「彼、凄く人気があるのよ。かなり格好良いし…
背も高くって…色気もあって、とても魅力的だわ。」
きゃあっと言いながら顔を覆ったアンに
同情の眼差しを向ける。
「……アン…現実を突きつけるようで悪いけど…
……あいつは顔だけの男よ。」
夢見がちな乙女はこれだから…瞳をきらきらさせながら話す少女に「騙されてるわよ」とは言えず、貝殻のように口を引き結んだ。
(病気だわ…)
ひとしきりアンが騒ぐのを聞いてから、そうだとばかりに本題を切り出す。
「なんだか今日は街の様子がおかしくない?
人も全然通らないし…何かあったの?」
アンはそうだったと表情を改めると、
カタミラの手を掴んだ。
「今日はもう店じまいした方がいいわ。」
切羽詰まったような声色にカタミラは何やら嫌な予感がした。
「どうして?」
思わずそう聞くと、アンは例の噂のやつよと言って奥の方を指さす。
「向こうにある薬屋さんがやられたらしいわ。」
「やられた……って…」
言っている意味が頭の中で理解出来ずにいると、アンは頷いた。
「何でも突然入って来て、店のありとあらゆるものを引っ掻き回してるそうよ。」
カタミラはビックリしてアンを見つめた
アンは青白くなりながらも説明してくれる。
「うちはもう閉めたんだけど、何だかすごく苛立ってるみたいで、大騒ぎよ!あの剣幕じゃ目に付いた店を荒らして回るわ!きっと。」
急いで閉めた方がいいわと肩を抱きながら心配してくれる。
必死に訴えてくれたアンの手を握り
「その事アルバに伝えといて」と言うと一目散に走り出した。
「ちょっとカタミラ何処に行くの!?」
驚いて追いかけてこようとするアンに
振り向きながら拳を握ってみせる。
「この街の大事な薬屋に手を出すなんて許せないわ!
薬師さんの無事を確かめてついでに悪党をとっちめてくる!」
危ないわよと叫ぶアンに大丈夫だからと言い残すと、
三百メートル先にある薬屋さんに向かって全速力で駆けて行った。