後日談、数を凌駕する質
四十八匹のビッグホーネットを撃墜した俺とガルーダのコンビは、引き続き魔力探知を繰り返し、ビッグホーネットを釣り出しては撃墜を繰り返す。
「そろそろ日が落ちるが、ガルーダ。撃墜数は?」
『今ので二百九十八だ。そろそろ巣の全容、総数からすれば一割程度にはなるのではないか?』
そんなガルーダの声を聴きながら、状況を再度整理していく。ビッグホーネットは、最大で五千から八千の規模の巣を設営し、巨大な軍勢となる。
「そうだと良いがな。楽観する訳には行かないし、脅威度は高めにして置くさ」
『フム。確かに警戒するに越した事はないかも知れんな』
そう言ってガルーダも肯定の意を示してくれている。
今の時期だと、二千五百から、三千の間が俺が調べた値になっている。これはあの悲劇の後、世界各国の蜂型モンスターを徹底的に調べて導き出した数字だ。
尤も、その数自体は現実世界のスズメバチからかけ離れた、滅茶苦茶な数字だ。体長一メートルの巨大な蜂が、数千匹も集まると言うのは異様な光景とも言える。
「この時期なら、何事も無ければだがな。村一つが消えているんだ」
そう、既に犠牲者が出ている。あのミスリル級冒険者の集合して居た地点が、全滅した集落跡地である廃村だと言う事は、紛れもない事実だ。
「……迂闊だったよ。もっと早い段階で気付いて居れば。ともかく弔い合戦だ、今度はちょっとばかり数が多いぜ」
そんな俺の言葉に呼応したのか。こんな状況に業を煮やしたのか。魔力探知に、ビッグホーネットの反応が掛かる。凄まじい数を揃えてだ。
「だが、数が居ても所詮は烏合の衆。ガルーダ、引き続き俺の翼となってくれ」
『任せよ』
けれど俺は慌てず迎撃の構えを取る。どちらにしても殲滅対象。俺がここで倒せば倒すだけ、地上組の労力も減る。
「ただ数を揃えただけで、良い気になるなよ……! 重機召喚、アースオーガ。短縮開放、ギガドリルバースト!」
右腕に装備していたブレーカーユニットを、瞬間的にアースオーガへと換装し、必殺技の一つを解き放つ。
ギガドリルバースト。ギガントドリルブレイカーを弱体化させた、広域攻撃だ。この十八年の間に、環境被害を減らす為に考案した、廉価版のギガントドリルブレイカーと言う技になる。
本家、ギガントドリルブレイカーからすれば、その威力、効果範囲共に数段落ちてしまう。それでも、今の俺は超重機神。内包するパワーは、文字通り無限に近い物。結果として──。
『──!!』
遠方から聞こえる、ビッグホーネットが唸るような声。
右腕から解き放たれた、極小の破壊の暴風が、もう直ぐ日の落ちる、夕暮れの空に一条の螺旋を描く。迸る稲妻が、荒れ狂う暴風圏の如くビッグホーネットへと直撃をしたが──。
「何ッ! 命中と同時に、十個のグループに散会しやがった!? ち、指揮を執る個体も居るってか……ならば、頭を潰す! 重機召喚、ブレーカーユニット! 連続召喚、ブレーカーユニット、まとめて召喚!」
俺の持つ重機召喚スキルは、基本的に同じ重機は、一度に一機しか呼び出せない。けれど、オプションパーツなら話は別で、一度に複数呼び出す事が出来る。
ただし今はガルーダに騎乗した、空の上。鋼鉄の塊でもあるブレーカーユニットは、重力に従い自由落下するが──。
「重機遠隔操作! 舞い戻れブレーカーユニット!」
そこで起動したのが重機遠隔操作のスキル。呼び出した重機を、文字通り遠隔操作するスキルになるが、この操作は超重機融合状態かつ、重機並列操作を起動してこそ、その真価を発揮する。
直後、俺の呼び声に呼応するかのように、俺の周囲に十機のブレーカーユニットが、縦横無尽に空を駆ける。さながら気分は、超能力者と言った所だ。
「完全掌握、完了。さぁ舞い踊り、刺し貫け! 行け、ブレーカービット!!」
ギガドリルバーストによって、風穴を開けられたビッグホーネットは、複数グループに分かれて俺へと向かって来る。
それを超高速で迎え撃つのが、重機遠隔操作、重機並列操作によって操られた、ブレーカーユニット。またの名を、ブレーカービット。
そのまま右腕を、左方向から右方向へ振り抜くと、瞬時にブレーカービットが、散会したビッグホーネットの編成目掛けて飛翔して行く。
「……」
目を瞑り、心を落ち着かせる。脳裏に浮かぶ、空中を飛翔するブレーカービット。俺は思念を同調して行き──。
「当たれぇぇぇぇ!!」
そして、開眼と同時に叫ぶ。次の瞬間には、複数に別れていたビッグホーネットの編成、その先頭に居る、一際巨大な個体を的確に打ち抜く。
いくら巨大とは言え、所詮は昆虫。確かに外皮は硬質だが、鋼鉄製のブレーカーユニット。その運用方法は、直接相手に叩き込むと言う物だ。
『!?!?!?』
指揮をしている、と思われる個体を撃破した事で、ビッグホーネットの編成が崩れていく。それでも尚俺へと向かって来る訳だが、そのがら空きの背中へと、次々とブレーカービットが着弾。
ビッグホーネットは、胴体に詰まる肉を巻き散らしながら、瞬く間にその数を減らしていく。
「それでも前進を止めない、愚直な前進は嫌いじゃない……だが、貴様らに食われた人々の仇は、取らせて貰う……! 舞え、ブレーカービット!」
と、再び右手を上下左右に振りながら、その方向へ行け、この方向へ向かえと指示をしつつ、大量のビッグホーネットを撃墜して行った。
ビッグホーネットも、その移動速度は速い。それでも、ブレーカービットの方が速い。かつ、ガルーダの飛翔と同様に、物理法則を無視した超高機動で追随するのだ。
慣性の法則に従い移動するビッグホーネットに、回避の余地は無かったのである。
「……これで、ラスト! ガルーダ、撃墜数は幾つだ?」
その場にいたビッグホーネットの全てを撃墜した俺は、ブレーカーユニットの召喚を解除し、周囲に滞空していたブレーカービットが虚空へと消え去った後、意気揚々とガルーダへ確認を行う。
『合わせて八百ジャスト。主よ、先の話からすればこの数は……』
「ああ、かなり不味い規模になっているな。巣の規模の一割が、一度に出撃可能な数だった筈だ」
これも俺が調べた過去の行動記録を、思い出した物だ。他の蜂系モンスターも、例に漏れず一度に出撃するのは、全体の一割までとなっている。つまり──。
「最低でも四千から五千、最悪最大の八千と言う規模だ。安芸だけなら問題ないが、他の冒険者が危ない。先行して巣に向かう、ガルーダ、頼む!」
『承知した』
俺はそのまま、ガルーダと共にビッグホーネットの巣へと飛翔を開始。恐らく次が、最後の戦いとなるだろう。今度こそ……終わらせて見せる。
対ビッグホーネット戦をお送りしています。
一応次で最終かな、とは考えて居ますが、長引いたらごめんなさい。
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